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2013/07/06

芥川龍之介「河童」決定稿原稿 十六

■原稿184(185)

     十〈一〉**

 

[やぶちゃん注:「十六」は5字下げ。抹消数字は例えば「七」には見えない。有意に一画で強く横に引いている。「一」と考えて間違いない。本文は2行目から。]

 

 僕は〈トツクの自殺し〉*かう云ふ記事を讀ん*だ後、だんだんこの国

にゐることも憂欝になつて來ましたから、ど

うか我々人間の国へ歸ることにしたいと思ひ

ました。しかしいくら探して歩いても、僕の

落ちた穴は見つかりません。そのうちにあの

バツグと云ふ漁師の〈河〉**童の話には〔、〕何でもこの

国の街はづれに或年をとつた河童が一匹、本

を讀んだり、笛を吹いたり、〈靜〉**かに暮らし

てゐると云ふことです。僕はこの河童に尋ね

 

■原稿185(186)

〈童《河》→に尋ね〉て見れば、或はこの国を逃げ出す途

もわかりはしないかと思ひましたから、早速

街はづれへ出かけて行きました。しかしそこ

へ行つて見ると、如何にも小さい家の中に〈や〉

をとつた河童どころか、頭(あたま)の皿も固ま〈ら〉**

い、やつと十二三の河童が一匹、悠々と笛を

吹いてゐました。僕は〈最初は間〉*勿論間違*つた家へはひ

つたではないかと思ひました。が、念の爲に

〈前を尋ね〉*をきいて見*ると、やはりバツグの教へ〈れ〉てくれ

た年よりの河童に違ひないのです。

 

■原稿186(187)

 「しかしあなたは子供のやうですが〈。〉………」

 「〈そ〉お前さんはまだ知らないのかい? わたし

はどう云ふ運命か、母〈親〉**の腹を出た時には〈■〉

髮頭(しらがあたま)をしてゐたのだよ。それからだんだん年

が若くなり、〈■〉今ではこんな子供になつたのだ

よ。〈」〉けれども年を勘定すれば、生まれる前を

〈四〉**〈年〉としても、彼是〈百〉**十五六にはなるかも

知れない。」

 僕は〈狭い〉部屋の中を見まはしました。そこ

には僕の気のせゐ〈や〉**、質素な椅子やテエブル

 

■原稿187(189)

〈や〉**間に何か淸らかな幸福が漂つてゐるやうに

見えるのです。

 「あなたは〈《誰よりもの》→どうも外の〉*どうもほか*の河童よりも仕合せに

暮らしてゐるやうですね?」

 「さあ、それはさうかも知れない。わたしは

若い時は年〈と〉**りだつたし、〈年をとつた時は〉*年をとつた時は*

いものになつてゐる。從つて〈《■》→年〉**よりのやうに

慾にも渇かず、若いもののやうに色にも〈漁〉**

れない。兎に角わたしの生涯は〔たとひ〕仕合せではな

〈までも、安らかだらう。〉*にもしろ、*安らかだつたのに〔は〕違

 

■原稿188(189)

〈ないよ。」〉*あるまい。*

 「成程それでは安らかでせう。」

 「いや、まだそれだけでは〈明〉**らか〈では〉*には*ならな

い。わたしは体も丈夫だつたし、一生食ふに

困らぬ位の財産を持つてゐたのだよ。〈」〉しかし

一番仕合せだつたのはやはり生まれて來た時

に年〈と〉**りだつたことだと思つてゐる。」

 僕は暫くこの河童と自殺した〈ラツプ〉*トツク*の話だ

の毎日醫者に見て貰つてゐる〈《タツパ》→ドツク〉*ゲエル*の話だの

をしてゐました。が、なぜか年とつた河童は

[やぶちゃん注:

●「《タツパ》」ここで芥川は「毎日醫者に見て貰つて」生にすこぶる執着しているところの、今まで全く登場していない「タツパ」という新手河童を登場させようとしていたことが分かる(次の「■原稿189(190)」の3行目の抹消をご覧あれ)。

●「年とつた河童」初出及び現行は、

 年をとつた河童

である。この後、これ以外に同じ表現が4箇所出現するが、いずれも同様の異同が認められるので、ゲラ校正での芥川自身による改訂と思われる。]

 

■原稿189(190)

余り僕の話などに興味のないやうな〈顏〉**をし

てゐました。〈僕は〉

 「ではあなたは〈《ほかの河童》→タツ〉*ほかの河童*のやうに格別生き

てゐることに執着を持つてはゐないのですね

?」

 年とつた河童は僕の顏を見ながら、靜かに

かう返事をしました。

 「わたしもほかの河童のやうにこの国へ生ま

れて來るかどうか、一應父親に尋ねられてか

ら母〈親〉**の胎内を離れたのだよ。」

[やぶちゃん注:前注通り、「年とつた河童」は初出及び現行では「年をとつた河童」。]

 

■原稿190(191)

 「しかし僕はふとした拍子に、この国へ轉げ落

ちてしまつたのです。どうか僕にこの国から

出て行(ゆ)かれる路を教へて下さい。」

 「出て行かれる路は一つしかない。」

 「と云ふのは?」

 「それはお前さんのここへ來た路だ。」

 僕はこの荅を聞いた時になぜか身の毛がよ

だちました。

 「その路が生憎見つからないのです。」

 年をとつた河童は水々しい目にぢつと僕の顏

[やぶちゃん注:前注通り、「年とつた河童」は初出及び現行では「年をとつた河童」。]

 

■原稿191(192)

を見つめました。それからやつと體を起し、

部屋の隅へ歩み寄ると、天井からそこに下

つてゐた一本の綱を引きました。すると今まで

気のつかなかつた天窓(てんまど)が一つ開きました。そ

の又円い天窓の外には松や檜が枝を張つた向

うに大空(おほぞら)が靑あをと晴れ渡つてゐます。〈■〉

や、大きい鏃(やじり)に似た槍ヶ岳の峯も聳えてゐま

す。僕は飛行機を見た子供のやうに実際飛び

上つて㐂びました。

 「さあ、あすこから出て行くが好い。」

 

■原稿192(193)

 年をとつた河童はかう言ひながら、さつき

の綱を指さしました。今まで僕の綱〈■〉**思つてゐ

たのは実は綱梯子に出來てゐたのです。

 「ではあすこから出さして貰ひます。」

 「唯わたしは前以て言ふが〈、〉〔ね〕。〈■〉出て行つて後悔

しないやうに。」

 「大丈夫です。〔僕は〕後悔などはしません。」

 僕はかう返事をするが早いか、もう綱梯子

を攀ぢ登つてゐました。年をとつた河童の頭(あたま)の

皿(さら)を遙か下に眺めながら。

[やぶちゃん注:前注通り、二箇所の「年とつた河童」は初出及び現行では「年をとつた河童」。以上の最終行は20行目で余白なし。

●「唯わたしは前以て言ふが〈、〉 〈■〉〔ね。〕出て行つて後悔しないやうに。」この台詞の推敲は、当初恐らくは、

 唯わたしは前以て言ふが、

まで書いて、読点を抹消して次のマスから何か書こうとした(判読不能。マスの有意な左部分に強い縦の一画がある)が、やめて抹消、

 唯わたしは前以て言ふが、出て行つて後悔しないやうに。

その後、かなり後になってから「ね。」を挿入して、

 唯わたしは前以て言ふがね。出て行つて後悔しないやうに。

としたのではないかと思われる。何故かというと、この右吹き出しの挿入記号を含めて、この

 ね。

だけが原稿及び推敲に用いられたブラックではなく、かなり明るいブルー・ブラック系によるものであるからである。]

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