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2016/05/20

芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 小兒

 

       小兒

 

 軍人は小兒に近いものである。英雄らしい身振を喜んだり、所謂光榮を好んだりするのは今更此處に云ふ必要はない。機械的訓練を貴んだり、動物的勇氣を重んじたりするのも小學校にのみ見得る現象である。殺戮を何とも思はぬなどは一層小兒と選ぶところはない。殊に小兒と似てゐるのは喇叭や軍歌に皷舞されれば、何の爲に戰ふかも問はず、欣然と敵に當ることである。

 この故に軍人の誇りとするものは必ず小兒の玩具に似てゐる。緋縅の鎧や鍬形の兜は成人の趣味にかなつた者ではない。勳章も――わたしには實際不思議である。なぜ軍人は酒にも醉はずに、勳章を下げて步かれるのであらう?

 

[やぶちゃん注:大正一二(一九二三)年六月号『文藝春秋』巻頭に以下の「武器」と併載。標題の「小兒」であるが、筑摩全集類聚版には本文中の三箇所(「一層小兒と」には振らない)に「せうに」(しょうに)とルビする。但し、言っておくが、筑摩版の本篇(「侏儒の言葉」)のルビは編者によるものであって、芥川龍之介の感知するところではないので注意されたい。一応、「せうに」と読んでおいて問題はないのであるが。

 芥川龍之介の軍隊批判は生涯一貫しており、この前年には、現存する芥川龍之介の作品の中で十六ヶ所に及ぶ伏字のまま復元されていない(現行紛失のため)大正一一(一九二二)年一月『改造』発表の「将軍」や、本「侏儒の言葉」の中には痛烈な揶揄である「兵卒」「軍事教育」などもある。しかし、切抜きからこの章が除かれておらず、単行本では丸々採られていることから見ても、龍之介の反戦意識や軍隊嫌悪は確信犯の生理であったことが判る。しかしそれが彼の死後、彼の子息たちが教練の教官や軍隊内(長男比呂志・次男多加志・三男也寸志ともに軍隊に入っている)で陰に陽に嫌がらせを受けることともなった。凡愚のレベルの軍人にとっても、例えばこの一章はすこぶる嫌悪の対象物であったろうことは想像に難くない。

 

・「所謂」「いはゆる(いわゆる)」。後に読点がないと、今の若い諸君はここで足踏みしそうな気がするので、老婆心乍ら、注しておく。

・「喇叭」「らつぱ(らっぱ)」。因みにこの「らっぱ」という音はオランダ語の「呼ぶ(叫ぶ)人」「メガフォン」の意の「roeper」説、中国語表記の「喇叭」説(ネイティヴの発音では「ラァバァ」と聴こえる)、サンスクリット語の「叫ぶ」の意の「rava」説など諸説があるが未詳。但し、「語源由来辞典」によれば、『中国語の「喇叭」はサンスクリット語「rava」に由来するともいわれることから、サンスクリット語の「rava」が中国語で「喇叭」となり、日本に入ったと考えられ』、慶応二(一八六六)年に『幕府軍の歩兵が、フランス人教官から信号ラッパの教習を受けているため、フランス語で「記憶力」のほか「呼び戻す」という意味もある「rappelle」を語源とする説もあるが、それ以前から見られる語なのでフランス語説は考え難い』とある。

・「皷舞」「こぶ」。鼓舞に同じい。「皷」は正字「鼓」の異体字(俗字)である。

・「欣然」「きんぜん」喜んで物事を成すさま。

・「緋縅」「ひをどし(ひおどし)」。「おどし」(「緒(を(お))を通す」の意で「縅」は国字)は鎧の札(さね:甲冑の部分材とする鉄や革製の小さない板)を革や糸で綴り合わせることで、梔子(くちなし:リンドウ目アカネ科サンタンカ亜科クチナシ連クチナシ属クチナシ Gardenia jasminoides:果実から黄色(発酵させたものからは青色)の染料が採れる)や黄檗(きはだ:落葉高木のムクロジ目ミカン科キハダ属キハダ Phellodendron amurense:樹皮から鮮やかな黄色の染料が採れる)で下染めした上から、「緋」=紅で染めた紐・革緒(かわお)などで縅(おど)すもの。「緋威」「火縅」 などとも書く。

・「鍬形」「くはがた(くわがた)」。兜(かぶと)の前立物(まえだてもの:兜 の前部に附ける飾りの立物 (たてもの) で鍬形 の他、半月(三日月を模したもの。一般に刀を振り上げた際に邪魔にならないように左側の方が長くなっている)・天衝 (てんつき:刺股 (さすまた) 状を成して先端を尖らせたもの) ・高角(たかづの:角の先端部を左右に開かずに高く尖らせたもの)などがある)の最古のもの(即ち、原型)の一つ。眉庇(まびさし)につけた台に金銅(こんどう)・銀銅・練り革などで作った二枚の板を挿し、角(つの)状に立てたもの。平安時代(藤原期時代まで遡れる)から使用された威し飾りである。語源は古代の鍬の形に似ているからとも、先端の形状が慈姑(くわい:単子葉植物綱オモダカ目オモダカ科オモダカ属オモダカ(品種クワイ)Sagittaria trifolia)の葉に似ているからとも言われる。

・「勳章も――わたしには實際不思議である。なぜ軍人は酒にも醉はずに、勳章を下げて步かれるのであらう?」激しく共感する。小さな頃から、諸国の軍人高官が胸につけているつぎはぎみたようにペタペタした略章やベロベロ垂れ下がった略綬やを見ただけで、こんな馬鹿どもが指揮している軍隊は何をするか分からん、と子どもながらに思うておったのを思い出すのである。]

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