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2014/11/08

パウルーシャの世界の終りの予兆の日の出来事

パウルーシャは語る。世界の終りの日――日食の日のエピソード(附迷信博士イリューシャの語る怪人トリシカのこと)。
 
 「でも俺(おん)らばかりぢやねえぞ。俺(おん)らの旦那樣なんぞ、前から、今度、前兆(めえじらせ)あるぞつて、俺(おん)らに話してたくせして、暗くなつて來たら、自分でとてもたまげつちやつたさうだ。それから女中(をんな)部屋ぢや、暗くなつて來たら、料理番の婆さんが、おめえ、直ぐに壺をみんな持ち出して、火搔きで毀しちやつて、竈ん中へ打つ込んぢやつたんだ。『もう世の最後(をはり)の日が來たんだから、今さら物を食ふ人なんかないぞ』つてな。それで、おつゆがそこらぢゆう一杯こぼれたんだ。それから村ぢや、こんな噂があつたつけ。白い狼が世界中を駈け廻つて人間を食つてしまふだの、生餌(いきゑ)をとつてたべる鳥が飛んで來るだの、やれ、恐しいトリーシカの姿が見えるだらうのつて」
 「そのトリーシカつてのは、どんなの?」とコスチャが訊ねた。
 「お前、知らねえのか?」とイリューシャは熱をもつて引き取つた、「お前(めえ)、トリーシカを知んねなんて、お前(めえ)はどこの者(もん)だ? お前の村にや世間知らずが揃つてんだな、井戸ん中の蛙(かへる)がな! トリーシカつちふのは、いつかは世の中へ出て來るおつそろしい人間でな、とてもおつそろしい人間で、出て來ても、捉めえることもどうすることも出來ねえんだぞ。みんなが、たとへば百姓が、そいつをつかめべと思(も)つて、棒もつて追つかけて取り卷いたつて、そいつは百姓の眼をくらまし、――すつかり眼をくらましちまふもんだから、みんなが同志うちをやるやうなことになるんだ。牢屋へでもぶち込んでみろ、さうすると柄杓へ水を入れて來て、飮ましてくれろつていふ、柄杓を持つて行くと、柄杓ん中へもぐり込んで、ふいつと消(け)えちやうんだ。それから鎖でつないでおくと、ぽんとそいつが手を叩く。するともう鎖はばらばらに解けちまふ。まあ、こんな風にして、そのトリーシカは村だの町だのを歩きまはるんだ。このトリーシカは惡智慧がある奴だから、たくさんの基督信者(しんじや)を迷はすんだ……、それでもどうすることも出來ねえんだよ……、本當にあれは惡智慧のある、おつそろしい奴だからな」
 「まあ、さうだ」パーウェルは持ち前のゆつたりした聲で話しつづける、「そんな奴だよ。つまり、こいつを俺(おん)らが方ぢや待つてたのよ。年寄り達は天の前兆(めえじらせ)が始まると、すぐにトリーシカがやつて來るぞつて言ひ出したんだ。そのうちに、前兆(めえじらせ)が始まつたのよ。村中の者はみんな、往還だの畑だのへ散らばつて、どんなことになるかと待つてたんだ。おら方は、みんなも知つてる通り、見晴らしのいい、廣々としたところだ。みんなが見てると急に大村の方から、妙な男が坂道を下りて來るんだ。とてもおつそろしい頭をしてるんだ、……だから、みんなが『おや、トリーシカが來るぞ。おうい、トリーシカが來るぞ!』つて呶鳴つて、四方八方へ逃げ出したもんだ。名主(なぬし)は濠ん中へ這ひこむ、奧樣は門の下の嵌め板にはまつて、命がけで呶鳴る。あんまり怒鳴つて飼ひ犬をびつくりさしたもんだから、犬は鎖をちぎつて、籬(うね)を越えて森ん中へ逃げこんだ。それからクジカの親父のドロフェーヰッチは燕麥(からすむぎ)の畑ん中へ駈け込んで、ちよこんと尻餠をついたまま、鶉みたいな聲を出して、『いくら人殺しの惡黨でも、小鳥ぐらゐは見逃しなさろ』と喚くのだ。こんな風に、みんなが大騷ぎをしたんだ……、ところが、その男は村の桶屋のワヴィラだつたのさ。新しい木彫(きぼり)の壺を買つて、その空(から)の壺を頭にかぶつて來たんだよ」(「猟人日記」「ビェージンの草原」中山省三郎訳より)

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