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« 独白 | トップページ | 生物學講話 丘淺次郎 第十二章 戀愛(8) 三 色と香(Ⅳ) まとめ »

2014/12/12

生物學講話 丘淺次郎 第十二章 戀愛(7) 三 色と香(Ⅲ) 肛門腺及び蛾類性フェロモン

 香によつて雌雄相誘ふ例は獸類には頗る多い。牡犬が以下に牝犬の香に引き寄せられて夢中になるかは、常に人の知る通りであるが、大概の獸は犬と同じく、牝の香に誘はれる。「いたち」の類を罠(わな)で捕へるに當つて、牝の香をつけておくと、幾疋も續いて掛る。また雄のほうが強い香を發して牝に情を起させるもので、最も有名なのは「麝香鹿」であるが、その香ふ物質は香料として人間にも用ゐられる。「あざらし」[やぶちゃん注:この「あざらし」は「海狸(ビーバー)」の誤り。]もこれに似た香を發するので知られて居るが、なほその外に「麝香猫」「麝香鼠」など皆香から名前が附けられたのである。昆蟲類で香をもつて異性を誘ふものは蝶蛾の類に多い。蝶は晝間飛び廻るから、花の邊で雄と雌とが出遇ふ機會が多いが、蛾は夜暗い時に飛ぶから、香によつて互にその所在を知ることが必要である。蠶なども雌の生殖門の處に小さな香を出す腺があり、雄はこの香を慕うて集まつて來る。或る人が試にこの部だけを切り離して置いた所が、側へ寄つて來た雄は、雌の體の方には少しも構わず、切り離されたこの體部と交尾しようと試みた。昆蟲學者は蛾のこの性を利用し、雌を囮(おとり)として、往々珍しい種類の雄を一夜に數尾も捕へることがある。たゞ探して歩いては滅多に見附からぬ雄が、室内に飼うてある雌の周圍に百疋以上も集まつて來ることがあるが、隨分遠方から嗅ぎ附けて來るものに違ない。甲蟲類でも、黄金蟲などは觸角に嗅感器がよく發達して居るから、香によつて雌の居處を知る力が極めて鋭い。かゝる香は餘程長く殘るものと見えて、一年も前に雌の蛾を入れたことのある空箱へ、雄が寄つて來ることさえ往々ある。

[やぶちゃん注:「麝香鹿」哺乳綱鯨偶蹄目反芻亜目真反芻亜目ジャコウジカ科ジャコウジカ亜科ジャコウジカ属 Moschusの総称。ウィキの「ジャコウジカ」によれば、『ジャコウジカ科には十数属が含まれるが、現世するのはジャコウジカ属のみで』、『シカよりも原始的と考えられたが、実際にはそのような系統位置にはない』とある。『主に南アジア山岳の森または潅木地帯に生息』し、『小さくてがっしりとした体格のシカに似ており、後肢は前肢よりも長い』。全長八〇~一〇〇、肩高五〇~七〇センチメートル。体重七~一七キログラム。『荒地を登るのに適した脚を有す。シカ科のキバノロの様に角を持たないが、雄は上の犬歯が大きく発達して、サーベル状の牙となる』。『麝香腺は成獣の雄にしかみられない。麝香腺は陰部と臍の間にある嚢で、雌を引き付けるために麝香を分泌する』。『草食性で、(通常人里離れた)丘の多い森林環境に生息する。シカと同様に主に葉、花および草を食べ、更に苔や地衣類も食べる。単独性の動物であり、縄張りがはっきりとしており、尾腺で匂い付けを行う。臆病な性格が多く、夜行性または薄明活動性』。『発情期になると雄は縄張りを出て、牙を武器にして雌争いをする』。『現在、ワシントン条約によって国際取引が禁止されているが、麝香採取のための密猟は絶えない』。中国では一九五八年より『飼育研究が開始され、四川省都江堰市のほか数か所で飼育されている』とある。続けて、ウィキの「麝香」も引く。麝香『は雄のジャコウジカの腹部にある香嚢(ジャコウ腺)から得られる分泌物を乾燥した香料、生薬の一種で』『ムスク(musk)とも呼ばれる』。『主な用途は香料と薬の原料としてであった。 麝香の産地であるインドや中国では有史以前から薫香や香油、薬などに用いられていたと考えられて』おり、『アラビアでもクルアーンにすでに記載があることからそれ以前に伝来していたと考えられる。 ヨーロッパにも』六世紀には知として知られ、十二世紀にはアラビアから実物が伝来したという記録が残る。『甘く粉っぽい香りを持ち、香水の香りを長く持続させる効果があるため、香水の素材として極めて重要であった。 また、興奮作用や強心作用、男性ホルモン様作用といった薬理作用を持つとされ、六神丸、奇応丸、宇津救命丸、救心などの日本の伝統薬・家庭薬にも使用されているが、日本においても中国においても漢方の煎じ薬の原料として用いられることはない』。『中医学では生薬として、専ら天然の麝香が使用されるが、輸出用、または安価な生薬として合成品が使われることもある』。『麝香はかつては雄のジャコウジカを殺してその腹部の香嚢を切り取って乾燥して得ていた。香嚢の内部にはアンモニア様の強い不快臭を持つ赤いゼリー状の麝香が入っており、一つの香嚢からは』凡そ三十グラム程得られる。『これを乾燥するとアンモニア様の臭いが薄れて暗褐色の顆粒状となり、薬としてはこれをそのまま、香水などにはこれをエタノールに溶解させて不溶物を濾過で除いたチンキとして使用していた。 ロシア、チベット、ネパール、インド、中国などが主要な産地であるが、特にチベット、ネパール、モンゴル産のものが品質が良いとされていた。 これらの最高級品はトンキンから輸出されていたため、トンキン・ムスクがムスクの最上級品を指す語として残っている』。麝香の採取のために『ジャコウジカは絶滅の危機に瀕し、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)によりジャコウの商業目的の国際取引は原則として禁止された』。『現在では中国においてジャコウジカの飼育と飼育したジャコウジカを殺すことなく継続的に麝香を採取すること』『が行なわれるようになっているが、商業的な需要を満たすには遠く及ばない。六神丸、奇応丸、宇津救命丸などは条約発効前のストックを用いているという』。『そのため、香料用途としては合成香料である合成ムスクが用いられるのが普通であり、麝香の使用は現在ではほとんどない』。『麝香の甘く粉っぽい香気成分の主成分』はムスコンと呼ばれる物質でこれを〇・三~二・五%程度含有し、ほかに微量成分としてムスコピリジン・男性ホルモン関連物質であるアンドロステロンやエピアンドロステロンなどの化合物を含むが、『麝香の大部分はタンパク質等である。麝香のうちの』約十%程度が『有機溶媒に可溶な成分で、その大部分はコレステロールなどの脂肪酸エステル、すなわち動物性油脂である』。「語源」の項。『麝香の麝の字は鹿と射を組み合わせたものであり、中国明代の『本草綱目』によると、射は麝香の香りが極めて遠方まで広がる拡散性を持つことを表しているとされる』。『ジャコウジカは一頭ごとに別々の縄張りを作って生活しており、繁殖の時期だけつがいを作る。そのため麝香は雄が遠くにいる雌に自分の位置を知らせるために産生しているのではないかと考えられており、性フェロモンの一種ではないかとの説がある一方』、『分泌量は季節に関係ないとの説もある』。『一方、英語のムスクはサンスクリット語の睾丸を意味する語に由来するとされる。 これは麝香の香嚢の外観が睾丸を思わせたためと思われるが、実際には香嚢は包皮腺の変化したものであり睾丸ではない』。因みに、『ジャコウジカから得られる麝香以外にも、麝香様の香りを持つもの、それを産生する生物に麝香あるいはムスクの名を冠することがある。 霊猫香(シベット)を産生するジャコウネコやジャコウネズミ、ムスクローズやムスクシード(アンブレットシード)、ジャコウアゲハなどが挙げられ』、『また、単に良い強い香りを持つものにも同様に麝香あるいはムスクの名を冠することがある。マスクメロンやタチジャコウソウ(立麝香草、タイムのこと)などがこの例に当たる』とある。

「麝香猫」哺乳綱食肉(ネコ)目ジャコウネコ科 Viverridae に属するネコ類。狭義には、ジャコウネコ亜科に属するところの、オビリンサン属オビリンサン Prionodon linsang・ジェネット属 Genetta のジェネット類・ジャワジャコウネコ Malayan civet などのを指す。ウィキの「ジャコウネコ科」(「科」であることに注意)によれば、アフリカ大陸・ユーラシア大陸・インドネシア・スリランカ・フィリピン・マダガスカル・日本(ジャコウネコ科パームシベット亜科ハクビシン Paguma larvata 一種。但し、外来種と推定されている)に分布し、多くの種が肛門周辺に臭腺(肛門腺)を持つとある。参考までに、検索で知ったジャコウネコ(ジャワジャコウネコ Malayan civet )の糞から採取されて飲用に供されるという未消化のコーヒー豆「コピ・ルアク」(インドネシア語 Kopi Luwak)のことを記しておく(ウィキの「コピ・ルアク」に拠る)。『「コピ」はコーヒーを指すインドネシア語、「ルアク」はマレージャコウネコ』(上記ジャワジャコウネコと同一)『の現地での呼び名で、『独特の香りを持つが、産出量が少なく、高価』(販売店によって差があるが、あるネット記事には生豆が二百グラム七千円とあり、「ザ・リッツカールトン東京」のラウンジで供されるものは一杯五千円とある)。『コピ・ルアクはインドネシアの島々(スマトラ島やジャワ島、スラウェシ島)で作られている。このほか、フィリピンや南インドでも採取され、フィリピン産のものは、「アラミド・コーヒー」(Alamid coffee、現地の言葉で「カペ・アラミド」Kape Alamid)と呼ばれ、ルアック・コーヒーよりも更に高値で取り引きされている』(インド産はインドジャコウネコ Viverra zibetha か)。『アメリカ合衆国では、「ジャコウネココーヒー」(英語:Civet coffee)や「イタチコーヒー」(英語:Weasel coffee)との俗称があり、日本で「イタチコーヒー」と呼ぶのも後者に倣ったものと思われる。しかし、ジャコウネコ科のジャコウネコとイタチ科のイタチは異なる動物なので、イタチコーヒーという俗称は誤解を招きやすい』。『かつて、ベトナムでは同種のジャコウネコによるものが「タヌキコーヒー」(英語ではやはり Weasel coffee)と呼ばれて市場に出ていたが、現在は流通経路に乗る機会が乏しくなり、人為的に豆を発酵させたものが「タヌキコーヒー」と称して販売されている』。『インドネシアのコーヒー農園ではロブスタ種のコーヒーノキが栽培されており、その熟した果実は、しばしば野生のマレージャコウネコに餌として狙われている。しかし、果肉は栄養源となるが、種子にあたるコーヒー豆は消化されずにそのまま排泄されるので、現地の農民はその糞を探して、中からコーヒー豆を取り出し、きれいに洗浄し、よく乾燥させた後、高温で焙煎する。ちなみにフィリピンではさまざまな種類のコーヒーノキが栽培されており、カペ・アラミドの場合は結果的に数種類のコーヒー豆が自然にブレンドされると伝えられる』。『コピ・ルアクやカペ・アラミドは、独特の複雑な香味を持つと言われており、煎り過ぎて香りが飛ばないように、浅煎りで飲むのがよいとされる。一説によると、ジャコウネコ腸内の消化酵素の働きや腸内細菌による発酵によって、コーヒーに独特の香味が加わるという』。『世界最大の消費地は日本や台湾、韓国などのアジア諸国で』、本邦では数社が『高級コーヒー豆として頒布を取り扱っている。コピ・ルアクやカペ・アラミドの高価格は、稀少価値がきわめて高いことが最大の理由であり、必ずしもコーヒー豆としての品質や味が最も優れているからというわけではない。実際のところコピ・ルアクやカペ・アラミドの味の評価は、好き嫌いがはっきりと分かれやすい。豊かな香りと味のこくを高く評価する向きもある反面、「ウンチコーヒー」("poo coffee")と茶化す向きもある』とある。コーヒーにさしたる志向性を持たない私は未だ飲んだことがないが、今度、試してみよう。なお、同ウィキによれば、他にアフリカでモンキー・コーヒーなるものがあるとされ、『また、排泄物ではないが、サルが関与したコーヒーが台湾にある。台湾の高地で栽培されるコーヒーの木の豆を野生のタイワンザルが食べ、種子のみを吐き出したものを集めて、コーヒーとしたものである。希少価値があるため、極めて高額で取引される』とあり、さらに『タイではゾウにコーヒー豆を食べさせた糞より集めたコーヒー豆で作るブラック・アイボリー(黒い象牙)というものがあり、コピ・ルアクより高額に取引される』とある。私としては象さんコーヒーの方がいいな!

「麝香鼠」哺乳綱トガリネズミ目トガリネズミ科ジャコウネズミ Suncus murinus Linnaeus, 1766(本邦産を亜種リュウキュウジャコウネズミ Suncus murinus temmincki Abe, 1997 とする説がある)ウィキの「ジャコウネズミ」より引用する。主棲息地はサバンナや森林・農耕地であるが、人里にも生息する。『東南アジア原産だが、アフリカ東部やミクロネシア等にも人為的に移入している。日本では長崎県、鹿児島県及び南西諸島に分布するが、長崎県及び鹿児島県の個体群は帰化種、南西諸島の個体群は自然分布とされているがはっきりとしていない』。体長十二~十六、尾長六~八センチメートル。体重♂四五~八〇、♀三〇~五〇グラムで、『メスよりもオスの方が大型になる。腹側や体側に匂いを出す分泌腺(ジャコウ腺)を持つことからこう呼ばれる。吻端は尖る。尾は太短く、まだらに毛が生え、可動域は狭い』。『食性は肉食性の強い雑食性で昆虫類、節足動物、ミミズ等を食べるが植物質を摂取することもある。よく動くが、その動作は機敏とは言い難い。繁殖形態は胎生』、一回に三~六匹の幼体を出産する。『子育ての時には幼体は別の幼体や親の尾の基部を咥え、数珠繋ぎになって移動する』(これを「キャラバン行動」と称する。リンク先に剥製画像)。『人間の貨物等に紛れて分布を拡大しており、アフリカ東部やミクロネシアなどにも分布する』。但し、『日本に分布する亜種リュウキュウジャコウネズミの起源は古く、史前帰化動物と考えられている』。『吐く実験動物として利用される。実験動物としてイヌ、ネコなどは嘔吐するが大型であり、ウサギ、ラット、マウスは小型で飼育しやすいが嘔吐しない。ジャコウネズミは小型で、薬物や揺らすことで吐くため嘔吐反射の研究に用いられるようになった。ネズミ類ではないことを強調するためスンクスと呼ばれる。肝硬変の実験のためエタノールを与えて飼育している際、吐いているスンクスを発見し応用されることとなった』。また、『英文学の翻訳で齧歯目のマスクラットをジャコウネズミと翻訳していることが間々あるため、注意を要する』とある。

『「あざらし」[やぶちゃん注:これは「海狸(ビーバー)」の誤り。]』例外的に本文内で注した。実は私の所持する講談社学術文庫版(改題して「生物学的人生観」)ではここが「海狸(かいり)(ビーバー)」となっており(「かいり」はルビ)、これが正しく、以下に記すように、これは哺乳綱齧歯(ネズミ)目ビーバー科ビーバー属 Castor(アメリカビーバーCastor  Canadensis・ヨーロッパビーバー Castor fiber の二種)が持つ臭腺から採られた海狸香(かいりこう)を指していると考えられるからである。少なくともアザラシに肛門腺があり、そこから香料が採れるという話は私は聴いたことがない。但し、これは丘先生の誤りではない。何故なら、本底本に先行する開成館版(大正五(一九一六)年刊行本。国立図書館蔵本近代デジタルライブラリー版の252コマ目を参照されたい)には正しく「海狸」と記されてあるからである。アザラシは「海豹」で、思うにこの底本(東京開成館大正一五(一九二六)年刊行本。同書の先行作と同じ部分の画像に於いては丘先生ではない助手か誰かが主に表記・表現の一部の改稿をしたのではなかったか? その際、読み難い漢字の「海狸」(ビーバー)を書き改めるというコンセプトがあり、これを「海豹」と誤って「あざらし」と読んでしまったのではないか? しかし、とすると、このトンデモ誤記が例えば生物学教室の助手の手になるとは考え難い(考えたくもない)。もしかすると、この底本の改稿は全く生物の知識のない校正者に丸投げされていたものかとも思われてくるのである。しかしとすると逆に、責めがないと思われた作者の丘先生が校了原稿をちゃんと読んでいなかったのじゃないかとも疑われるのである。孰れにせよ、本邦生物学啓蒙書の嚆矢としては、ちょっと看過出来ぬ誤りではある(私は丘先生の揚げ足を取っているのでは決してない。科学書しかも啓蒙書というものはこうした箇所は箇所として正しく批判されねばならないものと心底真面目に心得ているのである)。とはウィキの「海狸香」から引く。『海狸香は、ビーバーの持つ香嚢から得られる香料である。カストリウム (Castoreum)とも呼ばれる』。『ビーバーはオス、メスともに肛門の近くに一対の香嚢を持っており、香嚢の内部には黄褐色の強い臭気を持つクリーム状の分泌物が含まれている。この分泌物を乾燥させて粉末状にしたものが海狸香である。これをアルコールに溶解させてチンクチャーとしたり、有機溶剤で抽出してレジノイド、さらにアルコールで抽出してアブソリュートとして使用する。 ビーバーにはヨーロッパビーバーとアメリカビーバーがいるが、どちらも同じように海狸香が得られる』。『海狸香の使用の歴史は、麝香、霊猫香、龍涎香といった他の動物性香料に比べるとずっと新しい』。十九世紀までは『ビーバーを毛皮を獲るために捕獲する際に、捕獲罠に塗る誘引剤として使用されていた。その後、香水用素材としての有用性が認められ、商業取引されるようになった。レザーノートと呼ばれる皮革様の香りを出すために香水に主に使用されていた。ビーバーが乱獲により著しく生息数が減少したため、一時期絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)により取引が禁止された。そのため合成香料による代替が進められ、高価であることもあって使用量は少なくなっている』。『ヨーロッパビーバー由来の海狸香とアメリカビーバー由来の海狸香では若干香りの質が異なっているとされる。ヨーロッパビーバー由来のものの方が皮革様の香りが強く品質的には高いとされている。アメリカビーバー由来のものは樹脂様の香りがする。この香りの違いは、ビーバーの食性の違いによるものという説がある。毛皮を獲るために捕獲されたビーバーは主にアメリカビーバーのものであったため、市場での流通量はアメリカビーバー由来のものの方が多かった』。『成分はクレオソール、グアイアコールなどのフェノール系化合物が特徴である。また、カストラミンをはじめとするキノリジジン骨格を持つ一群のアルカロイドが含まれている。その他、トリメチルピラジンやテトラヒドロキノキサリンなどのヘテロ芳香族化合物が含まれている』とある。残念なことに私は、この香りを味わったことは未だない。

「昆蟲類で香をもつて異性を誘ふものは蝶蛾の類に多い」蛾での研究によって性フェロモンの研究が飛躍的に進んだと私は認識している。こちらのPDFファイルの「蛾類性フェロモンが初歩から最新の科学解説までコンパクトにフリップ化してある。必見!

「蠶なども雌の生殖門の處に小さな香を出す腺があり、雄はこの香を慕うて集まつて來る」個人サイト(筆者は繊維部門の技術士)「Yagiken Web Site」のカイコ蛾の性フェロモンが非常に分かり易くて必読である! 少し引用させて戴くと、

   《引用開始》

今でも記憶しているが、カイコ蛾のメスが発する物質は、10のマイナス12乗ガンマあれば、2km離れたオスのカイコ蛾を誘い寄せると聞いて、ヘーと思ったものである。40年前の記憶なので数字が正確かどうかは自信がない。このようなメスがオスを誘引する物質を性フェロモンという。

<性フェロモンの正体>

カイコ蛾のメスが持つ性フェロモンの正体はとっくの昔(1959年)に解明され、「ボンビコール」と名付けられたアルコールであることが分かっている。解明したドイツの化学者は、当時はまだ絹の国であった日本からカイコの蛹を輸入してメス蛾を羽化させ、そのお腹から性フェロモンを抽出して正体をつきとめた。抽出に使ったメス蛾の数は50万頭と、途方もない数だったらしい。

絹の国日本の当時の科学者達は、同じ敗戦国であるドイツの化学者のカイコを材料としたこのような大発見に、賞賛とともに残念な気持も持ったということである。

それはさておき、カイコ蛾のオスはそのような性フェロモンを感じる超鋭敏なセンサーを持っている。ところがこのセンサーがどういうものかは、分かっていなかったのである。そのセンサーをずっと追求していた研究者が日本にいた。

<センサーの正体の発見>

20041116日の朝のNHKテレビや新聞は、性フェロモンを感じるオス蛾のセンサー遺伝子が見つかったと報道した。発見者は今度は日本の化学者で、京都大学農学研究科の西岡孝明教授のグループである。ボンビコールの発見から45年間経って、やっとセンサーの正体が解明されたわけである。[やぶちゃん注:ここに20041116日附「日本経済新聞」の「性フェロモン 感じる遺伝子」という見出しの記事画像有り。]

[やぶちゃん注:中略。]

<カイコ蛾が超鋭敏なセンサーをもつ理由>

ここで一つの疑問があった。超微量の性フェロモンと超鋭敏なセンサーの関係が解明されたことは分かったが、カイコ蛾はなぜこんな超鋭敏なセンサーを持つのかという疑問である。何もそこまで鋭敏でなくても種の保存は可能なのではないか。しかしそこには超鋭敏でなければならないちゃんとした理由があった。

西岡教授から頂いた資料には、カイコのメスは蛹から羽化して蛾になった後、約1週間でその一生を終えるとある。その短い期間にオスと出会って交尾をし産卵しなければならない。しかし野生の蛾の存在密度は極めて低い。蛾にとっては世間は広く、同じ種類のオスとメスが出会うことは奇跡に近い。

そこで神様が、メスに性フェロモンという武器を与え、オスに超鋭敏なセンサーを与えて、1週間の生存期間の間にオスとメスの出会いを実現させる仕組みを作ったというわけである。つまりカイコ蛾オスのセンサーは極めて鋭敏でないと種の絶滅につながるので、鋭敏でなくてはいけない理由が立派に存在するのである。

[やぶちゃん注:以下、略。必ず、リンク先の全文をお読み戴きたい。]

   《引用終了》

なお、「Nature Japan K.K.」のこちらの二〇〇八年九月二十五日の記事蛾のオスが近くのメスにだけ聞こえる超音波を出して求愛することを発見によれば、『アワノメイガの仲間では、複数の種が同じような成分を持つ性フェロモンを使っており、交尾時における種の識別には性フェロモンによる情報に加えて音(超音波)を使っている可能性があることが中野亮研究員(日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科応用昆虫学研究室)らによる先行研究から示唆されていた』が、『中野研究員は、最近、(独)森林総合研究所、南デンマーク大学、電気通信大学、NHK放送技術研究所との共同研究で、アワノメイガのオスが翅と胸部の特殊な鱗粉を使って、微弱な超音波による求愛歌を奏でることを発見した』。『鱗粉はもともと翅と体表面の保護のために発達したと考えられているが、メスへのアピールや天敵に対しての威嚇のための模様の形成にも使われており、一部の蝶では鱗粉が性フェロモンを発していることが知られている。しかし、交尾のときに鱗粉をこすって超音波を出すことが証明されたのは初めてのこと』であるとある。引用の堆積となったが、この辺りで本段の注を終わりとする。]

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