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2016/10/14

谷の響 一の卷 十 虻

 十 虻

 

 又、この木筒淵の上邊(かみかた)に虻いと多くありて、人を見るときは數萬群飛て前後を襲ふと言へり。此善藏、淸水淵に在りし時イハナを釣らんとて獨(ひとり)溪(たに)を登り、釣場を見定め竿を下して居たりしが、忽ち風の吹く音して數萬の虻飛來り善藏が惣身(みうち)に犇々(ひしひし)と群蔟着(むらがりつ)けり。

 善藏、さればこそ音に聞つる虻ならめと慌忙(あはて)て釣具を脩(おさ)めんとすれど、滿體(みうち)に噉(くら)ひ着く故右に拂ひ左に逐ふと言へど拒ぎ得べきことならで、忽ち五體血に塗るゝばかりなれば、釣具を放下(うちす)て、逃たれども猶前後左右より追ひ來りて、笠の内懷の裡に滿(みち)々て幾千萬といふ數を知らず。あまりの楚苦(くるし)さに單衣(ひとへ)を着たるまゝにて川に跳投(はねころげ)たりしが、躰(からだ)に貼(つけ)るは放れたれど頭上を飛ぶものすさまじく、笠の内に込み入れるは悉(みな)首一圓に群る故、急しく笠を※(かなぐ)り棄て水底に潛(くゝ)り沒(い)り、方纔(やうやう)に拂ひ退(の)け辛ふじて淸水淵の假舍(こや)まで歸りしなり。山幽(ふか)き溪間(たにあひ)には處々にある事なれど、かく夥しくあるは他(ほか)にはいまだ聞かざりしと語りしなり。[やぶちゃん字注:「※」=「扌」+(「索」の「糸」の頭部に横画(「一」)が入った字)。]

 

[やぶちゃん注:「八 蛇塚」「九 木筒淵の靈」に続く善藏を話者とする話柄。

「虻」双翅目アブ科ウシアブ Tabanus trigonus か。体長二・五センチメートル内外の大型種で全体に黒灰色を呈し、腹部の各背板中央に黄白色の大きな三角斑を持つ。単眼を欠き、翅には斑紋がない。成虫は七~九月に出現し、♀は好んでウシ・ウマを襲って吸血、人をも刺す(厳密に言うと、アブ類は「刺す」のではなく「おろしがね」状の口吻をハイ・スピードで動かすことで肌を「擦り上げてそこから滲み出て来た血を吸引する」のである)。私は十数年前、奥日光沢の露天の温泉の露台にて、群来る四十匹以上をテツテ的に叩き殺し、湯守の老人から酒を献杯された思い出がある。

「木筒淵」「九 木筒淵の靈」を参照されたい。

「拒ぎ」「ふせぎ」。

「楚苦(くるし)さに」二字へのルビ。]

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