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2014/12/09

日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十六章 長崎と鹿児島とへ 愛する生き物との再会

M553_554

図―553[やぶちゃん注:上図。]

図―554[やぶちゃん注:下図。]

 

 図553は我々の宿直から見た高橋の、ざっとした写生である。家々は川に臨み、反対側には竹叢がある。図554は高橋のある町通で、狭くて泥深い。我々は舟に乗って、川を下り、海に出たが、満潮だったので、漁夫の小家に近い貝殻の堆墳の間から採集をし、完全な状態にある美事な標本を多く得た。塵芥堆(ごみすてば)の一つの内に、大形な緑色サミセンガイの貝殻を大多数発見した時、私は如何に驚いたであろう! この動物は食料に使用されたので、私は狂人のように走り廻りながら、どこで此等の貝を掘り出したのか、話してくれることの出来る人をさがし求めた。間もなく私は、それ等は干潮の時掘り出されるので、普通な食品であることを知った。ここにいるこの動物こそ、こればかりでも、最初私を日本へ導く原因をなしたのである。一瞬間、私はすべてを放擲して、私の全注意心をこの古代の虫に集中しようかと思った。だが、そんなことは出来ぬ。私の薩摩の仕事が終ったら、もう一度ここへ立寄ることにしよう。

[やぶちゃん注:「大形な緑色サミセンガイ」原文は“the large green Lingula anatina”である。ここで注意したいのは、モースがローマン体で“the large green”と書き、イタリック斜体で“ Lingula anatina”と記している点である。これは厳密に訳すなら「大型の緑色をしたミドリシャミセンガイ」となる。何故、そこに拘るかというと、読者の中には、「大型な」に着目されてオオシャミセンガイとする方もいるかも知れないと考えたからである。本邦での腕足動物門舌殻亜門舌殻綱舌殻目シャミセンガイ科 Lingulidae のシャミセンガイ類の代表種はミドリシャミセンガイ Lingula anatina であるが、有明海には本邦では有明海固有種であるオオシャミセンガイ Lingula adamsi も棲息しているからである。しかしここでモースは原文で、はっきりと“ Lingula anatina”とミドリシャミセンガイの種名を記している点、更にわざわざ“the large green”と附している点から、それはあり得ないのである。オオシャミセンガイ Lingula adamsi は確かに和名通り、ミドリシャミセンガイに比して「大型」ではあるものの、殻の色がミドリシャミセンガイ Lingula anatina が和名通りに褐色を帯びた明らかな緑色を呈しているのに対し、オオシャミセンガイは赤褐色で、明らかに区別でき、しかもミドリシャミセンガイに比して外套縁の剛毛が長く目立っていて、しかもそれが銀白色を呈するからミドリシャミセンガイと誤認することはない。これは佐賀有明海漁業協同組合公式サイトのミドリシャミセンガイ(リングラ科)にも、『同じ腕足類にオオシャミセンガイがいるが、これは日本では有明海だけにしかすんで』おらず、水深十メートル程度の砂泥質の海域に生息し、『ミドリシャミセンガイより一回り大きく殻の色が茶色く、光沢がないことから簡単に区別できる。食用とはしない』とあることからも素人でも識別が容易であることが分かる。しかもモースはシャミセンガイの専門家である。これがオオシャミセンガイの誤認である可能性は私は百%ないと断言出来る。なお、オオシャミセンガイは少なくとも現在では有明海でも西岸に限定されているらしく、生息数も激減しているようである(内海富士夫「原色海岸動物図鑑」(保育社昭和五一(一九七六)年刊改訂三版に拠る)。

「普通な食品である」ウィキの「シャミセンガイ」によれば、『日本における代表種、ミドリシャミセンガイ(L. anatina)は岡山県児島湾や有明海で食用とされる。有明海ではメカジャ(女冠者)と呼ばれ、福岡県柳川市や佐賀県佐賀市周辺でよく食用にされる。殻及び触手冠の内部の筋肉や内臓を食べる。味は二枚貝よりも濃厚で、甲殻類にも似た独特の旨みがある』。『日本での料理としては、味噌汁、塩茹で、煮付けなどにすることが多い』。『中国では広東省湛江市、広西チワン族自治区北海市などで主に「海豆芽」(ハイドウヤー)などと称して炒め物にして食べられており、養殖の研究も行われている』とある。孰れにせよ、モースはここ有明海で馴染みのシャミセンガイに出逢い狂喜乱舞しただけではなく、それを土地の人々が食用にしていることにも驚愕しているのである。モースを日本誘った因縁の生物と、意外な形で再会し得たモースの喜びは察するに余りある。私は短いこのエピソードの中に、何か不思議な天啓(キリスト教嫌いのモースは嫌がる語であるが)めいたものを感ずるのである。因みに、私はずっと食べたい食べたいと思いつつ、未だシャミセンガイを食したことがない。ああ! 食べたいよぅ!――]

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