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2013/01/03

生物學講話 丘淺次郎 第六章 詐欺 二 形の僞り~(3)


Arigumo
[「蟻 ぐ も」

   右側の葉の上部に

   居るのは「蟻」に

   似た「くも」。

   下部に居るのは眞

   の「蟻」]

 

「 くも」の類にも巧に他物を眞似て餌を捕へるものが幾つもある。庭園の樹の葉の上には往往頗る蟻に似た「くも」が走り歩いて居るが、これは「蟻ぐも」と名づけて常に蟻を捕へて食ふ種類である。一體ならば蟻には足が六本あり「くも」には足が八本あつて、身體の形狀も大いに違ふ筈であるが、「蟻ぐも」では胴の形も色も全く蟻の通りであるのみならず、一番前の足は蟻の觸角のやうに前へ差出して恰も物を探る如くに動かし、殘りの六本の足で匍ひ廻るから、擧動が如何にも蟻らしく見える。これはアフリカの土人が砂漠で「だてう」を捕へんとするに當つて、まづ「だてう」の皮を被り、その擧動を眞似て驚かさぬやうに「だてう」に近づき、急に矢を放つてこれを殺すのと同じ趣向で、頗る巧妙な詐欺である。また草原には往々綠色で細長い「くも」が居るが、これは四本の足を前へ、四本の足を後へ、一直線に揃へて延すと、全身が細長い緑色の棒の如くになつて、篠などの若芽と殆ど區別が出來ぬ。かやうに「くも」類には種種他物を眞似るものがあるが、その中でも一番振つて居るのは、恐らく鳥の糞に似た種類であらう。これに就いては熱帶地方を旅行した博物學者の面白い報告が幾らもある。ある一人は終日大形の蝶を捕へようと搜し廻つた末、樹の葉の上に鳥の糞に一疋止まつて居るのを見附け、大喜びで拔足差足これに近づいたところが、蝶は一向逃げる樣子もないので、靜に指でこれを捕へた。しかるに蝶の胴は半分に切れて、一方は鳥の糞に附著したまゝで離れなかつたから、不思議に思つて指で觸れて見た所が、今まで鳥の糞であると思つたものは、實は一疋の「くも」であつて、背を下にし、腹側を上に向け、足を縮めて居たのである。新に落ちた鳥の糞は、中央の部は厚くて純白と黑色との交つた斑紋があり、周邊の部は少しく流れて薄い半透明の層が出來るが、この「くも」は絲をもって木の葉の表面に適宜の大きさの薄い層を造り、その中央に背を下にして滑らぬやうに足の鉤で身を支へながら、終日靜止して蝶の來り近づくのを待つて居る。かやうな計略があらうとは夢にも知らぬから、蝶はいつもの通り鳥の糞と思つて「くも」の上に止まり、忽ち捕へられ血を吸はれるのである。

[やぶちゃん注:「一體ならば」は「一体」を副詞的に用いた表現で、概して、の意。

「蟻ぐも」節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目クモ亜目ハエトリグモ科アリグモ属 Myrmarachne のクモの総称。この擬態についてはその後、隠蔽的擬態(ベイツ型擬態)説へと修正が加えられている。以下、ウィキアリグモによれば(アラビア数字を漢数字に代えた)、確かに『アリに非常によく似た姿と大きさをしている。全身ほぼ黒で、若干の模様が腹部にある場合がある』。『頭胸部はハエトリグモ類としては細長く、頭部は丸く盛り上がり、胸部との間にわずかにくびれがある。腹部は円筒形で、後方に狭まるが、前方は丸く、少し後方が多少くびれる。歩脚はハエトリグモとしては細く、長さもそこそこ。第一脚はいつも持ち上げて構える』。『頭部と胸部が分かれて見えること、腹部にも節があるように見えることから、その姿は非常にアリに似ていて、生きて歩いている場合にはよく見なければ区別できない。また、場合によっては腹部に矢筈状の斑紋があるが、これも腹部の節を強調するように見え、違和感がない』とある。『あまりにアリに似ていることから、擬態しているものと考えられる。擬態の目的として、「アリを捕食するため」の攻撃的擬態という説と「アリに似せることで外敵から身を守るため」という隠蔽的擬態(ベイツ型擬態)であるとの説があった』が、本書の記載のように『当初は「アリを捕食するため」という説が主流であった。つまり、アリの姿をしていると、アリが仲間と間違えて寄ってくるので、これを捕食するのだというのである。これはかなり広く普及していた考えのようで、日本のごく初期のクモ類の文献の一つである湯原清次の「蜘蛛の研究」(一九三一)にも、このことが記されており、さらに、「あるものは巣穴に入り込んで幼虫や蛹を担ぎ出す」というとも聞いている旨が記されている』。『しかし、その後次第にこの見解は揺らぐこととなる。一九七〇年代頃の関連書籍では、上記のような観察について、その確実な実例がほとんどないこと、また、実際に観察すると、アリの群れのそばでアリグモを見ることは多いものの、アリグモがアリを捕食することは観察されず、むしろ避けるような行動が見られることなどが述べられている。一九九〇年代には、攻撃的なアリ(アリはハチの仲間であり、基本的には肉食の強い昆虫であり、外敵に対し噛み付いたり、蟻酸を掛けたりする攻撃をする)に似せて外敵を避けるための擬態であるといわれるようになった。さらにはアリグモがアリを捕食した観察結果は皆無であるとの記述も見られるが、これはまたあらためて確認の必要があるであろう』。実際に『アリを捕食するクモとして、同じハエトリグモ科のアオオビハエトリがいる』が、『こちらも第一肢を持ち上げ、触角のように見え』、捕食のための擬態をしているようにも見えるからである。この属名“Myrmarachne”(ミルマラクネ)自体が、ギリシア語のアリを意味する“myrmos”+クモの意の“arachne”なのである。

「だてう」鳥綱ダチョウ目ダチョウ科ダチョウ Struthio camelus。属名“Struthio”(ストルティオ)はラテン語でダチョウの意、種小名“camelus”(カメルス)はラクダの意で、ラクダのようなダチョウという鳥――そもそも駱「駝鳥」――激しく目から鱗!

『綠色で細長い「くも」』ヒメグモ科オナガグモ Ariamnes cylindrogaster を指している。ウィキオナガグモ」によれば、『丸っこくふくらんだ腹部に細長い脚、というのが普通のヒメグモ科の中で、一見かけ離れた姿のクモである。腹部は後方へ細長く伸び、ほとんど一本の棒のようになっているが、これはヤリグモなどのような腹部後方背面の突出部が極端に伸びたことによる』。習性も変わっており、『網らしい網は張らず、枝先の間に数本の糸を引いただけ、というものである。これが他種のクモをもっぱら襲っていることが知られるようになったのは』、実は二〇世紀も末のことである。体長は♀で三〇ミリメートル『近いものもあり、これはオニグモやコガネグモに近く、長さだけなら日本では大型の部類にはいる。ただし幅は狭いので、そういう印象はない。体色には二型があり、緑色のものと褐色のものがあるが、どちらの場合も全身がほぼ同じ色で斑紋は見られない』。♂は体長二五ミリメートル『までと一回り小さいが、それ以外にはさほど違いが見られない』。『頭胸部は幅に見合った長さなので、小さく見える。形の上ではやや円筒形に近い。歩脚は、第一脚と第四脚が同じくらい長く、後者は腹部の後端近くに届』き、『腹部は頭胸部とほぼ同じ幅で、後ろに長く伸び、先端は次第に細まる。この腹部はくねるように変形させることが出来る』。『木立の枝先の間に数本の糸を引いただけの網を張り、それに止まっているのが見かけられる。静止しているときは前二脚を前方に真っ直ぐ伸ばし、後ろ二脚を腹部に添え、腹部を後方に真っ直ぐに伸ばしており、この状態では全身がほぼ一直線の細い棒状である。刺激を受けると歩脚を曲げて移動し始め、その際には腹部は背面側、実際には下側にやや弓なりに曲げる形となることが多い』。『獲物とするのは他種のクモである。クモが糸を伝ってやってくると、後肢で粘球のある糸を投げかけるようにして絡め取り、噛みついて殺すことが観察されている』。以下、擬態について、『このクモは静止時には細長い針状の形であり、全くクモに見えない。その形については、松葉に擬態していると言われることがある。これは確かにそう見えるが、空中に松葉の姿でいる必然性はないであろう。もちろん、松葉がクモの網にかかっていても不思議はないが。ただし、特に松林に多いわけではなく、松葉でなければならない必然性はない』(この辺りの叙述、拘りがあって私好みである)。『しかし、とにかくクモに見えないのは確かで、その意味では擬態は完全と言ってよいレベルである。面白い形のクモであるから、観察会などで紹介する機会が多いが、近づいて指先で示しても一般の人間は気づかないことが多く、クモだと言ってもまず納得してくれない。実際にふれて動き出して初めてわかってもらえるのが常である』とその空遁の術を美事に解説されておられる(ウィキにしては珍しく筆者の風貌が見えてくる筆致である)。属名“Ariamnes”はアリアドネーの糸の“Ariadne”由来か? 種小名“cylindrogaster”は“cylindrus”(シリンダ―・円筒)+“gaster”(腹)である。

「鳥の糞に似た」「くも」コガネグモ科トリノフンダマシ(鳥の糞騙し)属 Cyrtarachne。これも擬態については攻撃型擬態は現在否定されているので、ウィキトリノフンダマシ類から引用したい(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更・省略した)。因みに以下に見るように本邦にも同類は棲息する。『熱帯系のクモの仲間であり、日本ではトリノフンダマシ属が約五種、近縁のサカグチトリノフンダマシ属が三種類知られている。いずれも興味深い姿をしている』。『最も普通に見られるのは、トリノフンダマシである。本州中部以南に分布し、それほど珍しい種ではないが、一般には目にすることはほとんどない。 雌は体長が一センチメートル程度、腹部はハート形で、白っぽい。ハートのくぼんだ部分の下側に頭胸部がつながる。頭胸部と歩脚は薄い褐色で、足を折り曲げて、頭胸部に添えると、背面からは腹部に隠れて見えにくくなる。昼間に観察すれば、低木や草の葉の裏面に、足を縮めた姿でじっとしているのが見つかる』。『腹部はほぼ白色で、両肩に当たる部分が軽く盛り上がる。その部分に白と灰色のまだらがある。腹部の表面は非常につやがあり、一見するとまるで濡れて光っているかのように見える。特に白と灰色のまだらの部分は、尿酸が流れたようになった鳥の糞にも見える。これが鳥の糞騙しの名の由来である』。『他の種では、オオトリノフンダマシとシロオビトリノフンダマシが鳥の糞に似ている。オオトリノフンダマシはトリノフンダマシによく似ており、腹部がやや黄色みを帯びることと、腹部の形等が異なる。シロオビトリノフンダマシは横に長い楕円形の腹部で、中央に白い帯、その後部に黄褐色の部分がある。いずれもつやがあって、濡れた糞に見える』。『それ以外の種は、糞には見えない。クロトリノフンダマシは真っ黒で、糞から出た種子に見えると言う人もいる。腹部後方が赤くなる個体があり、かつてはソメワケトリノフンダマシと呼ばれた。アカイロトリノフンダマシは、真っ赤な腹部に白い水玉模様が並び、腹部の横両端に黒い斑点が一つずつ出る』。『近縁のものに、サカグチトリノフンダマシ属があり、国内に三種が知られている。サカグチトリノフンダマシは、丸い腹部が黄色で、白い水玉模様がある。ツシマトリノフンダマシは赤に黒の水玉模様である』。以下、「外見の意味」から。『鳥の糞に似た外見は、一齢のチョウの幼虫等に多く見られるのと同じく隠蔽型擬態であると考えられる。鳥の糞を好んで食べるクモの捕食者はいないからである』。『これに対し、攻撃型擬態とする説もあった。チョウやハエなどには、糞の汁を吸うために鳥の糞に近寄ってくるものがある。鳥の糞に似た外見を持つことによって、そのような習性を持つ昆虫をおびきよせて捕まえている、と考えられたのである』。『後で述べるように、トリノフンダマシは夜行性で、夜に網を張ることが判明したので、攻撃型擬態との判断は、現在では考えられて』おらず、この説には元々『疑問が多かった。まず、トリノフンダマシは葉の裏面に止まっていることが多い。これでは糞に擬態した意味がない。また、コガネグモ科は普通は網を張って餌をとる仲間であるので、そのような匍匐性のクモのような餌の取り方をするのも妙である(そのような例がない訳ではないが)』という点であった(後にトリノフンダマシ類が実は夜行性で夜になると網を張ることが分かったのは一九五〇年代のことであった。丘先生は知る由もなかった訳である)一方でベイツ型擬態説が大きく浮上してきた。『特にオオトリノフンダマシの腹部には、カマキリの頭部の複眼、触角の基部、顎に似た模様がある。生態的な意義は証明されていないが、クモを捕らえる小型のハチをカマキリが捕食する事は事実で』、『アカイロトリノフンダマシやサカグチトリノフンダマシについては、テントウムシ類に擬態している可能性がある。テントウムシ類には、悪臭のある液を出すものがある上、派手な色は警戒色である可能性があるから、それに擬態するものがあって不思議はない』。一方で、実際に鳥の糞の姿で攻撃的擬態しているとされるクモが本邦にも棲息する。本州・四国・九州・南西諸島などに分布するも希少種であるカニグモ科ツケオグモ属カトウツケオグモPhrynarachne katoi『で、体はでこぼこで刺が生え、腹部もでこぼこだらけだが、つやがある。体色は黒っぽいオリーブ色で、あちこちに白い部分がある。草の葉の上面にとまっていると、鳥の糞に見えなくもない』とある。因みにトリノフンダマシの属名“Cyrtarachne”は、ギリシア語の“kyrtos”(曲った)+蜘蛛に変身させられた女神アラクネー“Arákhnē”の合成か。]

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