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2014/03/25

紙の上   山之口貘

 紙の上

 

戰爭が起きあがると

飛び立つ鳥のやうに

日の丸の翅をおしひろげそこからみんな飛び立つた

 

一匹の詩人が紙の上にゐて

群れ飛ぶ日の丸を見あげては

だだ

だだ と叫んでゐる

發育不全の短い足 へこんだ腹 持ちあがらないでつかい頭

さえづる兵器の群れをながめては

だだ

だだ と叫んでゐる

だだ

だだ と叫んでゐるが

いつになつたら「戰爭」が言へるのか

不便な肉體

どもる思想

まるで砂漠にゐるようだ

インクに渇いたのどをかきむしり熱砂の上にすねかへる

その一匹の大きな舌足らず

だだ

だだ と叫んでは

飛び立つ兵器をうちながめ

群れ飛ぶ日の丸を見あげては

だだ

だだ と叫んでゐる。

 

[やぶちゃん注:初出は昭和一四(一九三九)年六月号『改造』。二年後の一九四一年十二月二十日山雅房(本詩集の刊行元)発行の『現代詩研究第一輯 戦争と詩』にも再掲されている。「定本 山之口貘詩集」では最後の句点が除去されてある。

 全共闘世代の「詩人」と自称しておられる黒川純氏のブログ「懐かしい未来」の『検閲逃れた反戦の叫び 山之口貘の傑作詩「紙の上」』が、非常に分かり易く本詩の持つ反戦性について語っておられる。必読である。【2014年月日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加・改稿した。】

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