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« 和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 木蜂 | トップページ | 和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 露蜂房 »

2016/03/31

和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 大黃蜂 附 胡蜂

Yamabati

やまはち

大黃蜂         【也末波知】

タアヽ ハアン フヲン

 

[やぶちゃん注:ここ以降は、今まで絵の下の項目名の上下を分割して並べて表記していたものを、原則そのまま表記することとする。]

 

本綱大黃蜂其狀比蜜蜂更大其色黃在人家屋上及太

木間作房大者如巨鐘其房數百層土人采時着草衣蔽

身以捍其毒螫復以烟火熏去蜂母乃敢攀緣崖木斷其

蒂一房蜂兒五六斗至一石捕狀如蠶蛹瑩白者然房中

蜂兒三分之一翅足已成則不堪用

 くろはち

 胡蜂

[やぶちゃん注:以下は原典では「二種也」までが「胡蜂」の下、二字下げの位置に記されてある。この注は書き下し文では略す。]

壺蜂2蜂玄瓠蜂大黃蜂之黑色者也

凡物黒者謂胡故也乃是大黃蜂一類二種

[やぶちゃん字注:「1」=「侯」+「瓜」。「2」=「婁」+「瓜」。]

按黒蜂遍身正黒唯背一處自頸至腰正黃身肥圓四

翅六脚其脚末曲如鐡把而尻出刺能螫人

 

 

やまばち

大黃蜂         【也末波知。】

タアヽ ハアン フヲン

 

「本綱」、大黃蜂は其の狀〔(かたち)〕、蜜蜂に比すれば、更に大なり。其の色、黃なり。人家屋の上、及び太木〔(たいぼく)〕の間に在り、房を作る。大なる者は、巨鐘のごとく、其の房、數百層。土人、采る時、草の衣を着て、身を蔽(おほ)ひ、以て其の毒螫〔(どくばり)〕を捍(ふせ)ぐ。復た、烟火を以て熏〔(ふす)〕び、蜂の母を去り、乃ち敢へて崖・木に攀緣(よぢのぼ)りて、其の蒂(へた)を斷(き)る。一房に蜂兒(こ)、五、六斗より一石〔(こく)〕に至る。狀、蠶(かいこ)の蛹(こ)のごとく瑩白〔(えいはく)〕なる者を捕る。然れども、房中の蜂の兒、三分の一、翅・足、已に成れば則ち用ふるに堪へず。

 くろばち

 胡蜂

壺蜂〔(つぼばち)〕・2蜂〔(こうらうほう)〕・玄瓠蜂〔(げんこほう)〕大黃蜂の黑色なる者なり。凡そ、物の黒〔なる〕者を「胡」と謂ふ故なり。乃ち、是れ、大黃蜂と一類二種なり。

[やぶちゃん字注:「1」=「侯」+「瓜」。「2」=「婁」+「瓜」。]

按ずるに、黒蜂、遍身、正黒。唯だ、背一處、頸より腰に至りて、正黃。身、肥〔へ〕、圓〔(まろ)〕く、四の翅、六の脚。其の脚の末、曲りて鐡把のごとくにして、尻、刺〔(はり)〕出でて、能く人を螫す。

 

[やぶちゃん注:さてもこの二種も同定はすこぶる迂遠である。

 今までの記載の流れから言えば、この「大黃蜂」は大型種で黄色の紋を持ち、人家の屋上や大木の間に恐ろしく大きな多重層構造の巣を営巣し、人が食用にするためにその「蜂の子」(蜜でない点に注意)を採取する際には刺されないように厳重な防護服を身につけるとあることから、これ、すんなりと、

細腰(ハチ)亜目スズメバチ上科スズメバチ科スズメバチ亜科スズメバチ属オオスズメバチ Vespa mandarinia 或いはヒメスズメバチ Vespa ducalis などの中大型のオオスズメバチ属 Vespa のスズメバチの仲間

と同定して何ら問題ないようにも思われかも知れない。

 しかし、である。この挿絵をよく見て戴きたい

 このずんぐりとしたそれは、これ、どう見ても、オオスズメバチ或いはスズメバチ亜科 Vespinae のそれのようには私には見えないのである。この絵のそれは形状(腹部の縞部分に眼をつぶると)は私には、

細腰(ハチ)亜目ミツバチ上科ミツバチ科クマバチ亜科クマバチ族クマバチ属 Xylocopa

の類に見えるのである。因みに、本邦のクマバチ類は一種ではない。ウィキの「クマバチ」によれば、一般に我々が「クマバチ」(熊蜂)と認識している、

クマバチ(キムネクマバチ) Xylocopa appendiculata circumvolans(北海道南部から屋久島に分布)

以外に、

アマミクマバチ Xylocopa amamensis(口永良部島から徳之島に分布)

オキナワクマバチ Xylocopa flavifrons(沖永良部島から沖縄本島に分布)

アカアシセジロクマバチ Xylocopa albinotum(多良間島から与那国島に分布)

オガサワラクマバチ Xylocopa ogasawarensis(小笠原諸島の父島列島・母島列島に分布)

する他、外来侵入種として、

タイワンタケクマバチ Xylocopa tranquebarorum

が二〇〇七年に東海地方で確認されているとある。

 そう考えたところで、「大黃蜂」の同異種として示してあるところの、この「胡蜂(くろばち)」の本文記載を読むと、

全身が真っ黒であるが、ただ、背の一ヶ所だけ、具体には頸部から腰部にかけて真っ黄色であり、その身はよく肥えて丸く、四枚の翅で六脚とし、その脚の尖端は曲って鉄の取っ手のような形状を成す

という。これを読むや、これはもう(以下、引用はウィキの「クマバチから)、

『体長は』二センチメートルを『超え、ずんぐりした体形で、胸部には細く細かい毛が多い。全身が黒く、翅も黒い中、胸部の毛は黄色いのでよく目立つ。体の大きさの割には小さめな翅を持つ。翅はかすかに黒い』。は『顔全体が黒く、複眼は切れ長。額は広く、顎も大きいため、全体に頭が大きい印象。それに対し』て、は『複眼が丸く大き目で、やや狭い額に黄白色の毛が密生し、全体に小顔な印象』

とある、

クマバチ属 Xylocopa と完全に一致するように私には見える

のである。なお、本文では、尻に針が突出しており、よく人を刺す、とあるのであるが、クマバチはのみが棘針を持ち、『巣があることを知らずに巣に近づいたり、個体を脅かしたりすると刺すことがあるが、たとえ刺されても重症に至ることは少ない(アナフィラキシーショックは別)』とある。

 さてそうして、同ウィキはさらに「スズメバチとの誤解」という特別項を設け、

クマバチ『は大型であるために、しばしば危険なハチだと』誤『解されることがあり、スズメバチとの混同がさらなる誤解を招いている。スズメバチのことを一名として「クマンバチ(熊蜂)」と呼ぶことがあり』、『これが誤解の原因のひとつと考えられる』。しかし、『花粉を集めるクマバチが全身を軟らかい毛で覆われているのに対して、虫を狩るスズメバチ類はほとんど無毛か粗い毛が生えるのみであり、体色も大型スズメバチの黄色と黒の縞とは全く異なるため、外見上で取り違えることはまずない』のが冷静な観察上の事実なのである。この誤解については、『ハチ類の特徴的な「ブーン」という羽音は、我々にとって「刺すハチ」を想像する危険音として記憶しやすく、特にスズメバチの羽音とクマバチの羽音は良く似た低音であるため、同様に危険なハチとして扱われやすい。クマバチは危険音を他のハチ類と共有することで、哺乳類や鳥類に捕食されたり巣を狙われたりするリスクを減らしている、という説もある』(但し、ここの説には要出典要請がかかっている)。また、文学やメディア上の影響として、『かつて、児童文学作品の』「みつばちマーヤの冒険」(ドイツの作家ワルデマル・ボンゼルス(Waldemar Bonsels 一八八一年~一九五二年)の一九一二年作のDie Biene Maja und ihre AbenteuerThe Adventures of Maya the Bee))『において、蜜蜂の国を攻撃するクマンバチの絵がクマバチになっていたものがあったり』、メルヘン・テレビ・アニメーション「昆虫物語 みなしごハッチ」(原作・制作は吉田竜夫。初回放映は昭和四五(一九七〇)年四月七日から翌年十二月二十八日までフジテレビ系で放送。全九十一回)の第三十二話「ひとりぼっちの熊王」の中で、『略奪を尽くす集団・熊王らがクマバチであった。少なくとも日本において、ミツバチのような社会性の蜂の巣を集団で襲撃するのは肉食性のスズメバチ(特にオオスズメバチ)であり、花粉や蜜のみ食べるクマバチにはそのような習性はない。この様に、本種が凶暴で攻撃的な種であるとの誤解が多分に広まってしまっており、修正はなかなか困難な様子である』

とあるのである(最後の部分は昆虫の苦手な私でも知っている、昆虫愛好家の間では、かなり有名な批判対象ネタである)。なお、クマバチの呼称についても以下のようにある。

『「クマ」とは哺乳類の熊のほか、大きいもの強いものを修飾する語として用いられる。このため、日本各地の方言において「クマンバチ」という地域が多数あるが、クマンバチという語の指す対象は必ずしもクマバチだけではない場合』(他に地域によってスズメバチ・マルハナバチ・ウシアブなど多様な別種を指す)『があり、多様な含みを持つ語である。クマバチとクマンバチでは別のハチを指す場合もある』

さても、これも私は「クマバチ」の兇悪誤認に強く影響していると考えている(下線部は総てやぶちゃん。なお、同ウィキには『「ン」は熊と蜂の橋渡しをする音便化用法であり、方言としても一般的な形である』ともある)。

 以上から、私は、取り敢えず、

「大黃蜂」は攻撃性の強いオオスズメバチ Vespa mandarinia 或いはヒメスズメバチ Vespa ducalis などの中大型のオオスズメバチ属 Vespa のスズメバチの仲間を主記載としながらも、性質の至って温和なクマバチ属 Xylocopa を幾分か混同して誤認したもの

とし、

「胡蜂」は全くその逆に、温和なクマバチ属 Xylocopa を同じ大中型の攻撃的なオオスズメバチ属 Vespa の類とやや混同して誤認したもの

と採るものである。大方の御叱正を俟つものである。考えてみると、クマバチ(キムネクマバチ) Xylocopa appendiculata circumvolansに刺されたという人は私の五十九年の人生では知らない。ただ、小学校六年の夏、亡き母が干していた靴下の中にクマバチ(キムネクマバチ) Xylocopa appendiculata circumvolans が潜り込んでいたことがあった。母が摑んだ途端、物凄い羽音がして、床の上で靴下が生き物のように跳ね躍った。母は刺されはしなかった。しかし、母があんなに真っ青になったのを初めて見たことを、何故か今、思い出した……

・「攀緣(よぢのぼ)りて」「攀緣」の二字を「よぢのぼ」と訓じている。

・「蒂(へた)」巣が対象物に附着している接合部。蜂類の場合、営巣の状態によっては、柄(え)のような形状を成し、果実の出っ張っている萼(がく)の部分に似ていないとは言えない。

・「五、六斗より一石」現行の尺貫法では、一斗は十升で約十八リットルであるから、「五、六斗」は九十~百八リットル、一石は十斗で百八十・三九リットルに相当するが、「本草綱目」の明の頃は、一斗は十・七四リットル、一石は単純にはその十倍であるから、「五、六斗」は五十三・七四~六十四・四四リットル、一石は百七・四リットルにしかならないので注意が必要。

・「瑩白〔(えいはく)〕」汚点のない、磨き上げたような輝く鮮やな白さを指す。

・「2蜂〔(こうらうほう)〕・玄瓠蜂〔(げんこほう)〕」(「1」=「侯」+「瓜」。「2」=「婁」+「瓜」。)読みは東洋文庫版現代語訳のルビを参考に歴史的仮名遣を推定して振った。

・『物の黒〔なる〕者を「胡」と謂ふ故なり』間違ってもらっては困るが、「胡」という漢字には色としての「黒」の意はない。これは察するに、「胡」は狭義には中国北方の異民族である匈奴(きょうど)を指すものの、異民族を十把一絡げにした意味で、西方の異民族、もっと広く異邦人を「胡人」とも称した。当然、その中で目立つのは、見た目日焼けた遊牧民の肌の黒い人、実際に肌に黒い色素を持つネグロイド(Negroid)系の人々もいたから、それから「胡人」「異人」「黒」い肌「黒」い色という認識が生じたものであろう。]

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