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2013/10/26

日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第三章 日光の諸寺院と山の村落 10 珍しい陸棲巻貝の発見/石仏群/石の願掛け/漂石/小屋の悪戯ら書き


M76


図―76

 ある場所で腐った木の一片をひっくりかえして見たら、きせる貝に似て巻き方が反対な、実に美しい陸貝があった。(私はこの「種」の形をフランスの一雑誌で見た覚えがある。)それ等と一緒にあった小さな貝は、明かにニューイングランドで普通に見受ける種の物と同一であった。また極めて美しい蝶が飛んでいて、私はその若干を捕えた。我々は路傍に立ち並ぶ石の像に興味を感じた。それ等の大多数――全部とまでは行かぬとしても――は仏陀の姿で、こわれているものも多く、中にはひっくり返った儘のもあるが、いずれも苔むし、その他いろいろと時代の痕跡をとどめていた。石の台の上にのっているのもあったが、その一つの両脚、両手の上には小石が積み上げてあった。この小石一つが一回の祈禱を代表するのである(図76)。渓流をさかのぼる時、小さな橋の上に佇んで下をほとばしり流れる水から立ち昇る空気に冷されるのは誠に気持がよい。氷河作用の証拠が見えぬのは不思議に思われた。漂石の中には、氷河作用によるものらしく見えるものが大略千個について一個位あるが、それ等もニューイングランドの漂石のように丸くはなく、また蝕壊されてもいない。旅人達が休み場として用いる無住の小舎で、私は初めて羽目や桷(たるき)に筆で日本文字の署名をしたのを見た。この時まで私は公共の場所を、我国で普通に行われるように、名前や、粗雑な絵や、文句でけがすことを見なかった。この無住の小舎は、然し人里を離れることが非常に遠いので、それを筆蹟帳として悪用することも、大した曲事とは思われなかった。

[やぶちゃん注:最後に示されているのは高い確率で千社札ではないかと思われる。「モース先生、それはね、悪戯書きではありませんよ!」

「ある場所で腐った木の一片をひっくりかえして見たら、きせる貝に似て巻き方が反対な、実に美しい陸貝があった。」原文は“At one place I turned over a bit of rotten wood and found exquisite little land shells like Pupilla, only reversed.”。“Pupilla”は腹足綱柄眼目直輸尿管亜目サナギガイ上科サナギガイ科サナギガイ属 Pupilla(但し、陸生貝類の分類体系は研究者によってかなりの相違がある)。訳の「きせる貝」は頂けない。同じ柄眼目ではあるが、「きせる貝」はキセルガイ科 Clausliidae で科レベルで異なる別種であるからである。サナギガイ科 Pupillidae はキバサナギガイ科とスナガイ科を含み、八属十九種。微小で殻高は一・五~三ミリメートルほどしかなく、通常は殻口に褶(しわ)を持つ(平凡社「日本動物大百科 第七巻 無脊椎動物」の「陸生巻貝類」の黒住耐二氏の記載に拠る)。私は陸棲貝類には疎いので何とも言えないが、ここでモースが見つけたのは本当にサナギガイ属 Pupilla の貝であったのだろうか? かく疑問を呈するのは、彼が「実に美しい」と表現している点で、本属の貝類は先に記した如く孰れも微小であるからである(無論、貝類を専門とするモースが如何なる微小なものであっても「実に美しい」(exquisite)と表現しても何ら可笑しくはないし、実際に貝類収集家の中には顕微鏡で見るような微小貝類を専門に蒐集される方もいる)。私は形状が“exquisite”(非常に美しい・実に巧緻な)と言うなら寧ろ、苦言を呈しておきながらも石川氏の誤ったキセルガイ科のどれそれの方が、これ、より相応しいようにも思えてくるからではある。一応、アメリカにあった時のモースにとって日常的であったと考えられる“Pupilla”、北半球の広い範囲に分布し、しかもサナギガイ属では最も広く分布して且つ最も普通に見られる種とされるチャイロサナギガイ Pupilla muscorum(但し、本種は日本では報告はない)について、ウィキチャイロサナギガイから引用しておく(注記記号は省略した)。『北欧や南欧を含むイングランドからロシア極東にわたるヨーロッパのほぼ全域、アフリカ(北部)、中東、アジア(北アジア、中央アジア、東アジア、スリランカ)、北米北部など。これは20-30種が知られるサナギガイ属 Pupilla 全体の分布域をほぼカバーしているとされる』。『殻色は赤褐色~角灰色。全体に両端の丸い円筒形もしくは長卵形で、殻頂は丸味を帯びつつ鈍く尖る。殻表は最初の』『層はほとんど平滑で、以後は細かい成長線があるが顕著な彫刻はない。殻質は薄くはなく、石灰分の多い環境ではより厚くなり、それが少ない環境ではより薄くなって透明感のあるものも出現する。原則として右巻きだが、北米では一定の割合で左巻きが出現する個体群があり、それには Pupilla muscorum sinistra Franzen, 1946という亜種名が付けられている。』『サナギガイ科は陸生有肺類であるため蓋はないが、しばしば殻口内に歯状突起をも』ち、『殻口縁は狭く反り返ってリップを形成し、その背後には弱い括れを挟んで殻口縁に平行したクレストと呼ばれる白っぽいリング状の肥厚部をもつ。ただし北米産では欧州産ほどリップもクレストも発達しない。臍孔は狭い裂け目状』で(「殻口縁は狭く反り返ってリップを形成」というのが先の「褶」であろう。こうした細部解説を読むと今度は“exquisite”も満更ではないという気もしてくる)、『軟体は殻に比べると小さく、匍匐する時の腹足の全長は殻高の半分程度。背面が黒っぽく、足の周辺はやや淡色、表面の溝やしわ状彫刻はあまり顕著ではない。1対の大触角はよく発達し先端に大きめの眼があり、下方にある小触角も小さいが明瞭に存在する』。低地から山地まで生息し、アルプス山脈では標高二四〇〇メートル、ブルガリアでは標高一二〇〇メートルまで見られるが、一般には『乾燥した牧草地や、砂地、開放的で陽光のあたる環境や石灰質の土地に多く、落ち葉層や』『コケの間、石の下などに棲息する。ブリテン島ではヒツジが食んだ石灰質の草地などに多い。雌雄同体、卵胎生で、体内に1―8個の胎貝をもっているものが周年観察される』。『足は殻に比べて小さいが、殻は引きずることなく後方に持ち上げて活動する』とある。なお同属に属する種が本邦にも棲息する。サナギガイ Pupilla cryptodonHeude)で、参照したの山口県公式サイトの「野生生物目録」のサナギガイ」によれば、中華人民共和国の江蘇省から記載された微小な陸産貝で、海岸の砂浜に続く草むらに生息することが知られているが、日本での分布は局限されている。また、中国大陸から朝鮮半島の比較的寒冷な地域に分布の中心があり、日本での生息は寒冷時代の遺存種と考えられる。山口県内においては日本海側のごく限られた場所に生息しているが、砂浜海岸の荒廃とともに海浜植物への薬剤の散布等により生息環境が悪化し、生息範囲、個体数ともに減少している、とある。殻高は約3ミリメートル、殻径は約2ミリメートルと小形で薄質で堅固な殻をもつ。螺塔の高さには変異があり、著しく引き伸ばされた俵形を示す個体から球形に近い個体などが観察される。殻口は丸く、体層から離れて反転する。成貝では内唇に接近した二歯・軸唇に一歯・外唇内側に離れた二歯をもつ。殻色は淡褐色であるが死殻は白色を呈する。兵庫県、広島県、香川県の瀬戸内海沿岸部、石川・山口両県の日本海沿岸部、福岡県、長崎県に分布する(山口県では日本海側の日置町・豊北町の二ヶ所のみの記録)。海岸の砂浜潮上帯からハマオモト―ハマゴウ群落の落葉の中で観察される。こうした場所は乾燥した砂の上に堆積した落葉や朽ち木などが集まり、適度な湿り気を帯びている、とある。なお本種は環境省カテゴリーの絶滅危惧II類に分類されている。因みにここでモースが「巻き方が反対な」と言ったのは、その貝が左巻きであったことを指していると考えてよい。後は陸棲貝類の蒐集家の方の同定を待とう。

「この小石一つが一回の祈禱を代表するのである」日本の古来、恐らく仏教伝来や神道よりも遙か以前の、聖石への原始信仰の時代からの願掛けの方法。一般には特定の場所の石を選び拾い、仏教では「般若心経」などを唱えながら満願の日を決めて、石仏や宗祖などの石像に願を掛けるもの(病気平癒などの場合はその小石を持ち帰って患部を摩ったりした)。祈願が成就した際には何倍かの小石を御礼として供えるといった風習である。

「漂石」「ひょうせき」と読む。モレーン(moraine:氷河が運搬・堆積した岩屑(がんせつ)から成る堆積物。堆石。)の岩塊などが氷河の流下で遠くまで運ばれた後、氷河の消失によってとり残されたもの。付近の地質とは異質で孤立して存在する。迷子石・捨て子石ともいう。]

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