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2016/07/26

宗祇諸國物語 附やぶちゃん注   蛇の口を遁がる

    蛇口(じやのくちをのがる)


Jyanokutiwonogaru

一とせ、越州に修行して、飼飯(けゐ)の海、越(こし)の中山など詠(なが)て、東(あづま)に近く、歸る山を見んと行くに、名もしらぬ坂、一つ越ゆるとて、右の肩の松山に、冷(すさ)まじき物音す、山河(さんか)の流れか瀧浪(たきなみ)の響きか、それかあらぬか、嵐のかぜならば、四方(よも)に立つべきを、爰計りのはげしさよと、しげみの木の間を覗き行くに、水にはあらで一丈計り空(そら)に、大蛇(だいじや)の首在りて、耳は芭蕉の若葉のごときするどに、眼は鞠(まり)の大さして圓(まどか)なり、口脇、耳のもと迄、切れたるに、一尋(ひろ)計りの紅(くれなゐ)の舌、出入り、夕日のうつろひ怖しともいはんかたなし。新樹の千もとを分けて、其の中(ちう)をありく事、風雲の速(とき)ごとく、我をのまんと、きそひ來る、魂(たましひ)、脱(ぬ)ぐるがごとく、逸足(いちあし)を出し、逃げまどふ。此のものゝ勢ひと、我が恐れて逃ぐる力(ちから)と、なじかはたぐふべきなれば、道のほど、四五間計りに成りて、既に危く覺えし所に、空中よりひとつの鷲(わし)、飛下(とびお)りて、蛇の頭上を蹴(け)て、又、空中に入る。毒蛇、是に猶豫(いうよ)するほどに、一町餘り走りぬけ、ふり歸り見るに、件(くだん)の鷲、又、飛び來て、頭上を蹴る事、あまた度(たび)して、毒蛇の首(かうべ)、みぢんにくだけ、屍、谷底へまろび落つる。其の音、坤軸爲之、くだけ、百千雷(らい)のおちかゝるかと、あやし。彼の鷲、飛下りて肉(しゝむら)を裂(ひきさ)き心よげに喰(くら)ふ。此の時にこそ安堵の思ひをなし、傍(かたはら)の石に腰打かけ、有りし方を見やりて、危き命、助かりつる物かな、是、只、佛の加護にこそと思ひて

 

   みほとけのつよき力にたすかれば

      鷲の峰とや爰をいふべく

 

と言捨(いひす)てして、歸る山におもむきぬ。

 

 

■やぶちゃん注

・「飼飯(けい)の海」万葉時代以来の歌枕で、一般には淡路島の西側の慶野松原(けいのまつばら)、播磨灘に面した現在の兵庫県南あわじ市松帆古津路(まつほこつろ)から松帆慶野にある松原の前浜を指すとされているが、別説に現在の福井県敦賀市の敦賀湾湾奧の気比(けひの)松原の前浜とする説があり、筆者はこちらを採っている(そうしないと前の「越州」に合わない)。

・「越(こし)の中山」ロケーションからこれは福井県の嶺北(越前地方)と嶺南(若狭地方)を隔てる木ノ芽峠の別名である。

・「東(あづま)」ここは現在の福井県北東部の広域古称である。現在も行政的にこの広域区域を「あずまブロック」と呼称している。

・「歸る山」「かへる(かえる)やま」(帰山)は現在の福井県中部の南条郡南越前町から敦賀市へ通じる峠一帯の呼び名として現存し、鹿蒜(かひる)という名でも残り、南越前町を流れる鹿蒜川が、南越前町字南今庄に鹿蒜神社がある。

・「一丈」約三メートル。

・「一尋(ひろ)」「尋」は両手を左右に伸ばした際の指先から指先までの長さを基準とした慣習的距離単位で、一尋は五尺(約一メートル五二センチ弱)乃至は六尺(約一メートル八十二センチ弱)に相当する。

・「逸足(いちあし)」一般には音で「いつそく(いっそく)」で速足(はやあし)することを指す。

・「四五間」凡そ七・三~九・一メートル。

・「一町」百九メートル。

・「坤軸爲之くだけ」「西村本小説全集 上巻」では「坤軸(こんぢく)も之れが爲めにくだけ」と読みが示されてある。「坤軸」は大地の中心を貫き支えているとされた地軸のこと。

・「鷲の峰」鷲峰山(「しゅうぶさん」他、読みは多様)は各地にあるが、ロケーション地区を国土地理院の地図でも調べて見たが、現行、この名のピークを認め得なかった。
 
 画像は国立国会図書館デジタルコレクションの画像をトリミング、補正したもの。

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