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2014/01/18

生物學講話 丘淺次郎 第十章 卵と精蟲 一 細胞(1)

    一 細 胞 

 さて普通の動植物の身體が無數の細胞より集まり成ることは、今日では殆ど誰でも知って居るやうであるが、卵と精蟲との素性を明にするには、まづ細胞や組織のことを稍々詳しく述べて置く必要があるから、念のためこゝに一通り細胞のことから説明する。

Neginosaibou

[「ねぎ」の葉の表皮]

Souruinohatuga

[藻類の細胞の内容が壁から離れて水中へ游ぎ出し後に至つて新に壁を生ずるのを示す] 

 抑々生物の身體が細胞から成ることの始めて知れたのは、今より僅に八九十年前のことで、それ以前にはかやうなことには少しも心附かずに居た、そしてその後にも細胞といふ考は段々變化して今日まで進み來たつたから、同じ細胞といふ文字を用ゐても八九十年前と今日とでは大分意味も違つて居る。植物の組織では各細胞に膜質の壁があつて、互の間の境が頗る判然して居る。試みに「ねぎ」の葉を取つて、その表面の薄皮を剝ぎ取り、これを度の低い顯微鏡で覗くと、無數のほゞ同大の區劃があつて、恰も細かい小紋の模樣の如くに見えるが、その區劃の一つ一つが即ち細胞である。またコルクの一片を薄く削つて顯微鏡で見ると、一面に孔だらけでまるで蜂の巣のやうであるが、その孔の一つ一つが細胞である。但しこの場合には全部が干からびて居るから、細胞はただ壁ばかりとなつて内部は全く空虛である。かやうに植物では細胞を見ることが比較的容易であるから、最初細胞の發見せられたのも植物であつた。そして最初は細胞の壁のみを重く考へ、細胞を一種の嚢と見做し、植物の體はかやうな顯微鏡的の小さな嚢の無數に集つて成れるものと思つた。しかし段々調べて見ると、嚢の壁は必ずしもなくてはならぬものではなく、却つてその内容の方が生活上最も大切なものであることが明になつた。そのわけは植物でも、芽の出たての若い柔い部分を取つて見ると、細胞の壁は極めて薄く、最も若い處ではあるかないか殆どわからぬ程で、たゞ内容の方が充滿して居る。また淡水産の微細な藻類などを顯微鏡で見て居ると、往々細胞の内容だけが壁から離れ、壁の割れ目から水中へ游ぎ出すことがある。初めてこれを見付けた學者は、植物が變じて遽に動物になつたというて大騷ぎをしたが、かやうに游ぎ出した内容物は、直に壁を分泌して完全な藻類となり、内容の拔け出した壁の方は、終にそのまゝ枯れてしまふ。即ち眞に生活するのは嚢の内部を充たす反流動體の柔い物質であつて、壁はたゞこれを包み保護するに過ぎぬ。今日では柔い生きた物質を原形質と名づける。されば昔植物の體は無數の小嚢が集まつて成れるものの如くに考へたのは誤であつて、實は原形質の小塊の無數に集まつたものである。そして各小塊はその周圍に細胞膜質を分泌して壁を造り、後には原形質は死んでなくなり、細胞の壁のみが殘るから、たゞ嚢のやうに見える。なほ各細胞をなせる原形質の小塊の中央には、恰も桃や梅の實の中央に核がある如くに必ず一個の特別な丸いものが見える。これを同じく核と名づける。それ故、今日では細胞の定義を次の如くにいふことが出來る。即ち細胞とは一個の核を有する原形質の小塊であると。植物でも動物でも身體は多數の細胞の集まりであるといふのは、かやうな意味の細胞であつて、決して昔考へたやうな嚢のことではない。細胞といふ譯語もこれに對する原語も共に嚢といふ意味の字であるが、これは昔細胞を一種の嚢と考えた頃からの遺物であつて、今日ではたゞ習慣上用ゐ續けて居るに過ぎぬ。

Saibouiroiro

[やぶちゃん注:以上の挿絵は底本ではキャプションがそれぞれの図の右手に縦書で以下のように附されている。右から、

[頰の内面の扁平細胞三箇]

[肝臟の球形細胞十箇]

[結締組織の星型細胞六箇]

である。] 

[やぶちゃん注:「生物の身體が細胞から成ることの始めて知れたのは、今より僅に八九十年前のこと」これ本底本である大正十五(一九二六)年東京開成館刊の第四版で、講談社学術文庫では大正五年初版を参照したものらしく、「七八十年前」となっている。細胞の英語“cell”(小さな部屋)という命名はイギリスの博物学者ロバート・フックが著わした一六六五年刊の“Micrographia”(「顕微鏡図譜」)が最初とされる。一六六五年、彼はコルクガシのコルク層の小片を自作の顕微鏡で観察している時にこの構造を始めて発見し、生物は細胞から作られていると考えた。但し、彼が実際に観察したものは、まさにここで丘先生が述べたように内容物を失った後の細胞の遺骸たる細胞壁に過ぎなかった。その後、オランダの商人科学者で「微生物学の父」と称せられるアントニ・ファン・レーウェンフックが自ら発明した高性能顕微鏡で一六七〇年代に細胞の観察を行っているが、本格的な生物組織の細胞説は、一八三八年のドイツの植物学者マティアス・ヤコブ・シュライデンの植物組織の、翌一八三九年のドイツの生理学者テオドール・シュワンの動物組織の観察を待たねばならなかった。二人はその観察結果から、生物は細胞から構成されており、細胞は生物共通の構造であって発生の基本単位であるとする「細胞説」を唱えた。この時点での細胞説では細胞がどのように発生するかを説明していなかったが、これは一八五五年にドイツの生物学者ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョーが「細胞は分裂して増える」という説を発表、続く一八六〇年に近代細菌学の開祖たるフランスのルイ・パスツールによって生物の自然発生説が否定され、生物は細胞増殖で成長するという理論が定着をみた(この部分、ウィキ細胞」の歴史の項の文章を参考にさせてもらったが、その元記載には重大な誤りが含まれている。それについてはウィキノート」に藪野直史の実名で署名記載をしておいた)。大正十五(一九二六)年から「八九十年前」となると、西暦一八三六~一八四六年でシュワンとシュライデンの初期の細胞説の定着期に一致する。

「淡水産の微細な藻類などを顯微鏡で見て居ると、往々細胞の内容だけが壁から離れ、壁の割れ目から水中へ游ぎ出すことがある」図の右手から発芽している個体の様子などは緑色植物亜界ストレプト植物門接合藻綱ホシミドロ目ホシミドロ科アオミドロ属 Spirogyraに属する藻類の有性生殖の接合後に生じた楕円形の接合胞子の発芽した藻体に似ていなくもない。

 キャプションにある「結締組織」というのは結合組織(connective tissue)のこと。現在でも結合織・結締組織ともいう。狭義には各器官及び各組織の間(例えば上皮組織と筋組織の間)といった体のあらゆる部分の間を埋め、結合作用を営む組織をいう。真皮・皮下組織・粘膜下組織・骨膜・筋膜・腱・血管の外膜などは総てが結合組織である。中胚葉に由来し不活性。構造的には細胞が比較的疎らで豊富な細胞間質の中に繊維成分が存在するのを特徴とする。結合組織に存在する細胞成分を結合組織細胞とよぶ。繊維芽細胞・細網細胞・組織球・形質細胞・リンパ球・脂肪細胞・肥満細胞・顆粒白血球・色素細胞などが挙げられる。星型を成している点では間充織(mesenchyme:間葉。動物の個体発生初期に外胚葉と内胚葉との間に形成される結合組織で突起をもつ星形の細胞がまばらな集団を形成する)か、色素結合組織細胞(ヒトの場合は眼球中膜と強膜及びクモ膜や皮膚に限定的に存在する)か。]

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