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2015/05/20

飯田蛇笏 山響集 昭和十四(一九三九)年 夏

〈昭和十四年・夏〉

 

 

風鈴の夜陰に鳴りて半夏かな

 

[やぶちゃん注:「半夏」雑節の一つである半夏生(はんげしょう)のこと。太陽が黄経百度にある日で、夏至から数えて十一日目、現在の七月二日頃に相当する。この頃に梅雨が明けて、田にはカラスビシャク(烏柄杓)(単子葉植物綱ヤシ亜綱サトイモ目サトイモ科ハンゲ属カラスビシャク Pinellia ternata :開花期は初夏で単子葉植物綱オモダカ亜綱オモダカ目サトイモ科テンナンショウ属ウラシマソウ Arisaema urashima を小さくしたような緑色の仏炎苞を持つ)が生えるが、それが古くは田植えの終期とされてきた。このことからカラスビシャクには「ハンゲ」の別名が与えられている。]

 

はたとあふ眼の惱みある白日傘

 

[やぶちゃん注:「目病み女と風邪ひき男」「夜目遠目傘の内」を意識しながら、白昼のハレーションのような眩暈を引き出す何か幻想味さえ感じさせる鬼句と思う。以下の二句とは別景のようにも見えなくはないが、意識上は一種の連作で、美事である。]

 

あながちに肌ゆるびなきうすごろも

 

窶る婦の白眼にしてうすごろも

 

[やぶちゃん注:「窶る」は「やつる」と訓ずる。]

 

更衣爬蟲のいろに蜂腰(すがるごし)

 

[やぶちゃん注:今一つ、情景を把握し得ないが、私は中七下五は庭に出で飛ぶ蜥蜴や蜂の実景のクロース・アップと読む。次句とともにやはり仄かに蛇笏調の鬼趣を嗅ぐ。]

 

更衣地球儀靑き夜を愛づる

 

陽炎のゆれうつりつゝ麥熟れぬ

 

墓濡れて桐さくほどの地温あり

 

   某家に老病者を訪ふ

 

白蚊帳に亡くなるといふ身をしづむ

 

夏ふかく樹々愁ふ翳あるごとし

 

   大阪木野町さくら花壇

 

撒水す娘に夕影は情(こゝろ)あり

 

[やぶちゃん注:現在の大阪市東成区鶴橋木野(この)町か。「さくら花壇」は不詳。識者の御教授を乞う。「娘」は「こ」と訓じていよう。]

 

花桐に機影を惜しみ蹴鞠す

 

水馬(みづすまし)はね風ふく浮葉ひるがへる

 

   山盧庭前

 

梅桃(ゆすら)とる童に山鵲は搖曳す

 

        註――山鵲は三光鳥なり

 

[やぶちゃん注:「梅桃」バラ目バラ科サクラ属ユスラウメ Prunus tomentosa 。サクランボに似た薄甘い味のする赤い小さな実がなる。「山鵲」は「さんじやく(さんじゃく)」と読む。現在、この「サンジャク」を正式和名とするのはスズメ目カラス科サンジャク Urocissa erythrorhyncha であるが、サンジャクは「三光鳥」とは呼ばない。蛇笏はわざわざ「三光鳥なり」と注しているから、これは囀声が「ツキヒーホシ(月日星)ホイホイホイ」と聞えることから命名されたスズメ目カササギヒタキ科サンコウチョウ Terpsiphone atrocaudata か、或いはやはり似た鳴き声をすることから「三光鳥」の別名を持つスズメ目アトリ科イカル Eophona personata とである。この場合、句柄の「搖曳す」からは繁殖期のの尾が体部の三倍になる姿から真正のサンコウチョウ Terpsiphone atrocaudata を指すようにも読めるのだが、どうも童子の採る同じ梅桃の木に揺れ動くとなると、これは少し大き過ぎるし、サンコウチョウは昆虫食で、寧ろ木の実を芽を常食とする小型のイカルの方がしっくりくるようには思われる。ウィキの「イカル」には『波状に上下に揺れるように飛翔する』とあって、「搖曳す」という表現とも一致するように思われる。私の同定に誤りがある場合は、御指摘戴けると恩幸これに過ぎたるはない。]

 

 

草しげり藜の古色暾に濡れぬ

 

[やぶちゃん注:「藜」は「あかざ」と読む。ナデシコ目ヒユ科Chenopodioideae 亜科 Chenopodieae 連アカザ属シロザ Chenopodium album変種アカザ Chenopodium album var. centrorubrum 。春から初夏にかけて若葉や中心部の芽が赤紫色となり、初夏には淡緑・紅紫の小花を房状につける。「暾」は音「トン」で「日の出」「朝日」「朝日が対象を照らす」の意であるから、「暾(ひ)に濡(ぬ)れぬ」と訓じているものと判断する。次句も同じ。]

 

桃果とる籠さはやかな暾に濡れぬ

 

うす紅に映えて桃熟る聖地かな

 

[やぶちゃん注:「聖地」不詳。次句と並べて見ての単なる思いつきであるが、句集「靈芝」に出る、山梨県南巨摩郡身延町の日蓮宗総本山身延山久遠寺での景か? 識者の御教授を乞うものである。]

 

法體(ほつたい)のすきものめきて桃果啖(た)ぶ

 

くちふれて肉ゆたかなる桃果かな夏(四)

 

樹々黝(くろ)み日照雨に桃果闌熟す

 

虹映えて税關の牕夏立ちぬ

 

[やぶちゃん注:「牕」は「まど」で「窻」(=窓)の同字。]

 

波のたり大繫索に夏日灼く

 

宙に浮くかもめに船は夏來たり

 

白晝(ひる)灯る船豪華なる驟雨かな

 

繫船に星ちりばめて初夏の闇

 

   街頭瞥見

 

インディアン脣くれなゐに夜涼かな

 

[やぶちゃん注:直感であるが、西部劇の映画のキッチュな看板画をモンタージュしたものではなかろうか?]

 

晴るゝ日も嶽鬱々と厚朴咲けり

 

[やぶちゃん注:「厚朴」は「ほほ(ほお)」と読む。モクレン亜綱モクレン目モクレン科モクレン属ホオノキ Magnolia obovata の生薬名(樹皮)。通常、樹名は「朴」。]

 

天體の幽らみをめでて夏帽子

 

[やぶちゃん注:「幽らみ」は「くらみ」。]

 

   芭蕉に「深川夜遊」と前書する唐辛子の名句あり

 

大夏の靑果を籠に夜遊かな

 

[やぶちゃん注:前書は、「深川集」等に載る、

 

     深川夜遊

  靑くてもあるべきものを唐辛子

 

の句を指す。元禄五(一六九二)年九月の作。この月の十六日、近江膳所の門人洒堂が深川芭蕉庵に来訪(翌正月まで芭蕉に滞在した)、これを機に嵐蘭(らんらん)・岱水(たいすい)の四人で四吟歌仙を巻いた、その発句(脇は洒堂で「提(さげ)ておもたき秋の新鍬」)。この時の洒堂の長期滞在は自身の立机を芭蕉に相談する意図があったものらしく、そうした思いにはやる愛する弟子洒堂に対し、師として危ぶむ思いを含めた警喩句ともされる。いわば、唐辛子の本性は辛さにあるのであって、色ではない、若き青さのままでよいものを、熟れて唐辛子のように赤くなぜなろうとするのか、一つ考えてみよ、といったニュアンスが感じられる(ここは講談社学術文庫二〇一二年刊の山本健吉「芭蕉全句」の解説に主に拠った)。「大夏」は「おほなつ(おおなつ)」と訓じているか。]

 

夕虹に蜘蛛のまげたる靑すすき

 

   大阪K-氏より贈られた燈籠を前栽

   の苔蒸したる巖に据ゑて

 

葉がくりに陶の燈籠梅雨入り時

 

[やぶちゃん注:老婆心乍ら、「梅雨入り時」は「ついりどき」と読む。]

 

   嶽麓河口湖

 

水すまし交るみたかぶる富士颪

 

蔬菜園土冷めたくて蚯蚓いづ

 

   註――禮記月令に曰、孟夏の月蚯蚓出づ

 

[やぶちゃん注:「礼記(らいき)」月令(がつりょう:一年間に行われる定例の政治・儀式等を月の順に記録したもの)に立夏の初候に「螻蟈鳴」(雨蛙が鳴き始め)、次候に「蚯蚓出」(蚯蚓が地上に這い出る)とある。]

 

挘(も)ぐ蕃茹ぬくみて四方に雲群れぬ

 

[やぶちゃん注:「挘」は、むしる、捥(も)ぐ。「蕃茹」はトマトのこと。ルビはないが、私は「トマト」と読みたい。]

 

菜園の暑氣鬱として踏まれけり

 

隱棲の蟬絶えまなき雨月かな

 

會釋して炎天の女童(めろ)ふとあはれ

 

[やぶちゃん注:「めろ」という読みは「女郎」で関西方言で女性の卑称。]

 

   岐阜市長より贈られたる提灯を夜々書窓に吊る

 

たまきはるいのちにともるすゞみかな

 

   岐阜長良

 

梅雨のまのひととき映ゆる金華山

 

翠巒に何花かをる薄暑かな

 

瀧霧にほたる火沁みてながれけり

 

螢火を愉しむ童女顏寄せぬ

 

   大阪木野町さくら花壇 二句

 

浪花女の夏風邪ひいて座に耐へぬ

 

夏衿をくつろぐるとき守宮(やもり)鳴く

 

   紀州元の脇海岸

 

礁貝の潮がくり咲く薄暑かな

 

[やぶちゃん注:「元の脇海岸」和歌山県日高郡美浜町の紀伊水道を臨む海岸沿いに「元の脇」という地名を見出せる(和歌山県御坊市湯川町小松原のJR西日本紀州鉄道御坊(ごぼう)駅の西南西約四キロメートルの位置にある。三句後の前書に「御坊町」と出る)。日の岬の東の根で、調べて見ると岬方向には岩礁帯が認められるのでここである。「礁貝」は「いそがひ(いそがい)」と訓じているか。]

 

   饗宴の夕  二句

 

なりふりにかまけて遲る葭戸かな

 

[やぶちゃん注:「葭戸」は「よしど」で、葦簀(よしず)張りの透き戸。夏に涼をとるために襖や障子などを外して代わりに使う。]

 

夏の灯に蠱(まじ)のくちびる臙脂濃し

 

[やぶちゃん注:「蠱」蠱物(まじもの)。人を惑わすもの、魔性のものの意。イメージの鬼趣の句。私の好きな句である。]

 

   御坊町N―旅館

 

夏館老尼も泊りながし吹く

 

素裸に寢溺れにける白蚊帳

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