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2013/11/18

中島敦 南洋日記 十月十五日

        十月十五日(水) 雨

 朝公學校授業參觀、今日より毎日榔子水を飮むことを得ることとなる。

 午後、再び公學校。職員室にて、座談會式に現行教科書の檢討。本科六册を終へしのみにて暗くなる。久しぶりにて大饅頭を喰ふ。夜再び公學校。松下、高橋、兩訓導と語る。九時歸る。

[やぶちゃん注:以下、同日附中島たか宛書簡を示す。

   *

〇十月十五日附(消印トラック郵便局一六・一〇・一七、世田谷一六・一〇・二一。南洋群島トラック島トラック支庁庶務課気付。東京市世田谷区世田谷一の一二四 中島たか宛。封書。航空便。旧全集「書簡Ⅰ」書簡番号一三五)

○此の前の手紙は、つまらないことをして了つた。郵便局へ持つて行つたら、内地行の飛行機は今日出ましたと言ふんだ。まさか、こんな惡い天氣に出やしまい、と思つて油斷(ユダン)してゐたんだよ。だから、今度の此の手紙と一緒に着くだらう。凡て、ボクの手紙は、日附の順序に讀んでおくれよ。

 今度の旅行は、ヤルート迄の二週間は、すばらしい上天氣つづきだつたが、トラックへ上陸してからは、毎日々々雨ばかり。いやになつて了ふ。外へ出て見學してる時はいいんだが、雨に、とぢこめられて机に向つてゐると、お前達のことを考へて仕方がない。ノチャの寫眞もお前達三人の寫眞も鞄(カバン)に入れて持つて來てゐるが、ノチャは、もう、どんなことをしやべるかなあ。ボクの見たお前の最後の手紙(八月の終の日付)では、ノチャが名前を呼ばれると、太い聲で「ハアイ」と返事をするとか、何を見ても「コエ(コレ?)コヱ」つて云ふとか書いてあつたが、その後、二(ふた)月以上經たつてゐる今、どんなことを言ふやうになつたかなあ、

○所で、ボクが九月十三日にパラオから(旅行出發のすぐ前)電報がはせで送つたお金は、とゞいたらうね? 念のために一寸、聞いておく。

○ボクのかいた畫、三匹の犬に、ノチャの分の仔犬を一匹書きそへたやつ、とつてあるかい? 本郷町の茶の間の壁にはりつけといたやつさ。あれと、桓の廻覽板の畫とは、しまつといておくれ。もう、なくしちまつたのでなければ。

○此の島には猩々草(しやうじやうさう)が多い。一杯、野山に茂つてゐる。おぼえてるだらう? ウチの庭にあつた、葉の一部の赤くなるヤツさ。それから、變りだねの「葉げいとう」も澤山生えてゐる、此の島には、一體、葉のキレイな植物が多いやうだ。しやうじやう草、クロトン(この前の手紙に書いた)もさうだが、ここに同封した赤いハツパ(何といふ木か知らないが、家の垣根に多く使はれてゐる。實に眞赤でキレイだよ)もさうだ。同封した見本では、とても、實物は想像できないが。カンナも澤山、山(ヤマ)に生えてるが、花が小さい。やはり、球根の根分をしてやらないと、葉ばかり、むらがつて、花が小さくなるらしい。

△十月十二日[やぶちゃん注:△は底本では二重三角印。最後の方のそれも同じ。]。今日は土人の歌を聞き、踊を見た。唄は大抵、眠いやうな、物悲しいやうなのはかりだ。中々面白い題の歌がある。「他人(ひと)の妻のことを考へずに、自分の妻のことを考へませう」なんていふ、大變な題の歌があるよ。踊は面白かつた。棒踊といふのがある。二十人程の男が二列に向ひあつて遊んで、皆両手に、二尺位の竹の棒をもつてゐる。その竹で、地べたを叩いたり、向ひあつてゐる者の竹と叩き合つたりして、調子を取りながら、さんざんをどり廻るんだ。時々後向きになつて、片足を上げ、股(マタ)の間から、後にゐる男(その男も後向きになり、片足を上げて、股の間から竹棒を出してゐる)の竹を叩いたりして、イヤ、モウ、ニギヤカな踊さ。エイ、サツサ、エイ、サツサといふ掛聲も景氣がいい。こんなのではなく、もう少し、芝居がかつた、筋のある踊もある。さういふ踊の時は、身體を色々に飾り立てて出てくる。花輪を頭にまき、椰子の若芽で作つた飾を腕や腰や足くびにつける。オデコとホツペタにべニ(黄色に近い)を塗る。さうして、お尻(しり)を奇妙に振りながら、踊るんだ、

 

Odirisyou

 

◎ボクの専属の案内役の若い役人は風邪を引いて寐ちまつたのに、ボクは、平気さ。エライだらう。毎日雨降つゞきでも何ともない。その代り、色はズヰブン黑くなつたぜ。

○此の前の手紙には、(お前が)瘦せたと書いてあつたが、又、ふとつておくれ。さうして、何時だかみたいに「とてもキレイな、身體の弱い人と、キレイでなくてもふとつて丈夫な者と、どつちが良い?」と威張つておくれ。オレの方は此の一月近く、フシギな位、調子がいいんだよ。

○近頃は、お前、頭痛しないかい? ノーシンやヂヤスターゼやアスピリンを無理にのませる人がゐなくつて、しあはせだね。

 

○横濱丸缺航のため、僕の今後の豫定は大體次のやうになつた。

 今から十一月七日頃迄トラック滯在。

 十一月八日(頃)パラオ丸乘船

 十一月十日頃ポナペ着。十日あまりポナペ滯在

 十一月廿三日頃、又パラオ丸に乘る。

 十一月廿九三十日頃サイパン着

  サイパンに一週間か十日位ゐて、

 十二月の十日頃までにサイパンを立ちパラオへ向ふ。

 はじめはサイパン――パラオ間を飛行機にする積りだつたが、この十月から飛行機の道順が變つて、サイパンから、マツスグにパラオへ行かなくなつたので、この飛行機は止めようかと思ふ。その代り、十一月八日頃パラオ丸乘船とある所――つまり、トラック――ポナペ間を飛行機にするかも知れない。

◎セツカクの押葉の色がスッカリ變つて了ふだらうと思ふと殘念だ。マツカなのがマツクロになるだらう。クロトンだけはあまり變るまいと思ふ。

 ホソ長イ葉ハ、ミンナ「クロトン」。少シ、ハバノヒロイノ(キイロ、キイロトミドリ) モ、「クロトン」。

△桓も格も、別にリコウな兒にしなくつてもいい。丈夫で、すなほなら、それで結構。

○僕によこす手紙は、やはり桓の名前にしろよ。(少しテレクサイからな)

   *

「猩々草」こう言った場合はポインセチアに似た北アメリカ原産の一年草の双子葉植物綱トウダイグサ目トウダイグサ科トウダイグサ亜科トウダイグサ連トウダイグサ属ショウジョウソウ Euphorbia cyathophora を指す。ショウジョウソウは観賞用に花壇で栽培され、茎は高さ約六十センチメートル、葉は多くは楕円形で中央に大きなくびれを持つ。夏、茎頂に緑黄色鐘形の花序が集まって咲き、上方の数個の葉が朱赤色になる。花は小さく目立たない。グーグル画像検索「Euphorbia cyathophora」が。但し、同じトウダイグサ属ポインセチア Euphorbia pulcherrima も和名でショウジョウボク(猩々木)と呼ぶ。こちらは中央アメリカ原産で、両者は全体によく似ているが、ショウジョウソウは名前の如く草であって、幹の木質化は起こらず、また、包葉の赤化も全部には及ばないのが普通であるから、敦がこれらの二種を区別していたかは疑問乍ら、「葉の一部が赤くなるヤツ」という謂いは、正しくショウジョウソウを指していると、一応、考えてよいであろう。

 図の解説を電子化しておく(右下から反時計回りで示す)。

   *

椰子(ヤシ)の若芽を結んだもの

耳たぶに孔があいてゐるのでそこにも花がさしてある

赤い花[やぶちゃん注:頭に回した花輪の内、大きな白いの花間を繫ぐ小さな花を指している。]

白い花[やぶちゃん注:頭に回した花輪の内、大きな五弁の花を指している。]

ヒタヒホツペベニ[やぶちゃん注:下線は原画では太字「ベニ」は原画では傍点「〇」

足くびにも椰子の若芽のリボン

   *

なお、この踊りと衣裳、その歌詞等については十二日」の日録に詳しい。手紙文の最後はちょっと敦の意外にシャイな一面が見て取れる。恐らくは彼の発信数同様に、非常に頻繁に送られて来たものらしく、支庁の担当者から冷やかされでもしたものか。]

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