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2012/12/10

生物學講話 丘淺次郎 第六章 詐欺 一 色の僞り~(1)

    一 色の僞り

Gitaiga

[樹皮に似た蛾]

 

 動物の色が、その生活する場所の色と同じいために頗る紛らはしい例は、殆ど際限なくある。綠色の「いなご」が綠色の稻の葉に止まつて居るとき、黄色い胡蝶が黄色い菜の花に休んで居るとき、土色の雀が土の上に下りて居るとき、鼠色の蛾が鼠色の樹の幹に留まつて居るときなど、いづれも餘程注意せぬと見落し易い。また潮干に海へ行つて見ると、淺い底の砂の上に「かれい」・「こち」・「はぜ」・「かに」などが居るが、いづれも砂色で砂のやうな斑紋があるので、靜止して居ると少しも見えぬ。それ故、ときどき知らずに「がざみ」などを蹈んで、急に匍ひ出されて大いに喫驚(びつくり)することがある。アジヤ・アフリカ等の廣い砂漠に住む動物は獅子・「らくだ」・「かもしか」〔アンテロープ〕などの大きな獸から鼠・小鳥などに至るまで、さまざまの種類の異なつた動物が、殘らず淡褐色の砂漠色を呈して居る。これと同樣に年中雪の絶えぬ北極地方へ行くと、狐でも熊でも全身純白で雪の中では殆ど見別が附かぬ。

[やぶちゃん注:「鼠色の蛾が鼠色の樹の幹にと留まつて居る」挿絵がそれであるが、絵の方はチョウ目スズメガ科 Sphingidae スズメガ亜科 Sphinginae の仲間であろうか。おや? この“Sphingi”はラテン語の“sphīnx”(スフィンクス)の女性形“Sphīngis”じゃねえか? なるほど! スフィンクスたぁ、翼のある怪物だぁな! 目から蛾!

「こち」これは生物学的には甚だ困った呼称で、「コチ」(鯒)は、『上から押し潰されたような扁平な体と比較的大きな鰭を持った、海底に腹這いになっていることが多い(従ってベントス食性であるものが多い)海水魚を総称する』語で、参照したウィキの「コチ」によれば、どれも外見は似ているが、目のレベルでは異なる二つの分類群から構成される、とする。但し、丘先生がここに「こち」を用いるのは極めて正しく、この種によっては全く縁遠い俗称群でありながら、『腹側は白っぽいが、背中側の体色は周囲の環境に合わせた保護色となっている』点で「色の僞り」に相応しい生物群であることに変わりはないのである。まず大きな「コチ」群は、カサゴ目コチ亜目Platycephaloidei に含まれる。

 カサゴ目コチ亜目

  アカゴチ科 Bembridae

  ウバゴチ科 Parabembridae

  ヒメキチジ科 Plectrogehiidae

  コチ科 Platycephalidae(代表種で真正和名とも言える本邦近海産のマゴチ Platycephalus sp. はここに含まれる)

  ハリゴチ科 Hoplichthyidae

なお、マゴチの学名が“sp.”となっているのは複数存在するからでは、ない。ウィキの「マゴチ」によれば、これは最近まで『奄美大島以南の太平洋、インド洋、地中海に分布する Platycephalus indicus と同一種とされていたが、研究が進み別種とされるようになった。ただし、まだ学名が決まっていないので、学名は"Platycephalus sp. "( コチ属の一種)という表現が』なされているためである。属名“Platycephalus”は“Platys”(平たい)+“kephalē”(頭)の意である。

 もう一つの「コチ」群は、スズキ目ネズッポ亜目 Callionymoideiに属するもので、

 ネズッポ科 Callionymidae

 イナカヌメリ科 Draconettidae

釣り人が「メゴチ(女鯒)」と称するのは、圧倒的にこのネズッポ科ネズミゴチ(鼠鯒)Repomucenus richardsonii であるが、天麩羅にして旨い「コチ」はこれであったり、先のカサゴ目コチ科メゴチ Suggrundus meerdervoortiiであったりする(「メゴチ」という標準和名は後者に与えられている)ので、ややこしや、である(但し、生体ならばネズミゴチなどのネズッポ類は体表が粘液に覆われていること、下向きのおちょぼ口で有意に小さいこと、頭部の骨板がないこと、鰓蓋に太い棘があることで全くの別種であることは容易に分かる)。魚の一般人の分類への関心が低い欧米では“gurnard”と呼び、コチ亜目ホウボウ科ホウボウ Chelidonichthys spinosus と一緒くたになってさえいるのである。

「はぜ」条鰭綱スズキ目ハゼ亜目 Gobioidei に分類される魚の総称。漢字では「鯊」「沙魚 」「蝦虎魚」など書く。ウィキの「ハゼ」によれば、『運動能力の低い底生魚ゆえ、体色は砂底や岩の色に合わせた保護色となっているものが多い。ただし温暖な海にはキヌバリ、イトヒキハゼ、ハタタテハゼなど派手な体色をもったハゼも生息する。シロウオなど透明な体色のものもいる』とある。丘先生のイメージしておられる可能性が最も高いと思われるのはゴビオネルス亜科マハゼ Acanthogobius flavimanus であろう。属名“Acanthogobius”はギリシャ語の“akantha”(棘)+“gobius”(ラテン語の「ハゼ」、荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」では、所謂、利用価値のない雑魚の類いを意味するギリシア語“kōbios”から派生したラテン語“gobio”による、とされる)で、種小名の“flavimanus”はラテン語の“flavus”(黄色い)+“manus”(手)で、鰭の辺縁部に黄色を呈することに由来するものと思われる。

「がざみ」甲殻綱十脚(エビ)目抱卵(エビ)亜目短尾(カニ)下目ワタリガニ科ガザミ Portunus trituberculatus。「ワタリガニ」という別名でもよく知られる。属名“Portunus”はローマの港や門の神ポルトゥヌス、種小名は“tri-”(三つの)+“tuberculum”(突出するもの)で、本種の前額部にある三棘の突起に由来するものと思われる。

「かもしか〔アンテロープ〕」かく本文注記で示したように、この呼称には注意を要する。まず、

「カモシカ」という語は現在、広義には哺乳綱獣亜綱偶蹄(ウシ)目反芻(ウシ)亜目ウシ科ヤギ亜科に属するヤギ族以外のサイガ族・シャモア族・ジャコウウシ族の三族を総称し、我々に馴染みの深いカモシカ属ニホンカモシカ Capricornis crispus など八属十種で構成される生物群(シカの名が入っているものの、シカの属するシカ科ではなく、ウシやヤギと同じウシ科に属する。従ってシカとは違ってウシ科のほかの種同様、角は枝分かれせず、生えかわりもない)を指す

が、ここで丘先生は

「アジヤ・アフリカ等の廣い砂漠に住む」

と規定されており、これは

現在のレイヨウ(羚羊)又はアンテロープ“Antelope”を指していると考えるのが妥当である

ように思われる。そうして大事な点は、後述するように

現在はこれらを「かもしか」とは呼称しない

という点である。以下参照したウィキの「レイヨウ」から引用する(アラビア数字を漢数字に代え、段落を省略、記号の一部を改変した。下線部はやぶちゃん)。『ウシ科の大部分の種を含むグループ。分類学的にはおおよそ、ウシ科からウシ族とヤギ亜科を除いた残りに相当し、ウシ科の約一三〇種のうち約九〇種が含まれる。「レイヨウ」は分類群ではない。レイヨウと呼ばれる生物は、ウシ科の多くの亜科(ヤギ亜科以外の全て)に分かれて存在する。多くはレイヨウ同士より、それぞれがウシかヤギにより近い関係にある。多くの異なる種があり、大きさも、小型のものから非常に大型化する種まで、さまざまである。古くは「カモシカ」と呼ばれることもあった。「カモシカのような足」というときの「カモシカ」は、本来はレイヨウのことである。しかし現在いうカモシカはヤギ亜科に含まれ、レイヨウには含まれない。なお、レイヨウの亜科のひとつにアンテロープ亜科(ブラックバック亜科)があるが、このアンテロープはAntelopeではなく、模式のブラックバック属 Antilope のことである。アンテロープ亜科はアンテロープの中の一亜科であり、オリックス、インパラなど代表的なレイヨウの多くが別亜科である。アンテロープ共通の特徴は、基本的に、ウシ科共通の特徴にほぼ一致する。つまり、生え変わりや枝分かれのない中空の一対の角、草食、小さい二股の蹄、短い尾などである。ウシ科全体の特徴ではないアンテロープの特徴としては、家畜種が含まれない、主にアフリカに生息する、などがある。また、ウシ族はウシ科で最大級の種も含まれる大型種のグループであり、ヤギ亜科は小型ながらも頑丈な四肢を持つが、それらに対しレイヨウは、軽量で優雅な姿をし、細身で、優美な前後脚を持っている。多くのレイヨウには強力な大腿四頭筋があり、驚くとまるで巨大なウサギが地上で弾んでいるかのように、この筋力による独特の跳躍ストライドで走る。いくつかの種では、この跳躍は時速一〇〇キロメートルに達し(チーターの一〇〇~時速一一五 キロメートルに匹敵し、しかも持久力では勝る)、陸上で最速の生き物の一つでもある。』また、文化史的記述として、『レイヨウの角は、多くの地域で医学と魔術の象徴として尊重される。 コンゴでは、魂を閉じ込めると考えられる。 キリスト教のイコン解釈学は、キリスト教徒が持っている二本の霊的な武器(旧約聖書と新約聖書)のシンボルとして、レイヨウの二個の角を使用することがある。また、レイヨウの速く走る能力は、風を連想させる。例としては、「リグ・ヴェーダ」におけるマルトの軍馬と風の神ヴァーユなどである』とある。なお、“Antelope”(アンテロープ)の語源について、荒俣宏氏は「世界大博物図鑑5 哺乳類」のアンテロープに似たウシ科プロングホーン亜科の「プロングホーン」の項で、キュヴィエによれば、“Antelope”という名はギリシア語の“anthos”(花)+“ops”(目)に由来し、恐らくはアンテロープの美しい目に因んだ名称だという、とある。――これで美しく注を終えることが出来た。]

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