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2006/10/01

宮澤賢治「永訣の朝」へのオード

Eiketu 21年も前、現代詩の授業で、幾多の詩を紹介して、好きな詩を選んで鑑賞文を書いてくるように言った……

感想は、心から「打たれる」ことなしに在り得ない……ただ、それだけ詩は紹介したつもりだ……ある男子生徒が「絵でもいいですか」と言ってきた……僕は勿論、いいのだと言ったのだ……それに、僕は、最高点をつけたのだった……

さあ、ある生徒の『宮澤賢治「永訣の朝」へのオード』、詩と共に、ご覧あれ! ちなみに今、彼は堅実にして美事な作品を描く漫画家である(以下の引用は昭和四十八(1973)年刊筑摩書房版「校本宮澤賢治全集」第二巻によった)。

そうして、賢治関連の検索で来た方は、何を読んで頂かなくてもよいが、駄文なれど「宮澤トシについての忌々しき誤謬」だけは読んで去ってもらいたいのである……。

永訣の朝   宮澤賢治

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
    (あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつさう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
    (あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
    (あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
…ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまっしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらっていかう
わたしたちがいつしよにそだってきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あああのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
    (うまれでくるたて
     こんどはこたにわりやのごとばかりで
     くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

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