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2016/10/23

谷の響 二の卷 七 異花を咲く

 七 異花を咲(ひら)く

 

 嘉永の末年にありけん、松森町高嶋屋半左衞門の花嘆(はたけ)なる槍扇(ひあふぎ)といふ草に燕子花(かきつばた)の花一ふさ咲き、色はいと美しき紫にて形又少しくも異なるなしとなり。されどこの一莖(きやう)のみ餘はみな常の槍扇なりといへり。伊香氏この稿本を見て片紙を附して曰く、このこと吾が家にも八九年前咲き一度兩三年以前に一度ありて、根を分けて別に植直しに繁茂して今にあり。只の槍扇にはきかず、朝鮮檜扇にはまれまれあるよし。八九年前(さき)にありしは白花なり。近年のは紫花なり。又、燕子花にあらず一八(いつぱち)といふものにて、燕子花の種類なれども花も葉も大に似て非なるものなりといへり。實にさることゝもあらめ。

 

[やぶちゃん注:「嘉永の末年」嘉永は七年が最後でグレゴリオ暦では一八五四年。

「松森町」青森県弘前市松森町。ここ(グーグル・マップ・データ)。

「花嘆(はたけ)」この文字列不詳。花壇や花園の意の洒落た当て字なら分かるが、「はたけ」じゃあ、ねぇ。

「槍扇(ひあふぎ)」単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属ヒオウギ Iris domestica。開いた花が宮廷人の持つ檜扇に似ていることから、命名されたという。

「燕子花(かきつばた)」同アヤメ属カキツバタ Iris laevigata。「杜若」とも書くのは御承知の通り。同属であるから、こういう一部の異花発生現象は必ずしも不思議ではないと私には思われる。但し、本種がアヤメ属に編入され、現在の学名となったのは、実はつい最近、二〇〇五年のDNA解析に基づく結果であって、それ以前はヒオウギ属 Belamcandaとされ、Belamcanda chinensisの学名を与えられていたとウィキの「ヒオウギ」にはあるので、実は偉そうなことは言えないのである。

「伊香氏」不詳。

「この稿本を見て片紙を附して曰く」この「谷の響」の手書き草稿を披見して、この条に附箋して以下のように綴っている。以下、「このこと……」から「……似て非なるものなり」までがそれ。

「吾が家にも八九年前咲き一度……」これは「吾が家にも一度八九年前咲き……」の誤記であろう。

「兩三年以前」二、三年前。

「植直しに」「うゑなほしに」植え直したが(それでも元気に)。

「朝鮮檜扇」不詳。ヒオウギ Iris domestica の原産は日本・朝鮮半島・中国・インドとされるから、別種とは思われない。或いは朝鮮半島で品種改良されたものがあるのか。調べたところでは、変種に葉の幅が広く、全体的に寸詰まった草貌のダルマヒオウギ Belamcanda chinensis var. cruenta があり、他に園芸品種として真竜(しんりゅう)・黄竜・緋竜などがあるらしい。

「一八(いつぱち)」アヤメ科アヤメ属イチハツ(一初)Iris tectorum のことであろう。和名はアヤメ類の中でも一番先に咲くことに由来する。なお、ここは注しなくてはならないところで、伊香氏は実は私の家で起った異花開花現象のそこに元々あったのは同じヒオウギでも「朝鮮檜扇」という違う種類の「檜扇」であり、また、そのただ中の一本の「朝鮮檜扇」に咲いた花は「燕子花」ではなくて「一八」=「一初」であった、と記している点である。

「大に」「おほいに」。

「實に」「げに」。]

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