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2015/05/02

譚海 卷之一 榮螺海老に化し山の芋うなぎに化せし事

○さゞゐ海老に化したるを得て煮たるに、色は全く海老の赤き色に似たり。いまだ今はさゞゐの貌にて有(あり)けるとぞ。又羽州くぼたの人、山のいもうなぎに化したるを所持せり。是も半(なかば)は各(おのおの)其かたちを殘せりとぞ。同所にてくちなはとすばしりとつるみたるを、網にて海より引揚たりと云(いへ)り。

[やぶちゃん注:「さゞゐ海老に化したる」「さゞゐ」は「さざえ」の音転訛。腹足綱古腹足目サザエ科リュウテン属サザエ亜属サザエ Turbo cornutus 或いは同サザエ亜属の仲間。これは栄螺が海老になる(雀が蛤に、烏が烏賊に、海鼠が老海鼠(ほや)に馬の毛が針金虫に変ずるとする類い)という古博物学得意の化生説であるが、これはかなり自然にサザエの貝殻に甲殻亜門軟甲(エビ)綱十脚(えび)目抱卵(エビ)亜目異尾(ヤドカリ)下目ヤドカリ上科 Paguroidea に属するヤドカリ類、特にサザエの殻を好む大型種であるヤドカリ科オニヤドカリ属ホンドオニヤドカリ Aniculus miyakei 辺りが住んでいるのを誤認したものであろうと推定出来る。房総半島・伊豆半島などでは現在でもイセエビの刺し網などに混在して漁獲され、ガタイが大きく、ちんまいヤドカリ類と異なり、しっかり「海老」している。しかも歪尾類の巻貝の形に特化して変形した腹部は見るからにあたかもサザエの肝にそっくりな形をしているから、貝の栄螺が海老に化けたと思ったとしても無理からぬ気が私にはする。今回調べるうちに、実はホンドオニヤドカリは棲家を調達(次いでに摂餌も含め)するために、積極的にサザエを襲うことを知った。有馬啓人氏のサイト・トップの「ヤドカリの生態」の中段にある「宿替え」を見られたい。実際にサザエの生貝を襲っている画像附きである! 恐るべし!

「羽州くぼた」現在の秋田のこと。久保田は秋田藩の旧称。

「山のいもうなぎに化したる」ものの本には、古くから鰻は幼魚や卵が発見されず、生活史が謎であったことからこうした伝承が生まれたとするが、如何? この言い伝えは古くからあり、古えの人々は大概の生物の細かなライフ・サイクルには興味もなかったから、あえて鰻を特定して言上げする必要はあるまい。近代以降、成魚が淡水魚でありながら、東シナ海の深海底で卵を産み、幼体が遠距離を遊泳して本邦の河川に立ち戻るという驚くべきウナギの生態に接した者が、その驚愕を「山の芋鰻になる」というあり得ないことを指す諺の由来に、まことしやか付会させたに過ぎないというのが私の主張である。ここにある化生過程の実物というのも、案外、例の人魚の木乃伊(ミイラ)――猿の上半身と鯉辺りの下半身の干物を接合したような代物――よろしく、枯れた山芋に干した鰻を繫いだ木乃伊であったのではあるまいか?

「くちなは」朽繩。蛇の異名。蛇の形が朽ちた繩に似ることに由る。口(のある)繩の意ではないので注意。

「すばしり」ボラの若魚の呼称。条鰭綱ボラ目ボラ科ボラ Mugil cephalus はご存じの通り、出世魚で、ウィキの「ボラ」によれば、

 関東 オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド

 関西 ハク→オボコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド

 高知 イキナゴ→コボラ→イナ→ボラ→オオボラ

 東北 コツブラ→ツボ→ミョウゲチ→ボラ

で、他の複数サイトを検証すると、スバシリは三~十センチメートルくらいまで、五〜十八センチメートルをオボコとする記載を見かけたから、上記のようにこの二つの呼称が逆転関係にあるとして(私は寧ろ、上記の「おぼこ」い娘より「鯔背」な兄いになる前の「砂走り」の若造の方が後だろうとは思う)、最大長十八センチメートルのボラと考えよう(ここは十八センチメートルぐらいないと蛇とのバランスが悪いのである)。ボラは海水魚であるが、幼魚のうちはしばしば大群を成して淡水域に遡上する。水の汚染にも強く、強力な雑食性で、イワナなどと同様、蛇を呑み込んだりするとしても少しもおかしくない気がする(私が小学生時代に愛読した図鑑には蛇を呑みこんで蛇の尻尾が口から出ている状態の岩魚の、その肛門から生きた蛇が顔を出して鎌首を揚げている絵があり、私はそれとそっくりな剥製をどこかで見た記憶もあるのである)。逆に、中ぶりの「くちなわ」が「すばしり」を食おうと襲って巻き付いたものの、そのまま水中深く引きずり込まれて溺死し、「くちなわ」がぐるぐると、あたかも蛇がつるむ際にねじねじになるように(実際にそういう交尾行動をとる種がいる。既に「生物學講話 丘淺次郎 第十一章 雌雄の別 三 局部の別 (2) 驚きのファルス群!」の注で引用した、喪主ちん氏のサイト「ちん.com」内の「萌える民俗学」のモノクローム写真の二十六時間に及ぶ交尾行動の写真を見られたい。特に♂♀が完璧に捻じり合った状態(ちん氏は『中尾彬のネジネジのようだ』とキャプションを附けておられ、まことに言い得て妙)が素晴らしい。特に『この交尾の姿を模して縄文土器やしめ縄がつくられたらしい』『模すことにより何をあやかるつもりなのかよくわか』らないながらも、『一説によれば、生命力を崇めている』とあり、注連繩もこれが元という説を示されてあって、実に目から正真正銘、鱗である)絡みついたスバシリが川を下って内湾まで来たところで、浦人の「網にて海より引揚」られたとして、漁師が――山の「クチナハ」と海ん「スバシリ」が浦ん中で、つるんどっぞッツ!――と驚愕したとして、無理もあるまい。]

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