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2016/03/21

菓子が食べたいです   原民喜

  菓子が食べたいです 糸川旅夫

 

腹が減つた

ニキビにはビンプルローシヨン

オツトーワイニングルはシユークリームが好きダ

しかし僕はもつと腹が減つた

何故であるか

今日レオパルヂイを讀んだ

それで腹が減つた

アダムスミスは殺人系統の男だ

今度リリアンギツシュと結婚す

月下氷人はマルサスとラスキンとマルクスだ。

こんな事を考へても腹はふくれぬ

石川啄木は腹がふくれたが

あれは腹腹だ

諸君見舞狀をやれ

東海の小島の磯の白砂の上の

蟹がくひたい蟹がくひたい

アメリカ大統領ハージシグは

蟹をくつて死んだから

糸川旅夫はそれを用心する

廣島ホテル食堂のエビのフライは三十五錢で安い

が一皿くふと二皿欲しくなる

そばにしやうか

初月のそばは二十五錢だ

それだが

有田音松は麥飯とたくわんを

食べと云ふ

どうしようかしらん

高橋新吉よい 鯛燒きををごれ

だが新吉は多忙の身の上だ

あゝ絶體絶命だ

さんたまりあ樣

きりえ、えれいぞん

どうぞお菓子を産んで下さい

 

[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年一月二十三日発行「藝備日々新聞」に発表。

「ビンプルローシヨン」不詳。識者の御教授を乞う。

「オツトーワイニングル」オーストリアのユダヤ系哲学者Otto Weininger(オットー・ヴァイニンガー 一八八〇年~一九〇三年)。カントやショーペンハウエルの影響下、一個の人間の中に共存する男性性と女性性に着目した『性の形而上学』を唱え、一九〇三年にその集大成というべき名著「性と性格」を完成した後、最も敬愛したベートヴェン終焉の館でピストル自殺した。二十三歳であった。

「レオパルヂイ」イタリアの詩人で、随筆家・哲学者・文献学者でもあったジャコモ・レオパルディ(Giacomo Leopardi 一七九八年~一八三七年)か。

「アダムスミスは殺人系統の男だ」イギリスの自由主義経済思想の経済学者・哲学者アダム・スミス(Adam Smith 一七二三年~一七九〇年)をかくいうのは、多分にマルクス主義的ではある。但し、彼は一七五九年に刊行した「道徳情操論」(The Theory of Moral Sentiments)は当時の欧米資本主義が戦争による破壊と殺人を繰り返して発展していることを強く批難してもいる。

「リリアンギツシュ」リリアン・ギッシュ(Lillian Gish 一八九三年~一九九三年)はアメリカのサイレント時代の悲劇映画に欠かせない名女優。

「月下氷人はマルサスとラスキンとマルクスだ」「月下氷人」は仲人。中国で同類話である「月下老人」と「氷人」と混同して合成した語。「月下老人」の方は「続幽怪録」に載る、唐の韋固(いご)が月明かりの下で読書をしている一人の老人と出会い、韋固が老人の傍らにあった袋の中身を問うと、中には将来、結婚する相手同士の足首を結ぶ赤い繩が入っていると答え、さらにその縁結びの神たる老人から結婚相手を予言されて、後に実際にその相手と結婚したという故事に基づき、「氷人」の方は「晋書」に載る、晋の令孤策(れいこさく)が、夢の中で、自分が月の光る氷の上に立っていたところ、その氷の下に人がおり、その人と話をした。目覚めて後、策耽(さくたん)という占い師に夢占をして貰ったところ、「氷下」は「陰」で「女」、「氷上」は「陽」で「男」を意味し、陰と陽が話し合ったのだから、あなたは結婚の仲立ちをするであろう予言され、実際にその翌日、土地の有力者から「息子の結婚の仲人をしてほしい」という依頼を受け、その結婚が上手く行ったという故事に由来する。「マルサス」は知られたイギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus 一七六六年~一八三四年)。その「人口論」では人口抑制のために産児制限や婚期延長を平然と唱え、飢餓に苦しむ貧困層の救済を否定した。「ラスキン」はイギリスの評論家・美術評論家ジョン・ラスキン(John Ruskin 一八一九年~一九〇〇年)。「自然をありのままに再現すべき」とする主張や社会主義実践運動家としても知られる。結婚と出産と社会主義という生活上の経済学の流れで繋がりはするものの、しかしこれ、実際にはダダ的な「マルサス」の「サス」が「ラスキン」の「ラス」の音上の類似性で導かれ、「マルサス」が、かの「資本論」の「マルクス」(カール・ハインリヒ・マルクス Karl Heinrich Marx 一八一八年~一八八三年)と一字違いの酷似音であることを面白がったというのが本音のように私には読める。

「アメリカ大統領ハージシグ」第二十九代アメリカ合衆国大統領ウォレン・ガマリエル・ハーディング(Warren Gamaliel Harding 一八六五年~一九二三年)。ウィキの「ウォレン・ハーディング」によれば、『アラスカ南部からの帰途、カナダのブリティッシュコロンビア州を通過している間に、彼は重い食中毒となり』、『シアトルで心機能不全で倒れた。サンフランシスコのパレス・ホテルに着くと彼は肺炎を』併発、『痙攣を発し、死去した。医師団は心隔壁破裂あるいは脳梗塞と診断している』とある。とあるネット上記載には確かに、遊説中に食べた蟹が食中毒の主因ともある(但し、夫人による毒殺説(!)もあるそうである)。

「廣島ホテル」不詳。識者の御教授を乞う。

「初月」不詳。識者の御教授を乞う。

「有田音松」本邦最古(明治四一(一九〇八)年に神戸で創業)のドラッグ・ストア・チェーンとして知られている有田ドラッグ商会を創立した有田音松(ありだおとまつ 慶応四(一八六七)年~昭和一九(一九四四)年)か。ネット情報によれば、ニセ性病薬で巨万の富を築いたとされる。

「高橋新吉」(明治三四(一九〇一)年~昭和六二(一九八七)年:民喜より四歳年上)は言わずと知れたダダイスト詩人。民喜はこの二年前に出た大正一二(一九二三)年刊の彼の詩集「ダダイスト新吉の詩」に強い影響を受けて、こうしたダダイズム詩を創作している。

「きりえ、えれいぞん」ラテン語「キリエ・エレイソン」(Kyrie eleison)はキリスト教の礼拝に於ける重要な祈りの一つ。「主よ、憐れみ給え」の意。「ゾン」ではなく、清音が正しいが、民喜は仏文出であるから、かく読んでも不思議ではない。]

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