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2016/02/24

生物學講話 丘淺次郎 第十七章 親子(7) 四 命を捨てる親

     四 命を捨てる親

 

 生殖の目的は種族の維持にあるから、子の生存し得べき見込みが附いた上は、親の身體は最早無用となつて死ぬべき筈である。親と子とが相知らぬやうな種類の動物では、卵が生まれてしまへば、親はいつ死んでも差支はない。特に父親の方は受精を濟ませば最早用はないから、なるべく早く死んだ方が却つて種族の生存のためには經濟に當る。蜜蜂の雄が女王の體と繋がつたまゝで氣絶して死ぬのも、「かまきり」の雄が交尾しにまゝで頭の方から雌に食はれるのも、この理窟に過ぎぬ。子を産めば直に死ぬ動物は隨分多いが、或る種類の「さなだむし」の如くに子を産み出すべき孔がなく、子は親の體を破つて外に出るやうな動物では、親の個體を標準として論ずれば、姙娠は即ち自殺の覺悟に當る。これらは、子が出來ると同時に親の近々死なねばならぬことが定まるのであるが、一旦子が出來てから後に、親が子のために命を捨てるものも、決して珍しくはない。獸類や鳥類の如くに、親が子を大事に養育するものでは不意に敵に攻められた場合に親が身を以て子供を護り、そのため一命を落すことのあるは、獵師などから屢々聞く所であるが、かくまで執心に子を保護する性質が親に具はつてあることは、種族維持のために頗る有利であるから、本能として今日の程度までに進み來つたのであらう。

[やぶちゃん注:「蜜蜂の雄が女王の體と繋がつたまゝで氣絶して死ぬ」ウィキの「ミツバチ」には、膜翅(ハチ)目細腰(ハチ)亜目ミツバチ上科ミツバチ科ミツバチ亜科ミツバチ族ミツバチ属 Apis の『オスは女王バチと交尾するため、晴天の日を選んで外に飛び立つ。オスバチは空中を集団で飛行し、その群れの中へ女王バチが飛び込んできて交尾を行う。オスバチは交尾の際に腹部が破壊されるため交尾後死亡するが、女王バチは巣に帰還し産卵を開始する。交尾できなかったオスも巣に戻るが、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出される等して死に絶える』とあるが、『交尾の際に腹部が破壊されるため交尾後死亡する』理由が明確に述べられていないので、さらに調べてみると、個人サイトと思われる中の「養蜂・蜜蜂の神秘」の「4 女王蜂の交尾」に以下のようにある。『新女王は誕生して』七日目以後の、『晴れて風の少ない日に、生涯一度だけの、巣の外での交尾に出かけます。こうした交尾日和には周辺の地域にいる雄バチは地上』十メートルほどの『上空の一箇所に集まりたむろしています。別々の群のオスが何故一箇所に集まることが出来るかはフェロモンを感じてのことです。新女王はオスがたむろしている場所に現れて飛びます。女王を見るとオスは一斉に追いかけ、先頭のオスが交尾します。交尾が終わったオスは挿入したペニスを抜こうとしますが』、『ペニスと貯精嚢(睾丸)を女王の膣に残した状態で腹部からちぎれて、地上に落下して絶命します。次のオスが女王に追いつき、前のオスが残した性器を口で抜き落として、先のオスと同様に交尾します。こうした交尾を』十~十五匹の『オスが次々に繰り返しては落下して絶命します。十分にオスの精子を貯精嚢に溜め込んだ女王は、最後のオスの性器を付けたまま巣に帰還し、働き蜂が最後のオスの性器を除去し、以後、受精卵を産み続けることが出来ます。時にはオスを作るために貯精嚢の蓋を閉じて無精卵を産み分けることもできます。不幸にも交尾出来なかった多くのオスはそれぞれの巣に戻ります』とあった(下線やぶちゃん)。凄絶の極み!!!

『「かまきり」の雄が交尾したまゝで頭の方から雌に食はれる』以前に注しているが、再度注しておく。種によって異なるものの、最新の知見では交尾中にに食われる頻度は必ずしも高くはないという。私は、カマキリ(昆虫綱カマキリ(蟷螂)目 Mantodea)の交尾時には、種によっては高い頻度でに食われ、それはカマキリが近眼で、交尾時でも通常の際と同様に動くものを反射的に餌として捕食してしまうものと認識していた(実際、私は小学生の時に頭部を交尾をしたカマキリで、一方の(と思われる個体の)頭が失われているのを見たことがあったし、サソリのある種ではが頭胸部の下方に無数の子供を抱いて保育するが、落下して母親の視界に入ってしまうと、彼らは近眼であるために大事に育てているはずの子供を食べてしまう映像を見たことがある)。また、正上位での交尾ではそのリスクが高まるため、近年、のカマキリの中には後背位で交尾をして交尾後直ちに現場を去るという個体が見られるようになったという昆虫学者の記載を読んだこともあって、かつて授業でもしばしばそう話したのを記憶している諸君も多いであろう。しかし今回、ウィキの「カマキリ」の「共食い」の記載の見ると、幾分、異なるように書かれてある。一応、以下に引用しておきたい(オス(雄)・メス(雌)を記号に代えた)。『共食いをしやすいかどうかの傾向は、種によって大きく異なる。極端な種においてはに頭部を食べられた刺激で精子嚢をに送り込むものがあるが、ほとんどの種のは頭部や上半身を失っても交尾が可能なだけであり、自ら進んで捕食されたりすることはない。日本産のカマキリ類ではその傾向が弱く、自然状態でを進んで共食いすることはあまり見られないとも言われる。ただし、秋が深まって捕食昆虫が少なくなると他の個体も重要な餌となってくる』。『一般に報告されている共食いは飼育状態で高密度に個体が存在したり、餌が不足していた場合のものである。このような人工的な飼育環境に一般的に起こる共食いと交尾時の共食いとが混同されがちである。交尾時の共食いもが自分より小さくて動くものに飛びつくという習性に従っているにすぎないと見られる。ただしを捕食することはなく、遺伝子を子孫に伝える本能的メカニズムが関係していると考えられる(すなわちを捕食してはDNAが子孫に伝わらなくなる)。また、このような習性はクモなど他の肉食性の虫でも見られ、特に珍しいことではない』『また、それらのを捕食する虫の場合、が本能的にいくつものと交尾をし、体力を使いすぎて最後に交尾したの餌になっている場合もある』。私の話はカマキリの種によっては誤りではない、と一応の附言はしておきたい。]

『或る種類の「さなだむし」の如くに子を産み出すべき孔がなく、子は親の體を破つて外に出る』ウィキの「サナダムシ」によれば、サナダムシは扁形動物門条虫綱 Cestoda に属する成体の形状が真田紐(さなだひも)に似ている寄生虫の総称で(英語も「Tapeworm」)、単節条虫亜綱 Cestodaria 及び多節条虫(真正条虫)亜綱 Eucestoda の二亜綱に分かれるものの、殆どは後者に属する。

単節条虫亜綱は、

両網目 Amphilinidea(アンフィリナ/ヨウヘンジョウチュウ(葉片条虫):チョウザメ(条鰭綱軟質亜綱チョウザメ目チョウザメ科 Acipenseridae のチョウザメ(蝶鮫)類)に寄生)

と、

槢吸盤(しゅうきゅうばん)目 Gyrocotylidea(ギロコティレ/エンバイジョウチュウ(円杯条虫):ギンザメ(軟骨魚綱全頭亜綱ギンザメ目ギンザメ科ギンザメ属ギンザメ Chimaera phantasma )に寄生)

で、多節条虫(真正条虫)亜綱の方は、

果頭目 Caryophyllidea

箆頭(へいとう?)目 Spathebothriidea

錐吻目 Trypanorhyncha

擬葉目 Pseudophyllidea(裂頭条虫科裂頭条虫属コウセツレットウジョウチュウ(広節裂頭条虫=ミゾサナダ)Diphyllobothrium latum・裂頭条虫科スピロメトラ属マンソンレトウジョウチュウ(マンソン裂頭条虫)Spirometra erinaceieuropaei・裂頭条虫科裂頭条虫属ニホンカイレットウジョウチュウ(日本海裂頭条虫)Diphyllobothrium nihonkaiense・裂頭条虫科 Sparganum 属ガショクコチュウ(芽殖孤虫)Sparganum proliferum 等)

盤頭目 Lecanicephalidea

無門目 Aporidea

四葉目 Tetraphyllidea(キュウヨウジョウチュウ(吸葉条虫/学名不詳)・キュウコウジョウチュウ(吸鈎条虫/学名不詳)

二葉目 Diphyllidea

菱頭目 Litobothridea

日本条虫目 Nippotaeniidea

変頭目 Proteocephalidea

二性目 Dioectoaeniidea

円葉目 Cyclophyllidea(ディフィリディウム科(新科名)ウリザネジョウチュウ(瓜実条虫=犬条虫)Dipylidium caninum・テニア科 Cysticercus 属ユウコウジョウチュウ(有鉤嚢虫=カギサナダ)Cysticercus cellulosae テニア科テニア属ムコウジョウチュウ(無鉤条虫=カギナシサナダ)Taenia saginata・テニア科エキノコックス属 Echinococcus エキノコックス類等)

に分類され、多くの種が存在する。彼らは普通は雌雄同体であり、同ウィキに『多節条虫亜綱のものは、頭部とそれに続く片節からなる。頭部の先端はやや膨らみ、ここに吸盤や鉤など、宿主に固着するための構造が発達する。それに続く片節は、それぞれに生殖器が含まれており、当節から分裂によって形成され、成熟すると切り離される。これは一見では体節に見えるが、実際にはそれぞれの片節が個体であると見るのが正しく、分裂した個体がつながったまま成長し、成熟するにつれて離れてゆくのである。そのため、これをストロビラともいう。長く切り離されずに』十メートルにも『達するものもあれば、常に数節のみからなる』数ミリメートル程度の『種もある。切り離された片節は消化管に寄生するものであれば糞と共に排出され、体外で卵が孵化するものが多い』とある。しかし丘先生のおっしゃる種は、そうした分裂生殖した個体の謂いとは異なるものとしか読めない。種同定することが出来ない(だいたいからして寄生虫の分類学は本邦ではかなり遅れているようである)。母体を食い破って幼体が出現するというサナダムシの仲間、識者の御教授を乞うものである。]

 

 鳥獸などの如き神經系の發達した動物が、命をも捨てて我が子を護る働は、人間自身に比べて、よく了解することが出來るが、小さい蟲類になると、人間では思ひ掛けぬやうな方法で、子を保護するものがある。蛾の中で「まいまい蛾」と稱する普通の種類は、卵を一塊産み著けると、その表面に自分の身體に生えて居た毛を被せて蔽ひ包み、まるで黃色の綿の塊の如くに見せて置く。これは母親が即座に命を捨てるわけではないが、まづ自分の毛を全く失ふこと故、人間の女に譬へていへば恰も綠の黑髮を根元から切つて子供の夜具に造り、しかる後に自害するやうなものであらう。また植物に大害を與へる貝殼蟲の類には、死んでもその場處に留まり、自分の乾からびた死骸を以て卵の塊を蔽ひ保護するものがある。貝殼蟲は初は「ありまき」の如くに六木の足を以て匍ひ歩くが、一箇處に止まり、吻を植物の組織の中へ差込んで動かぬやうになると、體が恰も皿か貝殼かの如き形に變じ、一見しては昆蟲とは思はれぬやうなものになる。そして成熟して産卵する頃に至ると、蟲の柔い身體は背面の貝殼の如き部とは離れ、貝殼に被はれたまゝでその内で卵を産むが、卵を一粒産むたびに親の身體はそれだけ容積が減じ、悉く卵を産み終れば貝殼の内部は全く卵のみで滿され、親の體は恰も空の紙袋の如くになつて貝殼の一隅に縮んでしまふ。これに類する死に方をするものはなほ幾つもあるが、こゝには略して、次に一つ全く別の方面に、親が子のために一身を犧牲に供するものの例を擧げて見よう。

[やぶちゃん注:「まいまい蛾」鱗翅(チョウ)目ヤガ上科ドクガ科マイマイガ属マイマイガ Lymantria dispar である。ウィキの「マイマイによれば、ドクガ科ではあるが、『アレルギーでもない限り、人が害を被ることはほとんどない』。但し、一齢幼虫には『わずかだが毒針毛があり、触れるとかぶれる。卵』・二齢以降の幼虫・繭・成虫『には毒針毛はない』とあるので偏見を持たぬように。また、『他のドクガ科と同様、卵は一箇所にまとまって産み付けられ、表面にはメスの鱗毛が塗られ保護される』とある(下線やぶちゃん)。またこの和名については「舞々蛾」らしく、本種は七月から八月にかけて羽化するが、『オス成虫は活動的で、日中は森の中を活発に飛び回る。和名のマイマイガはオスのこの性質に由来していると言われる。対照的に、メスは木の幹などに止まってじっとしており、ほとんど飛ぶことはない。交尾後に産卵を終えると成虫は死に、卵で越冬する』とある。

「貝殼蟲」有翅昆虫亜綱半翅(カメムシ)目同翅(ヨコバイ)亜目カイガラムシ上科 Coccoidea に分類される昆虫の総称。ウィキの「カイガラムシ」によれば(下線やぶちゃん)、『果樹や鑑賞樹木の重要な害虫となるものが多く含まれ』る一方、古くから『いくつかの種で分泌する体被覆物質や体内に蓄積される色素が重要な経済資源ともなっている分類群である』。『熱帯や亜熱帯に分布の中心を持つ分類群であるが、植物の存在するほぼ全ての地域からそれぞれの地方に特有のカイガラムシが見出されており、植物のある地域であればカイガラムシも存在すると考えても差し支えない。現在』、世界では約七千三百種が『知られており、通常は』二十八科に『分類されている。ただしカイガラムシの分類は極めて混乱しており、科の区分に関しても分類学者により考え方が異なる』。『日本に分布する代表的な科としてはハカマカイガラムシ科 Orthezidae 、ワタフキカイガラムシ科 Margarodidae 、コナカイガラムシ科 Pseudococcidae 、カタカイガラムシ科 Coccidae 、マルカイガラムシ科 Diaspididae などがある』。同じような食性を持つ半翅目の腹吻亜目アブラムシ上科 Aphidoidea のアブラムシ類(本文の「ありまき」のこと)などの腹吻類の『昆虫は、基本的に長い口吻(口針)を植物組織に深く差し込んで、あまり動かずに篩管液などの食物を継続摂取する生活をし、しばしば生活史の一時期や生涯を通じて、ほとんど動かない生活をする種が知られる。その中でもカイガラムシ上科は特にそのような傾向が著しく、多くの場合に脚が退化する傾向にあり、一般的に移動能力は極めて制限されている』。『脚が退化する傾向にはあるものの、原始的な科のカイガラムシではそこに含まれるほとんどの種が機能的な脚を持っており、中には一生自由に動き回ることができる種もいる。イセリアカイガラムシやオオワラジカイガラムシはその代表例で、雌成虫に翅は通常無いものの、雌成虫にも脚、体節、触角、複眼が確認できる。しかしマルカイガラムシ科などに属するカイガラムシでは、卵から孵化したばかりの』一齢幼虫の『時のみ脚があり自由に動き回れるが』、二齢幼虫以降は『脚が完全に消失し、以降は定着した植物に完全に固着して生活するものがいる。こうしたカイガラムシでは』、一齢幼虫以外は『移動することは不可能で、脚以外にも体節、触角、複眼も消失する。雌の場合は、一生を固着生活で送り、そのまま交尾・産卵、そして死を迎えることになる』。『基本的には固着生活を営む性質のカイガラムシでも、一部の科以外のカイガラムシでは機能的な脚を温存しており、環境が悪化したり、落葉の危険がある葉上寄生をした個体が越冬に先駆けて、歩行して移動する場合もある』。『だが、基本的に脚が温存されるグループのカイガラムシであっても、樹皮の内部に潜入して寄生する種やイネ科草本の稈鞘』(かんしょう:「稈」は稲や竹など中空になっている茎の部分で、イネ科植物全般の茎につく葉の基部にある鞘(さや)状の部分を指す)『下で生活する種などでは、脚が退化してしまい成虫においては痕跡的な脚すら持たないものもいる』。『また固着性の強い雌と異なり、雄は成虫になると翅と脚を持ち、自由に動けるようになる。だが、雄でも幼虫の頃は脚、体節、触角、複眼が消失し、羽化するまで固着生活を送る種が多い』。『もうひとつカイガラムシに特徴的な形質は体を覆う分泌物で、虫体被覆物と呼ばれる。虫体被覆物の主成分は余った栄養分と排泄物である。多くのカイガラムシが食物としているのは篩管』(しかん:「師管」とも書き、植物の維管束を構成する主部分。葉で合成された同化物質を下へ流す通管で細長い細胞が縦に繫がった管状組織。細胞の境の膜(篩板)に多数の小孔を有する)『に流れる液であり、ここに含まれる栄養素は著しく糖に偏った組成となっている。これをカイガラムシの体を構成する物質として同化すると、欠乏しがちな窒素やリンなどと比して、炭素があまりにも過剰になってしまうので、これを処理する必要がある。処理の手段の一つは食物に含まれる過剰の糖と水分を、消化管にある濾過室という器官で消化管の経路をショートカットさせて糖液として排泄してしまうことであり、この排泄された糖液を甘露という。また、体内に取り込まれた過剰の糖分は炭化水素やワックスエステル、樹脂酸類などといった、蝋質の分泌物に変換されて体表から分泌され、虫体被覆物となる。カイガラムシの種類によっては、甘露などの消化管からの排泄物を体表からの分泌物とともに虫体被覆物の構成要素としている』。『通常虫体が露出しているように見える種のカイガラムシでも、その表面は体表の分泌孔や分泌管から分泌されたセルロイド状の分泌物の薄いシートで被覆されている。また、分泌物の量が多いものでは体表が白粉状や綿状、あるいは粘土状の蝋物質で覆われていることが容易に観察できる』。『マルカイガラムシ科のカイガラムシは多くの科のカイガラムシとは少々様相が異なり、英語で Armored scale insects と呼ばれるように、虫体からは分離して、体の上を屋根のように覆う介殻と呼ばれる貝殻状の被覆物の下で生活している。これは体表の腺から分泌される繊維状の分泌物などを腹部末端の臀板と呼ばれる構造を左官職人の用いる鏝(こて)のように用いて壁を塗るように作り上げられる。このとき虫体は口針を差し込んでいる箇所を中心に回転運動して広い範囲に分泌物を塗りこむ。この介殻も、余った栄養分と排泄物から成り立っている』。『典型的な不完全変態である他のカメムシ目(半翅目)の昆虫と異なり、仮変態(新変態、副変態とも)と呼ばれる変態を行う。雌雄では成長過程が大幅に異なっている』。『雌の場合』、二齢幼虫を『経て成虫になるが、脱皮せずにそのまま成虫になる種が多く見られる。これは脚などが消失し、固着生活を送る種では顕著に見られる。すなわち、羽化をせずに成虫になる。このような種では体内に大きな卵のうを有しているため産卵活動もせず、交尾後、雌成虫の死骸から孵化した』一齢幼虫が『這い出してくる形となる。また、脚などが消失せず、移動生活を送る種でも、羽化して成虫になる種は多くない』。雄の場合、三齢幼虫を『経て成虫になるが』、この三齢幼虫は『擬蛹と呼ばれる。つまり、完全変態昆虫の蛹に該当するが、体内構造が完全変態昆虫の蛹のそれとは大幅に異なっている』。その特異性から『「カイガラムシの雄には蛹の期間があるため、完全変態である」という説明がよくされるが、厳密には不完全変態であり、不完全変態と完全変態の中間的な性質をもち特殊化した物と考えられている。前出の仮変態もこれに因んでいる。そして、羽化して翅と脚を有する成虫になる』。翅は二対四枚あるが、退化して一対二枚しかない『種も多く存在する。雄成虫には口吻がなく、精巣が異常なまでに発達している。そして、交尾を済ませるとすぐに死んでしまう。雄成虫の寿命は数時間から数日程度で、交尾のためだけに羽化する』。『近年、カイガラムシ上科に属する種の中には、雌雄が逆転し、雄が一生を固着生活で終えるのに対し、雌が擬蛹~羽化によって有翅の成虫となる種も発見されている。そして、活発に交尾・産卵をして短い成虫期間を生殖に費やす。また、雌雄ともに擬蛹~成虫というプロセスをたどる種も発見されている。さらには、最終齢幼虫(擬蛹)が不動ではなく摂食する種も存在する。だが、これらの種をカイガラムシ上科に分類するべきではない、とする学説も存在する。カイガラムシの分類学的研究が大幅に遅れているため、これらの種に対して決定的な分類は未だされていない』。『草食性で、大半の被子植物に寄生し、口吻を構成する口針を植物の組織に深く突き刺して、篩管などの汁液を摂取する。食物は維管束から篩管液を摂取するものが多いが、葉に寄生するものを中心に、葉肉細胞などの柔組織の細胞を口針で破壊して吸収するものも少なくない。雌成虫は口吻が異常なまでに発達している種が多く、固着生活を送る種では顕著である。これらの種では寄生している植物から引き剥がしても、口吻が確認できないことが多い。引き剥がした際、口吻まで引きちぎられて宿主植物の内部に残存してしまっていることが多いからである。そのため、宿主植物から引き剥がされた固着性のカイガラムシは、すぐに死んでしまうことが多い。また、移動生活を送る種の場合は、口吻で植物体にくっついているが、それ以外の部分は密着していないため、寄生している植物から引き剥がしても口吻が確認できる。腹面に隠れている頭部全体や脚も確認できることが多い』。以下、「資源生物」の項(「害虫」の項は思うところあって省略する。「害虫」とは人間の勝手な命名であって、彼らはただ生命を維持するために少しばかりの摂餌をしているに過ぎない。爆発的な個体数の増加は寄生虫や病気の蔓延と次世代の飢餓を惹き起こして繁栄即滅亡の危機に繋がる。そうしてそういう異常発生が生じるのは大抵が人が手を入れた非自然環境で発生する)。『カイガラムシの資源生物としての利用は、多くの場合体表に分泌される被覆物質の利用と、虫体体内に蓄積される色素の利用に大別される』。『被覆物質の利用で著名なものはカタカイガラムシ科のイボタロウムシ Ericerus pela (Chavannes, 1848) である。イボタロウムシの雌の体表は薄いセルロイド状の蝋物質に覆われるだけでほとんど裸のように見えるが、雄の』二齢幼虫は『細い枝に集合してガマの穂様の白い蝋の塊を形成する。これから精製された蝋は白蝋(Chinese wax)と呼ばれ、蝋燭原料、医薬品・そろばん・工芸品・精密機械用高級ワックス、印刷機のインクなどに使われている。主な生産国は中国で、四川省などで大規模に養殖が行われている。かつては日本でも会津地方で産業的に養殖された歴史があり、会津蝋などの異名も持つが、現在では日本国内では産業的に生産されていない。会津蝋で作られた蝋燭は煙がでないとされ珍重された』。『色素の利用で著名なものに中南米原産のコチニールカイガラムシ科のコチニールカイガラムシ Cochineal Costa, 1829 がある。エンジムシ(臙脂虫)とも呼ばれ、ウチワサボテン属に寄生し、アステカやインカ帝国などで古くから養殖されて染色用の染料に使われてきた。虫体に含まれる色素成分の含有量が多いので、今日色素利用されるカイガラムシの中ではもっともよく利用され、メキシコ、ペルー、南スペイン、カナリア諸島などで養殖され、染色用色素や食品着色料、化粧品などに用いられている。日本でも明治初期に小笠原諸島で養殖が試みられた記録があるが、失敗したようである』。『こうしたカイガラムシの色素利用は新大陸からもたらされただけでなく、旧大陸でも古くから利用されてきた。例えば地中海沿岸やヨーロッパで古くからカーミンと呼ばれて利用されてきた色素はタマカイガラムシ科の Kermes ilicis (Linnaeus, 1758) から抽出されたものだった。カイガラムシ起源の色素はすべてカルミン酸とその近縁物質で、この名称はカーミンに由来する。ネロ帝の時代に、ブリタンニア地方に生息していたカイガラムシを染料として利用する方法が発見され、属州から税金の代わりにとして納められていた時代もある』。『虫体被覆物質と虫体内色素の両方を利用するものに Lac に代表されるラックカイガラムシ科』 Kerriidaeの『ラックカイガラムシ類が挙げられ、インドや東南アジアで大量に養殖されている。ラックカイガラムシの樹脂様の虫体被覆物質を抽出精製したものはシェラック(Shellac、セラックともいう)と呼ばれ、有機溶媒に溶かしてラックニスなどの塗料に用いられるほか、加熱するといったん熱可塑性を示す一方である温度から一転して熱硬化性を示すので様々な成型品としても用いられ、かつてのSPレコードはシェラック製だった。化粧品原料、錠剤、チョコレートのコーティング剤としても使われる』。『また、ラックカイガラムシの虫体内の色素は中国では臙脂(えんじ)や紫鉱、インドではラックダイと呼ばれ、染料として古くから盛んに用いられた』。『また、特殊な利用に糖分を多く含んだ排泄物の利用がある。旧約聖書の出エジプト記にしるされているマナと呼ばれる食品は、砂漠地帯で低木に寄生したカイガラムシの排泄した排泄物(甘露)が急速に乾燥して霜状に堆積したものと推測されている』。]

 

 夏日花のある處に澤山飛んで來「はなばち」・「まるばち」などといふ蜂の類は體が丸くて、黑色や黄色の「びろうど」の如き毛で被はれて居るが、この蜂の雌が、冬成蟲のまゝで隱れて居るのを取つて解剖して見ると、その體内に奇妙な寄生蟲の居ることが往々ある。長さ一・五糎ばかりに達する小さな「なまこ」狀の囊で、その内には小さな蛔蟲に似た蟲が澤山居るが、さてこの囊の形が内なる子供と著しく違ふから、確に親であるとも見えず、一體如何にして出來たものか、そのまゝでは到底知れ難い。しかし内なる子供が生長して終に次の代の子を産むに至るまでの發育の順序を詳に調べると、この囊の素性が明に知れる。子供は囊の内で或る程度まで生長すると、囊を破つて出で、次いで蜂の體からも出で地中で獨立に生活し、長さ一粍位になると生殖の器官も十分に成熟する。かくして交尾の後、雄は直に死んでしまふが、雌は「はなばち」の體内に潜り込み、その中で母の體内の子供が段々發育するのである。そしてその際、母の體に意外な變化が生ずる。即ち前圖の通り、生殖器の開き口に直に接する膣と稱する部が、恰も巾著を裏返しにした如くに裏返しとなつて、生殖器の孔から體の外面に現れ出る。膣の内面は外面となつて、直に宿主動物の組織に觸れてこれから滋養分を吸收し、膣の續きなる子宮は、内に子を容れたまゝ膣が裏返しになつたために出來た囊の内に入り來り、内の子の生長すると共に次第に大きくなる。これに引き換へ、膣と子宮とが體外へ脱出した後の母の體はそのまゝ少しも生長せぬから、膣の裏返しになつて出來た囊が長さ一・五糎にもなつた頃には、たゞ極めて小さな附屬物として、その一端に附著して居るに過ぎぬ。膣が裏返しになつて體外へ現れ出ることは、「膣外翻」と稱して人間の女にも往々見る所であるが、こゝに述べた蟲では、このことが規則となり、姙娠すれば必ず膣外翻が起り、しかも新に外向きになつた膣の内面は、宿主動物から滋養分を吸收して、胎兒に供給すべき器官として更に大に發達するのである。その代り、殘りの母の體は最早不用物として、終には宿主動物の組織に吸收せられてしまふの外はない。子を宿主動物の體内でよく發育せしめるために、母體にかやうな變化の生ずる蟲は、今述べたものの外になほ甲蟲類に寄生するもの、蠅類に寄生するものなどが幾種もある。

Hatikiseityu

[     蜂の寄生蟲

(い) 膣の半ば裏返つで出た雌(長さ約一粍)

(ろ) 膣が全く裏返つて大きくなつた雌

(は) 生長し終つた膣の囊(長さ一・五糎)その一端に附著するのは雌の體

(に) 雄]

 

[やぶちゃん注:以上の図は底本の国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像からトリミングし、補正を加えたものであるが、実は本図は底本画像では上段右端の図が「は」となっていて、「は」が二箇所で「に」が存在しない。これは明らかに誤植であるので、学術文庫で確認したところ、上段右端の図は「に」で同寄生虫のの図であり、下段の大きなものは実は同寄生虫のの膣の巨大化したもの(右で左にカーブした端に糸のように附着している逆「へ」の字型のものがの体)であることが判った。そこで「に」であるべき「は」を「に」に見えるよう、加工補正を施しておいた。また、私の判断で読まれる方の意外感をなるべく保つために今までとは違って最後の方に図を持って来て置いた。この寄生虫は図のその形状から見て線形動物門 Nematoda の線虫類と見て、画像で海外サイトを検索してみたところ、どうもマルハナバチに寄生する(同種の英語版ウィキを参照)双腺綱Tylenchida Sphaerulariidae Sphaerularia Sphaerularia bombi なる種或いはその仲間であるように私には思われた(例えばロシア語のサイトРис. 192 (zu) Sphaerularia bombi из полости тела шмеляの図と解説を見よ)。識者の御教授を乞うものである(それにしても日本の学術記載の貧困さは啞然とするばかりである)。

「はなばち」膜翅(ハチ)目細腰(ハチ)亜目ミツバチ上科 Apoidea の属する蜂類の中で、幼虫の餌として花粉や蜜を蓄える類の総称である。代表種はミツバチ上科ミツバチ科ミツバチ亜科ミツバチ族ミツバチ属 Apis のミツバチ類・ミツバチ科クマバチ亜科クマバチ族クマバチ属 Xylocopa のクマバチ類・ミツバチ亜科(或いはマルハナバチ亜科 )マルハナバチ族マルハナバチ属 Bombus のマルハナバチ類などで、参照したウィキの「ハナバチ」によれば、『英語のBeeの意味する範囲に相当する』とある。

「まるばち」現行ではこの呼び名は一般的でない。前注のマルハナバチ属 Bombus のマルハナバチ類ととっておく。

「膣外翻」「ちつがいはん」と読む。「人間の女にも往々見る所」とあるが、これは現行では重症の「骨盤臓器脱」とされる「完全子宮脱」で、膣が完全に外翻(体の外にめくれ出る状態)して子宮が股間部にぶら下がった形となる症状を指す(医療法人「四谷メディカルキューブ」公式サイト内の骨盤臓器脱(性器脱)に拠る)。

「甲蟲類に寄生するもの、蠅類に寄生するもの」識者の御教授を乞う。]

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