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2016/03/07

ブログ790000アクセス突破記念 梅崎春生 チョウチンアンコウについて 附マニアックやぶちゃん注

[やぶちゃん注:『近代文学』昭和二四(一九四九)年十月号に初出、後の作品集「馬のあくび」(昭和三二(一九五七)年一月現代社刊)に所収された短い随筆である。

 底本は昭和六〇(一九八五)年沖積舎刊「梅崎春生全集 第七巻」を用いた。

 底本の傍点「ヽ」(二ヶ所の「いぼ」にのみ附される)はブログでは太字とした。後に私のかなり迂遠でマニアックな注を附した。

 本電子化は、その私の注のマニアックさの恐るべきだらだら(本文の凡そ七倍)を以ってして、別に2006年5月18日のニフティのブログ・アクセス解析開始以来、私のブログの790000アクセス突破記念ともすることとした。【2016年3月7日 藪野直史】]

 

   チョウチンアンコウについて

 

 チョウチンアンコウという魚がいる。アンコウの一種である。深い海の底の真暗なところに住んでいる。真暗なところを泳いでゆく関係上、この魚は提灯(ちょうちん)を持っている。すなわち頭のさきから長い鞭(むち)のようなものが生えていて、それが光をはなつのである。暗夜に提灯を突き出しているような具合に。

 この魚の雄と雌との関係について、寺尾新博士が書いた文章をよみ、私は大層面白かった。その文章の要旨をここに書いておこうと思う。

 この提灯を持っているのは、この魚の雌なのである。提灯はもちろん自分の泳ぐ道を照らすためもあるだろうが、同時に餌となる小動物をおびきよせる手段にもなっている。雄は提灯を持たない。大きさも雌の十分の一である。なんの変ったところもない、極く平凡な、あたり前の魚である。あの提灯をぶらさげた壮大な雌魚の、亭主にあたる魚とはとても思えない。

 この雌に対して、この小さな平凡な雄が、どういう具合で亭主たる位置につくかというと、彼はただじっとその機会を待っているだけなのである。そして偶然に雌が自分に近づいてくると、彼は雌の背中であろうが、頭であろうが、腹であろうが、ところかまわずにいきなり唇で吸いつくのである。吸いついたら、それきりである。どんなことがあっても離れない。雌が泳ぐままに、ぶら下って動く。そしてここに変ったことがおこる。

 吸いつかれた雌の体の皮が、だんだん延びてきて、彼の唇と切っても切れないようにつながってしまう。こうなれば彼は独立した一匹の魚ではなくなって、雌の体の一部となってしまう。それから彼の体のなかに、さまざまの変化が起り始めるのである。

 先ず、唇をふさがれて食物をとるすべを失った彼の体の中で、役に立たなくなった消化器官が、だんだんと消えてなくなる。

 次に、独立生活のとき必要であったが、今こんな状態では必要でなくなった諸器官が追々に姿を消してゆく。

 雌にくっついて移動してゆくからには、眼などは不必要である。で、眼はすっかりなくなってしまう。

 眼がなければ、もはや脳も不必要だということになる。すなわち、脳も退化して、姿を消してしまう。

 すっかり雌の体の一部となった彼は、その血管が雌の血管とつながり、それを通じて全部雌から養われ、揚句の果て、彼は雌の体に不規則に突起したいぼのような形にまで成り下ってしまう。

 いぼにまで成り下っては、彼は自身の存在の意義を失ったようにも見えるが、ただひとつだけ器官を体の中に残しているのである。それは精巣である。精子をつくるために残留しているのだ。雌がその卵を海中に産み放すとき、ほとんど精巣だけとなった彼は、全機能を発揮して、二階から目薬をさすように、その精子を海中に放出する。深海であるから流れの動きがほとんどないので、その精子は洗い流されることもなく、雌の卵にうまくくっつくのである。

 

 この瞬間のことを考えると、私はなにか感動を禁じ得ない。どういう感動かということは、うまく言えないけれども。

 

 

 

やぶちゃん注

「チョウチンアンコウ」(漢字表記「提灯鮟鱇」)は狭義には、

 

動物界脊索動物門脊椎動物亜門条鰭綱新鰭亜綱側棘鰭上目アンコウ目アカグツ亜目チョウチンアンコウ上科チョウチンアンコウ科チョウチンアンコウ属Himantolophus

 

に属する種、及び代表種(初回発見種)である、

 

チョウチンアンコウ Himantolophus groenlandicus Reinhardt, 1837

 

を指す――のであるが――実は、結論から先に言うと、

 

梅崎春生が単に「チョウチンアンコウ」と記すのは厳密には正しくない

 

のである。梅崎春生を指弾するのではないので、好意的に言い変えると、

 

梅崎春生の指す「チョウチンアンコウ」は広義の「提灯鮟鱇」の類の一種ではあるが、狭義の種である標準和名「チョウチンアンコウ」と同一種ではない別種である

 

ということである。やや面倒であるが、順を追って説明しよう。

 

 まず、ウィキの「チョウチンアンコウ科」を見よう。

チョウチンアンコウ科Himantolophidae はチョウチンアンコウ属(Himantolophus)の一科一属十八種で構成

されており、現在のところ、十八種が確定記載されているが、棲息域がやや深く、習性から見てもそれよりもさらに深層に新たな種が棲息する可能性が感じられ、私には恐らくはもっと増えるように思われる。『チョウチンアンコウ科の魚類はすべて深海魚で、太平洋・インド洋・大西洋など世界中の海の深海に分布する』。『背鰭の棘条が長く伸びて変化した誘引突起』(イリシウム:ラテン語の「illicio」(イリキオ:魅力によって引きつける・誘い込む)を語源とする。但し頭が大文字「Illisium」となると、トウシキミ Illicium verum ・シキミ Illicium anisatum など仏事に用いる有毒植物である被子植物門アウストロバイレヤ目マツブサ科シキミ属 Illisium を指すので注意が必要)『を持ち、先端には擬餌状体』(ぎじじょうたい/エスカ esca :本科に属する種群やアンコウ目カエルアンコウ亜目カエルアンコウ科 Antennariidae (十二属四十二種。カエルアンコウ属 Antennarius・カエルアンコウモドキ属 Antennatus・ハナオコゼ属 Histrio 等)のカエルアンコウ(旧「イザリウオ」)類などが一般に頭部に持つ誘引突起の先端部の呼称。ラテン語で「(獲物を誘(おび)き寄せるための)餌」という意)『と呼ばれる膨らみがある。擬餌状体には発光バクテリアによる共生発光器を備え、餌となる小動物をおびき寄せて捕食する。目は小さく、軟らかな薄い骨格、ゼリーのような柔らかい肉でおおわれ、表皮は薄い』。『吻(口先)が短く滑らかであることが、他のチョウチンアンコウ上科』Ceratioidea『の仲間と異なる点の一つである』。『雌雄ともに、生涯を通じて頭頂骨を欠く』。各鰭の鰭条はそれぞれ、胸鰭が十四から十八本、背鰭五から六本、臀鰭四本・尾鰭九本で、椎骨は十九個ある。『チョウチンアンコウ科の魚類は他のチョウチンアンコウ上科に属する種類と比べて大型で、』は体長が五十センチメートルほどにまで成長する一方、は非常に小さく、最大でも四センチメートルほどにしかならない。これはチョウチンアンコウ上科に共通する特徴で』、こうした同種中でがすこぶる小さなものを「矮雄(わいゆう)」と呼ぶが、『他科の矮雄では』に『付着して一体化する場合もあるが、チョウチンアンコウ科の』は『このような寄生を行わず、自由生活を送る』(下線やぶちゃん。以下、総て同じ)とあるのである。

 

 即ち、狭義の真正の和名「チョウチンアンコウ」の(矮雄)はに寄生しない

のである。

 因みに、ウィキの「チョウチンアンコウ」も見てみよう。『丸みを帯びた体型と、餌を誘うために用いられる頭部の誘引突起(イリシウム)を特徴とし、深海魚として比較的よく知られた存在である』。『チョウチンアンコウは、おもに大西洋の深海に分布し、カリブ海などの熱帯域からグリーンランド・アイスランドのような極圏付近までの広範囲に生息する』。『太平洋・インド洋からの記録もあるものの、その数は非常に少ない』。『生息水深ははっきりしていないが、熱帯・亜熱帯域の中層』(特に水深二百メートルから八百メートル)『から捕獲されることが多い。一方で、大型の個体はより北方の海域から底引き網によって、または漂着個体として得られる傾向がある』。凡そ百六十種が『含まれるチョウチンアンコウ類の中で、最初』(一八三七年)に『記載された種が本種で』、その基準標本は一八三三年に『グリーンランドの海岸に打ち上げられた漂着個体であるが、海鳥による食害を受けたため保存状態は非常に悪く、現存しているのは誘引突起の一部のみである』。以降、二〇〇九年までに百四十三個体『(変態後の雌)が標本として記録されているが、これは科全体について得られた全標本のうちの三分の一を超える数であり、チョウチンアンコウ科の中で最もよく研究された種となっている』。昭和四二(一九六七)年二月二十二日夕刻に鎌倉の坂下海岸に生きたまま(ここは荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」(平凡社一九八九年刊)の「深海魚」の「チョウチンアンコウの飼育記録」で補填した)『打ち上げられたチョウチンアンコウが』「江の島水族館」(旧称。名称が旧は平仮名の「の」である。改築後のそれは後掲されるように「新」が冠されてしかも「江ノ島」とカタカナの「ノ」に変わっているので注意)で八日間、『飼育観察された際に、誘引突起から発光液を噴出する様子が世界で初めて観察された。一回に噴出された発光液は、海水中において、魚体とほぼ同等の範囲に広がる程度の量であったという。また、その発光は、海水中に噴出された後には徐々に弱まり、ついには消光したと報じられている』。『発光液の放出には、獲物を捕食する際に相手の目を眩ますなどの効果があるのではないかと推定されている』。上記の鎌倉で捕獲された個体のその『死後、その主発光器内部から得た組織を分離源として行われた培養試験において、発光バクテリアが分離・培養されていないところから、本種の発光は、自身で生産した発光物質によるものであり、発光バクテリアの共生によるものではないとみられている』。『なお、上記の個体は死後に液浸標本とされ、現在では』「新江ノ島水族館」『で展示されている』。『チョウチンアンコウは丸みを帯びた体型をしており、体表は小さないぼ状突起によって覆われる』。体色は灰色乃至黒褐色で、これまでに得られたの体長は三・二センチメートルから四十六・五センチメートルの有意に異なる範囲内にある(幼生個体と成個体或いは長生個体の差と考えておくが、寿命自体が不明であるので確言は出来ない)。鰭条数はそれぞれ背鰭が五本、臀鰭が四本で、胸鰭は十四本から十八本で、誘引突起はその背鰭の『第一棘が変形したもので』、本チョウチンアンコウ科の場合、『その長さは体長の半分程度であることが多い』。『誘引突起の先端には膨隆した擬餌状体(エスカ)と、そこから分岐した』十本の皮弁を持つ。『擬餌状体の形態と、体長と比較した皮弁の長さの割合が、チョウチンアンコウ科の他の仲間から本種を識別するための重要な形質となっている。太平洋を主な生息域とする』Himantolophus sagamiusPacific footballfish:一部の記載ではこれに「チョウチンアンコウ」の和名を附すものがあるが、これは頗るよろしくない)とは『特に形態が類似しているため、小型の個体では区別が難しい』(以下に注意!)。

よりも『極端に小さい矮雄(わいゆう)であるが、体長は』四センチメートルほどあり、への『寄生をしない自由生活性の矮雄としては最も大きく成長する』。

但し、『チョウチンアンコウ科に属する種の』固体は『形態学的な特徴に乏しく、これまでに本種の』として『確実に同定された個体は記録されていない』。これらの個体群は『いくつかのグループとして分類されており、本種は』「Himantolophus brevirostris Group」に含まれるとみられている、とあるので和名の共有記載はそれを勝手に敷衍してしまったものであろう(私は、本種の生活史内での性決定に未だ我々の認知しないシステムがあるか、或いは何らかの性転換現象があるようにも疑っている。以下のチョウチンアンコウ上科についての引用も参照のこと)。

 

 以上によって、梅崎春生の言っている「チョウチンアンコウ」は狭義の「チョウチナンコウ」ではないという私の謂いが判って戴けたものと存ずる。

 

では、その正体は何か?

 

 その疑問は、以下に示すウィキの「アンコウ目」の「チョウチンアンコウ上科 Ceratioidea 」の解説で氷解する。この

チョウチンアンコウ上科(チョウチンアンコウ科ではないことに注意!)は十一科三十五属百五十八種で構成

され、殆どの『科は地中海を除く全世界の深海に分布する。フサアンコウ上科・アカグツ上科を起源とし、深海中層の生態系において重要な位置を占める一群である。ほとんどの種類は体長』八センチメートルに『満たない小型の魚類で、外洋の深海』(特に水深一千メートルから三千メートルの漸深層)を『漂泳し、誘引突起を利用して餌を捕食する。誘引突起を持つのは基本的に』だけで、『発光バクテリアによる共生発光を行うなど機能の発達が著しい。本上科に共通の形態学的特徴として、腹鰭・鱗を持たないこと、前頭骨が癒合しないことなどがある』(さても以下が重要な箇所!)。

『体格上の性的二形が顕著で』、の三分の一から十三分の一程度の『大きさしかない。このように』と比較して極端に小さいを『矮雄(わいゆう)と呼ぶ。ミツクリエナガチョウチンアンコウ科など少なくとも』四科のは、に『寄生して生活することが知られている。これらの寄生性の』は『種に特異的なフェロモンを介して』を発見して、『腹部に噛み付いて一体化する』。の体にはの『血管が伸びて栄養供給を完全に依存するようになり、生殖以外の機能は退化する』。

『変態を行う前の幼魚(浅海で生活することが多い)はしばしば親魚とまったく異なる形態をとり、同一種でありながら』・幼魚が『別の種類として認識されていた例もある』。『捕獲されることが稀な種類が多く』、雄・雌・稚魚の『いずれかしか見つかっていないもの、ごく少数の標本に基づ』いてしか記載されていない種類もある、とある。そこで同ウィキの以下の科タクサの記載を調べてみると、以下の記述を見出せる(番号は私が打った)。

   *

ヒレナガチョウチンアンコウ科 Caulophrynidae (二属五種)

に『寄生するが、性成熟は寄生の有無と関係なく達成される』。)

キバアンコウ科 Neoceratiidaeキバアンコウ Neoceratias spinifer (一属一種)

は寄生性で、『それぞれが性成熟に到達するためには』、へ『付着することが必須条件であると考えられている。同様の性質はミツクリエナガチョウチンアンコウ科・オニアンコウ科にも認められる』。)

ラクダアンコウ科 Oneirodidae (十六属六十二種)

(『チョウチンアンコウ上科の中で最大のグループとなっている。一部の属は寄生性の』を持つ。)

ミツクリエナガチョウチンアンコウ科 Ceratiidae (二属四種)

『チョウチンアンコウ上科の中では最も大きくなるグループで、ビワアンコウ(Ceratias holboelli)は最大』一・二メートルにまで『成長する』。は『寄生性で、性成熟には』への『寄生が必須である』。

オニアンコウ科 Linophrynidae (五属二十三種)

に『寄生し、寄生後に両性の性成熟が起こる』。)

   *

 この内、のラクダアンコウ科は『一部の属』とあるので、先の記載者の言うところのに『寄生して生活することが知られている』四科とは①②④⑤の科であることが判明する。

 そこで更に考えてみよう。

 この中で梅崎春生が最もポイントとするのは、が完全寄生性であって性成熟にはへの寄生が必須であることと、性的二形の個体の大きさが烈しく異なる(が異様に小さい)点である。

即ち、

より有意に遙かに大きくなくてはならず、必ずに寄生する種でないといけない

のだ。とすれば、

 

ここで梅崎春生が言うところの「チョウチンアンコウ」とは、実はが『寄生性で、性成熟には』への『寄生が必須である』ところの、しかも『チョウチンアンコウ上科の中では最も大きくなるグループで』ある(性的二形の個体サイズが激しく異なる)ところの、ミツクリエナガチョウチンアンコウ科 Ceratiidae (二属四種)の一種と考えるのが最も自然である

 

と私は思う、いや、断言したいのである。因みに、ウィキの「ヒレナガチョウチンアンコウ科」を見ると、『性成熟後の雌雄の体格は著しい性的二形を示し』、よりも『極端に小さい矮雄で』、の体に食いついて一体化し、寄生生活を送るようになる』とあるものの、『雄に寄生されていない雌の標本の多くが、よく成熟した卵巣を持つことから、少なくとも雌の性成熟に雌雄の結合は必要ないと考えられている』とある。また、リンク先の図を見て戴くと分かるが、和名の通り、背鰭と臀鰭の鰭条が我々のイメージする一般的な「提灯鮟鱇」なるものに比して有意に長く、私などは最初に「これ、ちゃうで!」と感覚的には言いたくなってしまうフォルムである。また、キバアンコウ科 Neoceratiidae(ネオケラティス科)は、へ『付着することが必須条件であると考えられている』と記載が不確かであることと、画像を検索して見ると、これがまた名前通りの、ホラー映画のジェイソンみたように異様に上下の歯が長くまばらに出て如何にも「ヘン!」、しかも体型が妙にスマートでこれも「アンコウや、ない!」と叫びたくなるお姿なんである。

 したがってヒレナガチョウチンアンコウ科とキバアンコウ科は私は「ゼッタイ! パス!」なんである。

 但し、最後のオニアンコウ類は、ウィキの「オニアンコウ科」を見ると、如何にも「提灯鮟鱇」らしい形であること、また、『雌雄の体格は著しい性的二形を示し』、よりも極端に小さい。『Acentrophryne 属を除く』四属は『比較的豊富な雌雄の標本が存在し』、は『寄生性であることがわかっている』。『一方、Acentrophryne 属の』個体は『いまだに得られておらず、寄生性かどうかも確かめられていない』。変態後のは『餌を一切取らず、よく発達した眼球と嗅覚器を利用して』を探し、発見するや、『体に食いつき、以降は』と『一体化した寄生生活を送るようになる。オニアンコウ属の』は一匹の雌に対して一匹のみしか『付着しない一方、他の属では複数の雄が同一の雌に寄生する例がしばしば見られる』(以下に引用するミツクリエナガチョウチンアンコウのケースと比較されたい)。『付着部位は Borophryne 属・オニアンコウ属ではほぼ腹部に限られ』、殆どのは『前方を向き、逆さまの状態となっている』。『これとは対照的に、Haplophryne 属・Photocorynus 属では寄生する場所や』の『体勢は定まっておらず、眼の真上や背部、あるいは擬餌状体に付着していた例も知られている』。『自由生活期の』の『精巣は例外なく未発達で、成熟した卵巣をもつ』には常に寄生したの付着が見られる『ことから、雌雄の結合は互いの性成熟を達成するための必要条件とみなされている』。『Photocorynus 属の』一種Photocorynus spiniceps)の或る個体に付着した寄生の体長は僅かに六・二ミリメートルで、『性成熟に達した脊椎動物として最小の例の一つと考えられている』とあって、彼らは「梅崎さんが言ってるのは僕たちです!」と手や鰭ならぬイリシウムを振りそうなので、

 

オニアンコウ科オニアンコウ属 LinophryneBorophryne 属・Haplophryne 属・Photocorynus 属も梅崎春生の言う「チョウチンアンコウ」の候補

 

として残しおくこととはする。

 

 さても。而して大本命の「ミツクリエナガチョウチンアンコウ」である。ウィキの「ミツクリエナガチョウチンアンコウ科」から引く。因みに、本和名は「箕作柄長鮟鱇」で東京帝国大学理科大学で日本人として最初の動物学教授となった生物学者箕作佳吉への献名として命名された(本種ミツクリエナガチョウチンアンコウ Cryptopsaras couesiiのシノニムにも Ceratias mitsukurii がある)は、本種のシノニムである(いい加減、面倒なので以下はアラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更・省略した)。『いわゆるチョウチンアンコウ類として知られる深海魚の一群で、ビワアンコウ・ミツクリエナガチョウチンアンコウなど二属四種が記載される』。『ミツクリエナガチョウチンアンコウ科の魚類は太平洋・インド洋・大西洋など、世界中の海の深海に幅広く分布する』。『海底から離れた中層を漂って生活する、漂泳性深海魚のグループである。ビワアンコウ属の一種(Ceratias tentaculatus)は主に南極海とその周辺海域における水深六五〇~一五〇〇メートルの範囲に分布し、残る三種は三大洋すべての深海に生息する汎存種となっている。ビワアンコウ Ceratias holboelli は水深四〇〇~二〇〇〇メートル、エナシビワアンコウ Ceratias uranoscopus は五〇〇~一〇〇〇メートル、ミツクリエナガチョウチンアンコウ Cryptopsaras couesii は五〇〇~一二五〇メートルからの採集例が多い』。『本科魚類はチョウチンアンコウ類としては最も大きく成長し、最大種のビワアンコウは全長七七~一二〇センチメートルに達する。雌雄の体格は著しい性的二形を示し、よりも極端に小さい矮雄で』、『変態後のは餌を一切とらなくなり、大きな球状の眼を利用してを探す。を発見した雄は鉤状の歯を使って体に食いつき、一体化して寄生生活を送る。の結合は、互いの性成熟を達成するための必要条件となっている』。『一匹のに寄生するは』概ね、『一匹だが複数の場合もあり、最大で八匹』もの『雄が付着した個体が知られている。付着部位はほぼ常に腹部で、寄生雄の多くが前方を向いていることから、雌の後方から接近しているとみられている』。『ミツクリエナガチョウチンアンコウ科の仲間は左右に平たく、側扁した細長い体型をもつ。一般にチョウチンアンコウ上科には体長十センチメートル未満の小型魚が多いが、本科魚類はほとんどが全長数十センチメートル程度にまで成長し、ビワアンコウは一・二メートルに達する。口は斜め上向きでほとんど垂直につくこと、前上顎骨によく発達した突起をもつことが他科との容易な鑑別点となっている』。同じチョウチンアンコウ上科でも、一属一種のケントロプリュネー科 Centrophrynidae と『多くの形態学的共通点を有し、両者は近い関係にあると考えられている。全身を皮膚が変形した突起によって覆われること、誘引突起は前頭骨から起始し吻の前に突き出ること、蝶形骨・方形骨・角関節骨および前鰓蓋骨のトゲを欠くことは二科に共通する特徴である』。『本科魚類の重要な特徴として、背鰭の二~三鰭条が変形し、肉質の突起(caruncle)として存在することが挙げられる。背鰭第一棘条は卵形の擬餌状体を備えた誘引突起として成長し、誘引突起を支える担鰭骨は非常に細長く、頭蓋骨背部のほぼ全長に及ぶ。背鰭第二棘条は仔魚および稚魚の時点では発光器官を有しているが、成長とともに退縮し、成魚では皮膚に埋もれてしまう』。『背鰭および臀鰭の軟条は四~五本で、多くの場合四本である。胸鰭は十五~十九』本の『軟条で構成される。尾鰭の鰭条は八~九本で』、そのうち、『四本は分枝し、下位の第九鰭条は痕跡的となる。頭頂骨は大きい』。『チョウチンアンコウ類の矮雄は一般に眼が小さく、その代わりによく発達した嗅覚器官をもつ場合が多いが、ミツクリエナガチョウチンアンコウ科のは大きなボール状の眼球をもつ一方、嗅覚器は微小である。吻の先端には担鰭骨と接続する一対の大きな歯を備え、に付着する際に用いられる。前上顎骨は退縮し、顎の歯を欠く。自由生活期のの皮膚は滑らかで色素をもたないが、寄生生活に入ると多数の突起が現れ、一様に黒色』に変ずる。『自由生活期のは科全体で少なくとも百七十五点の標本が存在し、いずれも全長は二センチメートルに達しない。に付着した寄生雄は八十一例が知られ、そのサイズは〇・八~十四センチメートルの範囲である『』(以下、「仔魚」の項があるが、省略する。)『ミツクリエナガチョウチンアンコウ科にはNelson2006)の体系において二属四種が記載される。含まれる二属(ビワアンコウ属・ミツクリエナガチョウチンアンコウ属)はいずれもチョウチンアンコウ類を代表するグループの一つとなっており、変態後の雌の標本はそれぞれ少なくとも四百四十点・九百八十点に及ぶ数が知られている』。以下、代表種は、

 

 ビワアンコウ属 Ceratias

(『誘引突起は長く、擬餌状体は比較的小さい。背部の肉質突起は二つで、大型の個体では退縮傾向にある。下鰓蓋骨のトゲを欠く。尾鰭の九本目の鰭条は痕跡的。属名の由来は、ギリシア語の「keraskeratos(角)」』に由来する。)

   エナシビワアンコウ Ceratias uranoscopus

   ビワアンコウ Ceratias holboelli

 Ceratias tentaculatus

 

 ミツクリエナガチョウチンアンコウ属 Cryptopsaras

(『誘引突起は極端に短く、「釣竿」のほとんどが擬餌状体の構造で覆われる。肉質の突起は三つあり、大型個体でも明瞭。下鰓蓋骨に前向きのトゲをもつ。尾鰭の第九鰭条を欠く。属名の由来は、ギリシア語の「kryptos(秘密の/隠された)」と「psaras(漁師)」』に由来する。)

   ミツクリエナガチョウチンアンコウ Cryptopsaras couesii

 
 
である。

 さて、ウィキ嫌いの似非アカデミスト連のために、荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」(平凡社一九八九年刊)の「深海魚」の「チョウチンアンコウ」の項をも引いておこう(しかし、ウィキ嫌いの非博物学的輩は同時にほぼ荒俣氏も嫌いだろうなぁ)。なお、ピリオド・コンマを句読点に、アラビア数字を漢数字に、記号の一部をカタカナに変えさせて戴いた。

   《引用開始》

【チョウチンアンコウ】一八三七年、J.C.ラインハルトがグリーンランドにおいてチョウチンアンコウ Himantolophus groenlandicus [やぶちゃん注:真正狭義の「チョウチンアンコウ」のこと。]を観察してから、この魚は世界の注目を集め、チャレンジャー号探検航海、ダーナ号探検航海(一九二〇-二一)などの深海調査の結果、多くの種が発見されるにいたった。たとえばW.ビービは一九三四年に、二本のアンテナをもち、レモン色の光を放つチョウチンアンコウを観察したと報告している。

 いっぼう、一九二二年B.セムンドソンはチョウチンアンコウ[やぶちゃん注:これはチョウチンアンコウ上科 Ceratioidea の先に示した四科の孰れかで、以下最後まで狭義の「チョウチンアンコウ」ではないことに注意。荒俣氏は以下で『ある種の』広義の『チョウチンアンコウの』上科に含まれる『なかま』と述べられており、間違いではない。]の大きな雌の体に幼魚が付着している標本を採集したと報告した。一九二六年になって、この幼魚と思われていたものはじつは雄であることが、C.T.レーガンによって発表された。

 実際、ある種のチョウチンアンコウのなかまはきわめて特異な繁殖戦略をもつ。雄が雌に寄生し、ほとんど自家受精に近い生殖を行なうのだ。すなわち、チョウテンアンコウ類は深海で産卵受精すると、その後卵は海上まで浮かび上がる.約二ミリメートルの大きさの仔魚が孵化し、二か月間一〇〇~二〇〇メートルの層で生活する(成長にしたがって深みに移動)。その後急速に変態し、二次性徴がはっきりとする。ビワアンコウ[やぶちゃん注:ミツクリエナガチョウチンアンコウ科ビワアンコウ Ceratias holboelli。]の場合、変態は水深一〇〇〇メートルの層で行なわれる。変態後は雌のみが採食し、雄はペンチ状の顎をもつものの、小さな食物でさえ食べることはできない。雄は、仔魚期に貯えた栄養がゼラチン状になって体のまわりを包んでいるが、これがなくならないうちに雌に出会えないと死ぬしかない。雌に出会うと雄は雌の皮膚のどこにでも咬みつき、両者の体は癒合(ゆごう)する。このとき雄の精巣はまだ未発達。その後、雄は器官系のほとんどを失い、精巣を包んだ袋だけの存在となる。その精巣は雌の指令がないかぎり発達しない。雄は、胎盤のような組織を通じて雌の血液に含まれる栄養を吸収しながら生きるのである。こうして雌は雄を体表に付着させることによって、〈自家受精〉する雌雄合体へと発達するのである。クロアンコウ[やぶちゃん注:クロアンコウ科クロアンコウ属 Melanocetus。一属五種。]などはこのような寄生の形態をとらないが、生殖のときはやはりペンチ状の顎で雌の体に喫みつき、受精効率を高める。

 ところで、チョウテンアンコウの雄はどのようにして雌を発見するのだろうか。深海魚はハダカイワシ[やぶちゃん注:条鰭綱ハダカイワシ目ハダカイワシ科 Myctophidae。因みに、本魚群は一般に鱗が剝がれ易く、網などで深海から捕獲された際には、鱗が剥がれ落ちて、ない状態になっているために「裸鰯」と呼称されるのであって、始めっから裸なのではない。]やメルルーサ[やぶちゃん注:条鰭綱タラ目メルルーサ科 Merlucciidae の深海魚、或いは同科の Merluccius capensis を指す。和名は本種などを指すスペイン語の「Merluza」からで、英語では「ヘイク」(Hake)と呼ぶ。]などの一部の種を除いて、群れをなすことがない。というより、深海のようにエネルギー源が乏しい世界では、群れをなすほど個体を増やせないのである。したがって雌雄がめぐりあうこともたやすいことではない。ブラウアーの採集したチョウチンアンコウは、嗅覚器官が発達していた。これより雌は雄が感応するようフェロモンのような分泌物を出していると考えられる[やぶちゃん注:例外が実はこのが寄生するミツクリエナガチョウチンアンコウで、先に引用した通り、確かに『チョウチンアンコウ類の矮雄は一般に眼が小さく、その代わりによく発達した嗅覚器官をもつ場合が多いが、ミツクリエナガチョウチンアンコウ科のは大きなボール状の眼球をもつ一方、嗅覚器は微小である』とある。]。また、雄は発達した目をもつものも多いことから、雌の擬似餌状の突起が雄に対して灯台の役割を果たすこともあると考えられる。

 こうしたチョウチンアンコウの生態は、深海という劣悪な環境のなかで種として生き残るための自然の知恵といえる。生物が種を保存するためには、ひと組のペアをつくるのに原則的には雌雄が一体ずつあらわれる。しかし、深海においてはエネルギーのむだづかいが個体、ひいては種全体の命とりとなる。そこで徹底的に効率性が求められた結果、一体で種の保存をしてしまおうという傾向があらわれた。つまり、産卵という多大なエネルギーを費す雌だけが大きくなり、雄は精巣だけを発達させる雌の寄生物となったのだ。雌雄両方を平等に大きくしなくてすむぶん、種全体のエネルギーが効率よく使われるのである。小松左京のSFにアダムの商という、未来の人間社会で男性はペニスだけの存在になる話があるが、チョウチンアンコウの世界ではそれがいち早く実現しているのである。

   《引用終了》

 なお、以上のウィキペディアの生物学的記載でも「ミツクリエナガチョウチンアンコウ」を普通に広義に「チョウチンアンコウ」類の一種と呼称し、荒俣氏も同様に記述していることから見ても、作家梅崎春生が「チョウチンアンコウ」と記述しても、これ、何らの瑕疵には当たらぬことは自明である。

 ウィキ嫌いアラマタ嫌いの雁字搦めの象牙の塔好きのために最後に、「独立行政法人 水産総合研究センター 開発調査センター」公式サイト内の「南半球の魚図鑑」の、リンクを張っといてやろう。

ミツクリエナガチョウチンアンコウ(Triplewart seadevil,“mitsukuri-enaga-chouchin-ankou”Cryptopsaras couesii Gill, 1883

 何だっていいじゃねえか、なんどとほざく連中の中には恐らく――どうせ、食ってる「鮟鱇」と同んなじじゃあねえか――なんどと勘違いしてる救い難い阿呆もあろう。以上のチョウチナンコウの捕獲標本数の少なさをよく、見ぃな! 本邦で食っている奴はな、アンコウ目 Lophiiformes でも科のレベルで違う、

アンコウ科 Lophiidae のアンコウ属アンコウ(クツアンコウ) Lophiomus setigerus

キアンコウ属キアンコウ(ホンアンコウ)Lophius litulon

だぜ! そういう、いい加減な手合いに限ってだな、深海魚のワックス(高級脂肪酸)たっぷり、ビタミンAたっぷりの魚肉や肝臓を、知らずに「うまうま」などと恍惚に食って、これまた、死ぬほど腹を下したり、全身の皮膚がズル剥けになったりするんだってえんだ! 覚えときなぃ!

 

「寺尾新」(てらお あらた 明治二〇(一八八七)年~昭和四四(一九六九)年)は動物学者。東京生まれ。明治四五(一九一二)年に東京帝国大学理科大学動物学科を卒業、昭和四(一九二九)年に理学博士。農林省水産講習所教授・民族科学研究所研究員・宮崎大学教授・同大学図書館長・宮崎県南部海区漁業調整委員などを歴任し、この間にジョンズ・ホプキンス大学に留学、生物測定学を学んだ。水産動物の増殖と加工などの研究で知られ、著書も「優生学と生物測定学」「科学魂」「海・魚・人」「海の科学随記」「生物と人世」「生物学」「動物はささやく」など多数(日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」に拠る)。私は不学にして寺尾氏の書籍は一冊も読んだことがないので、本記載元が何であるかは確認出来ない。識者の御教授を乞うものである。]

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