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2014/12/28

飯田蛇笏 山響集 昭和十三(一九三八)年 汎き國土

  汎き國土

 

   温故的靜物

 

收穫(とりいれ)すキャベツ白磁に蔬菜籠

 

枇杷大葉籠の實蔽ふうらおもて

 

   六峯氏が贈れる推古佛を前に

 

松の葉と春松露もる釉陶器

 

[やぶちゃん注:「六峯氏」不詳。同年春の「白木瓜に翳料峭と推古佛」に既出で、そこでは前書によって観世音菩薩像が贈られたとあり、これもそれと同一物であろう。

「松露」菌界ディカリア亜界 Dikarya 担子菌門ハラタケ亜門ハラタケ綱ハラタケ亜綱イグチ目ヌメリイグチ亜目ショウロ科ショウロ Rhizopogon roseolus 。以下、ウィキの「ショウロ」によれば(下線やぶちゃん)、『子実体は歪んだ塊状をなし、ひげ根状の菌糸束が表面にまといつく。初めは白色であるが成熟に伴って次第に黄褐色を呈し、地上に掘り出したり傷つけたりすると淡紅色に変わる。外皮は剥げにくく、内部は薄い隔壁に囲まれた微細な空隙を生じてスポンジ状を呈し、幼時は純白色で弾力に富むが、成熟するに従って次第に黄褐色ないし黒褐色に変色するとともに弾力を失い、最後には粘液状に液化する』。『胞子は楕円形で薄壁・平滑、成熟時には暗褐色を呈し、しばしば』一、二個の『さな油滴を含む。担子器はこん棒状をなし、無色かつ薄壁、先端には角状の小柄を欠き』小、六~八個の胞子を生ずる。『子実体の外皮層の菌糸は淡褐色で薄壁ないしいくぶん厚壁、通常はかすがい連結を欠いている。子実体内部の隔壁(Tramal Plate)の実質部の菌糸は無色・薄壁、時にかすがい連結を有することがある』。『子実体は春および秋に、二針葉マツ属の樹林で見出される。通常は地中に浅く埋もれた状態で発生するが、半ば地上に現れることも多い。マツ属の樹木の細根に典型的な外生菌根を形成して生活する。先駆植物に類似した性格を持ち、強度の攪乱を受けた場所に典型的な先駆植物であるクロマツやアカマツが定着するのに伴って出現することが多い。既存のマツ林などにおける新たな林道開設などで撹乱された場所に発生することもある』。『安全かつ美味な食用菌の一つで、古くから珍重されたが、発見が容易でないため希少価値が高い。現代では、マツ林の管理不足による環境悪化に伴い、産出量が激減し、市場には出回ることは非常に少なくなっている。栽培の試みもあるが、まだ商業的成功には至っていない』。食材としての松露は『未熟で内部がまだ純白色を保っているものを最上とし、これを俗にコメショウロ(米松露)と称する。薄い食塩水できれいに洗って砂粒などを除去した後、吸い物の実・塩焼き・茶碗蒸しの具などとして食用に供するのが一般的である。成熟とともに内部が黄褐色を帯びたものはムギショウロ(麦松露)と呼ばれ、食材としての評価はやや劣るとされる。さらに成熟が進んだものは弾力を失い、色調も黒褐色となり、一種の悪臭を発するために食用としては利用されない』とある。

「釉陶器」は「いうとうき(ゆうとうき)」と読んでいよう。「釉」は釉薬(ゆうやく/うわぐうり:陶磁器が液体やガスを吸収しないように器物を覆ったり線を付けたりするために用いる不透性で硝子質の材料。無色・有色、透明・不透明、各種ある。]

 

  北邊の白夜

 

夏至白夜濤たちしらむ漁港かな

 

白夜の帆世紀をへだつ魚油炎ゆる

 

ハープ彈く漁港の船の夏至白衣

 

この白夜馴鹿(トナカイ)の乳にねる兒かな

 

[やぶちゃん注:想像句か?]

 

氷下魚釣獸(けだもの)の香をはなちけり

 

[やぶちゃん注:老婆心乍ら、「氷下魚」は「こまい」と読み、条鰭綱新鰭亜綱側棘鰭上目タラ目タラ科タラ亜科コマイ Eleginus gracilis のこと。]

 

春めく日林相雲を往かしむる

 

春きたる氷河の樹かげ狐舍に沁む

 

養狐交(た)け春の氷海鏡なす

 

[やぶちゃん注:「交(た)け」は、自動詞ラ行四段活用「猛(た)ける」を誤ってカ行下二段(その場合は「長く」「闌く」で、日が高く昇る/盛りを過ぎる/長じるの意)で活用させた連用形ではなかろうか? 「猛ける」には「日本国語大辞典」で一番最後の方言の項に、『鳥獣がつるむ。交尾する』の意があり、採取地の一つに山梨県南河内郡が挙げられてある。]

 

氷海の朝の燒けきびし狐舍の春

 

海猫群れ昆布生成の潮温るむ

 

シヤンツエに冬眩耀の翳經(た)ちぬ

 

[やぶちゃん注:「シヤンツエ」(Schanze)ドイツ語でスキーのジャンプが行なわれる競技台のこと。「眩耀」は「げんえう(げんよう)」で、眩(まばゆ)いばかりに光り耀(かがや)くこと。眩(まぶしくて)目が眩(くら)むこと。また、目を眩(くら)ますこと。]

 

処女雪にシヤンツエ小夜の帷垂る

 

降誕祭シヤンツエ蒼き夜を刷けり

 

シヤンツエに遲き寒月上りけり

 

  草童のゐる界隈

 

天をとび樋の水をゆく蒲の絮

 

[やぶちゃん注:「絮」は「わた」と訓じていよう。]

 

洎夫藍(サフラン)は咲き山墓地霑へり

 

[やぶちゃん注:「洎夫藍(サフラン)」は厳密には単子葉植物綱キジカクシアヤメ科クロッカス属 Crocus サフラン Crocus sativus で、ウィキの「サフラン」によれば、西南アジア原産で、最初に栽培されたのがギリシアとされ、花の名であると同時に、その雌蘂を乾燥させた香辛料をも指す。別に薬用サフランと呼んで、同属植物で観賞用の花サフラン=クロッカスと区別するとあるが、どうもこれも、クロッカス属 Crocus の仲間のように私には思われる。]

 

春蘭の山ふかき香に葉をゆれり

 

[やぶちゃん注:「春蘭」単子葉植物綱クサスギカズラ目ラン科セッコク亜科シュンラン連Cymbidiinae 亜連シュンラン Cymbidium goeringii 。本邦では各地で普通に見られる野生蘭の一種。グーグル画像検索「Cymbidium goeringii。]

 

岩瀧の歯朶萌えふれ雉子乳るむ

 

[やぶちゃん注:「乳るむ」は「つるむ」と訓ずる。「乳繰り合う」を連想すればしっくりくるが、実際には「乳繰り合う」の「乳」は当て字で、本来は「茶々繰り合う」であったらしい。]

 

孵(かへ)す雉子楤芽つむ童と見かはしぬ

 

[やぶちゃん注:「楤芽」は「たらめ」或いは「たらのめ」と読み(後者で私は読む)、言わずもがな、セリ目ウコギ科タラノキ Aralia elata の新芽のこと。「童」は「こ」と読んでいよう。]

 

蘭さいて貌くれなゐに雉子孵す

 

[やぶちゃん注:老婆心乍ら、「孵す」は「かへす」と訓ずる。]

 

雨温く蛇にまかるゝ雉子かな

 

[やぶちゃん注:「温く」は「ぬくく」か。「雉子」は「きぎす」と訓じていよう。]

 

伐株にとゞまる蛇の尾をたりぬ

 

草童に蛇の舌かげろへり

 

蛇の血の水にしたゝりしずみけり

 

老雞の蟇ぶらさげて歩くかな

 

山川に剝ぎたる蟇を手離せり

 

   人寰抄

 

[やぶちゃん注:「人寰」は「じんくわん(じんかん)」人間世界、世間の意。]

 

めがみえぬ人の夜を澄むさむさかな

 

茶碗さむく忿(いきどほ)る齒の觸れにけり

 

寒明けし童は靑洟に飢ゑしらず

 

[やぶちゃん注:「靑洟」は「あをばな」。]

 

彼岸會の翠微亂山そばだちぬ

 

彼岸婆々阿難(をんな)の嶮を越えゆけり

 

   註――阿難峠は嶽麓精進と古關とをむすぶ

 

[やぶちゃん注:「阿難峠」は現在の山梨県富士河口湖町の精進湖と甲府市古関町を繋ぐ駿河から甲斐に抜ける古街道にある峠の名。個人サイト「峠のむこうへ」の「女坂峠(阿難坂・精進峠)」が画像も含めて詳細を究める、というか実地踏破されていて、凄い。必見。その記載によれば、普通に「女坂峠」とも書き、「山梨県歴史の道調査報告書」には、『とは、「昔妊娠した婦人が峠越えの途中出産したが、母子共に死亡したところと言い伝えられており村人が供養のために建てた石仏が残る」と』あり、「山梨百科事典」にも、『昔、身重な上臈が坂の途中で産気づき出産した母子ともに息絶えてしまった。村人は供養のために子抱き地蔵を祭って女石と呼んだ』と記されてあるとする。リンク先では頭部を欠損した「女石」の写真も見られる(地蔵の頭は博打打ちの間でそれを持っていると勝負に勝てるというジンクスがあり、江戸時代には盛んに掻き取られた。鎌倉のやぐら内などでも首なし地蔵はよく見かける)。なお、リンク先の注にはまさに『飯田蛇笏には「富士と峠」という文章があり、その中で阿難坂の様子や心象が語られてい』るとして、「飯田蛇笏集成六・随想」(角川書店一九九五年刊)の「富士周辺」にある「富士と峠」からの引用がなされてある。孫引きになるが引用させて戴く(一文毎に改行されてあるが、一部を除いて連続させた。句の間隙も除去させて貰った。総ては原本を確認していない仕儀なので注意されたい)。

   《引用開始》

 「阿難峠というのはこの地方の人たちには普通オンナザカと云われている。この峻険さに於いて大石峠をしのぎ、みちのりに於いても劣るものではないようである。山麓から中腹へかけてうねりつづいた峠路に特記すべきほどのものもない。併しその特記に値打しないとする尋常普通の山のたたずまい乃至峠路のおもむきに、却って味えば味い得るものが存すると云えば然うも云い得るであろう。次の拙作のごときは即ちその消息をつたえるものかとも思うのである。

   弥生照る陽は鶸色に大嶺越え     蛇笏

   春嶺遠き奥のけむりを侘びにけり   同

 又、

   阿難坂囀りの吹きゆられけり     蛇笏

   囀りす木原の靄に杣火絶ゆ      同

                        ― 句集『白嶽』 ―

 山吹が色褪せてちりかかっているのを見かける麓路から、登るに従って路が急になり、はるかに炭窯の煙がみとめられるあたりに辿りつくと、巨巌が坂路にせまり重畳としているところ、涓滴の音が幽かに聴覚をとらえる。斯様の個所に水音でもあるまいと、ひとたびは誰人も疑うであろう。もちろん筆者も亦それを疑った一人であった。近寄ってみると、清冽たぐい稀なる岩清水がちろちろと碧巌をつたわって落ちている。隻手をさしのべて掬すれば、流汗一時にひき去り冷たさ五臓六腑に透るのである。其処で一と息ついて登るとやがて絶頂である。

 さて、阿難峠の頂上でふり仰いだ大富岳であるが、それが又素晴らしい大景である。眼下に湖面の一部分を光らせている精進湖、その庭池のような小さな湖の畔から打ち続いた大樹海。人間が為す業とも思われない真唯中に寝泊りして炭焼きをする人々の炭窯のけむりである。富士のありかは何方ぞと頭をめぐらしてふり仰げば、蜿蜒限りない裾野の輪廓からたどって天空を蔽う富岳全貌の巨大さである。竜雲がその八合目あたりにあらわれ、飄々として天風に乗じ、午後二時過ぎの赫っとした日輪にもろ爪をかけて掴もうとする気配が感じられる。

   《引用終了》

なかなかリアリズムを感じさせる名文である。「涓滴」は「けんてき」と読み、水の雫、滴りの意である。「阿難坂」の「阿難」は難所の意であるが、個人サイト「斐武田を探検っ!!」の阿難を見ると、『この周辺では「ヲナン」とは女性の意味なのだそうで、「阿難坂」→「アナンサカ」→「ヲナンサカ」→「女坂」と変移していったのでは』ないかと考証されてある。前のサイトでも考証引用が数多く示されてあるが、やはり近くの釈迦ヶ岳及びそれに纏わる僧伝承などから、この周辺全体に山岳信仰や仏教的命名がちりばめられてあるのは明白で(近くに迦葉坂もある)、仏弟子多聞第一の阿難が原名であろう。]

 

チヤルメラに微温遍照草萌ゆる

 

チヤルメラに雪解の軍鷄は首かしぐ

 

チヤルメラに鈴掛珠をゆりあへり

 

[やぶちゃん注:シチュエーションがよく分からないが、これは豆腐か納豆屋のそれであろうか? 「鈴掛珠」もチャルメラにはよく飾りの珠をぶら下げてある。]

 

   整へる爆音

 

編隊機冬の大八洲を下にせり

 

編隊機ゆき冬空は忘れがほ

 

編隊機寒の鋼空なゝめなす

 

[やぶちゃん注:「鋼空」は「コウクウ」と音読みするつもりか。]

 

編隊機冬日の國土擧げ移る

 

寒霽れの編隊機あはれ大嶺越ゆ

 

寒日和必定編隊機墜ちず

 

しのゝめに犇く春の編隊機

 

春空の乳雲にとぶ編隊機

 

編隊機涌き神苑は花卉の春

 

編隊機春の靴音をともなはす

 

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