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2016/05/12

和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 青腰蟲

Awokosimusi

あをごし

青腰蟲

 

ツインヤウ チヨン

 

本綱此蟲大如中蟻赤色腰中青黒似狗首猲一尾而尖

有短翅能飛春夏有之也有大毒着人皮肉腫起剝人靣

皮除印字食惡瘡瘜肉殺癬蟲

按青腰蟲俗訓飛蟲者非也飛蟲即鼠負蟲也【出濕生類之下】

 

 

あをごし

青腰蟲

 

ツインヤウ チヨン

 

「本綱」に、此の蟲、大いさ、中蟻のごとくにして、赤色。腰の中、青黒。狗首猲に似て、一尾にして尖り、短き翅、有り、能く飛ぶ。春・夏、之れ有り。大毒、有り、人の皮肉に着けば、腫れ起り、人の靣(つら)の皮を剝ぐ。印字を除き、惡瘡・瘜肉〔(しよくにく)〕を食ひ、癬蟲〔(ぜんちゆう)〕を殺す。

按ずるに、青腰蟲、俗に「飛蟲(とびむし)」と訓ずるは非なり。「飛蟲」は、即ち、「鼠負蟲(そふむし)」なり【濕生の類の下に出づ。】。

 

[やぶちゃん注:私はこれは何だか、挿絵と毒性を見た瞬間に、何故か、ピンときた! これは、本邦産で示すなら、

鞘翅(コウチュウ)目カブトムシ亜目ハネカクシ下目ハネカクシ上科ハネカクシ科アリガタハネカクシ亜科Paederinae

Paederus属アオバアリガタハネカクシ Paederus fuscipes

或いは同じく、

Paederus属エゾアリガタハネカクシ Paederus parallelus

又は

Oedechirus属クロバネアリガタハネカクシ Oedechirus lewisius

ではなかろうか? 実際に「靑腰蟲」で検索をかけると、中文サイトで「Oxytelus batiuculus」という学名を附したものが見出せ、このOxytelus 属とはまず、ハネカクシ科セスジハネカクシ亜科Oxytelinae の一属と見られるからである。即ち、

「青腰蟲」とは少なくとも、ハネカクシ科 Staphylinidae のハネカクシ類の総称である

と考えてよいと私は思うのである。

 これらの種は和名の「蟻型翅隠し」から分かるように、アリに似た形をしていて、ウィキの「ハネカクシ」によれば、『大部分の種で上翅(鞘翅)が非常に小さく、後翅はその下に小さく巧みに折りたたまれているため、腹部の大部分が露出しており、一見すると短翅型のハサミムシやアリのような翅のない昆虫に見える。しかし実際にはほとんどの種類が機能的な後翅をもっていて、必要に応じてそれを伸ばしよく飛翔する。着地後は再び後翅をたたみ隠し、もとの翅の無いかのような姿に戻る』のであるが、その中でも上記の三種は我々の小学生時代には「猛毒で目に入ると失明する!」というような過激情報が「アオバアリガタハネカクシ」という呪文めいた名前とともに激しく流布されたのでピンとくる人々も多いかも知れぬ。例えば、上記ウィキにも(下線やぶちゃん)、『ハネカクシの専門家以外にもよく知られたものに体液に毒素を有するアオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes Curtis)がある。水田地帯など湿潤な平野に多い昆虫で人家にも灯火に誘引されてよく飛来するが、分泌した体液が首筋や太もものような皮膚の角質の薄い箇所に付着すると、かぶれて線状皮膚炎を引き起こす。体液がついてから発症するまでに多少の時間がかかるため、患者はその原因が自分の肌から少し前に払い落とした小昆虫の体液にあることに気がつきにくく、突然生じるミミズ腫れに当惑することになる。そのため地方によっては家屋内を徘徊するヤモリの尿が付着したためとする俗信を生み、これを俗に「ヤモリのしょんべん」とも呼ぶ。アオバアリガタハネカクシの毒成分はペデリン(Pederin)といい、全合成も行われている』とある。そのリンク先のウィキの「ペデリン」には、二つの『テトラヒドロピラン環を持つ水泡を発生させる毒性アミドの』一種で、『アオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes)を含むハネカクシ科Paederus属の甲虫の血リンパに含まれている。ペデリンは』、実に二千五百万匹の『採取されたアオバアリガタハネカクシを処理することで初めて同定された』もので、化合物質名も『この昆虫の属名に由来する。ペデリンの含有量は昆虫(アオバアリガタハネカクシ)の体重のおよそ』僅かに〇・〇二五%しかない。『ペデリンの生産は、Paederus属昆虫内での内部共生生物』(グラム陰性好気性桿菌の一群である、真正細菌プロテオバクテリア門ガンマプロテオバクテリア綱シュードモナス目シュードモナス科シュードモナス属Pseudomonas)『の活動によるものであることが明らかにされている』。『ペデリンの製造は概して雌の成虫のみに限られる。幼虫および雄は母親から(すなわち卵を通して)獲得するか、摂取したペデリンのみを貯蔵する』とあり、『ペデリンは、RNA合成に影響を与えることなくタンパク質ならびにDNAの合成を阻害することで』、ごく少量で『有糸分裂を阻害する。また、様々な腫瘍を持つマウスの寿命を延長することが示されて』いることから、『抗がん治療薬候補化合物として興味が持たれている』ともあるのである。見直そうじゃないか、「アオバアリガタハネカクシ!」

 さても、私の数多所持する有毒生物関連書(実は私はこの方面ではかなりフリークで学術的専門書も数十冊持つ)の中でもヴィジュアルでしかも分かり易く書かれてある(この手の本で最も実用的に重要なのは、専門記載ではなく、誰にも分かる危険性と具体な防禦法の紹介にある)、二〇〇三年学研刊の「学研の大図鑑」(くどいが、この書名だからとジャリ向けだと言って侮ってはいけない。何と言っても総てにラテン語学名が附されているのである)の「危険・有毒生物」には、アオバアリガタハネカクシの項に(下線やぶちゃん)、本州・四国・九州・南西諸島に分布し、大きさは六・五~七ミリメートル、『頭部、後胸部、尾端は黒色、前胸部、腹部が橙色で前翅(ぜんし)は青緑色の光沢がある。成虫はほぼ』一年中『見られ、平地や水田や池沼の周辺、その他湿った草地に生息している。また』、四月から十月頃には『灯火によく飛来し』、六~七月頃は『特に多い。肉食性の傾向が強く』、『他の昆虫類を捕食するが、植物のやや腐敗した部分も食する。体液にペデリンという有毒物質が含まれて』おり、『皮膚につくと数時間後に赤く腫れ、まもなく水泡(すいほう)が生じる。皮膚についた本種を払いのける際に誤ってつぶしてミミズ腫れ(いわゆる線上皮膚炎)を起こすことが多い』(私もこれは小さな頃に何度か経験している)。『眼に入ると激しい痛みがあり、結膜炎、角質潰瘍(かいよう)などを起こす。体についた場合はつぶさないようにそっと払いのける』とある。本書が素晴らしいのは、この他に上に示した同属のエゾアリガタハネカクシも写真入りで掲げ、本種は北海道・本州の中部以北に棲息し、前種より大型(八ミリメートル)ながら、後翅が退化してしまっているため、飛べないことから、『灯火に飛来することがなく、人が接触する機会は少ない』と危険リスクが有意に低いことを記す。また、同書は本州中部以西・四国に棲息するやはり飛翔出来ないアリガタハネカクシ Megalopaederus poweriも記載する。これは恐らくは同じくペデリンを有し、しかも一・三センチメートルと遙かに大きいことから、潰した際の炎症のリスクが高いからであろう。こういうまめな記載こそが真に子どもや人を守る価値ある図鑑であると私は信じて疑わない。何なら、最高度の学術図鑑を見られよ。多かれ少なかれかなり危険な毒を有する刺胞動物類の記載には、症状も防禦法も対処法も何にも書かれていないものが非常に多いから(因みに私は海産の有毒生物群を最も得意な守備範囲としている)。

 

・「中蟻」中ぐらいの大きさの蟻。

・「狗首猲」不詳。東洋文庫版現代語訳では、この「首」の右に特異的にルビのようにカタカナのママ注記を打つ。これは「本草綱目」の「靑腰蟲」のここの記載が、「狗猲」となっているからで、この「首」は或いは衍字とも思われるのである。問題はしかし、「狗猲」で、これが何かよく分からぬことである。東洋文庫版はこの二字で『くかつ』(ママ注記を省略)とルビした上で、『(犬のことか)』という割注を施している。確かに「狗」は犬、「猲」は狼の意ではある。しかし、ハネカクシ類の形状は私はイヌやオオカミに似ているようには思われない。これは何か、別な生き物を指す語ではなかったろうか?

・「印字」東洋文庫版現代語訳には『(あざのおのことか)』と推定割注する。生まれつきある痣や、或いは、黥(刺青=入れ墨)のことではあるまいか?

・「瘜肉〔(しよくにく)〕」東洋文庫版現代語訳にはこの二字に『こぶいぼ』とルビする。現代中国語では「ポリープ」の意味だから、それに従う。

・「癬蟲〔(ぜんちゆう)〕」ダニ目無気門亜目ヒゼンダニ科ヒゼンダニ Sarcoptes scabiei var. hominis。激しい掻痒感を伴う皮膚疾患である疥癬は本種の寄生によるもの。以下、ウィキの「疥癬」から引用する(アラビア数字を漢数字に代え、単位を日本語化。記号及び本文の一部を変えた)。『ヒゼンダニの交尾を済ませた雌成虫は、皮膚の角質層の内部に鋏脚で疥癬トンネルと呼ばれるトンネルを掘って寄生する。疥癬トンネル内の雌は約二ヶ月間の間、一日あたり〇・五~五ミリメートルの速度でトンネルを掘り進めながら、一日に二個から三個、総数にして一二〇個以上の卵を産み落とす。幼虫は孵化するとトンネルを出て毛包に潜り込んで寄生し、若虫を経て約十四日で成虫になる。雄成虫や未交尾の雌成虫はトンネルは掘らず、単に角質に潜り込むだけの寄生を行う』。『交尾直後の雌成虫が未感染の人体に感染すると、約一ヵ月後に発病する。皮膚には皮疹が見られ、自覚症状としては強い皮膚のかゆみが生じる。皮疹には腹部や腕、脚部に散発する赤い小さな丘疹、手足の末梢部に多い疥癬トンネルに沿った線状の皮疹、さらに比較的少ないが外陰部を中心とした小豆大の結節の三種類が見られる』。『時にはノルウェー疥癬と呼ばれる重症感染例もみられる。過角化型疥癬は一八四八年にはじめてこの症例を報告したのがノルウェーの学者であったためについた名称であり、疫学的にノルウェーと関連があるわけではないので、過角化型疥癬と呼ぶことが提唱されている。何らかの原因で免疫力が低下している人にヒゼンダニが感染したときに発症し、通常の疥癬はせいぜい一患者当たりのダニ数が千個体程度であるが、過角化型疥癬は一〇〇万から二〇〇万個体に達する。このため感染力はきわめて強く、通常の疥癬患者から他人に対して感染が成立するためには同じ寝具で同衾したりする必要があるが、そこまで濃厚な接触をしなくても容易に感染が成立する。患者の皮膚の摩擦を受けやすい部位には、汚く盛り上がり、カキの殻のようになった角質が付着する』。『中国隋の医師巢元方が著した「諸病源候論」に『疥』として記載がある。また、唐の孫思邈が著した「千金翼方」は、硫黄を含む軟膏による治療法が記載されている。光田健輔によると、昔はらい病と疥癬はよく合併し、光田自身も神社仏閣でよく観察していたという。なお、光田は「令義解」の『らい』が伝染した話は、疥癬があり、伝染したことが観察されたのではないかという。通常の『らい』であれば、伝染する印象はない』(最後の部分はハンセン病の感染力は極めて小さいからである)。……それにしても……過角化型疥癬……百万から二百万匹のヒゼンダニが寄生する人体……牡蠣の殻のようになった角質が盛り上がる……こりゃ、凄いわ…………さてもこの疥癬が原因でヒトが死亡するなんどと言うことが……あり得ようか?……どうも、戦争末期に逮捕され、敗戦に前後して獄中死した西田幾太郎の愛弟子であったマルクス系哲学者の二人、三木清(昭和二〇(一九四五)年九月二十六日於豊多摩刑務所)と戸坂潤(同年八月九日於長野刑務所)の死因は――「疥癬」である――恐らくは、この過角化型疥癬に伴う腎不全だったようである……七転八倒の掻痒と孤独な死……「悲惨」などと容易に口に出せるものではない……。おやおや、またまた、脱線したわい。

・『「飛蟲」は、即ち、「鼠負蟲(そふむし)」なり【濕生の類の下に出づ。】。』最後の割注は不審である。まず、本「和漢三才図会」の「濕生類」には管見する限りでは「飛蟲」も「鼠負蟲」も掲げられていない、では「本草綱目」はどうかというと、「鼠婦」の項に「鼠負」と別称が載るものの、これは湿生類でなく「蟲之三」の「化生類」に載るからである。なお、現行の中国語では「鼠婦」とは団子虫(だんごむし)、節足動物門甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱フクロエビ上目等脚(ワラジムシ)目ワラジムシ亜目 Ligiamorpha 下目Armadilloidea上科オカダンゴムシ科オカダンゴムシ属 Armadillidium 類を指すのであるが、これも「飛蟲」という名とどうにも合致しない。ここの良安先生の意見には私は従えない。さればこそ、「飛蟲」なる者は未だ不明である。]

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