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2016/04/02

蟻 / 白百合 / 山のなかにて / 雨と葉   原民喜

 蟻   原 民喜

 

遠くの道を人が時々通る

影は蟻のやうに小さい

私は蟻だと思つて眺める

幼兒が泣いた眼でみるやうに

それをぼんやり考えて居る。

 

 

 

 白百合

 

おゝ白百合よ

私はパツとその白さを見た

幸福を感じ易い今日の朝

 

 

 

 山のなかにて

 

松があつて

風に鳴るので

石の上には

なにもなくても

山は寂しい

 

 

 

 雨と葉

 

あたりは白く明らみ

いつもの淋しい樹は雨に濡れる

ああ忘れてはしまつたが

何か小さな懷しい想ひ出が

雨と葉のなかにあるらしく

呼び起すことはできなくとも

ほのかにも 心懷しくなるよ

いくすじにも降る雨は

たくさんの囁きを持つてゐる

 

[やぶちゃん注:大正一二(一九二三)年十一月発行の『少年詩人』四号(この号のみ「月号」でなく、通算号表示であるので注意)に所収された四篇総て。

 底本は一九七八年青土社刊「原民喜全集 Ⅰ」の拾遺集を用いたが、戦前の創作なので、恣意的に漢字を正字化した。]

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