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2014/03/19

鷄   萩原朔太郎 (「鷄」初出形)

 鷄

 

しののめきたるまへ、

家家(いへいへ)の戸の外で鳴(な)いてゐるのは庭鳥(にはとり)です。

聲(こゑ)をばながくふるはして、

さむしい田舍(ゐなか)の自然(しぜん)からよびあげる母(はゝ)の聲(こゑ)です、

とをてくう、とをるもう、とをるもう。

 

朝(あさ)のつめたい臥床(ふしど)の中(なか)で、

私(わたし)のたましひは羽(は)ばたきをする、

この雨戸(あまど)の隙間(すきま)からみれば、

よもの景色(けしき)はあかるくかがやいて居(ゐ)るやうです、

されどもしのゝめきたるまへ、

私(わたし)の臥床(ふしど)にしのびこむひとつの憂愁(いうしう)、

けぶれる木々(きぎ)の梢(こずゑ)をこえ、

遠(とほ)い田舍(ゐなか)の自然(しぜん)からよびあげる鷄(とり)の聲(こゑ)です、

とをてくう、とをるもう、とをるもう。

 

戀(こひ)びとよ、

戀(こひ)びとよ、

ありあけのつめたい障子(しやうじ)のかげに、

私(わたし)はかぐ、ほのかなる菊(きく)のにほひを、

病(や)みたる心靈(しんれい)のにほひのやうに、

かすかにくされゆく白菊(しらぎく)の花(はな)のにほひを、

戀(こひ)びとよ、

戀(こひ)びとよ。

 

しのゝめきたるまへ、

私(わたし)の心(こゝろ)は墓場(はかば)のかげをさまよひあるく、

ああ、なにものか私(わたし)をよぶ苦(くる)しきひとつの焦燥(せうさう)、

この薄(うす)い紅色(べにいろ)の空氣にはたえられない、

戀(こひ)びとよ、

母上(はゝうへ)よ、

はやくきてともしびの光(ひかり)を消(け)してよ、

私(わたし)はきく、遠(とほ)い地角(ちかく)のはてを吹(ふ)く大風(おほかぜ)のひゞきを、

とをてくう、とをるもう、とをるもう。

 

[やぶちゃん注:『文章世界』第十三巻一号・大正七(一九一八)年一月号に掲載された。第二連七行目は初出では「けぶれの木々(きぎ)の梢(こずゑ)をこえ、」であるが、奇体な語彙で誤植の可能性が大きいので、以下に示す詩集再録版にある「けぶれる」に訂した。「たえられない」はママ。本詩は後に詩集「靑猫」(大正一二(一九二三)年一月新潮社刊)や「定本靑猫」(昭和一一(一九三六)年版畫莊刊)などにも所収されたが、多くの句読点の除去や「庭鳥」を「鷄」とする等の他は殆ど大きな詩句の改変はない。但し、「靑猫」再録の際に、最終連終わりから二行目の「大風(おほかぜ)」を「大風(たいふう)」のルビに変えている。]

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