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2015/03/17

耳嚢 巻之十 風狸の事

 風狸の事

 

 或人云く、搜神記に風狸(ふうり)の事ありしが、日本にも邂逅(たまさか)有之(これある)由。怪敷(あやしき)異獸にて、狸の一種の由。野に出て草木の内如何成(いかなる)目利(めきき)にや、一種の草を取(とり)、枝梢(えだこずゑ)に止(とま)る諸鳥を見、右をかざしねらひ候へば、右鳥類自分(おのづ)と落來(おちきた)るを取りて、餌となす由。其草はいかなる事や、しるものなし。是を見屆(みとどけ)、右風狸を退散し、渠(かれ)が持(もち)し草を奪取(うばひと)り、木に登り居(をり)候ものをさせば、鳥獸人共(とも)に落(おち)ぬる由。怪談なれども、記して後の君子をまつ而已(のみ)。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:なし。妖怪博物誌。

・「風狸」底本の鈴木氏注に、『風貍。獺に似る。背筋から尾の間を除き全身毛が無い。人に逢うと低頭して羞じるような様子をする(酉陽雑俎)。黄猨に似て、空中を飛行することができる(桂海獣志)』とある。ウィキの「風狸」に以下のようにある(半角空きを全角に代え、注記号は省略した)。『風狸(ふうり)は、中国および日本の妖怪。風生獣(ふうせいじゅう)、風母(ふうぼ)、平猴(へいこう)とも呼ばれる。中国の『本草綱目』、日本の鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』、根岸鎮衛の『耳嚢』、『和漢三才図会』など江戸時代の各種文献に名が見られる』。『『本草綱目』獸之二では、「其獸生嶺南及蜀西徼外山林中 其大如狸如獺 其狀如猿猴而小 其目赤 其尾短如無 其色青黃而黑 其文如豹 或云一身無毛 惟自鼻至尾一道有青毛」とありその大きさはタヌキかカワウソ程度。状態はサルに似ており、目が赤く、尾は短い。色は黒っぽく、豹のような模様がある。毛は鼻から尾に青い毛がある。「其性食蜘蛛 亦啖薰陸香」とあり餌はクモなどで、香木の香も食べる。「晝則蜷伏不動如 夜則因風騰躍甚捷 越岩過樹 如鳥飛空中」とあり昼は動き回ることはなく、夜になると、木々の間や岩間を鳥の如く滑空する。「人網得之 見人則如羞而叩頭乞憐之態」とあり人に網で捕らえられると、恥しがるような素振りをし、憐れみを請うような仕草をする。「人撾擊之 倏然死矣 以口向風 須臾複活 惟碎其骨 破其腦乃死 一云刀斫不入 火焚不焦 打之如皮囊 雖鐵擊其頭破 得風複起 惟石菖蒲塞其鼻 即死也」とあり風狸は打ち叩くとあっけなく死んでしまうが、口に風を受けただけで生き返る。刀で斬っても刃が通らず、火で焼こうとしても焼けないという説もある。但し骨や頭を砕かれると生き返ることはできず、石菖蒲(サトイモ科の多年草のセキショウのこと)で鼻を塞いでも殺すことができるとされる』(単子葉植物綱ショウブ目ショウブ科ショウブ属セキショウ Acorus gramineus 。強い芳香を持ち、漢方としても用いられる)。『その飛距離は、山の一つや二つを飛び越えるほどともいう。 『本草綱目』では、風狸は東南アジア産のヒヨケザルのこととされる』(「ヒヨケザル」は哺乳綱真主齧上目皮翼(ヒヨケザル)目 Dermoptera に属するヒヨケザル(日避猿)類。東南アジアの熱帯地方に生息し、フィリピンヒヨケザル Cynocephalus volans とマレーヒヨケザル Cynocephalus variegatus の二種のみが現生種である。体長四十センチメートル内外、外見はムササビに似、頸から手・足・尾を包む大きな皮膜を持ち、木から木へ滑空する。頭骨の口先は幅広く頑丈で下顎の門歯には櫛の歯状の突起を持つ。ここは「ブリタニカ国際大百科事典」とウィキの「ヒヨケザル目」を参考に纏めた。因みに「本草綱目」にしては、現代の動物学的知見からもすこぶる首肯出来る説のように私には思われる。私自身、ヒヨケザルを実見したことがないのでグーグル画像検索「Dermopteraをリンクし、また英文サイト「Wildscreen」の「Philippine flying lemur (Cynocephalus volans)フィリピンヒヨケザルの飛翔動画も合わせて附す。素晴らしい!)。『『和漢三才図会』では、日本に風狸はいないとされているが、『耳嚢』では日本にも風狸の話があると記述されている。それによれば、風狸はタヌキの一種とされており、ある種の草を抜き、梢(こずえ)に止まった鳥にかざすと、なぜかその鳥が落ちてくるので、それを餌にしているという。どんな草にそのような効果があるかは不明だが、ある者が風狸からその草を奪い、鳥を捕らえようとして木に登り、鳥に向かって草をかざしたところ、鳥とともにその者も木から落ちてしまったという』と、本話についての記載もある。岩波の長谷川氏注には、眉が長いという記載もある。以上、ウィキでは「本草綱目」がよく引用されて解説されてあるので、これは省略し、他に示されてある「今昔百鬼拾遺」と「和漢三才図会」(但し、これはその記載の殆んどが「本草綱目」のそれである。しかしさればこそ、ウィキのそれを補完する読みとして私は十分に学術的意義があると考える)を、以下にオリジナルに翻刻しておくこととする。といっても、「今昔百鬼拾遺」の方はキャプションが図像の左に少しあるだけである。画像もこれについてはウィキのパブリック・ドメイン画像で示した。「和漢三才図会」のそれは東洋文庫版の画像を用い、原典の白文(原典の一行字数に合致させて改行)及びそこに打たれてある訓点を参考にして私が書き下しものを示した(本文テクストの底本は一九九八年刊大空社版CD-ROM「和漢三才図会」を用いた。表示法は私の手掛けた「和漢三才図会」水族部の電子テクストのそれに準じた。「青」「黒」などの表字は原文のママである。訓読では大幅に読みと送り仮名を増やしてあるが、読み難くなるだけなので、補正箇所は【 】で示した一部を除き、特に指示していない。「和漢三才図会」の方には(ということは自動的に「本草綱目」の)私のオリジナルな注を附しておいた)。

   *

鳥山石燕「今昔百鬼拾遺」

Sekienfuri

   風狸(ふうり)

風によりて巖(いはほ)をかけり

木にのぼりそのはやき事

飛鳥(ひてう)の如し

   *

寺島良安「和漢三才圖會 卷第三十八 獸類 ○二十一」

Kazetanuki_wakan

かぜたぬき

風貍

フヲンリイ

 

風母 平猴

風生獸 ※1※2

[やぶちゃん字注:「※1」=「犭」+「吉」。「※2」=「犭」+「屈」。]

 

 加世太奴木

 

本綱風狸大如貍如獺其狀如猿猴而小其目赤其尾短

如無其色青黄而黒其文如豹或云一身無毛惟自鼻至

尾一道有青毛廣寸計長三四分其尿如乳汁其性食蜘

蛛亦啖薫陸香晝則踡伏不動如螬夜則因風騰躍其捷

越巖過樹如鳥飛空中人綱得之見人則如羞而叩頭乞

憐之態人※3擊之倏然死矣以口向風須臾復活惟碎其

骨破其腦乃死一云刀斫不入火焚不焦打之如皮囊雖

鐡擊其頭破得風復起惟用石菖蒲塞其鼻即死也

△按風狸嶺南山林中多有而未聞在于本朝

[やぶちゃん字注:「※3」=「扌」+「過」。]

 

○やぶちゃんの書き下し文

かぜたぬき

風貍

フヲンリイ

 

風母(ふうも) 平猴(へいこう)

風生獸(ふうせいじゆう) ※1※2(きつくつ)

[やぶちゃん字注:「※1」=「犭」+「吉」。「※2」=「犭」+「屈」。]

 

 加世太奴木(かぜたぬき)

 

「本綱」に、『風狸(かぜたぬき)は大いさ貍(たぬき)のごと、獺(かはうそ)ごとし。其の狀(かたち)、猿猴(えんこう)のごとくして小さく、其の目、赤く、其の尾、短かく、無きがごとし。其の色、青黄にして黒し。其の文(もん)、豹のごとし。或ひは云ふ、一身に毛無く、惟だ鼻より尾に至る一道にのみ、青毛有り、廣さ寸計(ばか)り、長さ三、四分(ぶ)。其の尿、乳汁のごとく、【ごとし。】其の性、蜘蛛を食(く)ひ、亦、薫陸香(くんろくかう)を啖(くら)ふ。晝(ひる)は則ち、踡(せくぐま)りて伏し、動かず、螬(すくもむし)のごとし。夜は則ち、風に因つて騰(のぼ)り躍(をど)り、其の捷(はや)きこと、巖(いはほ)を越へ、樹を過ぎ、鳥の空中を飛ぶがごとし。人、綱し、之を得て、人を見るときは、則ち、羞(はづ)るがごとし。【ごとくして、】頭を叩き憐(あはれ)みを乞ふ態(ありさま)の之れあり。人、之れを※3擊(うちたゝ)[「※3」=「扌」+「過」。]きするときは、倏然(しゆくぜん)として死す。口を以つて風に向くときは、須臾(しゆゆ)にして復た活(い)く。惟だ其の骨を碎(くだ)き、其の腦を破れば、乃(すなは)ち死す。一(いつ)に云ふ、刀斫(たうしやく)入れず【入らず】、火に焚(や)きて焦(こが)れず、之を打つに皮囊(かはぶくろ)のごとし。鐡にて擊ち、其の頭を破ると雖も、風を得れば、復た起く。惟だ石菖蒲(せきしやうぶ)を用ゐて其の鼻を塞げば、即ち死すなり。』と。

△按ずるに、風狸は嶺南の山林の中に多く有りて、未だ本朝に在ることを聞かず。

 

●「三、四分」凡そ九~十二ミリメートル。●「薫陸香」インドやイランなどに産する樹脂が固まって石のようになったもので香料・薬剤とする。薫陸石。本邦では主に岩手県久慈市で産出される、琥珀に似た、松や杉の樹脂が地中に埋もれて化石となったものを、やはりこう称して香料としているが、これは「和の薫陸」である(ここまでは「大辞泉」の記述)。なお、平凡社の「世界大百科事典」の「香料」には、インドで加工された種々の樹脂系香料が西方と東アジア、特に中国へ送られ、五~六世紀の中国人はこれを薫陸香と称し、インドとペルシアから伝来する樹脂系香料として珍重した旨の記載がある。●「螬」地中にいる甲虫類の幼虫を指す語。主にコガネムシ類の幼虫をいう。地虫(じむし)。●「倏然」あっという間に。たちまち。程なく。「須臾」も同じ。●「刀斫入れず」「斫」は斬るであるから、ここはせめて「刀斫(たうしやく)するも」と読みたい(原典では「刀斫」の間に熟語記号の「―」が入っている)。意味は、その皮革は刀を以って斬り刻もうとしても、刃が入らない、刃が立たない、である。こうなってくると、あたかもこれは例の本邦の「竹取物語」にも出る(しかもあれは中国伝来と騙られている)火鼠の皮袋(実物は石綿)である。●「石菖蒲」セキショウ。前注参照。

 

・「搜神記」六朝時代の志怪小説。晋の干宝(かんぽう)の著。神仙・道術・妖怪などから動植物の怪異、吉兆・凶兆の話など奇怪な話を記す。著者は有名な歴史家であるが、身辺に死者が蘇生する事件が再度起ったことに刺激されて古今の奇談を集めて本書をつくったという(「ブリタニカ国際大百科事典」に拠ったが、「かんぼう」という読みは訂した)。私の偏愛する作品で何度も読んだが、ここに出る「風狸」の話は所載しないと思う(岩波版の長谷川氏も注で不載の旨、述べておられる)。一つ、「狸」と「風」の文字が含まれる一篇がある。巻十八の次の一篇であるが、以下に見るように「風狸」ではない。

   *

董仲舒下帷講誦、有客來詣。舒知其非常客。又云、「欲雨。」。舒戲之曰、「巢居知風、穴居知雨。卿非狐狸、則是鼷鼠。」。客遂化爲老狸。

   *

〇やぶちゃんの書き下し文

董仲舒(とうちゆうじよ)、帷(ゐ)を下(おろ)して講誦(こうじゆ)するに、客有りて來詣す。舒、其れ、非常の客なるを知れり。又、云ふ、「雨ふらんと欲す。」と。舒、之に戲れて曰はく、「『巢居(さうきよ)は風を知り、穴居(けつきよ)は雨を知る。』と。卿(けい)、狐狸に非ずんば、則ち是れ、鼷鼠(けいそ)ならん。」と。客、遂に化して老狸と爲れり。

   *

●「董仲舒」(紀元前一七六年頃~紀元前一〇四年頃)前漢の儒学者。武帝の時、五経博士を置き、儒教を国の根本思想とすべきことを建言、後世の儒学隆盛の濫觴となった人物。●「帷」とばり。●「講誦」は弟子に対する講義。●「非常の客」通常の人間の客ではないこと。●「巢居」鳥のように木の上に住まいを作って住む生物。●「鼷鼠」二十日鼠。ネズミ目ネズミ上科ネズミ科ハツカネズミ属ハツカネズミ Mus musculus 

 

■やぶちゃん現代語訳

 

  奇獣風狸(ふうり)の事

 

 ある人の曰く、

「……晋の干宝志怪小説である「捜神記」に『風狸』についての記載があったが、実は日本にも、この風狸なるものが棲息して御座る。……これ、妖しき奇獣にて御座って、狸の一種で御座る。野に出でると――どのようにして沢山の草木類からそれを見分けるかは不分明乍ら――これ、ある種のこれも怪しき草を採り来たって、それを前足に持って、木の梢にとまっておる鳥に狙いを定め、ただその草を翳(かざ)すだけなので御座るが、するとこれ、その鳥、自然と枝より落下致し、それを餌としておるので御座る。……その草が如何なる草であるかを知る者も、これ、御座らぬ。……しかし、この風狸がかくの如き、不思議な方法で鳥を獲っておるところを見つけ、その風狸を脅して追い散らしつつ、候そ奴の持って御座った草を奪い取り、やおら、その草を以って樹上に登っておるものに対し、ただ差し向けるだけで、これ、鳥であろうと獣であろうと、いやさ、人であろうと、皆、落ちてしまうので御座る。……」

 ――聊か信じ難き怪談なれども、取り敢えず記しおき、後代の識者の御裁断を俟つのみ。

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