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2012/08/23

耳嚢 卷之五 始動 / 鳥獸讎を報ずる怪異の事

「耳嚢卷之五」のブログ公開を始動する。

 

 鳥獸讎を報ずる怪異の事

 

 寛政八辰の六月の頃、武州板橋より川越へ道中に白子村といへるあり。白子觀音の靈湯に、槻(つき)とやらん又は榎(えのき)とも聞しが、大木ありしに數多(あまた)の鼬(いたち)あつまりて、右大木のもとすへよりうろの内へ入りて數刻群れけるが、程なく右うろの内より、長さ三間計りにて太さ六七寸廻りのうはばみのたり出て死しける故、土地の者共ふしぎに思ひて駈(かけ)集りしに、鼬はいづち行けんみな行衞なし。さるにてもいか成語なるやと彼(かの)うろをも改めしに、鼬の死したる一ツありしとや。月頃彼うはばみの爲に其類をとられしを恨みて、同物をかりあつめ其仇(あた)を報ひけるやと、彼村程近き人の咄しける也。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:「卷之四」末との連関は認められない。似たような動物執念譚を巻頭に掲げるものに「卷之十」の「蛇の遺念可恐の事」がある。但し、こちらは燕の子を狙った蛇が下僕に打ち殺されるた後、その以外に群れた無数の蟻が蛇の遺恨を持って燕の巣を襲ったという変形の異類怨念譚である。ヘビという共通性では「卷之二」巻頭の「蛇を養ひし人の事」が挙げられ、「卷之三」巻頭の「聊の事より奇怪を談じ初る事」がハチ、「卷之四」巻頭の「耳へ虫の入りし事」及び二番目の「耳中へ蚿入りし奇法の事」でコメツキムシとムカデ、「卷之六」の二番目には「市中へ出し奇獣の事」ではリスに似た雷獣と噂される未確認生物(図入り)の記事、「巻之八」の二番目「座頭の頓才にて狼災を遁し事」三番目「雜穀の鷄全卵不産事」はオオカミにニワトリと、有意な頻度で動物が現れ、根岸の動物奇談好きが見てとれる。

・「讎」「仇」「讐」「敵」などは古語では「あた」と清音で読む。空疎・虚構・不信実の意を元とする「徒(あだ)なり」(儚い・不誠実だ・無駄だ・いいかげんだ・無関係だ)の意の「あだ」とは全くの別語である。

・「寛政八辰の六月」寛政八(一七九六)は丙辰(きのえたつ)。旧暦寛政八年六月一日はグレゴリオ暦の七月 五日。

・「白子觀音」埼玉県和光市白子にある臨済宗建長寺派福田山東明寺(とうみょうじ)。康暦二 (一三八〇) 年開山。第七世常西和尚が伝行基作赤池堂観世音を境内に安置、旧地名をとって「吹上観音」として知られる。

・「槻」欅。バラ目ニレ科ケヤキ Zelkova serrata

・「榎」バラ目アサ科エノキ Celtis sinensis。東明寺HP外、いろいろ検索を掛けてみたが、いずれかは不詳。

・「数刻」二、三時間から五、六時間。中を採って四時間ぐらいが話柄としても飽きないであろう。「程なく」という謂いからもそれを越えるとは思われない。

・「長さ三間計りにて太さ六七寸廻り」体長約五・四五メートル、胴回り約二〇センチメートル前後。本邦産の蛇としては信じ難い大きさである。

・「のたり出て」うねるように這って出て来て。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 寛政八年丙辰(きのえたつ)の六月の頃、武蔵国板橋より川越へ抜ける街道筋に白子村という所が御座って、そこに祀られておる白子観音の霊場東明寺に――欅(けやき)とも、又は榎(えのき)とも聞いて御座るが――ともかくも、一本の巨木が御座った。

 ある日のこと、数多の鼬(いたち)が寄り集(つど)って、その大木の根本から、するすると登ったかと思うと、幹に出来た洞(うろ)の内への陸続と入ってゆく。……

 数刻、これ、五月蠅く群れておったが、程無(の)う、その洞の内より――何と、長さ三間ばかり、胴回りは、これ、六、七寸になんなんとする蟒蛇(うわばみ)が這い出して――死んだ――。

 そこで、村人ども、不思議に思うて駈け集(つど)って参ったところが、鼬は、何処(いずこ)へ行ったものやら、影も形も見えずなっておった。

「……それにしても……これは如何なることで御座ろうか?……」

と、かの洞の内を検(あら)め見たところ――そこは死んだ蟒蛇の棲家と思しく――その底の方に――鼬の骸骨が一つ――転がっておったとか申す。……

「……先頃、かの蟒蛇のために、その一族の者を奪い捕られたを恨んで、同族を駆り集め、その仇(あだ)を討ったものでも御座ろうか?……」

とは、かの白子村に程近き人の、話したことで御座る。

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