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2015/10/19

生物學講話 丘淺次郎 第十六章 長幼の別(7) 五 世代交番 / 第十六章~了

     五 世代交番

 

 生殖法の中には隨分複雜なものがあつて、幼蟲が成長して成蟲になり終るまでに、幾度か代を重ね、固體の數が殖えながら進むものがある。例へば人間の肺臟や肝臟に寄生する「ヂズトマ」の如きものでは、一疋の幼蟲がそのまゝ生長して、一疋の「ヂストマ」になるのではなく、途中に何囘も生殖して、成蟲となる頃には已に無數に殖えて居る。蠶の幼蟲は成長して一個の蛹となり、蛹が皮を脱げば一疋の蛾が出るから、幼蟲も蛹も蛾も、一個體の生涯の中の異なつた時期にすぎぬが、「ヂストマ」では、幼蟲と成蟲とは別の個體で、幼蟲からいふと、成蟲は曾孫か、玄孫かに當る。かく世代を重ねながら變化するものでは、子は親に似ず孫は子に似ず、それぞれ形を異にし同一の形狀を有する個體は代を隔ててのみ現れることになるがこの現象を世代の交番と名づける。

[やぶちゃん注:「世代交番」生物学上の英語“alternation of generations”或いは“alternation of phases”の訳語。生物の周年生活環(ライフ・サイクル)に於いて異なった生殖を行う二通りの形態上異なった身体を持つ時期が交互に出現することを指し、現行では「世代交代」の方が一般的である。

「ヂストマ」既注であるが再掲する。扁形動物門吸虫綱単生吸虫(単生)亜綱 Aspidogastrea 及び二生吸虫(二生)亜綱 Digenea に属する「吸虫」と呼称される寄生虫類の本邦での総称。本文にある通り、「二口虫」と呼ぶ理由は、口吻を取り囲んである摂餌を助けるための口吸盤と、体を寄生部位に固定するための腹吸盤(体部前方の口吻に近い腹面に位置し、口吸盤とほぼ同じ大きさ)の両方を口と誤認して、“di”(二)+stoma(口)と呼んだもの。但し、英語の“Distoma”は、二生吸虫(二生)亜綱棘口吸虫目棘口吸虫亜目棘口吸虫蛭状吸虫(カンテツ)科蛭状吸虫亜科カンテツ属 Fasciola に属する肝蛭(かんてつ)類に限って用いる。以下で丘先生も語れる如く、吸虫類は肺吸虫症・肝吸虫症などを引き起こす厄介な寄生虫である。]

Jisutomanohaseei

[「ヂストマ」の發生

(い) 幼蟲 (ろ)幼蟲から生長した嚢狀體

(は) (ろ)の體内に生じた時代の幼蟲

(に) (は)の體内に生じた三代目の幼蟲]

[やぶちゃん注:これは学術文庫版ではハレーションを起していて細部の観察がし難いため、国立国会図書館蔵の原本からトリミングし、補正を加えた。]

 

 

 一例として「肝臟ヂストマ」の生殖法を簡單に記述して見るに、微細な卵から孵化した小さな幼蟲は暫く纎毛を以て水中を泳いで居るが、その中に一種の淡水産の貝類に泳ぎ附いて、その柔い體内に潜り込み皮を脱ぎ捨て、形を變じて長楕圓形の嚢の如きものとなる。こゝまでが發生の第一代である。次にこの囊の如き體の内に、前のとは形の異なつた幼蟲が多數に出來る。この幼蟲は體は圓柱形で一端に口があり、口からは短い行き止まりの腸が續いて居る。また體の後端に近い處には、太く短い足の如き突起が二つある。これは即ち發生の第二代に當るもので、少しく生長すると親なる囊狀の體からは出るが、まだ貝の肉の内に留まつて居る。次にこのものの體内に、さらに第三代のものが澤山に生ずる。このものは體は圓形で、その後端から細長い尾が生えて、多少蛙の「おたまじやくし」の形に似て居るが、發生がこの程度まで進むと、「ヂストマ」の子は貝の身體から水の中へ泳ぎ出て、淡水産の魚類の體内に入り、筋肉の間に挾まつて人に食はれるのを待つて居る。かやうな魚をよく煮たり燒いたりせずに食ふと、その人の體内で「ヂストマ」が生長し、忽ちの間に生殖器が成熟して日々無數の卵を産むやうになる。そして卵は大便と共に體外に出て、水に流されなどして溝や小河に達すれば、卵から孵つた幼蟲はまた貝類の體内に潜り込み得るわけであるから、これから再び同じ發生の歷史を繰り返すことになる。實際にはなほ少しく込み入つたところもあるが、大體に於てはまづこゝに述べた通りであらう。

[やぶちゃん注:「肝臟ヂストマ」既注であるが補足して再掲する。現在は「肝臓ジストマ」という呼称自体を用いない。ここで示されたものは吸虫綱二生亜綱後睾吸虫目後睾吸虫亜目後睾吸虫上科後睾吸虫科後睾吸虫亜科 Clonorchis 属のカンキュウチュウ(肝吸虫)Clonorchis sinensis を指している。肝臓内の胆管に寄生する成虫は平たい柳の葉のような形をしており、体長一〇~二〇ミリメートル、体幅三~五ミリメートル。雌雄同体。口を取り囲んで摂食を助ける機能を持つ口吸盤が体の前端腹面にあって直径〇・四~〇・六ミリメートル。体を寄生部位に固定する腹吸盤は体の前半四分の一の腹面にあり、口吸盤とほぼ同じ大きさである。その生活環はここに記されている通りであるが、今少し生物学的に言うと、以下の通りである(私はこれは高等学校の「生物」で習って、すこぶるつきで興味を持った思い出深い記憶があることを申し添えておく。

 ミラシジウムスポロシストレジアセルカリアメタセルカリア

何と素敵に慄とする形態と名であろう!)。

このメタセルカリアが寄生する第二中間宿主の淡水魚はコイ科を中心に)。

成虫は寄生している胆管内で一日で約七〇〇〇個の卵を産む。卵は胆汁とともに十二指腸に流出、最終的に糞便とともに外界に出た卵は、水中に流出しても孵化せず、湖沼や低湿地に生息する腹足綱盤足目エゾマメタニシ科マメタニシ Parafossarulus manchouricus japonicus に摂食されて初めて消化管内で孵化して、

ミラシジウム(miracidium)幼生となる。

ミラシジウムは次いで、

第一中間宿主であるマメタニシの体内で変態してスポロシスト (sporocyst) 幼生となる。

次に、

スポロシストは成長すると、体内の多数の胚が発育して口と消化管を有するレジア(redia)幼生となり、これがスポロシストの体外に出る。レジアはマメタニシの体内で食物を摂取して成長すると、

体内の胚が発育して、多数のセルカリア (cercaria) 幼生となる

それが成熟したものから順に、今度はレジアの体外に出、さらにマメタニシ本体から水中へと泳ぎ出す。セルカリアは活発に遊泳して第二中間宿主となる淡水魚を捉え、鱗の間から体内に侵入、

主として筋肉内でメタセルカリア(metacercaria)幼生となる。

このメタセルカリアが寄生する第二中間宿主の淡水魚はコイ科を中心にモッゴ・ホンモロコ・タモロコなど約八〇種に及び、コイ科以外ではワカサギの報告もある。こうした魚をヒト・イヌ・ネコ・ネズミなどが生で摂取すると、メタセルカリアはその

終宿主小腸被嚢を脱して幼虫となる。

そして、胆汁の流れを遡って胆管に入り、肝臓内の胆管枝に定着する。

二三~二六日かけて成虫となる

と、産卵を開始する。

一般にこの成虫の寿命は二〇年以上に及ぶとされる。

 ヒトの症状は、多数個体が寄生した場合は胆管枝塞栓を起こし、胆汁鬱滞と虫体の刺激による胆管壁及びその周辺への慢性炎症から肝機能及び関連疾患を引き起こす。更に、肝組織の間質の増殖・肝細胞変性・萎縮・壊死から肝硬変へと至るケースもあり、食欲不振・全身倦怠・下痢・腹部膨満感・肝腫大・腹水・浮腫・黄疸・貧血等々のさまざまな症状を惹起する。但し、少数個体の寄生では無症状に近い(以上は概ねウィキの「肝吸虫」に拠った)。

「實際にはなほ少しく込み入つたところもある」と丘先生が言っているのは、恐らく生活環の中で、スポロシスト幼生の体壁の胚細胞が単為生殖的に発育した際、実際には上に示した次のステージのレジア幼生とは別に娘スポロシストになるケース、同じくレジア幼生からセルカリア幼生となる間に娘レジアがあるケース、或いは逆にショート・カットをとるケースなどがあることを確か高校時代の生物の授業で習ったから、それを指しておられるように私は思う。この複雑なライフ・サイクルこそ、四十年経った今でも私の心の少年の部分をゾクゾクさせるほど面白いのである。]

Ekinokoukkusu

[犬の條蟲]

 

 條蟲類にも世代交番の行はれるものがある。犬の腸に寄生する、長さ僅に五粍ばかりの極めて小さな條蟲があるが、人がもし誤つてその卵を嚥み下すと、卵からは微細な幼蟲が出て肝臟・肺臟などに入り込み、そこで非常に大きな囊となる。これは醫者の方では「胞蟲囊腫」と名づけるもので、中に水の如き液を含み、直徑が數糎にも達するからそのある處の器官の働に大きな故障を生じ、隨分危險な病を起こす。普通の條蟲は幾ら大きくても腸の内に居ること故、下劑をかけ絶食して腸を掃除し、驅蟲藥を用ゐればこれを驅除することが出來るが、この幼蟲の囊は驅蟲藥の直接屆かぬ處にあるから、到底藥で驅除するわけに行かぬ。即ち「さなだむし」の中で一番恐ろしい種類であるから、常々犬に接近する人々はよく注意しなければならぬ。さて右の幼蟲の囊を切り開いて見ると、その裏面には無數の條蟲の頭が著いて居るが、これが皆囊から芽生によつて生じたもので、もしその一部が犬の腸に入ると、そこで一疋づつ成熟した條蟲となるのである。

[やぶちゃん注:ここで言及されているのは、「胞蟲囊腫」という病名及びその肝臓や肺に於ける重篤な症状の解説から、扁形動物門条虫綱真性条虫亜綱円葉目テニア科エキノコックス属 Echinococcus のタンポウジョウチュウ(単包条虫)Echinococcus granulosus・タホウジョウチュウ(多包条虫) Echinococcus multilocularis・ヤマネコジョウチュウ(ヤマネコ包条虫)Echinococcus oligarthrusEchinococcus shiquicus(和名なし)・フォーゲルホウジョウチュウ(フォーゲル包条虫)Echinococcus vogeli がヒトに感染した、現行のエキノコックス症(包虫症)を指すと考えてよい。ウィキの「エキノコックス症」によれば(下線やぶちゃん)、『当症は、キタキツネやイヌ・ネコ等の糞に混入したエキノコックスの卵胞を、水分や食料などの摂取行為を介して、ヒトが経口感染する事によって発生するとされる、人獣共通感染症である。卵胞は、それを摂取したヒトの体内で幼虫となり、おもに肝臓に寄生して発育・増殖し、深刻な肝機能障害を引き起こすことが知られている。肝臓癌と誤診され外科手術時にエキノコックス症と判明することもある』。患者はほぼ確実(九十八%)に、『肝臓に病巣を形成される。感染初期の嚢胞が小さい内は無症状だが、やがて肝臓腫大を惹き起こして右上部の腹痛、胆管を閉塞して黄疸を呈して皮膚の激しい痒み、腹水をもたらす事もある。次に侵され易いのは肺で、咳、血痰、胸痛、発熱などの結核類似症状を引き起こす。無症状の潜伏期間が長くは成人で』十年から二十年、小児では五年以上かかるとされる。『そのほかにも、脳、骨、心臓などに寄生して重篤な症状をもたらす事がある。また、嚢胞が体内で破れ、包虫が散布されて転移を来たす事もしばしばある。内容物が漏出するとアナフィラキシーショックとなる。本虫の引き起こす症状は大型の』本邦産の条虫よりも遙かに重篤で、『発症前の診断と治療開始が重要。放置した場合』、五年後の生存率は三〇%と言われている』。外科的な手術療法は『有効な治療であるが、臨床症状が出現した時点ではもはや取りきれない事が殆どである。また嚢胞の位置と患者の状態から外科的切除が困難な場合がある』。手術療法が困難な場合には化学療法が行われ、本症に対する内服薬としては本邦でも使用許可となったアルベンダゾール(albendazole)がある。『嚢胞を外科的に手術した場合の結果は良好だが、自覚症状が出現した』(二次的嚢胞が再発達)『場合にはそれほど良くな』く、実質上は症状が出てからの治療や根治は困難とされている。『シベリア、南米、地中海地域、中東、中央アジア、アフリカに多い。米国ではミシシッピ川下流域、アラスカ、およびカナダ北西部で見られる。危険因子は牛、羊、豚、鹿』などの野生動物『との接触、または犬、狼、コヨーテ』など『の糞との接触がある。発生は』十万人に一人の割合である。本邦では感染症法四類感染症(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」によれば「感染症法四類感染症」はE型肝炎・A型肝炎・黄熱・Q熱・狂犬病・炭疽・鳥インフルエンザ・ボツリヌス症・マラリア・野兎病及び「前各号に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病であって、動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、前各号に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの」とある)に指定されており、原因となる多包条虫は北海道などの緯度の高い地域(三十八度以北)に現に棲息しており、事実、毎年約二十名が『エキノコックスに感染しているが、保健衛生指導と犬の定期的な条虫駆除で予防できる。他に生水を飲まない、発生地の沢水や井戸水は加熱してから使用する、人家にキツネを近づけない、山菜などは良く洗うか火を通して食べる、などの予防法がある。しかし、虫卵の分布や汚染状況が不明で、ヒトへの正確な感染経路の同定はできていない』。『熱には弱く』、六十度十分間加熱でエキノコックスは死滅する。ウィキにはこの後、本邦での近代以降のヒト及び動物の感染例が示されているが、出典明記について不完全と指摘されており、追加要請がかけられているので引用しない。]

Mizukuragenohassei

[「水くらげ」の發生

1は卵から孵つた幼蟲、それから數字の順序の通りに發生し、78に至つて分裂し、かく部が離れて終には11に見る如き小さな「くらげ」となる。]

[やぶちゃん注:これは学術文庫版では黒く潰れて細部の観察がし難いため、国立国会図書館蔵の原本からトリミングし、補正を加えた。]

 

 

 以上はいづれも寄生蟲であるが、獨立生活を營むものにも世代交番の例は幾らもある。近海の水面に無數に浮かんでいる「水くらげ」、一名「四つ目くらげ」といふものもその一で、卵から生じた幼兒は決してそのまゝ成長して一疋の「くらげ」とはならず、途中に繁殖して非常に數が殖える。「水くらげ」の卵から孵つた幼蟲は卵形の小さなもので、全表面に纎毛を具へ、暫くは水中を泳ぎ廻るが、その間に適當な處を選んで固著し、縱に延びて筍を倒立させたやうな形のものとなり、生長するに隨ひ節々の切目が深く入り込んで、終には恰も重ねた皿を一枚づつ取り出す如くに、一節づつが、小さな「くらげ」となつて水中で浮き出すのである。これも前の「さなだむし」の場合と同じく、卵から生じた幼蟲が生長し終るまでの間に、一囘芽生または分裂によつて生殖し、次の代に至つて初めて成熟した動物となるが、このやうな種類では一方を、「幼蟲の世代」一方を「成蟲の世代」として明に長幼を區別することが出來る。

[やぶちゃん注:刺胞動物門鉢虫綱旗口クラゲ目ミズクラゲ科ミズクラゲ属ミズクラゲ Aurelia sp. で通常のタイプ種は Aurelia aurita である。傘に透けて見える胃腔と生殖腺が傘中央下部に四つあって、それが透けて目玉のように環状を成して目立つことから、「ヨツメクラゲ」とも呼ばれる。本種の周年生活環も「生物」で習う世代交代の典型例として記憶されている方も多いであろう。クラゲ・ファンの私としては知見の総てを語りたくなるのだが、まずはウィキの「ミズクラゲ」より引こう。成体で傘の直径は十五~三十センチメートルで、『それ以上のものも稀に見られる。傘には、縁辺部に中空の細く短い触手が一列に無数に並ぶ。傘の下側の中央に十字形に口が開き』、その四隅が伸びて、『葉脈の位置で二つ折りにしたヤナギの葉のような形の』四本の口腕を形成している。『体は四放射相称で、口腕の伸びる方向を正軸、その中間の軸を間軸という。間軸の方向に』四つの『丸い胃腔があり、馬蹄形の生殖腺に取り囲まれ』る。稀に『五放射、六放射になっているものも見られるが、基本的な体の作りは同じである』。『刺胞を持つが、刺されてもほとんど痛みを感じることはない。ただし、遊泳中に皮膚の角質の薄い顔面にふれたときに、人によっては多少の痛みを感じる。最近の研究によれば、ザリガニに対する毒性試験で』は猛毒のハブクラゲの四分の一ほどの強『毒を持っているとされ』、分子量四万三千の酸性タンパク質が毒性物質の主成分と考えられているとある。北緯七十度から南緯四十度ほどまでの世界中の海に分布し、水温摂氏六度から三十度程度までは生息可能とされ、比較的低い塩分濃度の『沿海に多く分布する。日本沿岸でも大発生がしばしば見られ、漁網を破損させたり、発電所の取水口に詰まって発電を停止させる事故を起こすなどの害をなすことがある。遊泳能力はクラゲの仲間の中でも低い方で、水中に漂って生活する。雌雄異体であり、雄は透けて見える生殖巣が白っぽく、雌は若干茶色がかっていることで識別できることもある』。餌とするのは『主に動物性プランクトンで、時に仔魚を捕食する。遊泳運動は捕食活動も兼ねており、傘を開閉することで縁辺部の触手の間で海水が濾過され、そこに浮遊する動物プランクトンが触手に捕らえられる。餌は触手の刺胞に刺されて麻痺すると同時に粘着性の刺糸に絡めとられ、粘液と繊毛運動により、傘の縁、縁弁の中央の』胃腔の数の二倍であるところの八箇所に『団子状に集められる。間欠的に口腕が触手をなでるときに口腕の溝の内側に餌が包み込まれ、繊毛運動によって口に運ばれる。胃腔消化された餌の粒子や液は、放射管から水管(血管のようなもの)を通って全身へと運ばれる。呼吸においても、同じ器官を通して体全体に拡散された海水より酸素を取り込む』。『傘を開閉する運動は遊泳と捕食のためだけのものではなく、循環機能を働かせるための運動でもあり、つまり体そのものが心臓の役割を果たしている。また、クラゲ類は中枢神経系を欠き、体のどの部分にあっても一つの神経細胞が命令を下すと、新幹線並の速度で神経伝達が行われ、相対的に統合した運動を行なうことができる。傘の縁の』八ヶ所に『光の明暗を感じる眼点とバランスを取るための平衡器を備えた感覚器』を持つ。『繁殖力が強く、生活環も明らかにされていることから研究用途に使われることが多い』。問題のライフ・サイクルは以下の通り(以下はウィキの記載に個人的に補足を施した)。その生活環上のステージの名前は、

 プラヌラポリプストロビラエフィラ(メテフィラ)稚クラゲ成体

と変化する。まず、

普通に我々が「ミズクラゲ」と認識しているものの中の成熟した個体から精子が水中に放たれてがそれを取り込み、受精をする。受精卵はの口腕にある保育嚢に運ばれて、そこで卵割を繰り返すうち、

体表に繊毛が生じ、プラヌラ(planula)幼生に成長して海中に泳ぎ出る。

プラヌラの長さは僅かに約〇・二ミリメートルで、体表の繊毛を盛んに動かしては回転しつつ遊泳するが、数日間、遊泳した後、

適当な付着基盤を捜し出して付着し、変態を開始、先端に触手が伸びて、定着して凡そ十五時間ほどでイソギンチャクに似たポリプ(polypとなる。

変態直後のポリプは二本の触手を持っていて中央に口が開いている。触手には既に刺胞が備わっていてこれで摂餌を開始する。その後、成長する内に触手数が416本と増えてゆく(時には二十四本に達することもある)。成長したポリプはさらに無性生殖で増殖してコロニーを形成する。この時期の無性生殖では直接或いは走根(ストロン)上に新しいポリプを形成する出芽と、体が水平方向に延伸して縦に二つに分かれる分裂が主であるが、ポリプが移動した後にシスト(cyst:生物体が作る被嚢。幼生様のものが厚い被膜を被って休眠状態に入った状態)を作ることもある。この折りのミズクラゲのポリプは非常に優れた再生能力を持っており、細かく磨り潰しても、暫くするとバラバラになった細胞片が集まり始めて最終的にポリプを再生する。ポリプはさらに成長すると、徐々に体に縊(くび)れ――環溝――を生じ始める。これを、

ストロビレーション(strobilation:横分体形成)と呼ぶ。

縊れはさらに発達し、

八枚の縁弁を形成するストロビラ(strobila:横分体)となる。

横分体は更に縊れを増やしながら伸長を続け、やがて先端の触手は吸収されて消失、

各節が順々に個々に分離して海中へと泳ぎ出して行くが、こ三ミリメートルほどの花弁のようなものを形態を成すものをエフィラ(ephyraと呼び、このそれぞれの一個体がミズクラゲの直接幼生となる。

このエフィラの腕状の縁弁の間が成長し、綺麗な円形となった時点で、成体とほぼ同じ形の稚クラゲ(直径一~二センチメートル)となる(エフィラと稚クラゲの間にメテフィラ(metephyraと呼ばれステージを置く場合もある)。

但し、『一部の地域個体群では、プラヌラ幼生が直接エフィラ幼生に変態してそのままクラゲになるものがあることが知られている』ウィキにはある。]

Sarupa

[サルパ]

 

 前に何かの序に「サルパ」といふ動物の名を擧げたが、この類では世代の交番が特に著しい。「くらげ」ならば人の知つて居るのは水面に浮かんで居る有性時代のみであつて、海底に固著して居る無性時代は餘り人が知らぬから、くらげの世代交番はよく調べて見ないとわからぬが、「サルパ」では交る交る現れる二世代の個體が、大きさもほゞ同じく數もほゞ同じく相雜つて、海の表面に浮んでいるから、兩方ともに同じ程度に知られて居る。一方は子を産み一方は芽を生じて、生殖の方法は違ふが、生活の狀態が全く同じであるから、いづれを幼、いずれを長と定め難い。一體ならば有性生殖をする方を、生長し終つた形と見るのが當然であるが、「サルパ」では芽生するものも、卵を生ずるものに比べて外形が少しく違ふだけで、構造は同じ程度にあるから、これを幼兒の形と見做すことは出來ぬ。世代交番のあることの知られなかつた時代には、「サルパ」の相交互する二世代の個體を各々別種の動物と考へて、各種に別々の學名を附けた。今日は、これが兩方とも一種の動物の交互する二世代であることがわかつたが、いづれか一方の名だけを用ゐ、他の名稱を全く廢しては非常に不便であるから、他の動物には例のないことであるが、「サルパ」だけは特別として各種の學名には種名が二つづつ竝べてある。

[やぶちゃん注:」サルパ(salpa)も私の好きで好きでたまらない生物群であるから、既注であるが再掲する。これは脊索動物門尾索動物亜門尾索(タリア/サルパ)綱ウミタル亜綱サルパ目断筋亜目Desmomyariaに属する原索動物の総称である。暖海性プランクトンで水面のごく表層に浮遊しているが、時に海岸に大量に漂着することもある。世代によって形態が異なり、無性世代では単独個体、有性世代では連鎖個体になって世代交代をする。単独個体は円筒状をなし、体長は二~五センチメートルのものが多いが、中にはオオサルパ Thetys vagina の如く、一個体でも一二~三〇センチメートルに達するものがある。前端に入水孔、後端若しくは後背面に出水孔が開孔する。上位タクソンの尾索(タリア/サルパ)綱はウィキの「タリア綱」などによれば、『近縁種で海底で生活するホヤとは異なり、一生海を漂いながら過ごす。ヒカリボヤ目(Pyrosomida)、ウミタル目(Doliolida)、サルパ目(Salpida)の』三つの目に細分される。ヒカリボヤ類は多数の小さな個虫のコロニー(群体)で、中空の円筒構造をなし、一端にある共同の『総排出腔が開いて個虫から水が排出されると、水の勢いによって前に進む。ウミタルとサルパは生活環上で、個体とコロニーの状態を行き来する。サルパのコロニーは数メートルの長さにもなる。ヒカリボヤと異なり、ウミタルとサルパは筋肉の力によって海中を進む。タリア綱の生物は全て濾過摂食を行う。海中を進みながら、樽の様な形になって水を吸い込み餌を採る』とある(下線やぶちゃん)。また、「原色検索日本海岸動物図鑑[]」(保育社平成四(一九九二)年刊)の「タリア綱」の記載によれば、ウミタル目とサルパ目は、前者ウミタル類の鰓裂が多数であるのに対し、サルパ類の鰓裂は左右一対の大きな孔に変形していることで識別出来るとある。サルパ目の記載には(ピリオドとコンマを句読点に代えた)、『多くの場合、胃腸は小球状まとまりnucleus)と呼ばれる。これが生時』の『種によって赤紅色を呈し、体の全体があたかも灯の入った』提灯『のようにみえることから、この類を「チョウチンニラ」(ニラは浮遊性の意か?)と呼ぶ地方がある』。サルパの生活史は以下の通り。『受精卵は親体内で栄養補給されながら、つまり胎生で卵生(単独)個虫を持ち、親の体壁を破って外に出る。この卵生個虫が備える芽茎は、分節して大量に芽生個虫をつくる。芽生個虫は1群ずつまとまって鎖状あるいは車輪上に集合し、卵生個虫から群ごとに遊離した後も集合を崩さずに遊泳しながら性的に成熟する。このように集合した個虫を連鎖個虫(aggregate zooid)と呼ぶが、これはたがいに特別な器官に連結して情報を伝達し合』って『協調的に行動する』とある(下線やぶちゃん)。同記載によれば、既知種は十三属四十五種程度で、分布は多くの種が汎世界的で、『このうち日本近海では』十二属二十種『あまりが記録されている』とあって、『いずれも暖海系の汎世界種である』として以下の五種が挙げられてある。

 サルパ科ワサルパ属シャミッソオサルパ Cyclosalpa affinis (Chamisso, 1819)

 トガリサルパ属トガリサルパ Salpa fusiformis (Cuvier, 1804)

 フトスジサルパ属(Soestia :シノニム IasisIasis zonaria (Pallas, 1774)

 オオサルパ属オオサルパ Thetys vagina (Tilesius, 1802)

 モモイロサルパ属モモイロサルパ Pegea confederata (Forsskål, 1775)

私が下北半島の仏ヶ浦の岩礁帯のタイド・プールで発見したものは数十センチメートルに及ぶ十数個の連鎖固体で体内に鮮やかな紅色の球体があったが、どれと同定することは悔しいことに写真も撮っておらず、出来ない。]

 

 以上種々の方面から論じた通り、動物の長幼はたゞ身體の大小、生殖力の有無によつてのみ區別せられるものではなく、種類が違ひ生活狀態が違へば、それに隨うて長幼の區別の程度にも種々の相違があり、長幼の頗る相似たものもあれば、また全く相似た處のないやうなものもある。特に世代交番の行はれる種類では、成長の途中に生殖が行はれ、幼から長に達する間に代が重なるから、普通の場合とは長幼の關係が甚しく違ふ。人間では子供と大人とは身體の形にも著しい相違がなく、生活の狀態もほゞ同樣であり、一人の子供が生長していつとはなくそのまゝ一人の大人となり終るから、他の動物も皆その通りであらうと思うて居る人が多いやうであるが、普通に人の知らぬ下等動物になると、生まれて直に生殖するものもあれば、生長の途中に分裂するものもあつて、なかなか複雜な經過を示すものも少くない。されば親族法を專門とする法學者が、避暑の折などに人間にも世代交番が行はれ、子供が大人になる間に分裂によつて數が殖えるものと想像して、慰みに現今の法理を當て嵌めて見たならば、或は更に深い理窟を見出すに至るやも知れぬ。

[やぶちゃん注:エンディング、丘節(ぶし)がまたまた、炸裂!]

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