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2007/07/01

華燭賦 伊良子清白

華燭賦   伊良子清白

 

律師は麓の
   寺をいでゝ
駕は山の上
   竹の林の
夕の家の
   門に入りぬ

 

親戚誰彼
   宴をたすけ
小皿の音
   厨にひゞき
燭を呼ぶ聲
背戸に起る

 

小桶の水に
   浸すは若菜
若菜を切るに
   俎板馴れず
新しき刄の
   痕もなければ

 

菱形なせる
   窓の外に
三尺の雪
   戸を壓して
靜かに暮るゝ
   山の夕

 

夕は
楽しき時
夕は
清き時
夕は
美しき時

 

この夕
   雪あり
この夕
   月あり
この夕
   宴あり

 

火の氣弱きを
  憂ひて
竈にのみ
   立つな
室に入りて
   花の人を見よ

 

花の人と
よびまゐらせて
この夕は
   名をいはず
この夕は
   名なし

 

律師席に入て
   霜毫威あり
長人を煩はすに
   堪へたり夕

 

琥珀の酒
   酌むに盃あり
盃の色
   紅なるを
山人驕奢に
   長ずと言ふか

 

紅は紅の
   芙蓉の花の
秋の風に
   折れたる其日
市の小路の
   店に獲たるを
律師詩に堪能
   箱の蓋に
紅花盃と
   書して去りぬ

 

紅花盃を
重ねて
雪夜の宴
   月出でたり
月出でたるに
   島臺の下暗き

 

島臺の下
暗き
蓬莱の
   松の上に
斜におとす
   光なれば

 

銀の錫懸
   用意あらむや
山の竹より
   笹を摘みて
陶瓶の口に
   挿せしのみ

 

王者の調度に
   似ぬは何々
其子の帶は
うす紫の
友禅染の
   唐縮緬か

 

艶ある髪を
   結ぶ時は
風よく形に
逆らひ吹くと
怨ずる恨み
   今無し

 

若き木樵の
   眉を見れば
燭を剪る時
   陰をうけて
額白き人
   室にあり

 

袴のうへに
   手をうちかさね
困ずる席は
   花のむしろ
筵の色を
   許するには
まだ唇の
紅ぞ深き

 

北の家より
   南の家に
來る道すがら
   得たる思は
花にあらず
   蜜にあらず

 

花よりも
   蜜よりも
美しく甘き
   思は胸に溢れたり

 

雷落ちて
   藪を焼きし時
諸手に腕を
   許せし人は
今相對ひて
月を挾む

 

盃とるを
   差る二人は
天の上
   若き星の
酒の泉の
   前に臨みて
香へる浪に
   恐づる風情

 

紅花盃
   琥珀の酒
白き手より
   荒き手にうけて
百の矢うくるも
   去るな二人
御寺の塔の
  扉に彫れる
神女の戲
   笙を吹いて
舞ふにまされる
   雪夜のうたげ
律師駕に命じて
   北の家に行き
月下の氷人
   去りて後
二人いさゝか
容儀を解きぬ

 

夜を賞するに
   律師の詩あり
詩は月中に
   桂樹挂り
千丈枝に
   銀を着く
銀光溢れて
   家に入らば
卜する所
   幸なりと

 

*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]

 

華燭賦(くわしよくのふ)   伊良子清白

 

律師(りし)は麓(ふもと)の
   寺(てら)をいでゝ
駕(が)は山(やま)の上(うへ)
   竹(たけ)の林(はやし)の
夕(ゆふべ)の家(いへ)の
   門(かど)に入(い)りぬ

 

親戚(うから)誰彼(たれかれ)
   宴(えん)をたすけ
小皿(こざら)の音(おと)
   厨(くりや)にひゞき
燭(しよく)を呼(よ)ぶ聲(こゑ)
背戸(せと)に起(おこ)る

 

小桶(こおけ)の水(みづ)に
   浸(ひた)すは若菜(わかな)
若菜(わかな)を切(き)るに
   俎板(まないた)馴(な)れず
新(あたら)しき刄(は)の
   痕(あと)もなければ

 

菱形(ひしがた)なせる
   窓(まど)の外(そと)に
三尺(じやく)の雪(ゆき)
   戸(と)を壓(あつ)して
靜(しづ)かに暮(く)るゝ
   山(やま)の夕(ゆふべ)

 

夕(ゆふベ)は
楽(たの)しき時(とき)
夕(ゆふベ)は
清(きよ)き時(とき)
夕(ゆふベ)は
美(うつく)しき時(とき)

 

この夕(ゆふベ)
   雪(ゆき)あり
この夕(ゆふベ)
   月(つき)あり
この夕(ゆふベ)
   宴(うたげ)あり

 

火(ひ)の氣(け)弱(よわ)きを
  憂(うれ)ひて
竈(かまど)にのみ
   立(た)つな
室(しつ)に入(い)りて
   花(はな)の人(ひと)を見(み)よ

 

花(はな)の人(ひと)と
よびまゐらせて
この夕(ゆふベ)は
   名(な)をいはず
この夕(ゆふベ)は
   名(な)なし

 

律師(りし)席(せき)に入(いつ)て
   霜毫(しやうがう)威(ゐ)あり
長人(ちやうじん)を煩(わづら)はすに
   堪(た)へたり夕(ゆふべ)

 

琥珀(こはく)の酒(さけ)
   酌(く)むに盃(さかづき)あり
盃(さかづき)の色(いろ)
   紅(くれなゐ)なるを
山人(やまびと)驕奢(おごり)に
   長(ちやう)ずと言(い)ふか

 

紅(くれなゐ)は紅(くれなゐ)の
   芙蓉(ふよう)の花(はな)の
秋(あき)の風(かぜ)に
   折(を)れたる其日(そのひ)
市(いち)の小路(こうぢ)の
   店(みせ)に獲(え)たるを
律師(りし)詩(し)に堪能(たんのう)
   箱(はこ)の蓋(ふた)に
紅花盃(こうくわはい)と
   書(しよ)して去(さ)りぬ

 

紅花盃(こうくわはい)を
重(かさ)ねて
雪夜(せつや)の宴(えん)
   月出(つきい)でたり
月出(つきい)でたるに
   島臺(しまだい)の下(もと)暗(くら)き

 

島臺(しまだい)の下(もと)
暗(くら)き
蓬莱(ほうらい)の
   松(まつ)の上(うへ)に
斜(なゝめ)におとす
   光(ひかり)なれば

 

銀(ぎん)の錫懸(すヾかけ)
   用意(ようい)あらむや
山(やま)の竹(たけ)より
   笹(さゝ)を摘(つ)みて
陶瓶(すがめ)の口(くち)に
   挿(さ)せしのみ

 

王者(わうじや)の調度(てうど)に
   似(に)ぬは何々(なに/\)
其子(そのこ)の帶(おび)は
うす紫(むらさき)の
友禅染(いうぜんぞめ)の
   唐縮緬(とうちりめん)か

 

艶(つや)ある髪(かみ)を
   結(むす)ぶ時(とき)は
風(かぜ)よく形(かたち)に
逆(さか)らひ吹(ふ)くと
怨(えん)ずる恨(うら)み
   今(いま)無(な)し

 

若(わか)き木樵(きこり)の
   眉(まゆ)を見(み)れば
燭(しよく)を剪(き)る時(とき)
   陰(かげ)をうけて
額(ぬか)白(しろ)き人(ひと)
   室(しつ)にあり

 

袴(はかま)のうへに
   手(て)をうちかさね
困(こう)ずる席(せき)は
   花(はな)のむしろ
筵(むしろ)の色(いろ)を
   許(ひやう)するには
まだ唇(くちびる)の
紅(べに)ぞ深(ふか)き

 

北(きた)の家(いへ)より
   南(みなみ)の家(いへ)に
來(く)る道(みち)すがら
   得(え)たる思(おもひ)は
花(はな)にあらず
   蜜(みつ)にあらず

 

花(はな)よりも
   蜜(みつ)よりも
美(うつく)しく甘(あま)き
   思(おもひ)は胸(むね)に溢(あふ)れたり

 

雷(いかづち)落ちて(お)
   藪(やぶ)を焼(や)きし時(とき)
諸手(もろて)に腕(かひな)を
   許(ゆる)せし人(ひと)は
今(いま)相對(あひむか)ひて
月(つき)を挾(はさ)む

 

盃(さかづき)とるを
   差(はづ)る二人(ふたり)は
天(てん)の上(うへ)
   若(わか)き星(ほし)の
酒(さけ)の泉(いづみ)の
   前(まへ)に臨(のぞ)みて
香(にほ)へる浪(なみ)に
   恐(お)づる風情(ふぜい)

 

紅花盃(こうくわはい)
   琥珀(こはく)の酒(さけ)
白(しろ)き手(て)より
   荒(あら)き手(て)にうけて
百(ひやく)の矢(や)うくるも
   去(さ)るな二人(ふたり)
御寺(みてら)の塔(たふ)の
  扉(とびら)に彫(ほ)れる
神女(しんによ)の戲(たはぶれ)
   笙(しやう)を吹(ふ)いて
舞(ま)ふにまされる
   雪夜(せつや)のうたげ
律師(りし)駕(が)に命(めい)じて
   北(きた)の家(いへ)に行(ゆ)き
月下(げつか)の氷人(ひようじん)
   去(さ)りて後(のち)
二人(にん)いさゝか
容儀(かたち)を解(と)きぬ

 

夜(よ)を賞(しよう)するに
   律師(りし)の詩(し)あり
詩(し)は月中(げつちゆう)に
   桂樹(けいじゆ)挂(かゝ)り
千丈(ぢやう)枝(えだ)に
   銀(ぎん)を着(つ)く
銀光(ぎんくわう)溢(あふ)れて
   家(いへ)に入(い)らば
卜(ぼく)する所(ところ)
   幸(さいはひ)なりと

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