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2016/06/15

芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 希臘人(二章)

 

       希臘人

 

 復讐の神をジユピタアの上に置いた希臘人よ。君たちは何も彼も知り悉してゐた。

 

       又

 

 しかしこれは同時に又如何に我我人間の進步の遲いかと云ふことを示すものである。

 

[やぶちゃん注:芥川龍之介は「齒車」の「二 復讐」のコーダに、この第一章と通ずるシーンを配している。

   *

 僕の銀座通りへ出た時には彼是日の暮も近づいてゐた。僕は兩側に並んだ店や目まぐるしい人通りに一層憂欝にならずにはゐられなかつた。殊に往來の人々の罪などと云ふものを知らないやうに輕快に歩いてゐるのは不快だつた。僕は薄明るい外光(ぐわいくわう)に電燈の光のまじつた中をどこまでも北へ步いて行つた。そのうちに僕の目を捉へたのは雜誌などを積み上げた本屋だつた。僕はこの本屋の店へはひり、ぼんやりと何段かの書棚を見上げた。それから「希臘神話」と云ふ一册の本へ目を通すことにした。黃いろい表紙をした「希臘神話」は子供の爲に書かれたものらしかつた。けれども偶然僕の讀んだ一行は忽ち僕を打ちのめした。

 「一番偉(えら)いツオイスの神でも復讐の神にはかなひません。………

 僕はこの本屋の店を後ろに人ごみの中(なか)を歩いて行つた。いつか曲り出した僕の背中に絶えず僕をつけ狙つてゐる復讐の神を感じながら。………

   *

文中の「ツオイス」はギリシャ神話の全知全能の主神「Zeus」、ゼウスのこと。ゼウスはオリュンポスの神々に先行する古の神々であるティーターン神族(Tītān)の大地と農耕の神クロノス(Kronos)と大地の女神レアー(Rheā)の末子(長男の説も有り)で、冥界の神ハーデース(Hādēs)と海と地震の神ポセイドーン(Poseidōn)の弟。正妻は姉妹である神々の女王ヘーラー(Hērā)であるが、レートー(Lētō:光明の神アポローン(Apollōn)と狩猟・貞潔の女神アルテミス(Artemis:後に月の女神ともなる)の母)や姉の豊穣の神デーメーテール(Dēmētēr)等の女神をはじめ、多くの人間の女性とも交わり、子をもうけたとされる。

 この二つのアフォリズム、「君たちは何も彼も知り悉してゐた」と言い、「如何に我我人間の進步の遲いかと云ふことを示す」ものだ、即ち、復讐の神を何と、現代人も相変わらず、最も恐れている、と龍之介は溜息交じりに呟いていることに注視せねばならぬ。ここにはかのかつての愛人、「或阿呆の一生」で「狂人の娘」とさえ呼んだ、秀しげ子の翳が、私には濃密に感ぜられるのである。

 

・「復讐の神」ギリシア神話の女神ネメシス(ラテン文字転写(注しないものは以下同じ):Nemesis:「配分する者」とも「守られるべき法」の意ともする)。ウィキの「ネメシスより引く。『人間が神に働く無礼(ヒュブリス)』(Hubris:神に対する侮辱や無礼な行為などに繋がる極度の自尊心や自信を意味する語)『に対する、神の憤りと罰の擬人化である。ネメシスの語は元来は「義憤」の意であるが、よく「復讐」と間違えられる(訳しにくい語である)。擬人化による成立のため、成立は比較的遅く、その神話は少ない。主に有翼の女性として表される』。古代ギリシア紀元前七〇〇年頃の叙事詩人ヘーシオドス(Hēsíodos)の「神統記」:(英語:Theogony)ではニュクス(Nýx:夜)の娘とされる。『ゼウスはネメシスと交わろうとしたが、ネメシスはいろいろに姿を変えて逃げ、ネメシスがガチョウに変じたところゼウスは白鳥となってついに交わり、女神は卵を生んだ。この卵を羊飼いが見つけてスパルタの王妃レーダー』(Lēdā:「レダ」とも音写)『に与え、これから』絶世の美女ヘレネー(Helen)とディオスクーロイ(Dioscuri:「ゼウスの息子」の意)が『生まれたとされる。ただしゼウスがこのとき白鳥となって交わったのはレーダーであるという伝承もある』。『ギリシア悲劇においては』『神罰の執行者としてしばしば言及される。アテーナイではネメシスの祭、ネメセイア(Nemeseia)が行われた。これは十分な祭祀を受けなかった死者の恨み(nemesis)が、生者に対して向かわぬよう、執り成しを乞うことを主な目的とした』とある。TOMITA Akio 氏のサイト「バルバロイ!」のネメシスについての解説によれば、ローマの詩人オウィディウス(紀元前四三~紀元後一七年?)は『ネメシスを、「自慢話をひどく嫌った女神」と呼んだ。王や英雄がいかに傲慢になろうとも、最後には彼らはみな、女神によって破滅させられたからである』。『ストア学派は、時がくればすべてをその構成要素に還元してしまう自然の世界支配原則として、女神を崇拝した。ゼウスさえ彼女を恐れた。彼女はかつてはゼウスの破壊者であり、ゼウスを貧り食った者であって、すべての神に生命と死を与える女神であった』。『女神はときにはアドラステイア(「逃れられない者」)』(Adrasteia)『と添え名された』とあり、これで、龍之介が「ジユピタアの上に置いた」と言った意味が分かった。

・「ジユピタア」(Jūpiter)ローマ神話の主神ジュピター。後にギリシア神話のゼウスと同一視され、多くの記載もゼウスのそれと混淆して区別がつかない。そのため、まえにゼウスについて既に述べておいた。無論、ここでも龍之介はゼウスと全く同義で使用している。]

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