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2016/08/12

宗祇諸國物語 附やぶちゃん注   怪異(けい)を話(かた)る

    怪異(けいをかたる)

 

越(ゑつ)の後州(ごしう)に居(ゐ)ける頃、野本外記(のもとげき)といふ士(さむらひ)、昵(むつ)び、日を絶えず往來(ゆきゝ)してかたる。ある夜、所用有り、と、いひこしける程に、彼(か)の館(たち)に行きぬ。外記の云く。こよひ傍輩(はうばい)數(す)十人集まり、百物がたりを始めて、俗説のごとき、怪異(けい)ありやなしや、是をこゝろむ、御坊に賴み侍る一役有り、此の事の作法とて人のいひしは、一間なる所に、其の連衆、こもりゐ、戸の口に、ひし、と鎖をおろし、燈(ともしび)に灯心(とうしん)百筋(もゝすぢ)入れ、靑紙を以て、闇燈(あんどう)に用ゆ。扨、座中のひとりひとり、兩手(りやうしゆ)のおや指を一つ所によせて、しとゞくゝり、働く事を得ざるやうに相はかる、物がたり初めてより、一こと一ことに、燈心、又、一筋づゝ、けす。然るに連衆はいふがごとく、手を結ふによつて、其の事、不ㇾ叶(かなはず)、臆(おく)したる中間、小者を置かんに、自然の時、騷しからん。貴僧は物に動ぜぬ本性なれば、此のふしぎの證據のためながら、此の役、勤めてたうべんや、と、いふに、安き程の事、と、ことうけしぬ。衆中、一間に入りて、いひしごとく、ひとりひとり語るほどに、おどろおどろしき事の品々(しなじな)、中々、氣弱き者は絶入(ぜつじゆ)し啼きも出づべき計り、とりどりに語る程に、曉(あかつき)近くなりて、物語、百にみちければ、灯心一筋になりて、靑き光かうかうと物冷まじ、鼬鼠の、天井に足おとし、蛬蚓の簀子(すのこ)に鳴出(なきい)づるも、すは、物こそ、と、おもふ目づかひ、いろ、外に顯(あらは)る、とかくするに、あけがた近くなれども、怪事なく驚くべき異變もなし。各(おのおの)笑うて、無興(ぶきやう)の事かな。戀(こひ)ならで待つは、うき物、化ものゝ君、ねぶりきざしぬ、いざ、夢に見てあそばん、と、氣を屈して、皆、まろび寢(ね)ぬ。明けはなれ、連衆一人、晨(つと)に起きて見れば、只今切りたると覺しくて、若き女の首、血にそみたる紅粉、名殘(なごり)有りて、枕下(まくらもと)に見ゆ。驚き、座中を起し、かゝる曲者あり、と、いふにぞ。各、目を覺しける、戸、障子、きびしく固め置きたれば、いづち來べき道なし。若(も)し、古き蜘(くも)なんどの誑惑(たぶらか)すにや、能くからめて、ふすべよ、切りくだけよ、など、とりどりに責むるに、かたちかはらず、此の國中に女やきられたる、と尋れど、更に其の事なし。日數ふれども、女のくびにて、かはる事もなし。ふしぎの事にや。

 

■やぶちゃん注

 この百物語絡みの怪異は個人的に慄っとするほど素敵である。特に最後の最後に女の首がそのままで変わらぬとあって截ち切れられるコーダこそが、すこぶる恐ろしく、絶対に、よい。これぞホラーの正道と言えるものである。

・「越(ゑつ)の後州」越後国。

・「野本外記(のもとげき)」不詳。但し、この後の第五巻にも彼の話が出る。本作の情報屋(無論、私がこういう時は特異的に水木しげるの「悪魔くん」のそれである)的存在と言える。

・「闇燈(あんどう)」「行燈(灯)(あんどん)」(読みは唐音)と同じい。「あんどん」は「暗鈍」「闇鈍」とも書く。

・「座中のひとりひとり、兩手(りやうしゆ)のおや指を一つ所によせて、しとゞくゝり、働く事を得ざるやうに相はかる」百物語の規則としては私は他には例を見ない興味深い仕儀であると思う。こりゃ、いいね!

・「自然の時」この「自然」は「しぜん」で、副詞用法の、「万一の事態の起こるさま・ひょっとして」のニュアンスであり、「万一、何かが起った時」の意。必ずしも超自然の怪異とは限らない点に注意。

・「騷しからん」不安であろうと存ずる。

・「冷まじ」「すさまじ」。

・「鼬鼠」「西村本小説全集 上巻」(昭和六〇(一九八五)年勉誠社刊)では右に「ゆうそ」のルビ、左に「いたちねつみ」のルビを振る。

・「蛬蚓」「西村本小説全集 上巻」では「蚕蚓」とあって右に「さんいん」、左に「きりきりすみゝづ」と振る(「きりきりす」(きりぎりす)の「きり」はそこでは踊り字「〱」)が、字が違う。底本の「蛬」が正しく、これは音は「ク」或いは「キヨウ(キョウ)」で、「こおろぎ」或いは「きりぎりす」を指す(蟋蟀(こおろぎ)と螽斯(きりぎりす)の両者は実は古典では現在の逆、又は、一緒くたである)。言わずもがな乍ら、蚯蚓(みみず)は古来、啼くものと考えられていた(これは現在は土中に潜む螻蛄(けら)の鳴き声を誤認したものと考えられてはいる)。

・「ねぶりきざしぬ」座の連中が皆、眠くなってきた、と言っているのである。ここで彼らは気がつかねばならなかった、睡魔が襲うのは怪異の起こる前兆であることを。それにしても宗祇はどうしていたのであろうか? 彼まで一緒に寝てしまったものか? それでは役に立たぬのだがね、宗祇センセ!

・「氣を屈して」最早、百物語をした上は怪異も起こらぬ、されば、もう怪異を待つまでもない、それを「待つところの意欲・気力がなくなってしまい」という謂い。この全員の意志貫徹喪失も怪異の起こる前兆なのである。

・「明けはなれ」「明け離る」で「夜がすっかり明ける・明け渡る」。

・「晨(つと)」「つとめて」で「百物語を行った、その翌朝」の意。やったでしょ! 古文の授業で! 「何かがあった翌朝」という限定用法だよ。

・「紅粉」「こうふん」。紅(べに)と白粉(おしろい)。脂粉・化粧の謂いだが、ここは鮮血との対比で後者の白粉が主たる意であろう。

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