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2016/08/18

宗祇諸國物語 附やぶちゃん注   人面、巖に休らふ

    人面(じんめん)巖(いはほ)に休らふ

 

猶、南(みんなみ)に山路、暮して行く。案内しらず、とふべき家なき時は、草結(くさむすび)と云ふ物をして柴(しば)の枝(はし)ずえをくゝりて、後(しり)への人の道しるべとする事にて、みちみちそれを便に步み、それに又、むすびそへて、とまる、やけ山といふにかゝる。爰は近き頃まで、諸木(しよぼく)、いやが上に生茂(おひしげ)りて、枝と枝とすれあふ程に、火をもみ出して、やきはらふ。その故、草むすびのしるしも、なし。跡(あと)の里(さと)にて問ひたる儘に、右につき、左にまはり、いくばくの難所(なんじよ)をしのぎ、又、ひとつのしげ山に入る。いつしか、道をふみまよひ、こしかた、遠く行べき道、たえたる所に、亡然(ばうぜん)と、あきれ果つる。爰に熊のごとく眞黑(まくろ)なる男、大弓に大のかりまたを、くはへ來る。狩人(かりうど)と覺ゆ。嬉しくて立ちむかへば、此の男、肝(きも)をけし、爰は抑(そも)、人倫かよふ所にあらず、化生變化(けしやうへんげ)の我れをたぼらかさんとするにぞあらん。おもひよらず正體をみせずは、一矢(や)の下に射ころさん、と、肘(うで)まくり、氣色(きそく)し、すびきしたる。否(いや)とよ、左樣(さやう)の類ひにはあらず。かやかやうの者にて。此の山道にふみまよひたり。平(ひら)に疑ひをやめ給へ、と斷りけるにぞ、弓絃(ゆんづる)はゆるめたれど、猶、打解けぬ氣色(けしき)見ゆ。しみじみと語り續くるに、信じにけり。人里を教へ給へ、と、いへば、待せ給へ、をしへ參らすとも、ひとりはいかで道に出で給はん、某、歸さに同道し侍るべし。但し、今日は狩の料(れう)なく侍る。兎のひとつもとめて歸らんに、と、いふほどに。風、一とほり、さはがしく、村雨(むらさめ)、しきりにして、松柏、左右にわかつて一筋の道をなす、一町あまり向(むか)ふの岩の上に、異形のものこそ見えたれ、縱(たと)へば、大さ三尺計りの女の顏(かほ)、うるはしくゑめる、髮は赤くして長し、肩より下は岩にかくれて見えず、狩の男、射とらん、と、いふを押しとめて、自然(しぜん)、射損じ給はん時、此の者、いかなる仇(あだ)とやならん。先づ、是は、何といふ物ぞと問へば、獵師も未だかゝる異形を見ず、と、さゝやきて、問答する内に、かの首(くび)、岩のあなたに入りて、なくなる、と、みえし、諸木、又、もとのごとく、起きあがりて、道もふさがりぬ。是より、此の男も、今日の狩をやめて、家に歸り、我も里にいさなはれぬ。

 

■やぶちゃん注

 最後の一文中の「家に歸り、」は底本では「家に歸り。」で句点であるが、特異的に読点に訂した。この山中の女怪(これはシミュラクラSimulacra)現象なんぞではないので注意!)は、突如、岩の上に巨大な首だけを見せて、そして岩に向うに姿を消し、さらに「ザワザワ」と動物の如くに周りの草木が動いて、その岩影自体が茂みの中へと消えてゆくのである。正体も澄江堂遺珠釣原の理由も一切、説明がない。そこが又、すこぶる高品位の怪談に仕上がっていると言えるのである。

・「草結(くさむすび)」ここでは草に小枝を結びつけて、旅の道中の道標(みいしるべ)とした、実用的なもの(後に来る旅人のためや(ここでも「やけ山」は摩擦熱による自然発火のためにそのあった草結びが焼失してしまって、存在しないので、道に迷ったという設定になっていることから、ここ以外では宗祇自身も先達(せんだつ)の結んだそれに助けられたことを暗示している)、自分自身が迷ってリングワンデルング(ドイツ語:Ringwanderung:方向感覚を失調して同一地帯を何度も彷徨してしまう現象)をした場合の、或いは元の道筋に戻る目印にする)を指すが、本来は上代、男女が二人して草と草を結び合わせることによってそこに互いの魂をとり籠めて両者の心が永遠に離れないように祈ったり、或いは旅する自分や相手の安全や幸運などを願ったりする民俗信仰に基づく宗教的儀式に起源する(なお、草を束ねて枕にする意から旅の野宿・旅寝の単純な意味もある)。

・「やけ山」やはり熊野古道の難所として恐れられた、現在の三重県尾鷲市南浦にある八鬼山(やきやま)(峠)であろう。尾鷲市のほぼ中央に位置し、標高は六百二十七メートル。「八木山」「焼山」などの他称がある。

・「跡(あと)の里」前に最後に発った人里。

・「氣色(きそく)し」怒りや強い警戒の表情を見せ。気色(けしき)ばみ。

・「すびきしたる」「すびき」は「素引く」弓の弦を引いて張ること。ちゃんと矢を番えずとも、その準備動作として即座に矢を放てるように見せて、相手を威嚇しているのである。

・「待せ給へ」「またせたまへ」。

・「某」「それがし」

・「歸さ」「かへさ」或いは「かへるさ」。名詞。帰り・帰りがけ・帰り道。

・「一町」約百九メートル。

・「大さ」「おほいさ」。

・「三尺」九十一センチメートル弱。

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