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2016/05/14

和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 蠅

Hae

はへ

      【和名波閉】

【音膺】

 

イン

 

本綱蠅飛營營其聲自呼故名夏出冬蟄喜暖惡寒其蒼

者聲雄壯負金者聲清括青者糞能敗物巨者首如火麻

者茅根所化也

蠅聲有鼻而足喜交其蛆胎生蛆入灰中蛻化爲蠅如蠺

蝎之化蛾也蠅溺水死得灰復活也陸佃云蠅好交其前

足有絞繩之象故字从繩省亦好交其後足揺翅自扇也

五雜組云蠅雌者循行求食雄者常立不移足交則雄負

雌其勢在尾近背上最癡頑無毒牙利嘴而其攪人尤甚

至于無處可避無物可避且變芳馨爲臭腐涴浄素爲緇

穢驅而復來死而復生比之讒人不亦宜乎

按形大蒼者及白黒縱班者共生糞土中俗稱屎蠅

 又有蠅夭 日本紀推古天皇三十五年五月蠅集浮

 虛十丈鳴音如雷齋明天皇六年亦有此恠

牛蠅 形似蠅而小背帶白色嘴尖着牛肌噉血人亦所

 噉腫

 

 

はへ

      【和名、「波閉」。】

【音、「膺〔(やう)〕」。】

 

イン

 

「本綱」、蠅の飛ぶ、營營たり。其の聲、自ら呼ぶ、故に名づく。夏、出でて、冬、蟄す。暖を喜び、寒を惡〔(にく)〕む。其の蒼き者は、聲、雄壯なり。金を負ふ者は、聲、清括なり。青き者は、糞、能く物を敗す。巨なる者、首、火麻のごとくなる者は茅(かや)の根の化する所なり。

蠅の聲は、鼻に有りて、足、交ることを喜(この)む。其れ、蛆(うじ)は胎生し、蛆、灰の中に入りて蛻化して蠅と爲る。蠺・蝎の蛾に化するがごとし。蠅、水に溺(をぼ)れて死し、灰を得れば、復た活すなり。陸佃〔(りくでん)〕が云ふ、蠅、好みて其の前足を交へ、繩を絞(な)ふの象(かたち)有り。故、字、繩を省(はぶ)くに从ふ。亦、好く其の後(うしろ)足を交へ、翅を揺(うごか)し、自ら扇(あふ)ぐなり。

「五雜組」に云ふ、蠅の雌なる者は循行して食を求む。雄なる者、常に立ちて足を移さず。交(つる)む時は、則ち、雄、雌を負ふ。其の勢、尾に在りて背上に近し。最も癡頑〔(ちぐわん)〕にして毒の牙・利〔(と)〕き嘴〔(くちばし)〕無くして、其の人を攪〔(かく)すこと〕、尤も甚しく、處として避くべき無く、物として避くべき無きに至る。且つ、芳馨〔(はうけい)〕を變じて臭腐〔(しうふ)〕と爲し、浄素を涴(よご)して緇穢(しゑ)と爲す。驅(か)けて復た來たり、死して復た生〔(しやう)〕ず。之を讒人〔(ざんにん)〕に比す、亦、宜(むべ)ならずや。

按ずるに、形ち、大きに〔して〕蒼〔き〕者、及び、白・黒、縱(たつ)に班〔(まだら)〕する者、共に糞土の中に生ず。俗に「屎(くそ)蠅」と稱す。

 又、蠅夭(やうやう)、有り。「日本紀」推古天皇三十五年五月、蠅、集まりて虛(そら)に浮かぶ〔こと〕、十丈、鳴る音、雷のごとし。齋明天皇六年にも亦、此の恠〔(かい)〕、有り。

牛蠅(うしばへ) 形ち、蠅に似て小さく、背に白色を帶ぶ。嘴、尖り、牛の肌に着く。血を噉(す)ふ。人、亦、噉はれて、腫〔(は)〕る。

 

[やぶちゃん注:これは最後の「牛蠅」から、やはり、吸血性のアブのを含むところの

有翅昆虫亜綱 Pterygota双翅(ハエ)目 Diptera

を指す。にしても、この叙述は殆んど生物学(昆虫学)的というよりも古典的博物学のトンデモ記載に富む。だからこそ、面白い、とも言える。

 

・「營營たり」せっせと休みなく励むさまであるから、ひたすら、飛び廻ることを言う。

・「其の聲」羽音を「聲」と採っている。少しもおかしくはない。蟬の鳴き声は翅を擦ることによって生ずる。蠅の羽の唸りは立派な「蠅の聲」である。

・「自ら呼ぶ」自然に呼称する名が「蠅」である、という自発の意である。中国語の音の「イン」がオノマトペイアだということであろう。

・「惡〔(にく)〕む」東洋文庫版現代語訳は『いむ』(忌む)と訓ずる。採らない。

・「蒼き者」「青蠅」は双翅(ハエ)目ヒツジバエ上科クロバエ科 Calliphoridaeのうち、緑色や青色のハエの俗称。

・「金を負ふ者」和名で名にし負うのはキンバエLucilia Caesar であるが、この「金」とはゴールドの意味ではなく、「金」属光沢の蠅の謂いであるので注意されたい。同種の体色は一般には金緑色の個体が多いものの、青緑色や銅赤色などの個体差が見られる。

・「清括」東洋文庫版現代語訳は『きよらかでひきしまる』とルビする。

・「青き者は、糞、能く物を敗す」東洋文庫版現代語訳はこの「糞」を蠅の種の固有名詞として「糞蠅」とし、後半をそれは『よく物を腐敗させる』と訳す。それが原義ではあろうが、無論、現象は逆であって、腐敗した対象を餌とし、そこに卵を産みつけるために、そこにたかるのである。後の「屎(くそ)蠅」の注を参照されたい。

・「巨なる者」首が「火麻」(中文ではこれはバラ目アサ科アサ属 Cannabis の大麻のことを指す)のようだというのであるが、不詳。

・「茅(かや)の根の化する所なり」トンデモ化生説である。

・「蠅の聲は、鼻に有りて」鼻から発生する。う~ん! 凄い解説! 蠅の嗅覚触角は無論、あっても、それは発声器官ではない。

・「足、交ることを喜(この)む」足を交差させることを好む。一茶の「やれ打つな蠅が手をすり足をする」で、直ぐ後の「蠅、好みて其の前足を交へ、繩を絞(な)ふの象(かたち)有り」もそれを観察した謂いである。「其の後(うしろ)足を交へ翅を揺(うごか)し」、また「自ら扇(あふ)ぐ」のも総ては、体表についた病原体や有毒物質を清拭し、さらに過剰に体温が上昇することを防ぐためであると私は思っている。

・「蛆(うじ)は胎生し」何で、ここで突然、「胎生」? 茅の根が蠅になるんやろ?!

・「蛻化」蛹となって脱皮し成虫となること。

・「蠺・蝎の蛾に化するがごとし」カイコはええが、しかしサソリが蛾に、なるカイ! あほんだら!

・「蠅、水に溺(をぼ)れて死し、灰を得れば、復た活すなり」またまたキタ! 灰で蘇生するんやて!!!

・「陸佃〔(りくでん)〕が云ふ」これは北宋の陸佃によって編集された主に動植物について記述した博物書「埤雅(ひが)」(全二十巻)のこと。

・「繩を省(はぶ)く」「繩」という字の「糸」を省いて「虫」に換えたのだという字解である。思わず、納得してしまうが、本当にそうなんかどうかは、ちょっと疑問やな。

・「五雜組」既出既注。

・「循行」東洋文庫版現代語訳は『あるき廻って』と訳す。

・「常に立ちて足を移さず」東洋文庫版現代語訳は『いつも立ったままで足を移さない』と訳すが、意味が分からない。は飛翔もせず、じっと立ち竦んだまま、を待つちゅうカイ! そげなことしとったら、たちまち捕食されてしまうで?!

・「交(つる)む」交尾する。

・「雄、雌を負ふ」これは私は逆の誤りだと思うのだが、如何?

・「勢」この前後の叙述からこれはの生殖器のことである。のペニスが「尾の方に「在」ってそれは実は「背」の「上」の方「に近」い、だからがバックで責めるということ? ホンマかいな?! あり得ヘンとしか私には思われヘンのやが? 識者の御教授を乞う。

・「癡頑〔(ちぐわん)〕にして」東洋文庫版現代語訳は『おそかでかたくなで』と訳す。

・「毒の牙・利〔(と)〕き嘴〔(くちばし)〕無くして、其の人を攪〔(かく)すこと〕、尤も甚しく」「にして」は原文の訓点であるが、ここは意味上では「なるも」と逆接で訓ずるべきところである。「攪」は攪乱で、苛立たせることの謂いであろう。

・「處として避くべき無く、物として避くべき無きに至る」やけに難しい表現だが、要は、どんな場所であってもいらつく蠅を避け得るべき場所はどこにもなく、蠅を寄せつけるずにいられるような物体や生物はこの世に全く存在しない、という謂いらしい。

・「芳馨〔(はうけい)〕」芳しくよい香り。

・「浄素」東洋文庫版現代語訳は『きよらかなもの』とルビする。

・「涴(よご)して」汚損させて。

・「緇穢(しゑ)」東洋文庫版現代語訳は『きたないもの』とルビする。「緇」は黒い色の謂い。くどいが、実際には蠅が対象を腐敗させる主因ではない(無論、腐敗作用のある菌を運ぶとは言えるから、冤罪ではないが)。

・「驅(か)けて復た來たり」かれやれ! やっと飛んで去ったと思ったら、あっという間に戻ってくる。

・「死して復た生〔(しやう)〕ず」さっきの化生説! 死んだと思ったら、もう! すぐに活きかえっちゃうんだぞ! ハエエルゲ! なお、これって、産卵から蛆になって成虫になるまでが短期間であることからの誤認とも読める気が私にはする。

・「之を讒人〔(ざんにん)〕に比す、亦、宜(むべ)ならずや」東洋文庫版現代語訳は蠅が『(いつの世にもいる悪賢い、うまく立ち廻ってどうしようもない)讒人』『(人の悪口をいい、人をおとしいれる悪者)に比せられるのもまた当然ではなかろうか』と訳す。……う~ん、そうかな……どうもこれって蠅を讒訴しているようにしか、私には読めんのだがなぁ……

・「白・黒、縱(たつ)に班〔(まだら)〕する者」白と黒が体部背側の胸部背板に縦に斑(まだら)状に配されている種。これは、

短角(ハエ)亜目ハエ下目ヒツジバエ上科ニクバエ(肉蠅)科 Sarcophagidae(汲み取り式便所ではセンチニクバエ属センチニクバエ Sarcophaga peregrina を多く見かけたが、水洗化によって著しく個体数が減ったとウィキの「ニクバエ」にはある)

に属する殆んどの種と、日常的に見ることの多い、

ハエ下目イエバエ上科イエバエ科 Muscidae  (代表種はイエバエ亜科イエバエ属イエバエ(家蠅)Musca domestica で、本邦のハエ類では優先種群。イエバエ類は世界では約百七十属四千種が、本邦では二百五十種以上が記録されてある。ここはウィキの「イエバエ科」に拠った)

 

の一群に共通する特徴である。ウィキの「ニクバエ」によれば、『イエバエより幾分』、『大型で、またイエバエ科やヤドリバエ科の縦縞を持つものの縞がたいてい偶数の』四本で『あるのに対し、ニクバエの縞は奇数の』三本で『あることから、慣れれば一目で区別できる』とある。ニクバエ類もイエバエ類も孰れも動物の糞にたかるので、我々(水洗便所以前を体験した時代が長い世代)には馴染み深い。またウィキの「ニクバエ」にもある通り、かなり有名な事実として、以下の特異な利用法がある。『ニクバエの生活史は』よく研究されており、時間単位で『予測可能である。この事を用いて、遺体上のニクバエは警察の捜査に用いられる。ニクバエは、膨張するまで腐敗の進んだヒトや動物の死体に幼虫を好んで産みつける。 法医昆虫学者はニクバエが食べている死体がいつ死んだかを決定するために、老熟幼虫を採集して死んだ可能性の最も早い日付を逆算して推定するのである。そうやって、おおよその死亡日時がわかる。この事は、法医昆虫学者が遺体の条件と一致する人物が死亡日時近辺で失踪していたかどうか確かめることができるので、その遺体の身元が誰かを決定するのに有効である』。『特定の昆虫は特定の状態の死体を好む。あるものはかなり分解の進んだ死体、さらには乾燥した死体ですら好む。このことによって法医昆虫学者の死亡日時推定が可能になる。全ての昆虫の生活史は予測可能なので、実際法医昆虫学者は全ての異なるタイプの昆虫の平均齢を逆算して死亡推定日時を得ているのである』。

・「屎(くそ)蠅」通常は先に注したキンバエの別名である。

・「蠅夭(やうやう)」東洋文庫版現代語訳は『蠅による災害』と訳す。

・「日本紀」「日本書紀」。

・「推古天皇三十五年五月、蠅、集まりて虛(そら)に浮かぶ〔こと〕、十丈、鳴る音、雷のごとし」比定西暦六二七年。同条に、

   *

原文

卅五年春二月、陸奧國有狢、化人以歌之。夏五月、有蠅聚集、其凝累十丈之、浮虛以越信濃坂、鳴音如雷、則東至上野國而自散。

やぶちゃんの書き下し文

卅五年の春二月、陸奧國に狢(むじな)有りて、人に化して歌ふ。夏五月、蠅、有りて、聚れ集へる。其の凝(こ)り累なること、十丈ばかり、虛(そら)に浮びて信濃坂を越ゆ。鳴る音、雷のごとし。則ち、東のかた、上野国に至りて、自づから散せぬ。

   *

とある。「虛(そら)」は虚空で「空」の意。「十丈」は三〇メートル強。

・「齋明天皇六年にも亦、此の恠〔(かい)〕、有り」比定西暦六六〇年。同年十二月の条に、

  *

原文

十二月丁卯朔庚寅、天皇幸于難波宮。天皇、方隨福信所乞之意、思幸筑紫、將遣救軍。而初幸斯、備諸軍器。是、欲爲百濟將伐新羅、乃勅駿河國造船。已訖、挽至績麻郊之時、其船夜中無故艫舳相反。衆知終敗。科野國言「蠅群向西、飛踰巨坂。大十圍許、高至蒼天。」或知救軍敗績之怪。

やぶちゃんの書き下し文

十二月丁卯(ひのとう)、朔(つひたち)庚寅(かのえとら)、天皇(すめらみこと)、難波宮(なにはのみや)に幸(おはしま)す。天皇、方(まさ)に福信が乞(まう)す意に隨ひて、筑紫に幸して、救軍を遣(や)らむと思ひて、初づ斯(ここ)に幸して、諸々の軍器を備ふ。是の歳、百済の爲に新羅を伐たむと欲して、乃ち駿河國に勅して船を造らしむ。已に訖(をは)りて、績麻郊(をみの)に挽き至る時に、其の船、夜中に故も無くして、艫(へ)・舳(とも)相ひ反れり。衆、終に敗れむことを知りぬ。科野國(しなののくに)言(まう)さく、「蠅、群れて西に向ひて、巨坂(おほさか)を飛び踰(こ)ゆ。大いさ、十囲(とほかかへ)許(ばか)り。高さ、蒼天に至れり。」と。或いは救軍の敗績(やぶ)れむの怪と知れり。

   *

とある。

・「牛蠅(うしばへ)」双翅目アブ科ウシアブTabanus trigonus。体長二・五センチメートル内外の大型種で全体に黒灰色を呈し、腹部の各背板中央に黄白色の大きな三角斑を持つ。単眼を欠き、翅には斑紋がない。成虫は七~九月に出現し、は好んでウシ・ウマを襲って吸血、人をも刺す。私は十数年前、奥日光沢の露天の温泉の露台にて、群来る四十匹以上をテツテ的に叩き殺し、湯守の老人から酒を献杯された思い出がある。]

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