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2016/09/17

蝙蝠の姿勢  梅崎春生

 

 私は怠けものです。怠けものというよりは、どんな場合でも楽な姿勢をとりたい性質です。近頃そうなったのではなくて、生れつきそうなのです。しかし楽な姿勢といっても、日向に寝そべっている猫のような、あんな無為は好きでありません。少年の頃見たことがあるのですが、風の吹く枝に逆さにぶら下っている蝙蝠(こうもり)のような形。あんな形が好きです。また早瀬のなかで、流れにさからって静止している魚の形。あの蝙蝠や魚は、風や水を適当な刺戟として感じながら、自らの姿勢を保ち、且(か)つ楽しんでいるに違いありません。いや、楽しんでいるかどうかは知らないが、あれが彼にとって一番楽な形であることは、確かなことでしょう。適当な刺戟、この言葉も可笑(おか)しい。もっと良い言葉があればいいのですが。

 私は毎日、夜は十時間余り眠り、昼寝を二時間ほどします。覚めている時間は十二時間足らずです。起きているときは、食事をしたり、本を読んだり、街をあるいたり、その余暇でもって僅かな量の仕事をします。小説を書くことは、私には苦痛です。楽しく書いたことは一度もない。僅かに残った余燼(よじん)みたいなものをかきたてて、やっと燃え立たせるような具合です。そしてそれを文字にしながら、はげしい苦痛と羞恥を感じます。自分が人工的に力んでいること、嘘を書いていること、その他もろもろに対して、じっとしていられないほどの恥かしさを感じます。

 私は、今の自分の生き方には、ある程度の満足と諦めを持っています。しかし小説の方はそうではありません。だんだん書くのが厭(いや)になってくるような具合です。近頃はことにそうです。どうにかして自分の仕事を、楽なところまで持ってゆきたいのですが。しかしそんなことを努力する自分をかんがえると、それもやはり恥かしい。恥かしいというより、厭なことです。

 自分を適当に揺れ動かすこと。この適当な振幅の測定がむつかしい。そしてそれから仕事です。他人(ひと)はどういう具合にやっているのかしら。

 

[やぶちゃん注:昭和二四(一九四九)年四月号『群像』初出。底本は沖積舎「梅崎春生全集 第七巻」に拠った。]

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