古塔 蒲原有明
古塔 蒲原有明
惱み吸ふくちづけの
わびしかる音の嘆きと、
膚に染みいる蒼白き影の笛のね。――
その淫けたるながき吐息よ。
かかるをりなり、あな、あな、
わが額のうへに
生温き滴したたる。――
灰色のしづくの痛み。
かくてまた鬱憂の
狹霧の中を、
おぼろげに匂ふ塔のかげ、
魂のかげ滅えぎえにして。
わが額の上、灰色の痛み隙なし。
塔も、今、溺れゆく霧の蒸し香に、
しみじみとおぼゆるは、
露盤の鏽の緑青の古き悲しみ。
*
古塔
惱(なや)み吸(す)ふくちづけの
わびしかる音(おと)の嘆(なげ)きと、
膚(はだ)に染み(しみ)いる蒼白(あをじろ)き影(かげ)の笛(ふえ)のね。――
その淫(たは)けたるながき吐息(といき)よ。
かかるをりなり、あな、あな、
わが額(ぬか)のうへに
生(なま)温(ぬる)き滴(しづく)したたる。――
灰色(はいいろ)のしづくの痛(いた)み。
かくてまた鬱憂(うついう)の
狹(さ)霧(ぎり)の中(なか)を、
おぼろげに匂ふ塔(たふ)のかげ、
魂(たましひ)のかげ滅(き)えぎえにして。
わが額の上、灰色の痛み隙(ひま)なし。
塔も、今(いま)、溺(おぼ)れゆく霧の蒸(む)し香(が)に、
しみじみとおぼゆるは、
露盤(ろばん)の鏽(さび)の緑青(ろくじやう)の古き悲しみ。
*
今日、久しぶりにネット・サーフィンをしてみたら、有明の詩は、ネット上でまとまったテクスト化がなされていないことに気づいた。何ともやるせない気になったので、少し打ってみようかなと思ったのだが……彼の詩はルビなしには読めない。そこでルビ付きを試みて見たものの、ココログのHTML編集システムではどうやっても上手くいかないことが分かったので、とりあえずルビ排除版を前に置き、後ろに底本通りのルビ版を配してみた。
底本は1928年岩波書店刊の岩波文庫版「有明詩抄」を用いたが、これは概ね二段組で、相当に無理な版組がなされているために、句読点や記号が狹苦しそうに配されているため、一部を僕の判断で補正した。
う~ん、これは結構面倒だぞ。でも、また、ぼちぼちやるか……

