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2013/06/26

芥川龍之介「河童」決定稿原稿 十三

■原稿134(135)

     〈《六》→《九》→《八》→九〉十三

 

[やぶちゃん注:「十三」は5字下げに相当。御覧の通り、訂正が甚だしいが、これは何を意味するものか、以下、三箇所連続で「トツク」を「ラツプ」と書き間違えて訂している点も含めて今一つ、不審である。本文は2行目から。]

 

 僕等は〈ラツプ〉*トツク*の家へ駈〈つ?〉**つけました。〈ラツ

プ〉*トツク*は右の手にピストルを握り、〈血だらけにな〉*頭の皿(さら)から血*

を出したまま、〈す?〉**山植物の鉢植ゑの中に仰向

けになつて倒れてゐました。その又側には雌

の河童が一匹、〈ラツプ〉*トツク*の胸に顏を埋め、大声(おほこゑ)

を擧げて泣いてゐました。僕は雌の河童を抱

き起しながら、(一體僕は〈《皮》→河童の皮膚〉*ぬらぬらす*る河童の

皮膚に手を触れること〈は〉**余り好んではゐない

のですが。)「どうしたのです?」と尋ね〈ま〉**した。

 

■原稿135(136)

 「どうしたのだか、わかりません。〈唯〉**何か書

いてゐたと思ふと、いきなりピストルで頭を

打つたのです。ああ、わたしはどうしま〈せ〉**

う? qur-r-r-r-r qur-r-r-r-r」(これは河童の

泣き聲です。)

 「何しろトツク君は〈胃病〉*我儘*だつたからね。」

 〈医者のチヤツクは〉*硝子会社の社長の*ゲエルは〔悲しさうに〕頭(あたま)を振〈り〉**ながら、〈かう言ひました。〉*裁判官のペツプ*にかう言ひました。〈ペツ

プは〉*しかしペ*ツプは何も言はずに金口の巻〈草〉煙草に火を

つけてゐました。すると今まで跪いて〈、〉トツ

[やぶちゃん注:

●「qur-r-r-r-r qur-r-r-r-r」は初出及び現行では、

 qur-r-r-r-r, qur-r-r-r-r
とコンマが入る。現行は筆記体であるが、「r-」の「-」は同様にあって繋がっていない。

●「すると今まで跪いて〈、〉トツクの創口などを調べてゐたチヤツクは」この部分、ちょっと見ると、読点の下のマスに何かを書いて消したようにも見える。校正者もそう思ったものか、ここは初出及び現行では

 すると今まで跪いて、トツクの創口などを調べてゐたチヤツクは

読点が生きている。しかし、よくここを読んでみて頂きたい。この読点は不要である(寧ろ、読点を打つならば「今まで、跪いてトツクの創口などを調べてゐたチヤツクは」とした方がよい)。即ち、この芥川のぐるぐると書いた抹消線の意味が分かってくる。これは、この読点を不要と判断して抹消したのである! その証拠に抹消線は有意に読点にかかっているのである。芥川はこの読点を抹消するに際し、下手に小さな抹消をすると、抹消に見えないことを虞れ、わざわざ大きなぐるぐるを下のマスまで延ばし、『この読点は抹消』という意志を校正者に伝えようとしたのだ! 従って、この読点は現行『定本』からは抹消されてしかるべきである、というのが私の判断である。大方の御批判を俟つものである。]

 

■原稿136(137)

クの創口などを調べてゐたチヤツクは如何に

も醫者らし〈く〉**態度をしたまま、僕等五人に宣

言しました。(實は一人と四匹とです。)

 「もう駄目です。トツク君は元來胃病でした

から、それだけでも憂欝になり易かつたので

す。」

 「何か書いてゐたと云ふことですが。」

 哲學者のマツグは弁解するやうにかう独り

語を洩らしながら、机の上の紙をとり上げま

した。僕等は皆頸をのばし、(尤も僕だけは例

 

■原稿137(138)

外です。)幅の廣いマツグの肩越しに一枚の紙

を覗きこみました。

 「〈岩〉いざ、立ちて行かん。娑婆界を隔つる谷へ。

  岩むらはこごしく、やま水は淸く、

  藥〈草〉**(やくさう)の花はにほへる谷へ。」

 マツグは僕等をふり返りながら、微苦笑と

一しよにかう言ひました。

 「これはゲエテの『ミニヨンの歌』の剽竊〈を〉です

よ。するとトツク君の自殺したのは詩人とし

ても疲れてゐたのですね。」

 

■原稿138(139)

 〈そ〉**こへ偶然(ぐうぜん)自動車を乗りつけたのはあの音

〈の〉家のクラバツクです。クラバツクはかう

云ふ光景(くわいけい)を見ると、暫く〈茫然と〉*戸口(とぐち)に*佇ん〈で〉**ゐま

した。が、〈マツグの〉*僕等(ら)の前(まへ)*へ歩み寄ると、怒鳴りつ

けるやうにマツグに話しかけました。

 「それはトツク〈〔君〕〉の遺言状ですか?」

 「いや、最後に書いてゐた詩です。」

 「詩?」

 マツグは〔やはり騷がずに〕髮(かみ)を逆立(さかだ)てた〈マ〉クラバツクに〈一枚〉*トツク*

〈紙〉*詩稿*を渡しました。クラバツクは〈トツク〉*あたり*には目(め)

[やぶちゃん注:

●「マツグは〔やはり騷がずに〕髮(かみ)を逆立(さかだ)てた〈マ〉クラバツクに〈一枚〉*トツク*〈紙〉*詩稿*を渡しました。」初出及び現行と異なる。まず、この原稿部分を整序してみると、

 マツグはやはり騷がずに髮を逆立てたクラバツクにトツクの詩稿を渡しました。

となるが、実際には初出及び現行は、

 やはり少しも騷がないマツグは髮を逆立てたクラバツクにトツクの詩稿を渡しました。

である。これは最終ゲラ校正で芥川が変更したもののように私には思われる。]

 

■原稿139(140)

もやらずに熱心にその詩〔稿〕を読み出し〈ま〉**〈た〉

**。しかもマツグの言葉には殆ど返事さへし

ないのです。

 「あなたはトツク君の死をどう思ひますか?」

 「いざ、立ちて、………僕も亦いつ死ぬかわか

りません。………娑婆界を隔つる谷へ。………」

 「しかしあなたはトツク君とは〈藝術上の〉*やはり*親友

〔の一〈お〉人(ひとり)〕だつたのでせう?」

 「親友? トツクはいつも〈孤〉**独〔だつたの〕です。………娑

婆界を隔つる谷へ、………〈」〉唯トツクは不幸にも、

 

■原稿140(141)

………岩むらはこごしく………」

 「不幸にも?」

 「やま水は〈水〉淸(きよ)く、………あなたがたは幸福です。

………岩むらはこごしく。………」

 僕は未だに泣き声を絶たない雌の河童に同

情しましたから、そつと肩(かた)を抱へるやう〈にゆ〉*にし*

部屋の隅の長椅子へつれて行きました。そこ

には二歳か三歳かの河童が一匹、何も知らず

に笑つてゐるのです。僕は雌の河童の代(かは)りに

子供の河童をあやしてやりました。するとい

 

■原稿141(142)

つか僕の目にも涙のたまるのを感じ〈まま〉まし

た。僕が河童の国に住んでゐるうちに涙と云

ふものをこぼしたのは前(まへ)にも後(あと)にもこの時だ

けです。

 「しかしかう云ふ我侭な河童と一しよになつ

た家族は気の毒ですね。」

 「何しろあとのこと〈を〉**考へないのですから。」

 裁判官のペツプは不相変新しい〈葉〉巻〔煙草〕に火を

つけながら、資本家のゲエルに返事を〈《し》→しま〉*してゐ

〔ま〕した。すると〈僕〉僕等を驚かせたのは音樂家のク

[やぶちゃん注:

●「何しろあとのこと〈を〉**考へないのですから。」岩波旧全集後記校異には、ここは原稿では、

 何しろあとのことを考へないのですから。

となっている旨の記載があるのだが、明らかに視認する限り、芥川は「も」に訂している。不審である。

●「裁判官のペツプは不相変、新しい〈葉〉巻〔煙草〕に火をつけながら」の部分、初出及び現行は、

 裁判官のペツプは不相変、新しい卷煙草に火をつけながら

と読点が入る。無論、読点があった方がよい。]

 

■原稿142(143)

ラバツクのおほ声です。クラバツクは詩稿を

握つたまま、誰にともなしに呼びかけました。

 「しめた! すばらしい葬送曲(そうそうきよく)が出來るぞ。」

 クラバツクは細い目(め)を赫(かが)〈や〉やかせたまま、ち

よつとマツグの手を握ると、いきなり戸口へ

飛んで行きました。〈のみならずもう〉*勿論もうこの時*には鄰近

所の河童が大勢、トツクの家(うち)の戸口に集〈ま〉**

り、珍らしさうに家(うち)の中を覗いてゐるの〈で〉**

す。しかしクラバツクは〈かう云〉*この河*童たちを遮(しや)二

無(む)二〈押〉左右へ押しのけるが早〈か〉いか、ひらりと自

 

■原稿143(144)

動車へ飛び乗りました。〈と〉同時に又自動車は

爆音(ばくおん)を立てて忽ちどこかへ行つてしまひまし

た。

 「こら、こら、さう覗いてはいかん。」

 裁判官のペツプは巡査の代りに大勢の河童

を押し出した後(のち)、トツクの家の戸をしめてし

まひました。部屋の中はそのせゐか急にひつ

そりなつたものです。僕〔等〕はかう云ふ靜かさの

中(なか)に〔―――〕高山植物の花の香(か)に交つたトツクの血(ち)の

匂(にほひ)〈を感じました。が、〉*の中(なか)に後始末(あとしまつ)のこ*となどを相談しま〔し〕た。し

 

■原稿144(145)

かしあの哲學者のマツグだけはトツクの死骸

を眺めたまま、ぼんやり何か考へてゐ〈ま〉ます。僕

はマツグの肩を叩き、「何を考へてゐるのです

?」と尋ねました。

 「河童の生活と云ふものをね。」

 「河童の生活がどうなのです?」

 「我々河童は何と云つても、河童の生活を完

うする爲には、………」

 マツグは多少羞(はづか)しさうにかう小声(こごゑ)でつけ加

へました。

 

■原稿145(146)

 「兎に角我々河童以外の何ものかの力を信ず

ることですね。」

 

[やぶちゃん注:以下、8行余白。]

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