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2016/04/02

和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 五倍子 附 百藥煎

Husi

ふし      【倍字作
1 文蛤

五倍子     百蟲倉】

         【俗云布之

ウヽ ポイ ツウ  鹽麩子之上畧也】

[やぶちゃん字注:「1」=「木」+(「備」-「亻」)。]

 

本綱五倍子生於鹽麩木上【詳見果部】其木生叢林處

者五六月有小蟲如蟻食其汁老則遺種結小毬於葉間

正如蛅蟖之作雀甕蠟蟲之作蠟子也初起甚小漸漸長

堅其大如拳或小如菱形狀圓長不等初時青緑久則細

黃綴於枝葉宛若結成其殼堅脆其中空虛有細蟲如蠛

蠓山人霜降前采取蒸殺貨之否則虫必穿壞而殼薄且

腐矣又造爲百藥煎以染皂色大爲時用

按五倍子【味酸平】出處多於信州者爲良其功甚多解

 藥毒治五痔脱肛及口舌牙齒痛故婦人染齒用五倍

 子和鐡漿含之味澁酸又五倍子柘榴皮用染皂色【俗云

 黒茶染之類】

 

[やぶちゃん字注:以下、縦罫一本。五倍子を材料とした薬剤の製法と効能であるので続けて出す。その次の「阿仙藥」は、この「百藥煎」との関連で立てられた項のように見えるが、独立項であるにも拘わらず、これは薬剤であって、「蟲部」の項立てとしては誤りとしか私には思えない。そこで再度、注をするが、これは昆虫や節足動物或いはその生成物でさえない可能性が極めて高く(恐らくは複数の生薬の混合剤でその主原料は推定であるが植物と思われる)、不審極まりないのである。]

 

百藥煎

[やぶちゃん字注:以下の三行は底本ではポイントの大きな「百藥煎」の下にある。]

本綱造法用五倍子爲粗末毎一斤以

眞茶一兩煎濃汁入醇糟四兩擂爛拌和

噐盛置糠缸中2之待發起如發麪狀即

成捏作餅丸晒乾用【又有作法畧之】

[やぶちゃん字注:「2」=(上){「内」の上部の出っ張りを除去したものを(かんむり)状に扁平にしたもの}+(下)「音」。]

氣味【酸鹹微甘】其功與五倍子不異而治上焦心肺痰咳熱渴

 

 

ふし      【「倍」の字、「1」に作る。文蛤。百蟲倉。】

五倍子

ウヽ ポイ ツウ 【俗に云ふ、「布之」。「鹽麩子(えんふし)の上畧なり。】

[やぶちゃん字注:「1」=「木」+(「備」-「亻」)。]

 

「本綱」、五倍子は鹽麩(ぬるで)の木の上に生ず【詳らかに〔(は)〕果部を見よ。】。其の木、叢林の處に生ずる者。五、六月に、小さき蟲有りて蟻のごとく、其の汁を食ふ。老いる時は、則ち種を遺(のこ)し、小〔さき〕毬〔(まり)〕を葉の間に結ぶ。正に蛅蟖(けむし)の雀甕(すゞめのたご)を作り、蠟蟲の蠟子を作るがごとし。初め起こる時は、甚だ小さし。漸漸(ぜんぜん)に長く堅くなり、其の大いさ、拳(こぶし)のごとく、或いは小にして菱の形のごとく、狀〔(かた)〕ち、圓く長にして等しからず。初時は、青緑、久しき時は、則ち、細〔かなる〕黃になり、枝葉を綴(つゞ)り、宛(さなが)ら結成するがごとし。其の殼(から)、堅く脆(もろ)く、其の中、空虛(うとろ)にて、細かなる蟲有り、蠛蠓〔(まくなぎ)〕ののごとし。山人、霜降(しもつき)の前、采取〔(さいしゆ)し〕、蒸〔し〕殺して之れを貨(う)る。否(しかざ)る時は則ち、虫、必ず穿壞〔(せんくわい)〕して、殼、薄く、且つ、腐る。又、造りて百藥煎と爲〔し〕、以て皂色(くろいろ)を染め、大きに時用と爲す。

按ずるに、五倍子【味、酸、平。】出る處、多くして、信州より出づる者を良と爲す。其の功、甚だ多く、藥毒を解し、五痔・脱肛及び口・舌・牙齒の痛みを治す。故〔に〕、婦人、齒を染るに五倍子を用ひて、鐡漿(かね)に和して之れを含む。味、澁(しぶ)く酸〔(す)〕し。又、五倍子・柘榴皮、用ひて、皂色に染む【俗に云ふ、黒茶染〔(くろちやぞめ)〕の類。】。

 

百藥煎

「本綱」、造る法。五倍子を用ひて、粗末と爲し、毎一斤〔に〕眞茶一兩を以て、濃き汁に煎じ、醇糟〔(じゆんそう)〕四兩を入れ、擂〔(つ)〕き爛〔ただら〕し、拌(かきま)ぜて和〔し、〕噐に盛りて、糠缸(ぬかつぼ)の中に置き、之れを2(おほ)ひ、發起して麪〔(べん)〕を發す狀のごとくなるを待ちて、即ち、成る。捏(こね)て餅丸と作〔(な)〕し、晒し乾〔して〕用〔ふ〕。【又、作法有るも、之れを畧す。】

[やぶちゃん字注:「2」=(上){「内」の上部の出っ張りを除去したものを(かんむり)状に扁平にしたもの}+(下)「音」。]

氣味【酸鹹、微甘。】其の功、五倍子と異ならずして、上焦心肺・痰咳・熱渴〔(ねつかつ)〕を治す。

 

[やぶちゃん注:この「五倍子」は「ごばいし」とも読み、ウィキの「ヌルデ」によれば、ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデヌルデ(白膠木)Rhus javanica 或いは変種ヌルデ Rhus javanica var.chinensis の葉にカメムシ目アブラムシ上科アムラムシ科タマワタムシ亜科 Schlechtendalia 属ヌルデシロアブラムシSchlechtendalia Chinensisが寄生して形成される大きな虫癭(ちゅうえい:所謂、「虫瘤(むしこぶ)」)から抽出した染料、或いは漢方薬を言う語である。この虫癭には『黒紫色のアブラムシが多数詰まっている。この虫癭はタンニンが豊富に含まれており、皮なめしに用いられたり、黒色染料の原料になる。染め物では空五倍子色』(うつぶしいろ:やや褐色がかった淡い灰色)『とよばれる伝統的な色をつくりだす。インキや白髪染の原料になるほか、かつては既婚女性』及び十八歳以上の『未婚女性の習慣であったお歯黒にも用いられ』、『また、生薬として五倍子(ごばいし)あるいは付子(ふし)と呼ばれ、腫れ物、歯痛などに用いられた』とある(但し、猛毒のあるトリカブトの根も同じく「付子」で「ふし」と読むので混同しないよう注意を要する、と注意書きがある)。

・「文蛤」このヌルデシロアブラムシSchlechtendalia Chinensisが作り出す虫癭は、外見は個体に変異はあるが、やや凸凹した紡錘形の果実のように見えるものもあり、二枚貝(蛤)の連想はおかしくはない。画像検索をリンクしようと思ったが、次の注の画像も引いてきてしまうので、ヤメタ!

・「百蟲倉」開けたら……確かに……その通り!!! 生のものを開いた画像も見つけたが、恐らく、アウトの人が多いのでリンクしない。

・「鹽麩子」前掲のヌルデ(白膠木)の漢名の一つ。

・「【詳らかに〔(は)〕果部を見よ。】」これは「本草綱目」からの引用(時珍自身の記載部分)なのだが、これは同時に本「和漢三才図会」でも有効に生きるから凄い!(というか、本章はかく「三才図会」(明の王圻(おうき)編の百科事典)を名に負ひながら、その実、「本草綱目」の引用に多くを負うているので、当然、そうなって不思議ではないのである) 「和漢三才図会」では巻第八十九の「味果類」に「鹽麩子(ぬるで/ふし)」の項がある。

・「蛅蟖(けむし)の雀甕(すゞめのたご)」鱗翅(チョウ)目 Glossata 亜目 Heteroneura 下目ボクトウガ上科イラガ科イラガ亜科イラガ属 Monema に属するイラガ類或いはその近縁種の作る繭のこと。イラガ Monema flavescens を例にとると(同ウィキのから引用するが、毒棘を持つ幼虫の画像があるので例外的にリンクは張らない)。『終齢幼虫(前蛹)で越冬し、そのための繭を作る。独特の茶色い線が入った白く固い卵状の殻で、カルシウムを多く含み日本の昆虫がつくる繭の中で最も固いとみられる』。『春先に中で蛹化し』、六月に『羽化する。羽化時には繭の上端が蓋のように開き(小さな穴は寄生蜂の脱出口)、地方によりスズメノショウベンタゴ(担桶)とも呼ばれる。玉虫と呼んで釣り餌(特にタナゴ釣り)に用いられる』とある。有毒危険生物の場合は必ず注するのが私のポリシーなので以下、附記しておくと、『幼虫に知らずに触れると激しい痛みに飛び上がる。地方名のひとつ「デンキムシ(電気虫)」の由来である。これは外敵を察知した幼虫が、全身の棘の先から毒液を一斉に分泌するためである。体を光にかざすと、すべての針の先から液体が分泌されていることがわかる。刺激はかなり強く、場合によっては皮膚に水疱状の炎症を生じ、鋭い痛みの症状は』一時間程度、『かゆみは』一週間程度、『続くことがある。卵をつぶしたり触れたりしてもかぶれるので注意が必要。又、種類によっては繭に毒毛を付けている物がある。刺された場合は、直ぐに流水で毒液と棘を洗い流すこと。棘が残っていれば粘着テープなどで棘を除去する(患者はかなりの痛みを感じているので配慮が必要)。その後、市販の虫刺されの治療薬を塗るとよい。症状が酷い場合や目に入った場合は医師の治療を受ける。正確な毒性分は解明されていないが、ヒスタミンやさまざまな酵素を成分とした非酸性の毒だとされている。中和目的にアンモニア水を塗っても効果は無く、抗ヒスタミン剤やアロエの葉の汁を塗布するのが有効であるとされる。ひどい場合は皮膚科等で処置をする必要がある』とある。さらに付け加えておかなくてはいけないのが、『食樹の樹幹についている繭は』イラガ亜科 Parasa 属ヒロヘリアオイラガ Parasa lepida『のものであることが多い。ちなみに、ヒロヘリアオイラガに限っては繭にも毒がある』という点である。四つ後に独立項「雀甕(すずめのたご)」として解説されている。

・「蠟蟲の蠟子」有翅昆虫亜綱半翅(カメムシ)目同翅(ヨコバイ)亜目カイガラムシ上科 Coccoidea に分類されるカイガラムシ類の形成する虫体被覆物のこと。ウィキの「カイガラムシ」によれば(下線やぶちゃん)、『果樹や鑑賞樹木の重要な害虫となるものが多く含まれ』る一方、古くから『いくつかの種で分泌する体被覆物質や体内に蓄積される色素が重要な経済資源ともなっている分類群である』。『熱帯や亜熱帯に分布の中心を持つ分類群であるが、植物の存在するほぼ全ての地域からそれぞれの地方に特有のカイガラムシが見出されており、植物のある地域であればカイガラムシも存在すると考えても差し支えない。現在』、世界では約七千三百種が『知られており、通常は』二十八科に『分類されている。ただしカイガラムシの分類は極めて混乱しており、科の区分に関しても分類学者により考え方が異なる』。『日本に分布する代表的な科としてはハカマカイガラムシ科 Orthezidae 、ワタフキカイガラムシ科 Margarodidae 、コナカイガラムシ科 Pseudococcidae 、カタカイガラムシ科 Coccidae、マルカイガラムシ科 Diaspididae などがある』。同じような食性を持つ半翅目の腹吻亜目アブラムシ上科 Aphidoidea のアブラムシ類(「アリマキ」のこと)などの腹吻類の『昆虫は、基本的に長い口吻(口針)を植物組織に深く差し込んで、あまり動かずに篩管液などの食物を継続摂取する生活をし、しばしば生活史の一時期や生涯を通じて、ほとんど動かない生活をする種が知られる。その中でもカイガラムシ上科は特にそのような傾向が著しく、多くの場合に脚が退化する傾向にあり、一般的に移動能力は極めて制限されている』。『脚が退化する傾向にはあるものの、原始的な科のカイガラムシではそこに含まれるほとんどの種が機能的な脚を持っており、中には一生自由に動き回ることができる種もいる。イセリアカイガラムシやオオワラジカイガラムシはその代表例で、雌成虫に翅は通常無いものの、雌成虫にも脚、体節、触角、複眼が確認できる。しかしマルカイガラムシ科などに属するカイガラムシでは、卵から孵化したばかりの』一齢幼虫の『時のみ脚があり自由に動き回れるが』、二齢幼虫以降は『脚が完全に消失し、以降は定着した植物に完全に固着して生活するものがいる。こうしたカイガラムシでは』、一齢幼虫以外は『移動することは不可能で、脚以外にも体節、触角、複眼も消失する。雌の場合は、一生を固着生活で送り、そのまま交尾・産卵、そして死を迎えることになる』。『基本的には固着生活を営む性質のカイガラムシでも、一部の科以外のカイガラムシでは機能的な脚を温存しており、環境が悪化したり、落葉の危険がある葉上寄生をした個体が越冬に先駆けて、歩行して移動する場合もある』。『だが、基本的に脚が温存されるグループのカイガラムシであっても、樹皮の内部に潜入して寄生する種やイネ科草本の稈鞘』(かんしょう:「稈」は稲や竹など中空になっている茎の部分で、イネ科植物全般の茎につく葉の基部にある鞘(さや)状の部分を指す)『下で生活する種などでは、脚が退化してしまい成虫においては痕跡的な脚すら持たないものもいる』。『また固着性の強い雌と異なり、雄は成虫になると翅と脚を持ち、自由に動けるようになる。だが、雄でも幼虫の頃は脚、体節、触角、複眼が消失し、羽化するまで固着生活を送る種が多い』。『もうひとつカイガラムシに特徴的な形質は体を覆う分泌物で、虫体被覆物と呼ばれる。虫体被覆物の主成分は余った栄養分と排泄物である。多くのカイガラムシが食物としているのは篩管』(しかん:「師管」とも書き、植物の維管束を構成する主部分。葉で合成された同化物質を下へ流す通管で細長い細胞が縦に繫がった管状組織。細胞の境の膜(篩板)に多数の小孔を有する)『に流れる液であり、ここに含まれる栄養素は著しく糖に偏った組成となっている。これをカイガラムシの体を構成する物質として同化すると、欠乏しがちな窒素やリンなどと比して、炭素があまりにも過剰になってしまうので、これを処理する必要がある。処理の手段の一つは食物に含まれる過剰の糖と水分を、消化管にある濾過室という器官で消化管の経路をショートカットさせて糖液として排泄してしまうことであり、この排泄された糖液を甘露という。また、体内に取り込まれた過剰の糖分は炭化水素やワックスエステル、樹脂酸類などといった、蝋質の分泌物に変換されて体表から分泌され、虫体被覆物となる。カイガラムシの種類によっては、甘露などの消化管からの排泄物を体表からの分泌物とともに虫体被覆物の構成要素としている』。『通常虫体が露出しているように見える種のカイガラムシでも、その表面は体表の分泌孔や分泌管から分泌されたセルロイド状の分泌物の薄いシートで被覆されている。また、分泌物の量が多いものでは体表が白粉状や綿状、あるいは粘土状の蝋物質で覆われていることが容易に観察できる』。『マルカイガラムシ科のカイガラムシは多くの科のカイガラムシとは少々様相が異なり、英語で Armored scale insects と呼ばれるように、虫体からは分離して、体の上を屋根のように覆う介殻と呼ばれる貝殻状の被覆物の下で生活している。これは体表の腺から分泌される繊維状の分泌物などを腹部末端の臀板と呼ばれる構造を左官職人の用いる鏝(こて)のように用いて壁を塗るように作り上げられる。このとき虫体は口針を差し込んでいる箇所を中心に回転運動して広い範囲に分泌物を塗りこむ。この介殻も、余った栄養分と排泄物から成り立っている』。『典型的な不完全変態である他のカメムシ目(半翅目)の昆虫と異なり、仮変態(新変態、副変態とも)と呼ばれる変態を行う。雌雄では成長過程が大幅に異なっている』。『雌の場合』、二齢幼虫を『経て成虫になるが、脱皮せずにそのまま成虫になる種が多く見られる。これは脚などが消失し、固着生活を送る種では顕著に見られる。すなわち、羽化をせずに成虫になる。このような種では体内に大きな卵のうを有しているため産卵活動もせず、交尾後、雌成虫の死骸から孵化した』一齢幼虫が『這い出してくる形となる。また、脚などが消失せず、移動生活を送る種でも、羽化して成虫になる種は多くない』。雄の場合、三齢幼虫を『経て成虫になるが』、この三齢幼虫は『擬蛹と呼ばれる。つまり、完全変態昆虫の蛹に該当するが、体内構造が完全変態昆虫の蛹のそれとは大幅に異なっている』。その特異性から『「カイガラムシの雄には蛹の期間があるため、完全変態である」という説明がよくされるが、厳密には不完全変態であり、不完全変態と完全変態の中間的な性質をもち特殊化した物と考えられている。前出の仮変態もこれに因んでいる。そして、羽化して翅と脚を有する成虫になる』。翅は二対四枚あるが、退化して一対二枚しかない『種も多く存在する。雄成虫には口吻がなく、精巣が異常なまでに発達している。そして、交尾を済ませるとすぐに死んでしまう。雄成虫の寿命は数時間から数日程度で、交尾のためだけに羽化する』。『近年、カイガラムシ上科に属する種の中には、雌雄が逆転し、雄が一生を固着生活で終えるのに対し、雌が擬蛹~羽化によって有翅の成虫となる種も発見されている。そして、活発に交尾・産卵をして短い成虫期間を生殖に費やす。また、雌雄ともに擬蛹~成虫というプロセスをたどる種も発見されている。さらには、最終齢幼虫(擬蛹)が不動ではなく摂食する種も存在する。だが、これらの種をカイガラムシ上科に分類するべきではない、とする学説も存在する。カイガラムシの分類学的研究が大幅に遅れているため、これらの種に対して決定的な分類は未だされていない』。『草食性で、大半の被子植物に寄生し、口吻を構成する口針を植物の組織に深く突き刺して、篩管などの汁液を摂取する。食物は維管束から篩管液を摂取するものが多いが、葉に寄生するものを中心に、葉肉細胞などの柔組織の細胞を口針で破壊して吸収するものも少なくない。雌成虫は口吻が異常なまでに発達している種が多く、固着生活を送る種では顕著である。これらの種では寄生している植物から引き剥がしても、口吻が確認できないことが多い。引き剥がした際、口吻まで引きちぎられて宿主植物の内部に残存してしまっていることが多いからである。そのため、宿主植物から引き剥がされた固着性のカイガラムシは、すぐに死んでしまうことが多い。また、移動生活を送る種の場合は、口吻で植物体にくっついているが、それ以外の部分は密着していないため、寄生している植物から引き剥がしても口吻が確認できる。腹面に隠れている頭部全体や脚も確認できることが多い』。以下、「資源生物」の項(「害虫」の項は思うところあって省略する。「害虫」とは人間の勝手な命名であって、彼らはただ生命を維持するために少しばかりの摂餌をしているに過ぎない。爆発的な個体数の増加は寄生虫や病気の蔓延と次世代の飢餓を惹き起こして繁栄即滅亡の危機に繋がる。そうしてそういう異常発生が生じるのは大抵が人が手を入れた非自然環境で発生する)。『カイガラムシの資源生物としての利用は、多くの場合体表に分泌される被覆物質の利用と、虫体体内に蓄積される色素の利用に大別される』。『被覆物質の利用で著名なものはカタカイガラムシ科のイボタロウムシ Ericerus pela(Chavannes, 1848) である。イボタロウムシの雌の体表は薄いセルロイド状の蝋物質に覆われるだけでほとんど裸のように見えるが、雄の』二齢幼虫は『細い枝に集合してガマの穂様の白い蝋の塊を形成する。これから精製された蝋は白蝋(Chinese wax)と呼ばれ、蝋燭原料、医薬品・そろばん・工芸品・精密機械用高級ワックス、印刷機のインクなどに使われている。主な生産国は中国で、四川省などで大規模に養殖が行われている。かつては日本でも会津地方で産業的に養殖された歴史があり、会津蝋などの異名も持つが、現在では日本国内では産業的に生産されていない。会津蝋で作られた蝋燭は煙がでないとされ珍重された』。『色素の利用で著名なものに中南米原産のコチニールカイガラムシ科のコチニールカイガラムシ Cochineal Costa, 1829 がある。エンジムシ(臙脂虫)とも呼ばれ、ウチワサボテン属に寄生し、アステカやインカ帝国などで古くから養殖されて染色用の染料に使われてきた。虫体に含まれる色素成分の含有量が多いので、今日色素利用されるカイガラムシの中ではもっともよく利用され、メキシコ、ペルー、南スペイン、カナリア諸島などで養殖され、染色用色素や食品着色料、化粧品などに用いられている。日本でも明治初期に小笠原諸島で養殖が試みられた記録があるが、失敗したようである』。『こうしたカイガラムシの色素利用は新大陸からもたらされただけでなく、旧大陸でも古くから利用されてきた。例えば地中海沿岸やヨーロッパで古くからカーミンと呼ばれて利用されてきた色素はタマカイガラムシ科の Kermes ilicis (Linnaeus, 1758) から抽出されたものだった。カイガラムシ起源の色素はすべてカルミン酸とその近縁物質で、この名称はカーミンに由来する。ネロ帝の時代に、ブリタンニア地方に生息していたカイガラムシを染料として利用する方法が発見され、属州から税金の代わりにとして納められていた時代もある』。『虫体被覆物質と虫体内色素の両方を利用するものに Lacに代表されるラックカイガラムシ科』 Kerriidaeの『ラックカイガラムシ類が挙げられ、インドや東南アジアで大量に養殖されている。ラックカイガラムシの樹脂様の虫体被覆物質を抽出精製したものはシェラック(Shellac、セラックともいう)と呼ばれ、有機溶媒に溶かしてラックニスなどの塗料に用いられるほか、加熱するといったん熱可塑性を示す一方である温度から一転して熱硬化性を示すので様々な成型品としても用いられ、かつてのSPレコードはシェラック製だった。化粧品原料、錠剤、チョコレートのコーティング剤としても使われる』。『また、ラックカイガラムシの虫体内の色素は中国では臙脂(えんじ)や紫鉱、インドではラックダイと呼ばれ、染料として古くから盛んに用いられた』。『また、特殊な利用に糖分を多く含んだ排泄物の利用がある。旧約聖書の出エジプト記にしるされているマナと呼ばれる食品は、砂漠地帯で低木に寄生したカイガラムシの排泄した排泄物(甘露)が急速に乾燥して霜状に堆積したものと推測されている』とある。

・「蠛蠓〔(まくなぎ)〕」訓は私の想像である。本「和漢三才図会」を手にした人々がどう読んだ可能性が高いかで、これを選んだ。古語の「まくなぎ」は古くは「まぐなき」とも称し、一つは「瞬き」や「目配(めくば)せ」の意でよく見るが、これは同時に「小さな羽虫」の謂いを持つ。これは、ヌカカ(双翅(ハエ)目長角(糸角/カ)亜目カ下目ユスリカ上科ヌカカ科 Ceratopogonidae のヌカカ(糠蚊)類。私は海や山でさんざん刺されて長く苦しんだ(痒みと炎症が異様に長く続く)経験がある)・ユスリカ(ユスリカ上科ユスリカ科 Chironomidae のユスリカ(揺蚊)類:和名はで幼虫が体を揺するように動かすことに由来するとされる。以下の二類とともに所謂、「蚊柱」を作ることで知られる)・ガガンボ(ガガンボ下目ガガンボ上科ガガンボ科 Tipulidae のガガンボ類。成虫は蚊を巨大にしたような感じ種が多いように私は思う)・ガガンボダマシ(ガガンボ上科ガガンボダマシ科 Trichoceridae)などの類を指す。東洋文庫版は『かつおむし』とするが、採らない。何故なら、この名(どういう種を想定して訳者が附したかは不明であるが)は少なくとも私には直ちに、鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目 Bostrichiformia 下目ナガシンクイムシ上科カツオブシムシ科 Dermestidae を想起させ、それは、本虫癭中にいるそれの印象とは微妙に異なるからである(具体に説明すると、恐らく気持ちの悪くなる人が出るのでやめておくが)。

・「霜降(しもつき)」十一月。

・「穿壞」穴を開けて、癭を破壊してしまうこと。

・「百藥煎」続く同項を参照のこと。

・「皂色(くろいろ)」黒色。

・「大きに時用と爲す」現行、盛んに用いられ、重宝がられている。

・「信州より出づる者」ネット上ではこの旧産地を確認出来ないが、ヌルデの植生からは納・「五痔」一説に切(きれ)痔・疣(いぼ)痔・鶏冠(とさか)痔(張り疣痔)・蓮(はす)痔(痔瘻(じろう))・脱痔とする。

・「鐡漿(かね)」お歯黒のこと。日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第二十五章 東京に関する覚書(6) 天象台の私の居室/鉄漿附けのスケッチの私の注を参照されたい。

・「黒茶染」「茶染」とは、「きもの館 創美苑」公式サイト内の「きもの用語大全」のちゃめ)によれば、『茶色系統の色染の総称です。江戸時代、京都では茶染め専門の仕事をする人を茶染師といいました。化学染料が出現するまでは、植物染料の染色として、藍染とともに多く用いられていたのが茶染で、紅染、黒染とは分業になっていました。禁裡や幕府の御用を務めたところから、茶染屋は御用染師を指すようになりました』とあるから、その茶が黒みを帯びた染色を指すものと思われる。

・「百藥煎」次の「阿仙藥」の別名とする漢方サイトもあるが、ここは「五倍子」を主剤(以下の割合を見れば一目瞭然。「阿仙藥」は五倍子を含むものもありそうだが、主剤ではないと私は踏んでいる。次項で考証する)とした「本草綱目」のそれとして、別個なものと採ることとする。

・「毎一斤」「毎」は「ごと」で「一斤につき」の意。現行の日本では一斤は六百グラムで、明代は五百九十六・八二グラムと近い(因みに、寧ろ、現代中国では五百グラムと有意に少ないので注意されたい)。

・「眞茶」本物の茶の謂いであろう。

・「一兩」明代のそれは三十七・八グラム。

・「醇糟〔(じゆんそう)〕」東洋文庫版現代語訳には『(まじりけのない純な糟(さけかす)』とある。

・「四兩」百五十一・二グラム。

・「糠缸(ぬかつぼ)」糠壺。

・「2(おほ)ひ」(「2」=(上){「内」の上部の出っ張りを除去したものを(かんむり)状に扁平にしたもの}+(下)「音」)「覆」と同義であろう。

・「發起して麪〔(べん)〕を發す狀のごとくなる」発酵を始めて、表面に小さな麦粉状のものが生ずるようになったら。東洋文庫版現代語訳は『発行した状態になれば』と訳されてあるが、やや意訳的に過ぎる。

・「餅丸」餅ほどの大きさの丸薬にするということか。丸餅のような形に製剤することと採っておく。

・「上焦心肺」三焦(さんしょう:漢方医学で六腑の一つとされるものの、「三焦」に限っては、機能はあるが、特定の臓器形態を持たないとされる。現行の知見では「リンパ管」「リンパ系」が相似的対象と考えられている)の内、「上焦」は「心・肺」を、「中焦」は「脾・胃」を、下焦は腎・膀胱・大腸・小腸などを支配するというから、ここは上焦の統括的機能を高めて、「心」「肺」の各器官の機能を安定させるという謂いであろう。続く、去「痰」効果や鎮「咳」作用と、よく一致する。

・「熱渴〔(ねつかつ)〕」東洋文庫版現代語訳は『(のどのかわくひどい熱』と割注する(但し、「渴」は「渇」になっている。「渴」の字は「渇」の正字である)。]

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