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2015/12/29

飯田蛇笏 山響集 昭和十四(一九三九)年 冬(Ⅲ) 上高地と白骨 白骨篇

  白骨篇

 

[やぶちゃん注:当時の長野県南安曇郡安曇村(現在長野県松本市安曇地区)の白骨(しらほね)温泉。]

 

強霜におしだまりたる樵夫かな

 

[やぶちゃん注:「強霜」「つよしも」多くおりた霜を指す本来は冬の季語。]

 

手にとりて深山の秋の玉ほたる

 

秋螢山勢に水ほとばしる

 

[やぶちゃん注:「山勢」「さんせい」。山の姿。]

 

霧ながれ花壇の巖は不言(ものいはず)

 

歸燕とび湯女菜園に濯ぎ干す

 

秋やこの熊蠅とびてラヂヲ鳴る

 

[やぶちゃん注:「熊蠅」大型の蠅の謂いであろうが、特異な種ではなく、野外性で夏よりも秋に出現する所謂、普通の双翅(ハエ)目短角(ハエ)亜目ハエ下目イエバエ上科イエバエ科イエバエ亜科イエバエ属イエバエ、Musca domestica の大型個体かも知れぬ。但し、高原性で温泉近くとなると、二センチメートルもある大型のハエ・アブ(孰れも短角(ハエ)亜目 Brachycera に属するが、所謂「ハエ」は環縫短角(環縫)群 Cyclorrhaphous に、アブは直縫短角(直縫)群 Orthorrhaphous にそれぞれ分類される)の種も多くおり、中には吸血性のものもあるので(登山や高地の温泉で私は散々刺された経験を持つ。私の体臭が彼らの好みであるらしい)、それらの孰れかか、複数種を指す可能性もある。蛇笏の呼称する「熊蠅」、或いは、白骨で「熊蠅」と呼称する種が判る方がおられれば、御教授を乞うものである。]

 

風あらぶ臥待月の山湯かな

 

[やぶちゃん注:「臥待月」寝待月に同じい。狭義にはだいたい午後九時以降に出る陰暦十九日の夜の月の称であるが、十九日の後の二十日の更待月(ふけまちづき)や宵闇月(午後十時以降に月の出)をも含む場合もある。]

 

谿邃く湯氣たちまよひ薄もみぢ

 

[やぶちゃん注:「邃く」「ふかく」と読む。奥深いの意。]

 

露日夜歸路の浴客相踵ぎぬ

 

[やぶちゃん注:「相踵ぎぬ」「あひつぎぬ」で、皆、後を追うの謂いであろう。]

 

   谿谷の露天湯

 

暾ゆたかにさす木の間より露の娘ら

 

[やぶちゃん注:「暾」は「ひ」で、朝日の謂い。蛇笏の好きな用字である。]

 

湯治づれ草履してふむ秋の土

 

湯氣こめて巖の野菊を咲かしむる

 

露天湯に雲あかねして天翔ける

 

夕影や脱衣をあるく女郎蜘蛛

 

[やぶちゃん注:「女郎蜘蛛」節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目クモ亜目クモ下目コガネグモ上科ジョロウグモ科ジョロウグモ属ジョロウグモ Nephila clavata 。恐らく大型のであろう(ジョロウグモは性的二形が甚だしく成体個体の体長はが十七~三十ミリメートルであるのに対し、は六~〜十三ミリメートルとの半分以下)。秋は樹皮や建物壁面などに白色の卵嚢を産む産卵期であるからである。]

 

ふぐり垂る素裸にさす秋日かな

 

[やぶちゃん注:「ふぐり」男子の陰嚢のこと。ネットの「語源由来辞典」によれば、『語源は「フクラグ(脹)」の意味、「フクレククリ(脹括)」の意味などあるが、「フクロ(袋・嚢)」の意味であろう。ふぐりの語源には、「フクラグ(脹)」の意味、「フクレククリ(脹括)」の意味などあるが、「フクロ(袋・嚢)」の意味であろう。「ふぐり」は形や色が「クリ(栗)」に似ていることから、「フクログリ(袋栗・嚢栗)」とする説も良い』とある。]

 

湯氣舞うて男神女神に露の秋

 

[やぶちゃん注:無論、裸形の男女の浴客を譬えたものであろうが、白骨辺りには道祖神も多い。それらをダブらせてて濃艶な句を狙ったものと私は詠む。]

 

   吾子と共に一日登高をこゝろむ

 

秋寒く山窪ゆけば地(つち)音す

 

秋ふかき岨路を行けば雲の聲

 

[やぶちゃん注:「岨路」「そはぢ(そわじ)」と読んでおく(単語としては「そだぢ(そだじ)」「そはみち(そわみち)」「そばみち」とも読む)。嶮しい山道。

「雲の聲」がすこぶるよい。登山経験者ならこの語のリアルさが判る。]

 

子と連るゝ奧嶺の遊山(ゆさん)高西風す

 

[やぶちゃん注:「高西風」で「たかにし」と読む。関西地方以西で十月頃、特に高い所で急に強く吹く西風を指す。]

 

橡ひろふ杣を見かけし焚火かな

 

[やぶちゃん注:「橡」バラ亜綱ムクロジ目トチノキ科トチノキ属トチノキ Aesculus turbinata の実。栃の実。初秋に実果する。椿(ツツジ目ツバキ科 Theeae 連ツバキ属ヤブツバキ(藪椿)Camellia japonica)の実に似、熟すにつれて厚い果皮が割れて少数の種子を落とす。種子は栗(ブナ目ブナ科クリ属クリ Castanea crenata)に似て色が濃く、球状を成す。渋抜きして食用に供する。参照したウィキの「トチノキ」によれば、『デンプンやタンパク質を多く含』み、『食用の歴史は古く、縄文時代の遺跡からも出土している』が、渋抜きは小楢(ブナ科コナラ属コナラ Quercus serrata)や水楢(コナラ属ミズナラ Quercus crispula)などの果実(ドングリ)よりも手間がかかり、長期間流水に浸す、大量の灰汁で煮るなど高度な技術が必要だが、かつては耕地に恵まれない山村ではヒエやドングリと共に主食の一角を成し、常食しない地域でも飢饉の際の食料(飢救作物)として重宝され、天井裏に備蓄しておく民家もあった。積雪量が多く、稲作が難しい中部地方の山岳地帯では、盛んにトチの実の採取、保存が行われていた。そのために森林の伐採の時にもトチノキは保護され、私有の山林であってもトチノキの勝手な伐採を禁じていた藩もある。また、各地に残る「栃谷」や「栃ノ谷」などの地名も、食用植物として重視されていたことの証拠と言えよう。山村の食糧事情が好転した現在では、食料としての役目を終えたトチノキは伐採され木材とされる一方で、渋抜きしたトチの実をもち米と共に搗いた栃餅(とちもち)が現在でも郷土食として受け継がれ、土産物にもなっている』。『粉にひいたトチの実を麺棒で伸ばしてつくる栃麺は、固まりやすく迅速に作業しなければならないことから、慌てること、また慌て者のことを栃麺棒と呼ぶようになり、「栃麺棒を食らう」が略されて「面食らう」という動詞が出来たとされている』とある。因みに夏目漱石の「吾輩は猫である」の迷亭絡みの会話に出る奇体な「トチメンボー」のルーツは、これである。]

 

懸巣翔け雲うごきなき谿間かな

 

秋の嶽咫尺す啄木(けら)に日照雨せり

 

[やぶちゃん注:「咫尺」は「しせき」で、「咫」は中国の周の制度で八寸(周代のそれの換算で十八センチメートル)、「尺」は十寸(同前で二十二・五センチメートル)を言い、原義は、距離が非常に近いことを指す。ここではそこから派生した、貴人の前近くに出て拝謁することを、高嶺に鳴くキツツキ(後注参照)に洒落て言ったもの。

「啄木(けら)」鳥綱キツツキ目キツツキ亜目キツツキ科 Picidae のキツツキ、啄木鳥の古語。初夏によく鳴く昆虫綱直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目コオロギ上科ケラ科 Gryllotalpidae のケラ、螻蛄ではないので注意。

「日照雨」「そばへ(そばえ)」天気雨。一見晴れているのに、ある所だけ雨が降っている状態を指す。片時雨(かたしぐれ)。古語の甘えてふざける、じゃれつく、風雨が軽く吹き降るの謂いの「そばふ」(戲ふ(戯ふ))の連用形が名詞化したもの。]

 

露の巖乙女の草鞋結ばせぬ

 

我を待つよき娘に露の閾(しきゐ)かな

 

   一日アルプスの蒼天を飛行機過ぐ

 

午後三時秋雲を出し機影見ゆ

 

機影見え湯女らの叫(おら)び谺せり

 

機影ゆき秋雲の端に輕雷す

 

桐一葉湯女病む閨は西日滿つ

 

橡みのり温泉の裏嶽雲垂るる

 

[やぶちゃん注:「温泉の裏嶽」は「いでゆのりがく」と読んでいるか。]

 

高原光花壇は土の鎭まれる

 

高原光ピンポンの球ひそむ秋

 

[やぶちゃん注:最近は置かれる温泉宿も少なくなったが、我々の世代から上は温泉と言えば卓球である。なぜ温泉といえば卓球なのかを卓球の専門家に聞いてみたをリンクしておく。]

 

音のして花壇の零餘子霜枯れぬ

 

[やぶちゃん注:「零餘子」「むかご」。珠芽とも書く。ウィキによれば、『植物の栄養繁殖器官の一つ』で、『主として地上部に生じるものをいい、葉腋や花序に形成され、離脱後に新たな植物体となる』。『葉が肉質となることにより形成される鱗芽と、茎が肥大化して形成された肉芽とに分けられ、前者はオニユリ』(単子葉植物綱ユリ目ユリ科ユリ属オニユリ Lilium lancifolium)などで、後者はヤマノイモ科(単子葉植物綱ヤマノイモ目ヤマノイモ科 Dioscoreaceae)の種などで見られ、『両者の働きは似ているが、形態的には大きく異なり、前者は小さな球根のような形、後者は芋の形になる』。『食材として単に「むかご」と呼ぶ場合、一般には』ヤマノイモ(ヤマノイモ科ヤマノイモ属ヤマノイモ Dioscorea japonica)やナガイモ(ヤマノイモ属ナガイモ Dioscorea batatas)などの『山芋類のむかごを指す。灰色で球形から楕円形、表面に少数の突起があり、葉腋につく。塩ゆでする、煎る、米と一緒に炊き込むなどの調理法がある。また零余子飯(むかごめし)は晩秋・生活の季語である』とある。]

 

露の香や暾あたる嶺草撓むさま

 

[やぶちゃん注:老婆心乍ら、「つゆのかや/ひあたるみねくさ/たはむさま」である。]

 

秋の温泉に暮雲のいざる大嶺空

 

[やぶちゃん注:「温泉」「ゆ」と訓じ、「大嶺空」は「ダイレイクウ」と音で読んでおく。]

 

温泉の花壇をとめの貌をつぶらにす

 

むかご生り花圃のダリヤは咲き溢る

 

[やぶちゃん注:「生り」は「なり」。]

 

日を厭ひ球屋のをとめダリヤ剪る

 

[やぶちゃん注:「球屋」温泉街にありがちだったスマート・ボールか。推測なので、引用しないがウィキの「スマートボール」をリンクさせておく。]

 

花卉あふれ秋の墓石露滴るゝ

 

   歸路の鵞湖

 

秋鷺翔け繭町の湖鏡なす

 

[やぶちゃん注:「鵞湖」は「がこ」。諏訪湖の別称。句は「しふろ(しゅうろ)かけ/まゆまちのうみ/かがみなす」であろう。「繭町」は養蚕集落を指す造語であろう。諏訪湖周辺では古くから養蚕業が行われていた。信州の養蚕・製糸は明治期、上州を追い抜いて日本一から世界一にまでなった歴史がある。]

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