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2016/07/11

芥川龍之介 手帳2―18~24

《2-18》

○兄 父 母 家族

○家族 love affair

○俊助(大學)

○朱鷺子との會合(雨)春雷

[やぶちゃん注:「路上」(大正八(一九一九)年六月三十日から八月八日まで『大阪毎日新聞』連載。未完)の最初期設定。後の《2-20》から《2-22》を参照。love affairは情事・浮気の意。]

 

《2-19》

夏物安し for 高い時の糸でつくりし品 それが英國へ輸出を禁止されし爲 輸出屋が急に内地へとかゝり 且季候さむく夏物の需要少く且 又不景氣で買ふものなければ下落す 昨年に比して二三十錢高きものと同價にてうる メリヤス屋の損(暑くなればよいかも知れん) 昨年の暮シヤツ高し for 昨年は外國へ輸出す 内地もの少し 且景氣よく品物賣れ(15圓のシヤツ25 or 26)たり

一駄(40把) 500(現在)or 550圓 一駄100圓(戰爭前)

○支那 英國 亞米利加へはゆかず南米のみ ロシアでもよければよし

[やぶちゃん注:総て、メモ魔の芥川龍之介の市販品の価格崩落の覚え帳。小説の直接の素材ではないが、将来遡って時間設定をする際のためとも考えられる。それとも芥川センセ、先物取引でもしようと言うのかしら?]

 

《2-20》

○俊助 平田柴田

    高等學校教授(有福)

 俊助ノ叔父┐

      ├辰子

    叔母┘ │

       房子

[やぶちゃん注:「路上」の初期設定。決定稿の主人公の名は安田「俊助」、彼の知人女性(但し、ここに出るような彼の親類縁者ではなく、俊助の友人野村の親類筋)が初子(野村が一筋に愛している)で、その従妹として「辰子」が俊助と大きく絡んでくる。]

 



      interest
      
love of conquest

love

    
practical bearing
    
sex

 平田小島

[やぶちゃん注:「<」は底本ではかく英語句へ四分線。

love of conquest」(征服による愛)とあるが、これは前に示した「路上」でトリック・スター的に描かれる俊助の友人で、『女が嫌になりたいために女に惚れる。より退屈になりたいために退屈な事をする』などと嘯く「大井」なるデカダンな友人を感じさせる言葉ではある。そこに「practical bearing」実利をのみ目的とした挙動を「sex」と絡める「loveとなると、やはり前の注で示した「路上」の「大井」の影が私には濃厚に感ぜられる。次もまたまだ「路上」の構想メモが続くからでもある。「平田」も「小島」も「路上」には出ない名であるから、ますます「大井」っぽい。]

 

《2-21》

 Begining                    Beginning

 辰子との會合    房子との會合(以前より)

 1st stage of love Ditto

 2nd stage of love                 Ditto

 3ed stage of love          Ditto

 房子のdespair     兩親の許可

 房子の約婚     結婚

 true love 發見     新婚旅行

 Catastrophie

 俊助         淺井柴田

⑴俊ノ部屋 西洋カブレ 顏 ⑵電話デ辰子から帝劇行をすすむ ⑶學校 平井 柴田ヲ順天堂へとふ ⑷春雷 雨 first impression 順天堂

[やぶちゃん注:引き続き、「路上」の踏み込んだ設定。「Ditto」は同上の意。「房子のdespair(絶望)とあって婚約「結婚」以降の記載は明らかに、未完に終わった「路上」(第「三十六」章掲載末尾にここまでを『前篇』とし、『後篇は他日を期することとすべし』と記しながら、遂に後篇は書かれなかった)の後篇の設定と思われる。「帝劇」も「順天堂」も「路上」(前篇相当)には登場しないロケーションである。]

 

《2-22》

○火事 音樂會 朝燒 博物館declaration 病院

○空明暗甚し 木の若芽の梢明し 椎の花の香 紺白セル 白茶と金の帶 帶止めの紐綠 金物銀 足袋白(トンビ足) 簪ヒスイ 半襟水色 顋より喉 胸ヘノ感じ 靈活な眼 睫毛 

[やぶちゃん注:太字にした「指」には底本では傍点「◦」が附されてある。これも「路上」用の表現集であろう。というか、浮かんだシークエンスを映像として残して忘れないようにするためのメモと私は思う(私は夢記述を寝起きにする際、この方法を嘗てよく採った。この記載法は私のそれと酷似しているのである)。次の系図も「路上」用の系図である(但し、決定稿のそれとは全く異なる)。]

 

        柴田――俊助

   實業家  │    │

○俊介の叔父┐┌辰子   │

    | ├┤   >房子

    伯母┘└愼一

 

《2-23》

magician 女を trance にし その所見を語らしめ書く(自己がやればさめて忘るる故) 女 戀人あれど magician の離さざるを惧れ男と計りて trance を裝ひ男と一しよにせずば魔術師死すべしを云はんとす さて magician 女を trance に導くや女之に陷らざらんとして得ず 遂に陷る 覺めて後 magician 悵然たり 女家へかへれば程なく魔術師より手紙と金と來る 女の trance に語りし所語らんとせし所と一致せるなり

[やぶちゃん注:憑依のトランス状態(催眠変性意識状態)云々、妖術師という設定などは、大正八(一九一九)年の「妖婆」及び、それらと有意な設定上の相似性が認められる後の「アグニの神」(子供向け・大正一〇(一九二一)年『赤い鳥』)に繋がるところの初期設定のように読める。二作に先立つ原型であるならば、「妖婆」との連関性をまず考えるべきではあろう(「妖婆」の後の中間のメモとしては正直、ショボ過ぎる)。]

 

show-window を通る影土藏にもうつる 黑き揚羽二羽とぶ 車の人音 眼 煙草の煙字となる 盆を40度にす 猪口落ちず 空中卍になるうすき靑と黑 油が浮く 水死 珈琲に顏うつる 電話の婆の聲(ダメデスヨ) 己の double 娘の毛と男の毛婆の手にあり それに■■あり茶を出さず cup やく

[やぶちゃん注:前に続いてやはり「妖婆」のショット断片である(二羽の揚羽が飛ぶシーンは「妖婆」に出る。)。映像モンタージュとして読むと非常に面白い。感染呪術的な「毛」髪は小道具としては決定稿には出ない。]

 

mysterious なる園遊會 mask せる男女の群 印度人の magician 月を𢌞す 孔雀を吐く

[やぶちゃん注:或いは「魔術」(大正九(一九二〇)年)に結実する初期構想か。「魔術」の魔術師「ミスラ君」は印度人である。]

 

○衣服と人と離れて活動す

[やぶちゃん注:所謂、妖怪の付喪神(つくもがみ)の類いである。芥川龍之介はまず何よりも私と同様、怪奇談蒐集癖があった。私の電子テクストである芥川龍之介「椒圖志異(全)附斷簡ノートは未見の方には是非、お薦めである。序でに、それを確信犯で真似した私藪野直史の怪奇実録談集淵藪志異もよろしければ、どうぞ。]

 

《2-24》

○長崎圖書館

[やぶちゃん注:芥川龍之介は生涯に二度、長崎を訪問している。最初は大正八(一九一九)年五月(四日出発で到着は五日、十一日に長崎を発っている)と大正一一(一九二二)年四月(二十五日出発であったが、京都で半月ほど遊び、五月十日までに長崎着、長崎を発ったのは五月二十九日で、この時は実に二十日近くも滞在している)である。本手帳の記載推定からは、前者関連である。この一度目で切支丹物への関心が再燃したものと推定されている。]

 

○穴

Christ 果物賣の小娘

○牧師の林檎 林檎の中に Christ あり

○敵をとりひしぐ クリスト敵に似たり

[やぶちゃん注:これは切支丹物というより、西洋を舞台にキリストを主人公に描こうとしたのか? 或いは「南京の基督」(大正九(一九二〇)年)の初期構想か?]

 

○マリヤ クリストの love story 信ずる信徒の傳道

[やぶちゃん注:これは母マリアに対する子キリストの愛の物語の謂いである。「じゆりあの・吉助」(大正八(一九一九)年)で聖母マリアに恋するイエスが言及される下り(引用は独自に岩波旧全集に拠った。下線は底本のママ)、

   *

奉行「そのものどもが宗門神となつたは、如何なる謂れがあるぞ。」

吉助「えす・きりすと樣、さんた・まりや姫に戀をなされ、焦れ死に果てさせ給うたによつて、われと同じ苦しみに惱むものを、救うてとらせうと思召し、宗門神となられたげでござる。」

   *

が出る。このイエスのエディプス・コンプレクスに就いては、既に芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 或孝行者で述べた。]

 

○――心中 かけ落ちの途中 女 rape さる 男を殺すstory beyond the sea  French Mediæval legend

[やぶちゃん注:「French Mediæval legend」は「フランス中世の伝説」。不詳。識者の御教授を乞う。]

 

娘の後夫知らずして前夫の僕を sebastian にせんとす 娘夫にこひてゆるしを得 他の囚人に代ふ 他の囚人は前夫なり 前夫死す 娘夫の僕を殺さんとして得ず 共に泣く 後夫來る scene.

[やぶちゃん注:「僕」(しもべ)「を sebastian にせんとす」の意味が不明。識者の御教授を乞う。まさか、「アルプスの少女ハイジ」の執事ではあるまいよ。]

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