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2016/03/16

ツルゲーネフ原作米川正夫譯「生きた御遺骸」(「獵人日記」より)(Ⅹ)

「それからこんな夢も見ました。」とまた語り出した。「でも、ひよつとしたら現(うつゝ)に見えたのかも知れませんけれど――それはもう何とも云へません。わたしはこの納屋の中に臥てゐるやうな氣がしました。すると亡くなつた兩親が、お父さんとお母さんが參ましてね、わたしに丁寧なお辭儀をするんですが、口はつちとも利きません。わたしが『お父さん、お母さん、何だつてわたしにお辭儀なさるんですの?』と訊きました。『ほかでもない、お前はこの世で自分の魂を樂にしたばかりでなく、私達の心からも大きな重荷をおろしてくれた。だから、私達はあの世で大層具合がよくなつたよ。お前はもう自分の罪は綺麗になくなつてしまつて、いま私達の罪滅ぼしをしてくれてゐるのだよ。』かう云つて、兩親はまたわたしにお辭儀をすると、姿が見えなくなつてしまつて、目に映るのは壁ばかりなのでした。その後で、これは一體どういふ事なんだらうと、不思議で不思議で堪りませんでした。懺悔のとき、お坊樣にもお話した位でございます。でも、お坊樣は、それは幻ではない、幻はたゞ坊さんにだけ見えるものだから、とこんなに仰しやいました。」

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