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2016/04/05

和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 蚝

Iramusi

いらむし    蛅蟖 紅姑娘

2同】  棘剛子 

        楊痢子

        【俗云 以良無之】

[やぶちゃん字注:「1」=「虫」+「毛」。「2」=「戜」-「呈」+(同位置に)「虫」。「3」=「虫」+「黒」。]

 

本綱俗呼爲毛蟲好在果樹上大小如蠶身靣背上有五

色斑毛有毒能刺螫人欲老者口中吐白汁凝聚漸硬正

如雀卵大如巴豆其蟲以甕爲繭在中成蛹如蠶之在繭

也夏月羽化而出作蛾放子於葉間如蠶子

按蚝蟲俗云苛蟲【以良無之】苛者小草生刺也此蟲刺人如

 荊刺故云爾棘剛子之名亦然也有數種大抵初生黃

 色黒點大者寸許扁身五色鮮明也予捕之以蟲眼鑑

 視之彩色美形狀怖者莫加此扁身黃黒班而背有四

 白髦如結成黒耳黑鬚黑尾皆數十毛以成象額有正

 紅紋

 和名抄引説文云蝟【和名久佐布】虫似豪猪而小者也似指

 此虫然恐誤也蓋豪猪者獸也蝟雖从虫非蟲名

 

 

いらむし                      蛅蟖〔(せんし)〕

                                紅姑娘〔(こうこじやう)〕

【「1」、同〔(じ)〕。】 棘剛子〔(きよくがうし)〕 

                          楊痢子〔(やうつし)〕

                         【俗に云ふ、以良無之。】

[やぶちゃん字注:「1」=「戜」-「呈」+(同位置に)「虫」。「2」=「虫」+「黒」。]

 

「本綱」、俗に呼びて毛蟲と爲す。好みて、果樹の上に在り。大小、蠶〔(かひこ)〕のごとし。身・靣〔(をもて)〕・背の上に五色の斑毛(まだらげ)有り。毒、有りて、能く人を刺螫(さ)す。老〔いん〕と欲〔(す)〕る者、口中より白汁を吐き、凝(よ)り聚(あつ)まり、漸〔(やうや)〕く、硬く、正に雀卵のごとく〔になれり〕。大いさ、巴豆〔(はづ)〕のごとし。其の蟲、甕(もたい)を以て繭と爲し、中に在りて、蛹と成る。蠶の繭の在るがごとし。夏月、羽化して出でて、蛾(ひとりむし)と作〔(な)〕る。子を葉の間に放〔(はな)〕つ。蠶子〔(かいこ)〕のごとし。

按ずるに、蚝蟲は俗に「苛蟲(いら〔(むし)〕と云ふ。【以良無之。】苛〔(いら)〕とは、小草の刺(はり)を生ずるなり。此の蟲、人を刺すこと、荊刺(いばら)のごとし。故に爾(し)か云ふ。棘剛子の名も亦、然り。數種有り、大抵、初め、生黃色にして、黒き點〔あり〕。大なる者、寸許り。扁(ひらた)し。身、五色、鮮明(あざや)かなり。予、之れを捕へて、蟲眼鑑(〔(むし)めがね〕以つて之れを視るに、彩色、美〔(なるも)〕、形狀、怖(をそろ)しきは、此れに加ふる莫〔(な)〕し。扁〔(ひらた)〕き身、黃黒〔の〕班〔(ふ)ありて〕、背、四〔つ〕の白き髦(たてがみ)有り。結成して、黒耳・黑鬚・黑尾、皆、數十毛、以〔て〕、象〔(かた)〕ちを成す。額に、正紅の紋、有り。

「和名抄」に「説文」を引きて云〔く〕、『「蝟」【和名、久佐布〔(くさぶ)〕。】〔といふ〕虫、「豪猪(やまあらし)」に似て、小さき者なり。』とは、此の虫を指して〔(云ふ)に〕似る。然れども、恐くは誤りなり。蓋し、「豪猪」は獸なり。「蝟」、虫を从〔(したが)ふ〕と雖ども、蟲の名に非らず。

 

[やぶちゃん注:取り敢えず、「毛虫」総説と言うべきものではある。但し、良安は次に「2」(「2」=「虫」+「黒」)を別項として立てて、「本草綱目」で同一としているこの「紅姑娘」(この「蚝」のこと)と「2」は同類異種として区別、別種とすべきであるというオリジナルな異論を唱えている(次項で考察する)。しかし彼はここで「2」を既にして冒頭の異名欄に挙げてしまっており、しかも「本草綱目」の「雀甕」から、時珍の「俗に呼びて毛蟲と爲す」という言を引用して(後述)、良安自身、「數種有り」と述べている以上、やはりここは毛虫総論と採るしかない。さて、ウィキの「毛虫」によれば(今回は少し、一部の判り難い和名の漢字表記を添えてみた。下線はやぶちゃん)、『ケムシ(毛虫)は、チョウやガ』(同じ鱗翅目 Lepidoptera に属する。本目を「チョウ目」と和名する考え方に私は組し得ない。現生種の蛾類は本目内の蝶類の二十倍から三十倍存在していると考えられ、敢えて呼ぶなら「蛾蝶目」とでもすべきである)『の幼虫のうち、毛や棘が生えているもの。特にガ類の幼虫で毛が多いものを指す場合が多い。ただし、少々毛の生えたイモムシと、明確な区別はない』(既に注したが、「芋虫」とはその形状が芋に似ているからではない。人が食用とする大事な「芋」の葉を食害する「虫」の謂いである)。『毒毛を持っていると思われて毛嫌いされることが多いが、実際に有毒なのは』、『ごく一部に過ぎず』、『日本産のガでは』、

ドクガ科(鱗翅目有吻亜目二門下目ヤガ(夜蛾)上科ドクガ科 Lymantriidae

カレハガ科(異翅亜目 Lasiocampoidea 上科カレハガ(枯葉蛾)科 Lasiocampidae

ヒトリガ科(ヤガ上科ヒトリガ(火取蛾/灯盗蛾)科 Arctiidae

イラガ科(異翅亜目マダラガ上科イラガ(刺蛾/棘蛾)科 Limacodidae

マダラガ科(マダラガ上科マダラガ(斑蛾)科 Zygaenidae

『の一部の幼虫に限られる。とはいえ、有毒種のいくつかはごく普通種でもある』。『全身に長い毛の生えたものや、細かい毛の生えたものなど、様々な形のものがあるが、有毒な種でも、すべての毛に毒があるわけではない。また毛の目立たないものにも有毒種がある』。「有毒の毛虫」はまず、ドクガ科で、『目立つ長い毛は無毒であり、毒毛は非常に短く、束になっていて、長い毛の合間に規則的に配列している。肉眼では毛が生えているようには見えず、むしろビロード状の斑紋があるように見える。個々の毛もほとんど粉のようにしか見えない。これを毒針毛(どくしんもう)と呼んでいる。毒針毛は抜けやすく、皮膚につくと刺さって皮内で壊れ、内部に封じ込められていたヒスタミンなどを放出するため、長い間かゆみに苛まれる。また、幼虫はたいてい蛹になるときに繭に毒針毛をぬりつけ、さらにそれを成虫が体表につけるものが多い。産卵時に親が卵の表面に毛を塗りつけるため、卵にさわっても刺される場合すらある。主要な有毒種である』、

ドクガ(ドクガ科 Artaxa 属ドクガ Artaxa subflava

チャドクガ(ドクガ科ドクガ属チャドクガ Euproctis pseudoconspersa

モンシロドクガ(ドクガ科 Sphrageidus 属モンシロドクガ Sphrageidus similis

などは二齢幼虫から『終齢幼虫の時期に毒針毛を持つ』。『これらの種では終齢幼虫の毒針毛を繭・メス成虫・卵塊・』一齢幼虫と『次々と受け継ぐことで一生涯毒針毛を持っていることになる』。『ドクガ科でもマイマイガ』(ドクガ科マイマイガ属マイマイガ(舞舞蛾)Lymantria dispar)のように、一齢幼虫の『時期しか毒針毛を持たない種類や、ヒメシロモンドクガ』(Orgyia 属ヒメシロモンドクガ Orgyia thyellina)・スギドクガ(Calliteara 属スギドクガ Calliteara argentata)・エルモンドクガ(Arctornis  Arctornis l-nigrum 種亜種エルモンドクガ(L紋毒蛾)Arctornis l-nigrum ussuricum)・ダイセツドクガ(Gynaephora 属ダイセツドクガ(大雪毒蛾) Gynaephora rossii daisetsuzana)・カシワマイマイ(Lymantria 属カシワマイマイ(柏舞舞) Lymantria mathura aurora:和名は幼虫がカシワの木の葉を好むことに由来する)『などのようにドクガ科でありながら毒針毛を一切持たない種類もある。日本産のドクガ科の毛虫では、ドクガ、チャドクガ、モンシロドクガ』、

キドクガ(ドクガ科 Euproctis 属キドクガ(黄毒蛾)Euproctis piperita

『などが毒性が強く、注意を要する』。次にカレハガ科で、同科の仲間の中には、『ドクガ科と同様に毒針毛を持つ幼虫が知られている。ドクガ科の毒針毛の束は幼虫の背面の多くの体節にまたがって対を成して配列することが多いが、カレハガ科の幼虫の毒針毛の束は胸部に集中して帯状の塊になることが多い。ドクガ科と異なり、長く、肉眼でも容易に毛のように見える。刺激を受けた幼虫は胸部を腹側に湾曲させ、この毒針毛の束を突き出して外敵に叩きつけて防御する。毒針毛の束が』二束『ある場所が皮膚のひだの内部にあり、胸部を屈曲させたときにはじめて露出する種もある』。例えば、

カレハガ(カレハガ科カレハガ亜科 Gastropacha属カレハガ Gastropacha orientalis

マツカレハ(カレハガ亜科 Dendrolimus 属マツカレハ Dendrolimus spectabilis

ツガカレハ(Dendrolimus属ツガカレハ Dendrolimus superans

クヌギカレハ(カレハガ亜科 Kunugia 属クヌギカレハ Kunugia undans

ヤマダカレハ(Kunugia 属ヤマダカレハ Kunugia yamadai

などがそれに相当する種である。中には、

タケカレハ(カレハガ亜科 Euthrix 属タケカレハ Euthrix albomaculata

ヨシカレハ(Euthrix 属ヨシカレハ Euthrix potatoria

『のように毒針毛の束を頭部付近と尾部付近に』一束『ずつ持つ種もある。ドクガ科と同様に幼虫がさなぎになるときには繭の内側から毒針毛を突き刺して植えつけるため、繭に触れると危険である。しかし、ドクガ科とは異なり』、『成虫にはこの毒針毛は付着しない。日本産のカレハガ科で毒性が強く危険なものは、マツカレハ、クヌギカレハ、タケカレハなどである』。次にヒトリガ科であるが、本科の仲間は『毒針毛を持つ種類はわずかで』、

ヤネホソバ(ヒトリガ科コケガ亜科 Eilema 属ヤネホソバ(屋根細翅(蛾)) Eilema fuscodorsalis

『や、その近縁種である』

ツマキホソバ(Eilema 属ツマキホソバ(褄黄細翅(蛾))Eilema laevis

『などが該当する。それ以外の種類は、ヒトリガ』(ヒトリガ亜科ヒトリガ属ヒトリガ Arctia caja)『を始め、シロヒトリ』(ヒトリガ亜科 Chionarctia 属シロヒトリ(白灯蛾:一般に漢字表記では「ひとり」はこう表記する。老婆心乍ら、「独り」ではない。私は小学校の校庭に大発生した頃から、内心、『あんなに(幼虫が)うじゃうじゃ群がってるのに何で「白独り」なんだろ?』と疑問に思っていたのを思い出す Chionarctia nivea)、『アメリカシロヒトリ』(ヒトリガ科 Hyphantria 属アメリカシロヒトリ Hyphantria cunea後に私は野坂昭如の「アメリカひじき」を読んだ時、紅茶の葉をそう誤認して食ったというシークエンスで、「アメリカ白独り」という、群れながら、広大なアメリカ大陸でただ一匹の孤独な精神を以って、全身を針で武装ている虫に秘かに心寄せていた少年時代の夢想を遙か遠い記憶の中に思い出させていた)、『クワゴマダラヒトリ』(ヒトリガ亜科 Lemyra 属クワゴマダラヒトリ(桑胡麻斑灯蛾)Lemyra imparilis)、『カノコガ』(ヒトリガ科カノコガ亜科カノコガ属カノコガ Amata fortunei)『など毒針毛を持たない種類が多い』。次に既出のイラガ科、及びマダラガ科であるが、『これらの幼虫は扁平で毛が少なく、ケムシには見えないものもある。短い棘が並んでおり、この付け根の体内に毒液の入った袋があり、注射器のように毒液を外敵の皮膚に注入する。これを毒棘(どくきょく)と呼ぶ。この型のものでは、幼虫の期間だけ刺す能力がある。ただし、イラガ科の』Parasa(アオイラガ)属の

アオイラガ(イラガ科イラガ亜科 Parasa 属アオイラガ Parasa consocia

クロシタアオイラガ(黒下青刺蛾)(Parasa sinica

ヒロヘリアオイラガ(広縁青毒刺蛾)(Parasa lepida

『の幼虫には毒棘とともに尾部に毒針毛の束があるので、繭の表面には触れないほうがよい。イラガ科の幼虫は全て毒棘で刺す能力があるが、マダラガ科の幼虫の場合、毒棘を持つ種は限られ』例えば、

タケノホソクロバ(マダラガ科クロマダラ亜科 Artona 属タケノホソクロバ(竹細黒翅(蛾))Artona martini

ウメスカシクロバ(クロマダラ亜科 Illiberis 属ウメスカシクロバ(梅透黒翅(蛾)) Illiberis rotundata

リンゴハマキクロバ(Illiberis 属リンゴハマキクロバ(林檎葉巻黒翅(蛾))Illiberis pruni

などである。『しかし、毒棘を持たないマダラガ科の幼虫の体表には外敵に攻撃されたときに不快な味のする防御液を分泌する腺を持つもの(ミノウスバ』(マダラガ亜科 Pryeria 属ミノウスバ((蓑薄翅(蛾))Pryeria sinica)『など)が多く、これがイラガ科やマダラガ科の毒棘と系統的に関連があると考えられる』とある。以下、「よく見かける毛虫」の項。『毛虫は見かけが派手で、刺すものもあり、また作物や果樹、庭木を食い荒らすものもあるため、人からの評価は非常に良くない。葉桜の季節には、毛虫が目の前あるいは身体や衣服の上に降ってきたりして嫌がられることがしばしばある』。『一般に馴染みがあるのは、庭木の葉を食い荒らす上に毒があるドクガ類、マツカレハなどである』。『刺さない方では、大型になり、黄色い顔に黒い目の模様があるマイマイガの幼虫がよく知られている。マイマイガの若齢幼虫は糸を張ってぶら下る習性から別名ブランコケムシともいう。秋にカラムシ』(双子葉植物綱イラクサ目イラクサ科カラムシ属ナンバンカラムシ変種カラムシ(苧) Boehmeria nivea var. nipononivea)『を裸にし、餌がなくなると道路を練り歩くフクラスズメ』(ヤガ上科ヤガ科シタバガ亜科フクラスズメ属フクラスズメ(脹雀)Arcte coerula)『の赤い頭、黒い体の毛虫も有名。また、戦後の外来種であるアメリカシロヒトリは、庭木に群生して糸で巣を作り、時折大発生して話題になる』とある。

 さてここで、最後にどうしても考証せねばならないのは、良安が異を唱える李時珍の見解である。先にちょっと述べたが、実は時珍は、「本草綱目」に「蚝」の項目を立てていない

のであって、

ここで良安が引く「俗に呼びて毛蟲と爲す」(当該原文箇所は「時珍曰、俗呼毛蟲、又名楊瘌子、因有螫毒也。此蟲多生石榴樹上、故名天漿。天漿乃甜榴之名也。」)というのは、実は前掲の「雀甕」の項の「釋名」の一節

なのである。即ち、時珍は鼻っから「毛虫」を十把一絡げにする確信犯であったので、良安とは立ち位置が異なるのである。謂わば、「毛虫分類学」のスタート地点から二人は同床異夢だということである。但し、本文の良安の記載を見ると分かるように、良安の方がより正確な微細な科学的観察に基づいた箇所(細部を検鏡している)があり、生物学的な形態分類法としては相対的に正しく、博物学的により近代的であるということが判る。而して、この事実から考えるなら、この前半部の「本草綱目」の記載は、

鱗翅目 Glossata 亜目 Heteroneura 下目ボクトウガ上科イラガ科イラガ亜科イラガ属 Monema に属するイラガ類或いはその近縁種を代表とした、棘(有毒・無毒を含む。但し、無毒でもアレルギー反応は別なので注意が必要)を持った「毛虫」類の総論

であり、良安はそれから

――正黒色で、ころんとしたでぶったもので、毛が密生して深く、抜け易いものの、毒性の弱い(或いは毒を持たない)毛虫(次項参照)――を独立させて次項として立てた

と考えられる。従って、良安が次で独立させた「毛虫」は、取り敢えずは、

上記のウィキの「毛虫」の引用中で挙げられた、強い毒性を有するとする種や類を、まず排除し、それ以外の弱毒性、スケールとして示すなら、ちくっとはするものの、痒みが少し出る程度で長く掻痒感が残らないもの(但し、アレルギーの感受性度合いによって極端な個人差はある)、或いは、全く痛くないもの、無毒の「毛虫」類を次項に独立させた

と規定することが出来ると思う。なお、毛虫の針毛には、事実、痛くても無毒のもの、或いは、人によっては肌にごく軽く刺さるものの、痛くも痒くもないものもある。私の古い友人が、しばしば私に、ある木の幹に付着した蛾の蛹と思しいものの上に密生した、細かな茶色っぽい棘を指に刺して見せて、「全然痛くも痒くもないんだぜ」と言っていたのを思い出す。

 最後に。実は私に昆虫の面白みを教えてくれた小学校の六年生の時の同級生の女の子は、カマキリを毎日、学校に持って来て私に持たせて呉れたばかりでなく、毛虫もよく持って来ては愛玩していた(そのため、私以外の男子はその子に近づかなかったとも言えるように思う。彼女は読書好きであったから、私と仲が良かったのであった。二人がともに高く評価した作品はヘッセの「ジャン・クリストフ」であった)。私もその頃は彼女に感化されて、毛虫を掌に載せて可愛がっていたであったが、流石に、今はもう、出来ない。そうしてそのことを少しばかり、私は淋しく感じている、ということを自白しておこう。

 

・「いらむし」の「いら 」は「刺」「苛」で、元来は良安も述べている通り、「草木のとげ」或いは「魚の背びれのとげ」を指す。同語源である接頭語の「かどのある」「とげとげしい」などの意を添える「いら」は形容詞或いはその語幹につくものなので、それではない。

・「蛅蟖〔(せんし)〕」前項「雀甕」でその繭を「蛅蟖房」と呼んでいる(何度も述べるように、良安はその別称表記では「本草綱目」に無批判に拠っているのである)。即ち、本種はその繭の親、成虫であるイラガ属 Monema に属するイラガ類或いはその近縁種に他ならないのである。

・「紅姑娘〔(こうこじやう)〕」ぱっと見では、私なぞは直ちに「聊斎志異」の異類妖女の名か、などと妄想してしまうのだが、これは現代の中国語(音写すると「ホンクーニャン」但し、「姑娘」は現代中国語の会話では殆ど使用されないらしい)では植物の鬼灯(ほおづき:ナス目ナス科ホオズキ属ホオズキ変種ホオズキ Physalis alkekengi var. franchetii)の赤い実を指すようだ。さらに調べると、「紅姑娘」という異名を持つ「紅娘子」というのは、「図経本草」などに載る漢方の古い生薬で、これは半翅(カメムシ)目頸吻亜目セミ型下目セミ上科セミ科チッチゼミ亜科 Huechys 属ハグロゼミHuechys sanguineaの乾燥全虫のことであった。この蟬は事実、体内にカンタリジン(cantharidin:発泡薬であるが劇薬)を含むことから現在も薬用蟬(medical cicada)として知られている。こうした部分は中国本草学のトンデモ命名法の手におえない所以である。

・「蚝」音は「ゴウ・コウ」。現代中国語ではまずは斧足(二枚貝)綱翼形亜綱カキ目 Ostreoida に属する、概ね食用のカキ類を指し、二番に「毛虫」と出る。

1」(「1」=「戜」-「呈」+(同位置に)「虫」)音不詳。通常、この割注は同音を示すから、これも「ゴウ」或いは「コウ」か。

2」(「2」=「虫」+「黒」)。「廣漢和辭典」には、音は「ボク・モク」で、意味の和文は『けむし』とあるのみ(その例として「爾雅」の「釋蟲」などを引くが、表記出来ない字が出るので省略する)。

・「大小」大きいものや小さいものがいることを指す。

・「蠶のごとし」言わずもがなであるが、鱗翅目カイコガ科カイコガ亜科カイコガ属カイコガ Bombyx mori の幼虫に似ているというである。しかし、毛虫の主要属性はその恐ろしいげな棘針にあると思うので、「芋虫」とすればよかろうと勝手に思うのだが、ところがこれ、中国語では「芋虫」という単語はなく、それに相当するのは、どうも「緑色毛毛虫」或いは「青虫」であるようなのである(ネット検索からの推定)。芋虫も青虫も「毛毛虫」(マァォマァォチォン)なら、これは仕方がないなぁ。そうしてどうもこの「毛毛」は、実は現代中国語では子どもとか愛らしい少女や少年の愛称形容(ごく細い柔らかな毛がふかふかしているとう感じの熟語らしい)ということを知って、また、仰天!

・「靣〔(をもて)〕」「面」の俗字。

・「背の上に五色の斑毛(まだらげ)有り。毒、有りて、能く人を刺螫(さ)す」イラガにターゲットを絞るなら(既に引用元の時珍はイラガ類であるとほぼ断定していることは前に述べた)、この五色の斑の棘毛というのは、イラガ亜科 Parasa 属ヒロヘリアオイラガ Parasa lepida の幼虫に私は同定したい。アオイラガ Parasa consocia のそれもよいのであろうが、「五色」というのには「赤」が欲しい。前者では頭部近くに先が朱色の棘の束が一対、チャーム・ポイントとしてあるのである(後者のここは黒色)。もっと過激でフラクタルな棘を持つものや、派手な色のものもないではない。虫嫌いの私が図鑑を見ての印象に過ぎぬので、大方の御叱正を俟つものではある。

・「老〔いん〕と欲〔(す)〕る者」老成した個体。即ち、幼虫の終齡期(生物学では前蛹(ぜんよう)と称する)、蛹化する直前の状態を指す。

・「白汁を吐き」イラガの蛹化は蚕同様に糸を吐いて繭を作る。それをかく言っているのであろう(一方では「絹糸」と有り難がり、一方では、白い液体を嘔吐する、と表現するヒトという種はまっこと救い難い気がする)。因みに、ウィキの「カイコ」によれば、『多くの品種の幼虫は』、五齢で『終齢を迎え、蛹(さなぎ)となる。蛹化が近づくと、体はクリーム色に近い半透明に変わる。カイコは繭を作るのに適した隙間を求めて歩き回るようになり、摂食した餌をすべて糞として排泄してしまう。やがて口から絹糸を出し、頭部を字型に動かしながら米俵型の繭を作り、その中で蛹化する。絹糸は唾液腺の変化した絹糸腺(けんしせん)という器官で作られる。後部絹糸腺では糸の主体となるフィブロインが合成される。中部絹糸腺は後部絹糸腺から送られてきたフィブロインを濃縮・蓄積するとともに、もう一つの絹タンパク質であるセリシンを分泌する。これを吐ききらないとアミノ酸過剰状態になり死んでしまうので、カイコは歩きながらでも糸を吐いて繭を作る準備をする』とあり、イラガのそれも変態システムの概要としては大きく異なるものではないように私は思うが、イラガの蛹化は特異かも知れぬ。識者の御教授を乞うものではある。

・「正に雀卵のごとく〔になれり〕」前項で私が推理したように、雀が好んで食うから「雀甕(すずめのたご)」なんではなくて、蛹の外見が「雀の卵」に似ているから、やっぱり書く呼称することがここで明白となる。

・「巴豆〔(はづ)〕」キントラノオ目トウダイグサ科ハズ亜科ハズ連ハズ属ハズ Croton tiglium の実のこと。マメ科ではないので注意。実は凡そ一・五センチメートル弱の楕円形で中に三個の種子を持つ。ウィキの「ハズ」によれば、『種子から取れる油はハズ油(クロトン油)と呼ばれ、属名のついたクロトン酸のほか、オレイン酸・パルミチン酸・チグリン酸・ホルボールなどのエステルを含む。ハズ油は皮膚につくと炎症を起こす』。『巴豆は『神農本草経下品』や『金匱要略』に掲載されている漢方薬であり、強力な峻下作用がある。走馬湯・紫円・備急円などの成分としても処方される。日本では毒薬または劇薬に指定』『されているため、通常は使用されない』。これを読んでしまうと、ただ形の似ているからだけではなくて、その毒性からの類感呪術的比喩も含んでいるように見えてしまう、フレーザー好みの私なのである。

・「甕(もたい)」瓶(かめ)と同義。

・「荊刺(いばら)」「いばら」は「茨」「荊」「棘」などと書き、バラ・カラタチなどのとげのある低木の総称、或いはノイバラ・ヤマイバラなどのバラ科バラ属植物の総称であるが、ここは漢字表記から「植物のとげ」の意である。三省堂「大辞林」では、特に中部・関西地方での(方言的)謂いであるとする。

・「生黃色にして、黒き點〔あり〕」不詳。幼虫画像ではピンとくるものがない。発生直後の形態を述べているものか? 同定出来る識者の御教授を乞う。

・「寸許り」凡そ三センチメートルほど。

・「予、之れを捕へて、蟲眼鑑(〔(むし)めがね〕以つて之れを視るに」こういう寺島良安の実際の観察が語られるのは、今までの水族類などを電子化した経験上では、非常に珍しいことである。ファーブルっぽくて、とっても、いい!

・「形狀、怖(をそろ)しき者、此れに加ふる莫〔(な)〕し」(彩色の華麗な美しさに対して)その針だらけの形状の怖ろしいことと言ったら、これ、言葉を添えて具体に伝えんとしても、言葉なく、凡そ、言語を絶したおぞましい修羅場である!

・「扁〔(ひらた)〕き身、黃黒〔の〕班〔(ふ)ありて〕、背、四〔つ〕の白き髦(たてがみ)有り」これは如何にも特異な形状を説明している。私が画像から「これは!」と思ったのはヤママユガ科Aglia 属エゾヨツメ Aglia japonica の幼虫であった。ここも画像をリンクしたいが免疫のない人には毒なので御自身で検索されたい(但し、これは毒棘っぽくは全然ない。但し、無毒かどうかは不明。しかし飼育記事が複数あり、そこには刺されたとか、毒があるという記載は載らないようである)。私が「これは!」と思っただけの形態を持っていることだけは、請けがおうぞ。

・「結成して、黒耳・黑鬚・黑尾、皆、數十毛、以〔て〕、象〔(かた)〕ちを成す」黒いトゲトゲ毛虫はいっぱいいるが、怖そうで事実、刺されると非常に痛いとされるものに、イラガ科 Scopelodes 属ヒメクロイラガ Scopelodes contracus の幼虫がいる。なかなかおどろおどろしい形相(けいそう)であるが、真黒ではない。識者の御教授を乞う。

 

・「額に、正紅の紋、有り」イラガ科 Microleon 属テングイラガ Microleon longipalpis の幼虫は額ではなく、背部上辺の頭部寄りに朱色の棘を持つ(これも刺されると激しく痛むらしい)。識者の御教授を乞う。

・『「和名抄」に「説文」を引きて云く、『「蝟」【和名、久佐布(くさぶ)。】といふ虫、「豪猪(やまあらし)」に似て、小さき者なり。』とは、此の虫を指して云ふに似る。然れども、恐くは誤りなり。蓋し、「豪猪」は獸なり。「蝟」、虫を从(したが)ふと雖ども、蟲の名に非らず』(私の附した括弧の一部を除去して読み易くした)とあるが、まず「和名類聚抄」「卷第十九」の「蟲豸類第三十一」を見ると、

   *

蝟  説文云蝟【音謂和名久佐布】虫似豪猪而小者也

   *

とある。「くさぶ」という古語は「日本国語大辞典」にも「蝟」の漢字を当て、針鼠(はりねずみ:次注参照)の異称とする。

「豪猪」とは齧歯(ネズミ)目ヤマアラシ上科ヤマアラシ科アメリカヤマアラシ科 Erethizontidae の地上性のヤマアラシ類

で、

「蝟」(「猬」と同字)は哺乳綱食虫(モグラ)目ハリネズミ科 Erinaceidae のハリネズミ類

を指す。「虫を从〔(したが)ふ〕と雖ども」という部分は、――(この「蝟」という漢字は)虫扁(むしへん)を以って書かれはするが――の意である。因みに、「説文」は「説文解字」の略。中国最古の漢字字書で、元は全十五巻。後漢の許慎の著で、漢字総数九千三百五十三字、異体字千百六十三字を五百四十部に分けて収め、六書(りくしょ)の説によってその形・音・義を解説したもの。

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