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2014/10/02

生物學講話 丘淺次郎 第十一章 雌雄の別 五 極端な例 (3) ボネリア/結語

Bonellia

[ボネリヤ]

[やぶちゃん注:本図は国立国会図書館蔵の原本(同図書館「近代デジタルライブラリー」内)の画像からトリミングし、補正をしたものである。底本の図より細部が観察出来るのでこちらを採用した。]

 以上の例では、雄は雌に比べて驚くべき程小さいには違ないが、それでも雌の身體の外面に附著してゐるから、その同じ種類の雄なることが分かり易い。しかるに或る動物では、微細な雄が雌に眞に寄生蟲として一生涯雌の體内に隱れて居る。海岸の泥砂の中には、「ゐむし」〔ゆむし〕というて、鯛などを釣る餌として用ゐられる蟲が居るが、これによく似た種類で、學名を「ボネリヤ」と呼ぶ奇態な蟲がある。日本の「ゐむし」〔ゆむし〕はまるで甘藷のやうな形で、口より前に突出した處が殆どなく、外國の「ゐむし」〔ゆむし〕には口より前に匙の如き形の吻と名づける小さな部分があるが、「ボネリヤ」ではこの吻が頗る長く、且先端が二つに分かれて恰も丁の字の如くに開いて居る。すべてこれらの蟲は泥や砂の中に隱れて居て、水中に漂ふ微細な藻類などを食物とするが、その際吻を用ゐてこれを集める。そして吻の長い種類では、體だけを隱し吻を水中に延し、その表面にある顯微鏡的の纖毛を動かして、餌を次第に口の方へ送るのである。さて「ボネリヤ」は幾つ捕へても必ず雌ばかりで雄は一匹もないから、昔はこの蟲には實際雄がないものと思うて居たが、段々詳しく調べて見て、終に雄が見附けられた。しかもその雄は如何なるものかといふに、雌とは比較にならぬ程に小さなもので、且形も全くこれと違ひ、恰も「ヂストマ」の如き扁平な形をして、雌の子宮の入口に寄生して居る。雌の身體は長さが十五糎もあるが、雄の方は僅に三粍の二分の一にも足らぬから、雄が雌の體内に寄生して居る有樣は恰も五尺の人間に五分の蟲が寄生しているのと同じ割合により當らぬ。雄は體の構造も簡單で、腸も胃もなく、體内には殆ど睾丸が有るに過ぎぬ。

[やぶちゃん注:「ゐむし」ユムシ動物門ユムシ目ユムシ科ユムシ Urechis unicinctus 。漢字では「螠虫」(ゆむし)と表記する。参照したウィキの「ユムシ動物によれば、別名に「コウジ」・「ルッツ」(北海道)・「イイ」(和歌山)・「イイマラ」(九州)などとも呼ばれる(「マラ」は形状が男根に酷似することに由来すると考えてよいであろう)。『体部は細長い円筒形で、前端に吻をもち、その吻の付け根に口がある。付属肢も疣足もないが、わずかに剛毛がある』。『干潟などの浅い海域の砂地に棲息し、縦穴を掘ってその中に生息し、干潮時には巣穴に隠れる』。『韓国では、砂地の海底で鈎状の漁具を曳いて採り、「ケブル(개불)」と称して沿岸地域で刺身のように生食したり、串焼き、ホイル焼きなどにされ、割と一般的に食される。中国の大連市や青島市などでは「ハイチャン(海腸、拼音: hǎicháng)」と称して、ニラなどと共に炒め物にしたり、茹でて和え物にして食べる。日本でも北海道の一部などで、刺身、酢味噌和え、煮物、干物など食用にされるが、いわゆる珍味の一種であり、一般的な食材ではない』。『グリシンやアラニンなどのアミノ酸を多く含むため、甘味があり、コリコリした食感で、ミル貝に似た味がする』。『クロダイやマダイ釣りの釣り餌としても使われる』。私はさる本邦の店で特に予約注文をして取り寄せて貰い、刺身を食してみたが、まことに美味であった。すこぶる附きでお薦めの食材である。また、数十年前、金沢八景の海の海岸で潮干狩りをした際、岸から程遠からぬ場所で数十センチメートルの本種を巣ごと現認、何か、とても嬉しかったことを覚えている。以下に、廣川書店平成六(一九九四)年刊の永井彰監訳 Thomas M.NiesenThe MARINE BIOLOGY COLORING BOOK”「カラースケッチ 海洋生物学」の「海産環形動物 ユムシ類」のレジュメと私が彩色した図を掲げる。……こんなカラーリングを三十七歳の高校国語教師がやっているさまを想像して見給え……私が如何にとんでもない海産無脊椎動物フリークであったかがお分かり戴けるであろう……

Yumusi1

Yumusi2

「ボネリヤ」ユムシ動物門キタユムシ目ボネリムシ科ボネリムシ属 Bonellia グーグル画像検索「Bonelliaここで動画が見られる(恐らくは本邦産のボネリムシ Bonellia minor であろう。これを見ると実は非常に運動性能が高いことが分かる。最後の方をご覧あれ! 人の指が映ってこの個体のサイズは結構小さいことが分かる。個体長は以下を参照、長いものもある)。学術的な日本語の本格的なテクスト記載はネット上では見当たらない。本邦の研究者は少ない模様である)。ウィキの「ユムシ動物によると、現在、ユムシ類は世界で三十七属百四十五種ほどが知られ、これをキタユムシ目 Echiuroinea /キタユムシ科 Echiuridae /ボネリムシ科 Bonellidae ・ユムシ目 Xenopneusta /ユムシ科 Urechiidae ・サナダユムシ目 Heteromyota /サナダユムシ科 Ikedaidae の三目四科に分けるのが普通であるが、特にこのボネリムシ科 Bonellidaeに属種が多く、深海からはさらに多くの新種が発見されると想像されているとある。以下、「日本動物大百科第七巻 無脊椎動物」の「ユムシ動物」を主参考として叙述する。本邦産は七属八種(世界では二十六属で凡そ五十五種を数える)。潮間帯から一万メートルの深海底まで分布する(前に出たように実は多くの種は深海性であることが分かる)。♀の胴長は一センチメートルから二十センチメートルを超すものまであり、吻部もごく短いものから、実に一メートルも伸ばすことが可能な種もある。♂は吻を持たず、胴体は楕円形を成し、長さも数ミリメートル程しかなく(但し、稀に二十ミリメートルに成長する種もある)、現在確認されている種の中には未だ♂が見つからず、形状が不明なものも少なくない。胴体の体壁の筋肉は外側から環筋→縦筋→斜筋の順に並んでおり、腸の最後部はユムシ科のそれのように壁が薄くなることはない。付図でも顕著な通り、♀の吻の先端が有意な二叉に分かれている種が多い。本邦産の一般的な種としては南西諸島の珊瑚礁域の死滅した珊瑚の穴の中に棲むボネリムシ Bonellia minor が知られる(グーグル画像検索「Bonellia minor)。Bonellia minor は夜行性らしく、特に夜間に吻を長く伸ばすことが知られており、♀の胴長は二センチメートルで吻長は四センチメートルに及ぶ。♂の胴長は一ミリメートルしかない。体色は美しい深緑を呈する。外性的二形はユムシ動物の中でもこのボネリムシ属に特異的なもので(他のユムシ類では通常は雌雄異体で体外受精を成して雌雄ともに浮遊幼生に成長する)、丘先生が述べておられるように、♂は非常に小さく退化的形状を成し、精巣以外の内臓器官は殆んど発達しない。多くの場合、♂は♀の腎管(nephridium:生物学にお詳しい方には言わずもがなであるが、無脊椎動物の真体腔動物に見られる排出器官で、通常は同時に卵や精子を運ぶ生殖輸管の機能も持つ。丘先生は「子宮」と言っておられるが、これは一般読者に分かり易く言ったものである。先に出した本邦産のボネリムシ Bonellia minor では腎管は一本のみである。)の中に寄生している。時には一匹の♀に多数の♂が寄生しているケースも見られる。生殖期になると内腎口(「腎口」nephrostoma:狭義には腎管の体内側の末端を指す。屈曲して体側面に繋がっていてそこで口を開いている。腎口や導管内部には繊毛があって内容物を体外に送り出す働きを持っている。)を通って腎管に収容された卵が外腎口のから外へ出る直前に精子を浴びせる。幼生は浮遊せず、海底を這い回り、その途中で♀の体に接触出来た個体のみが♂となり、一~二週間で♂として成熟し、♀に出逢わなかった個体は凡そ二年ほどもかけて総成熟した♀となる。ヨーロッパ産のボネリムシ科の一種である Bonellia viridis 英語版ウィキBonellia viridis)では、体壁の緑色の色素から抽出されたボネリン(英語版ウィキには“Bonellin as a biocide”という項があり、非常に高い毒性を有する物質で抗生物質として研究対象となっているとある)が雄化物質であることが確かめられているものの、最新の研究では幼生の二割弱については性決定とは無関係であり、先天的なものともいわれる。

「五尺」約一・五二メートル。

「五分」約一・五センチメートル。]

 

 以上述べた通り、雌雄の別には種々の程度があつて、全く別のないものから、交接器だけの相違するもの、殆ど別種かと思はれるもの、雄が雌の體内に寄生するものまでの間には、實に無數の階段がある。而して雌雄の差の程度に相違があれば、隨つて受精の方法や雌雄の互の關係も一々異ならざるを得ぬが、いづれの場合にも種族の維持に差支を生ぜぬといふ點だけは皆相均しい。言を換へれば、雌雄の差別に種々の程度のあるのも、畢竟同一の目的を遂げるための異なつた手段といふに過ぎぬ。「うに」の雌雄が各々勝手に生殖細胞を吹き出して居るのも、犬や猫の牡が熱心に牝を追ひ歩くのも、「ボネリヤ」の雄が雌の腹の内に生涯寄生して居るのも、結局は受精が目的である。いづれの方法にも一得一失あるを免れぬが、得失を差引勘定して、種族維持の見込みが十分に立てばいづれの方法でも宜しいから、各種の動物はそれぞれの住處・習性に應じた方法を採つて居るのである。人間などは、直接に生殖に關係する體部の外は男女殆ど同形であり、且身體を相觸れて體内受精を行ふから、社會の制度でも道德・法律でも、悉くこれに準じて出來て居るが、假に受精の方法、雌雄の相違の程度などの全く違ふ世の中を想像したならば如何であらうか。例へば「うに」の如くに、兩親が相觸れぬとしたら如何。もしくは「寄生みぢんこ」の如くに男が女の附屬物の如くであつたら如何。かゝる想像は無益な愚なことと考へられるかも知らぬが、およそ物は種々の相異なつた場合を比較して見て、初めて眞相のわかることも多いから、或はこれによつて却つて人間の社會的生活の根柢を知ることが出來るかも知れぬ。

[やぶちゃん注:コーダが面白さ、爆発!]

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