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2014/05/11

私は歌はねばならない唄を   山之口貘

 私は歌はねばならない唄を

 

私(わし)は歌はねばならない唄をうたつてゐる

古沼からは淡い綠(みどり)色の光の音がきこえ

樹々の葉は彼等の金色の幽かな聲でうたひ

西(いり)の空は眞紅(まつか)な口紅を染めてうたひ

黄昏に

雲のうへで惡魔(たれ)かゞこそこそ笑ひ

水底からつめたい女の顏があらはれ

樹々の葉裏には美女の玉の小指が吊るされ

 

あゝ私(わし)がひそかに彼等を見るとき 悪魔(たれ)かゞ私(わし)の胸に耐え切れない寂しさをながしてゐる

だけどあゝ私(わし)は歌はねばならない唄をうたひ

私(わし)は是非訪ねゝばならぬ――私(わし)は私(わし)の歌ふてゐる唄を立ち聞きしたたつた一人の聽人(きゝて)を。

 

[やぶちゃん注:大正七(一九一八)年~大正一〇(一九二一)年の間(バクさん十五歳から十八歳)に創作された作品。「惡魔(たれ)」というのは沖縄方言ではあるまい。不定の一人称の「誰(たれ)」で、それがまた絶妙の効果を生み出している。「誰そ彼」――「黄昏」時――逢魔が時に逢う相手は、往々にして禍々しい「惡魔」である――私はこの一篇を激しく偏愛する。
【二〇一四年五月二十四日追記】思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と校合した。]

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