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2014/06/17

萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(20) 冬の來る頃(全) 

 冬の來る頃

 

涙して火鉢の炭をふくことも

若き我れには痛ましきかな

 

うなだれて街を歩けばおまはりも

鬚をひねりて我を見送る

 

しもやけのうすら痒きがうら悲し

母に無心の手紙かくとき

 

人混みの中を歩くも歸りきて

寢床に入るもすべて悲しき

 

何物か我まつ如く思はれて

追はるゝ如く町をさまよふ

 

かなしみて家にかへればありしごと

我を迎ふるにくき小机

 

[やぶちゃん注:「迎ふる」の「迎」の字は原本では「迥」の「冋」を「向」にしたもの。読めないので、校訂本文を採用した。]

 

妻もたぬ身には慰さむ人もなし

柱によりて忍び泣きする

 

[やぶちゃん注:「慰さむ」はママ。]

 

行きづりし中學生の四五人が

われを見返り物言ひてすぐ

 

[やぶちゃん注:「行きづり」はママ。]

 

街行けばあれは酒飮み度しがたき

のらくらものと行人の見る

 

おまはりを相手にくだを卷きて居る

醉ひどれの兵士が懷かしき哉

 

酒を呑む癖がつきてより錢もたぬ

日には臥床をひき被ぎ寢る

 

學校を休みしほどの樂しさと

またそこばくの投げやりとあり

 

何ごとか一人ごとして歩るきしを

途行く人の怪しみて見る

 

[やぶちゃん注:「歩るきしを」はママ。]

 

あることが可笑しくなりて何うしても

笑ひがやまず電車の中にて

 

思ひ出せぬ顏をやうやく思ひ出しぬ

それがつまらぬ人なりし悲しさ

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