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2014/03/24

彈痕   山之口貘

 彈痕

 

アパートの二階の一室には

陰によくある女が一匹ゐた

その飼主は鼻高の色はあさぐろいめがねと指環の光つた紳士であつた

鼻高の紳士は兜町からやつて來た

かれの一日は

夜をあちらの家に運び

ひるまをこちらの二階に持ち込んで來てひねもす女を飼ひ馴らした

かれらの部屋がまた部屋でふたりがそこにゐる間

眞晝間ドアに鍵してすましてゐた

八百屋でござゐ

が來ると鍵をはづし

米屋でござゐ

が來ると鍵をはづし

いちいち鍵をはづしては鼻を出し直ぐまた引つ込めて鍵してしまふ

ずゐぶんふざけた部屋だつたが

すましかへつてゐたある日

外では煙硝のにほひが騷いでゐた

鼻高の紳士は鍵をはづして出て見たがやがてそのまゝ出て行つた

まもなく部屋には物音どもが起きあがりそこらあたりに搔き亂れた

いぶる世紀と

くすぶる空

鼻高さんはもう歸らない

そこに突つ立ち上つたかなしいアパート

アパートの横つ腹にぽつこりと開いたひとつの穴だ

そこからこぼれる食器や風呂敷包

そこからはみ出る茶簞笥と女。



[やぶちゃん注:【2014年6月26日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注の一部を追加訂正及び除去(不要と思われる再掲データ)した。】初出は昭和一四(一九三九)年七月発行の『歴程』。

 原書房昭和三三(一九五八)年刊の「定本 山之口貘詩集」では、三行目が、

その飼主は鼻高で色はあさぐろいがめがねと指環の光つた紳士であつた


と逆接の接続助詞「が」が挿入されてある。また十行目と十二行目が、


八百屋でござい


と、


米屋でござい


とに改められてあり、最後の句点は除去されている。]

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