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2013/01/31

生物學講話 丘淺次郎 第六章 詐欺 四 忍びの術(3)


Heikegani


[平家蟹]

 「へいけがに」は甲の表面に凸凹があつて、それが恰も恨み怒つて居る人の顏の如くに見えるので名高いが、これも姿を隱すことが頗る巧い。普通の「かに」は走るときには四對の足を悉く用ゐるが、「へいけがに」では、四對ある足の中で前の二對だけが匍ふのに用ゐられ、後の二對は上向きに曲つて、常に空いた介殼を支へる役を務める。それ故この「かに」が海の底で靜止して居るときは、恰も死んだ「はまぐり」の介殼が一枚離れて落ちて居る如くに見えて、下に「かに」の隱れ居ることは一寸分らぬ。かやうに「へいけがに」は年中介殼を脊負つて歩き、自身の甲を露出することがないが、常に保護せられて居る體部が次第に弱くなるのは自然の規則であると見えて、他の「かに」類に比べると甲が稍薄くて、内部にある種種の器官の位置が表面から明に知れる。普通の「かに」では甲は厚くて、その表面は平滑であるが、「へいけがに」では筋肉の附著して居る處などが著しく凹んで、心臟のある處、胃のある處、鰓のある處、肝臟のある處が、皆判然と境せられ、その形が偶然人の怒つた顏に似て居るので、平家の人々の怨靈(をんりやう)であるなどとの傳説が仕組まれた。但し、この「かに」は決して平家一同の討死した壇の浦邊に限り産するものではなく、日本沿岸にはどこにも居るであらう。現に東京灣でも、網を引くと幾らも掛つて來る。また前の二對の足は匍行に用ゐられるから、普通の「かに」の足と同じ形狀であるが、後の二對は役目が違ふから形も餘程違つて短く小さく、且尖端の爪は介殼を保つことの出來るやうに半月形に曲つて居る。その上、根元の位置も甲の上面の方へ移つて、甲の後端に近い處から恰も牙が生えて居る如くに左右へ突出して居るので、顏の相が益々鬼らしく見える。この「かに」は生のときは泥のやうな色であるが、「かに」でも「えび」でも煮ると、他の色素は分解して赤色のものが殘るから、一度茹でたら、先年帝劇で平家蟹という外題の狂言に澤山出したやうな赤いものとなるであらう。

[やぶちゃん注:「へいけがに」丘先生の謂いから考えると、甲殻亜門軟甲綱十脚目短尾下目ヘイケガニ科ヘイケガニ Heikeopsis japonica 及び同属の仲間は勿論、ヘイケガニの近縁種で甲羅が同様の人面や鬼面様を呈する種(後述)をも含んだものと考えられる。以下、ウィキの「ヘイケガニ」を参照・引用(引用ではアラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更・省略した)する。ヘイケガニ Heikeopsis japonicaの体色は一様に褐色をしており、甲幅・甲長とも二〇ミリメートル程度。甲は上から押しつぶされたように平たい丸みを帯びた台形で、甲は筋肉がつながる位置に明白な溝があって、内臓及び体節の各区域をはっきりと仕切っている。甲羅を上方から見た時、吊りあがった目(鰓域前部)、団子鼻(心域)、固く結んだ口(甲後縁)といった人の怒った表情に確かに見える。第二・第三歩脚は甲と同じく扁平で、甲幅の二倍以上の長さがある。鋏脚は小さいが、♂の鋏脚は右が僅かに大きい。歩脚の後ろ二対は小さな鉤状で、先端に小さな鋏を持つ。本邦の北海道南部・相模湾から紀伊半島・瀬戸内海・有明海、朝鮮半島・中国北部・ベトナムまで東アジア沿岸域に広く分布し、水深一〇~三〇メートル程度の、貝殻が多い砂泥底に棲息する。短い歩脚で二枚貝の貝殻や、棘皮動物門ウニ綱タコノマクラ目カシパン亜目スカシカシパン科 Astriclypeus 属スカシカシパン Astriclypeus manni 等のカシパン類の生体及び死殼、海綿類などを背負って身を隠す習性を持つ。長い脚で水を掻いて泳ぐことも出来るが、この際には腹部を上に向けて背泳ぎをする。産卵期は夏から秋にかけてで、この時期には抱卵したメスが見られる。同様の形状を持つ近縁種としては、

サメハダヘイケガニ Paradorippe granulata

甲幅は約二五ミリメートル。ヘイケガニに似るが大型で、和名通り、体がザラザラしている。また、♂の鋏脚上面に毛が生える。北海道から台湾までの東アジア沿岸域に分布し、水深二〇~一五〇メートル程度の砂泥底に棲息する。福島県いわき市周辺では、貝殻を被った姿を股旅姿に見立てて「サンドガサ」と呼ぶ。

キメンガニ Dorippe sinica

甲幅約三五ミリメートル。サメハダヘイケガニよりも更に大型で、甲羅には人面に似た凹凸に加え、毛や疣状突起があり、さらに「彫り」が深く、「目」の部分が大きく見開かれ、その外辺部に角のような棘もあって、鬼面に見えるとこから和名がついた。東北地方からオーストラリアまでの西太平洋とインド洋に広く分布し、水深七〇メートル程度まで棲息する。

カクヘイケガニ Ethusa quadrata

甲幅約一〇ミリメートルの小型種。「目」の外辺部に棘があり、甲の形は長方形に近い。相模湾から東シナ海南部にかけて分布し、水深三五~二〇〇メートル程度まで棲息する。

マルミヘイケガニ Ethusa sexdentata

甲幅約三五ミリメートル。「目」の外辺部の棘は短くて前向きである。和名は他種に比べて歩脚の断面が丸みを帯びることに由来する。犬吠埼・対馬以南から鹿児島県沿岸までと、アンダマン海にも分布している。水深四〇~三六〇メートル程度まで棲息する。

イズヘイケガニ Ethusa izuensis

甲幅一二ミリメートルの小型種。「目」の外辺部の棘は大きいが、それよりも四つに分岐した額角が前に出るのと、全身に短毛が生えるが特徴。相模湾から東シナ海南部まで分布し、水深三〇~一一五メートル程度まで棲息する。

などが挙げられる。以下、「甲羅の模様の人為選択説」の項。『ヘイケガニの甲羅の溝が怒った人間の顔に見えることは、明治時代から幾人かの科学者の興味を呼び起こしてきた。 一九五二年に進化生物学者ジュリアン・ハクスレー(Julian Huxley)はライフ誌でヘイケガニを取り上げ、この模様が偶然にしては人の顔に似すぎているため、人為選択による選択圧が作用したのではないかと述べている。この人為選択説では甲羅の模様の成因を、それが顔に似ている程、人々が食べることを敬遠し、カニが生き残るチャンスが増えたため、ますます人の顔に似て来たのだと説明する』。これは、『一九八〇年に天文学者カール・セーガンも、テレビ・シリーズ「コスモス」と同名の著書の中で、このヘイケガニの人為選択について取り上げている。彼は、平氏の亡霊が乗り移ったという伝説が、人間の怒った顔に似た模様が出ている甲羅を持つカニを漁獲するしないの選択に作用しているならば、その伝説が色濃い瀬戸内海、特に壇ノ浦に近いところほど、漁師がこのカニを捕まえるのを嫌がったかもしれず、そうすれば壇ノ浦からの距離が近いほどより人間の顔に近い模様になっているのではないかという仮説を提唱した』(提唱とあるが、これはハックスリーの仮説のまんまである)。『この説については甲殻類学者酒井恒が著書「蟹―その生態の神秘」の中で触れており、ヘイケガニやその近縁種は日本以外の北西太平洋にも分布し人の顔に見える特徴は変わらないこと、化石の段階で既に人間の顔をした模様が認められること、ヘイケガニは食用にならないため捕獲の対象とされないことなどの理由で否定している』とある。これについて、荒俣宏氏は「世界大博物図鑑別巻2 水生無脊椎動物」で詳述されており(そこではハックスレーはこの人為選択説を柳田国男を通して酒井に伺いをたてたとある)、ところが、それでもハックスレーはそれでも『自説を捨てきれなかったらしく』、一九五四年八月の「ライフ」『誌上にヘイケガニの繁栄にまつわる記事を寄せている』とある(ハックスレーは二度「ライフ」にこの人為選択説を載せたらしい)。これについて、酒井氏は著書「蟹―その生態の神秘」(一九八〇年講談社刊)の中で次のように述べているとして引用、「平家蟹」の項を擱筆されておられる。この引用が実にいい。カンマ・ピリオドを句読点を変更して引用し、本注の最後としたい。――『へいけがにの面相が動物形態学の上でどのような意味をもつものであるか、またへいけがにの海底における生活がどうであるか、人間生活との関係がいかなるものかを知らないで人間だけの想像力で判断していくと、自然に対してとんだ結論をおしつけることにならないともかぎらない。』――

「先年帝劇で平家蟹という外題の狂言に澤山出した」明治の末年、明治四五(一九一二)年に初演された岡本綺堂作の「平家蟹」。梗概は個人のHP「じゃわ's じゃんくしょん」の平家蟹」を参照されたい。]

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