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2009/02/11

R氏のノート 尾形亀之助

R氏のノートの中に、R氏が自分で書いた覚えの少しもない記事を見つけたといつて、その切り取つた部分を同封して面白いから読んでみるやうにと言つてきたが、自分で書いて置きながら数年後にどうしても自分で書いたものでないとしか考へられないことが私自身にもあるのだから、R氏のノートもたぶんさうなのではなからうかと思つた。切り取つたノートの部分を読んで、新らしく愛人を得たのでR氏はそのノートに貼りつけてゐるかなしく別れた愛人の写真(ノートに書いてあるのをみると、それはほんとの写真ではなく雑誌の口絵からとつた彼女によく似た写真で、それをノートに貼つてゐたのだらうと私は想像する)を見つけた時のノートを私に送つて、それとなく暗示してよこしたのかも知れないと思つた。
R氏が愛人を得たとすれば、R氏の楽しい生涯を私も大変うれしく思ふ。

 ○月○日
 晴れて、暑い昼であつた。私は古雑誌の口絵のブールヴアールの中に彼女を見つけた。そして、それが彼女に似ているか似てゐないかを丁寧に考へた。
 彼女は正面を向いて椅子にかけてゐる。青いだぶだぶの帽子をかぶつて、白いオバーに濃い藍色の服を着てゐるもう一人の羽根のついた帽子をかぶつて横を向いてる婦人と、山高をかぶつて褐色の顔を手でさゝいてゐる黒い服の男との間に、赤い明るい唇を閉じてゐる。円いテーブルにぶどう色の飲物がのつてゐる。左手に、赤いテントをはつてさかんにはやしたてゝゐるサーカスの前に人だかりがしてゐる。シルクハツトの楽隊が一列に四人ならんでゐるそのわきに、ピエロとさるまた一つの大男と桃色の踊子が二人立つてゐる。黄色のピエロはふざけてでもゐるのか片手をあげて肩をひねつてゐる。小いさい太鼓をたゝいてゐるそばに猿と鹿のやうなものがゐるが、遠景なので版がはつきりしては木戸番であるのかも知れない。赤いずぼんに水色の外套を着た赤い帽子の軍人が立つてゐる。むぎわらに白ずぼんの男や、帽子も服もピンクの婦人や、なつぱ服に鳥打の職工も立つて見てゐる。それから赤と黄と黒の帽子をかぶつた三人の老婦人が歩いて来る。半分かくれてゐるシルクハツトの人もゐる。髯のある山高が傘を持つて静かにそこを横ぎつてゐると、その後から高いカラーをした海老茶の外套を着たのがすまして歩いてゐる。支那風に飾つた円テントの前にも大勢の人がゐる。赤や緑の提灯をさげてゐる。絵の正面は、路に面して白い建物がある。茂つた立樹がある。

 ○月○日
 私は「集ひ」といふ××××の口絵の中に又彼女を見つけた。彼女はそこに窓にもたれてゐた。
 私はブールヴアールのとくらべた。

 ○月○日
 私はこの頃眠れない。眠ると夢を見る。昨日の夢で、私は彼女と何処かへ逃げて行く旅費を中学の頃の友人から借りた。

(文芸ビルデング第三巻第七号 昭和4(1929)年7月発行)

[やぶちゃん注:底本では「R氏のノートの中に……」で始まり、「……私も大変うれしく思ふ。」で終わる前書き部分は全体が半角下げのポイント落ちである。「ブールヴアール」“Boulevard”はフランス語で「並木のある大通り」のことを言う。「さゝいてゐる」とそのすぐ後の「ぶどう色」はママ。「版がはつきりしては」は「版がはつきりしていれば」又は「版がはつきりすれば」といった意味合いか。次の「地球はいたつて平べつたいのでした」の詩に現れる『男は古雑誌の中から女に似た口絵を見つけて切りぬいたりした。』という句を持ち出すまでもなく、R氏とは尾形亀之助自身である。]

これは勿論、150000アクセス記念ではない。ご安心を。

僕の誕生日まで秒読みに入った。『短編集』の内、散文形式の小説や物語タイプのものはこれですべて終了、残りは戯曲1篇とシナリオ2篇である。

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