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2015/03/23

耳嚢 巻之十 びろう毛の車の事

 びろう毛の車の事

 

 御車にびろうげと云ひ、古物語にも餘多(あまた)見へしが、其製作をしる者なし。檳榔毛車(びろうげぐるま)にて、檳榔樹の葉にて屋根を葺(ふき)たる御車の由。其時限(かぎり)のものやと尋(たづね)しに、隨分保ち候ものゝ由、御所を勤(つとめ)し保田某かたりぬ。檳榔樹は薩州に有之(これあり)、保田先年、右御車取立(とりたて)候節、薩州より取寄(とりよせ)、不足は大坂にて求めし由語りぬ。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:なし。有職故実物。以下に注するようにビロウとビンロウは植物学上、全く異なる種である。それをはっきりするために、現代語訳では「びろう」とし、「びんろう」を意識的に排してある

・「びろう毛の車」檳榔毛車(びろうげのくるま)。白く晒した檳榔の葉を細かく裂いて屋根及び側面を覆った牛車で、よく知れる牛車の側面にある物見(窓)はないのが普通らしい。前後は赤い蘇芳簾(すおうすだれ)で、その内側の下簾(したすだれ:前後の簾の下から外部に長く垂らした絹布。多くは生絹(すずし)を用い、端が前後の簾の下から車外に出るように垂らし、女性や貴人が乗る場合に内部が見えないように用いた。)は赤裾濃(あかすそご:裾に向かって徐々に糸の色が赤く濃くなる染め技法をいう。)。上皇以下・四位以上の上級貴族が乗用したが、入内する女房や高僧なども用いた。底本の鈴木氏注には、『檳榔なき時は菅を用ふることもありとや』という三村翁の注を引く。この「檳榔」は単子葉植物綱ヤシ目ヤシ科ビロウ Livistona chinensis のことで、ヤシ目ヤシ科ビンロウ Areca catechu とは全くの別種なので注意が必要である(諸注はこれらを混同しているか或いは逆にした誤った記載が思いの外、多いように私には感じられる)。ウィキロウによれば、ビロウ Livistona chinensis は『東アジアの亜熱帯(中国南部、台湾、南西諸島、九州と四国南部)の海岸付近に自生し、北限は福岡県宗像市の沖ノ島』とある(ビンロウ Areca catechu の方は本来は本邦には自生していないと思われる。リンク先はウィキの「ビンロウ」)。三村氏の「菅」は単子葉植物綱カヤツリグサ目カヤツリグサ科スゲ属 Carex 

・「保田某」底本の鈴木氏注に、『至元(ヨシモト)か。御普請役から買物使に転じ、天明七年禁裏の御賄頭となり、寛政四年御勘定に移る。時に五十歳』とある。「買物使」「御賄頭」というのは禁裏御所の警衛・公家衆の監察などを司った幕府の禁裏付(きんりづき)の職名と思われる。

・「薩州」薩摩国。現在の鹿児島県西部。薩摩藩領内。同藩は薩摩と大隅の二ヶ国及び日向国諸県郡の大部分を領有し、琉球王国をも実質支配下に置いて、現在の鹿児島県全域と宮崎県南西部と、沖縄県相当の大部分を不当に服属させていたことになる。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 檳榔毛(びろうげ)の牛車(ぎっしゃ)の事

 

 御車(みくるま)に「びろうげ」と称し、古えの物語にも数多見えるものであるが、その製法を知る者が私の周囲にはいなかった。今回、識者の御教授を得たので、ここの記しおく。

 これは「檳榔毛車(びろうげのくるま)」というのが正式で、檳榔樹(びろうじゅ)の葉を以って屋根を葺いた牛車である由。

 木の葉で葺いたものと聞き及んだので、

「……これ、その時限りのもので御座るか?」

と訊ねたところ、

「いや。これ随分、耐久性のある実用的な牛車にて御座る。」

と、御所の禁裏付(きんりづき)を勤めた経験のあられる保田某殿の話しにて御座った。

 檳榔樹(びろうじゅ)は薩摩国にて産し、保田殿、先年、この檳榔毛(びろうげ)の牛車を新しく造ることと相い成った折り、薩摩国より、この檳榔(びろう)の葉を直接取り寄せたものの、不足した分のあって、その分はこれ、大坂にてその筋の商人(あきんど)より買い求めた、と語っておられた。

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