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2015/11/22

小泉八雲 落合貞三郎他訳 「知られぬ日本の面影」 第二十章 二つの珍しい祭日 (五)

       五

 

 しかし白豆を毫も怖れないし、また普通の惡魔の如く容易に追拂ふことも出來ない、非 常に惡い魔物が居る。それは貧乏神だ。

 が、出雲の人々は、往々貧乏神を追彿ひうる一種の家庭的禁忌の法を知つてゐる。

 日本の臺所は、煮燒をするに先つて、僅かばかりの炭火を、初めにかの頗る有用で、筒單な家庭用の道具の火吹き竹で赤熱に吹き起す。火吹き竹は通常長約三尺、直徑二寸ほどの竹の管で、火の方へ向ける一端に、ただ極めて小さな孔が殘してある。炊事を務める女は、他端を唇に當てて、管を通して炭火の上を吹く。かやうにして活氣ある火が、數分間にして得られる。

 時を經ると、火吹き竹は焦げて、龜裂を生じて、駄目になる。そこで新しいのを作る。すると、古いのが貧乏神を退治する禁忌に使はれる。その中ヘ一厘錢を入れて、ある呪文を唱へる。それからその一厘錢の入つたまゝ、その古くなつた道具を單に表の戸口から町中へ投げすてるか、または附近の川へ擲り飛ばす。これが――私はその譯を知らないが――貧乏神を戸外へ投げ出して、隨分長い間、歸つてくることの出來ぬやうしたのも同じことだとされてゐる。

 

 貧乏神の目に見えぬ存在が、どうして發見されるかと問ふ人もあるだらう。

 英國で夜間あの凄いかちつかちつといふ音を發する、茶立て蟲の一種は、日本の貧之神といふ名の親類を持つてゐる。この蟲は貧之神の召使で、それが家の内てかちつかちつといふ音を發するのは、かの甚だ歡迎されない神樣の存在を報ずるものと信ぜられてゐる。

 

    譯者註。英國にて、その蟲の啼き聲

    は、死人のある前兆だといふ迷信が

    ある。

 

[やぶちゃん注:「貧乏神」既注

「長約三尺、直徑二寸」全長九〇・九センチメートル、直径六・〇六センチメートル。

「一厘錢」ネット上の情報で一厘銅貨幣は明治初期で現在価値換算で凡そ二十円相当とある。

「英國で夜間あの凄いかちつかちつといふ音を發する、茶立て蟲の一種は、日本の貧之神といふ名の親類を持つてゐる」原文“The little insect which makes that weird ticking noise at night called in England the Death-watch has a Japanese relative named by the people Bimbomushi, or the Poverty-Insect.”。この“the Death-watch”は前の第十九章 英語教師の日記から (十八)に出る「紙魚」で注したところの、

昆虫綱鞘翅目多食亜目ナガシンクイ上科シバンムシ科Anobiidae に属するシバンムシ(死番虫)類

で、これらのうちの複数種は書物・標本はおろか、建築木材などをも激しく食害することで知られる。ウィキの「シバンムシ」によれば、和名「死番虫」は『死の番人を意味するが、これは英名のdeath-watch beetleに由来する。ヨーロッパ産の木材食のマダラシバンムシ』属Xestobium 『の成虫は、頭部を家屋の建材の柱などに打ち付けて「カチ・カチ・カチ……」と発音して雌雄間の交信を行うが、これを死神が持つ死の秒読みの時計、すなわちdeath-watchの音とする迷信があり、先述の英名の由来となった』とある。問題なのは、日本家屋に於いて主に障子や畳の表面でホトホトフツフツと音を立てるところの、ここに出る――「茶立て蟲の一種」では全くない――という点である。これは、

昆虫綱咀顎目 Psocodea

 コチャタテ亜目 Trogiomorpha

 コナチャタテ亜目 Troctomorpha

 チャタテ亜目 Psocomorpha

の中で無翅のチャタテムシ類である(本類でも標本類などの密閉された中で集中的に大発生すると大きな食害被害を齎すことはある)。ただ、ここでのハーンの謂いは、生物学的な類縁ではなく、西洋で死を告知するという死神とその使者のような家屋内で音を立てる死番虫の関係を、貧乏神の使者に同じく室内で音をたてる「茶たて虫」に擬えただけとも読め、平井呈一氏はここを『日本では』この室内で音を立てる虫を『「貧乏虫」といっている』と訳しておられる。但し、検索する中では、チャタテムシの立てる音を貧乏神と結びつけていた痕跡は見出せない。因みに水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」に登場して一躍、人口に膾炙した、小豆を洗うような音を立てる妖怪「小豆洗い」について、ウィキの「小豆洗い」では、正体の一つとして、『江戸時代には小豆洗虫(あずきあらいむし)という昆虫の存在が知られていた。妖怪研究家・多田克己によれば、これは現代でいうチャタテムシのこととされ』、『昆虫学者・梅谷献二の著書『虫の民俗誌』によれば、チャタテムシが紙の澱粉質を食べるために障子にとまったとき、翅を動かす音が障子と共鳴する音が小豆を洗う音に似ているとされる』とあり、『また、かつてスカシチャタテムシの音を耳にした人が「怖い老婆が小豆を洗っている」「隠れ座頭が子供をさらいに来た」などといって子供を脅していたともいう』とし、『新潟県松代町では、コチャタテムシが障子に置時計の音を立てるものが小豆洗いだという』とある。チャタテムシが大発生し、それを駆除出来ないというのは、現代なら確かに経済的に貧しいお宅かも知れんなどとは思う(因みに、私の家の寝室にも多量発生して、その音で目が覚めたこともあることを告白しておく)。この『置時計の音』(近代以降のニュアンスである)は「死番虫」の英名“death-watch beetle”と一致するのは面白い。貧乏神とチャタテムシの関係、御存じの識者の御教授を乞うものである。]

 

 

.

   There is one very evil spirit, however, who is not in the least afraid of dried peas, and who cannot be so easily got rid of as the common devils; and that is Bimbogami.

   But in Izumo people know a certain household charm whereby Bimbogami may sometimes be cast out.

   Before any cooking is done in a Japanese kitchen, the little charcoal fire is first blown to a bright red heat with that most useful and simple household utensil called a hifukidake. The hifukidake (fire- blow-bamboo) is a bamboo tube usually about three feet long and about two inches in diameter. At one end — the end which is to be turned toward the fire — only a very small orifice is left; the woman who prepares the meal places the other end to her lips, and blows through the tube upon the kindled charcoal. Thus a quick fire may be obtained in a few minutes.

   In course of time the hifukidake becomes scorched and cracked and useless. A new fire-blow-tube is then made; and the old one is used as a charm against Bimbogami. One little copper coin (rin) is put into it, some magical formula is uttered, and then the old utensil, with the rin inside of it, is either simply thrown out through the front gate into the street, or else flung into some neighbouring stream. This — I know not why — is deemed equivalent to pitching Bimbogami out of doors, and rendering it impossible for him to return during a considerable period.

   It may be asked how is the invisible presence of Bimbogami to be detected.

   The little insect which makes that weird ticking noise at night called in England the Death-watch has a Japanese relative named by the people Bimbomushi, or the Poverty-Insect. It is said to be the servant of Bimbogami, the God of Poverty; and its ticking in a house is believed to signal the presence of that most unwelcome deity.

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