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2016/11/14

秋冷   尾形龜之助 (附 初出復元)

 

    秋冷

 

 寢床は敷いたまゝ雨戸も一日中一枚しか開けずにゐるやうな日がまた何時からとなくつゞいて、紙屑やパンのかけらの散らばつた暗い部屋に、めつたなことに私は顏も洗らはずにゐるのだつた。

 なんといふわけもなく痛くなつてくる頭や、鋏で髯を一本づゝつむことや、火鉢の中を二時間もかゝつて一つ一つごみを拾ひ取つてゐるときのみじめな氣持に、夏の終りを降りつゞいた雨があがると庭も風もよそよそしい姿になつてゐた。私は、よく晴れて淸水のたまりのやうに澄んだ空を厠の窓に見て朝の小便をするのがつらくなつた。

 

[やぶちゃん注:本作は昭和四(一九二九)年十一月発行の『門』第六号を初出とし、その後、同年十二月刊の「学校詩集」及び翌昭和五年四月金星堂刊の「日本現代詩選」にそれぞれ再録されている。初出形は以下の通り。

   *

 

    秋冷

 

 寢床は敷いたまゝ雨戸も一日中一枚しか開けずにゐる紙屑やパンのかけらの散らばつた暗い部屋に、めつたなことに私は顏も洗らはずにゐるのだつた。

 なんといふわけもなく痛くなつてくる頭や、鋏で髯を一本づゝつむことや、火鉢の中を二時間もかゝつて一つ一つごみを拾ひ取つてゐるときのみじめな氣持に、夏の終りを降りつゞいた雨があがると庭も風もよそよそしい姿になつてゐた。私は、よく晴れて淸水のたまりのやうに澄んだ明るい空を厠の窓に見て朝の小便をするのがつらくなつた。

 

   *

「寢床は敷いたまゝ雨戸も一日中一枚しか開けずにゐる紙屑やパンのかけらの散らばつた暗い部屋に」の「ゐる紙屑」の連続はママ。後段は「空」の前に「明るい」が入っている点で異なる。

 本篇の上手さは、最後の「私は、よく晴れて淸水のたまりのやうに澄んだ明るい空を厠の窓に見て朝の小便をするのがつらくなつた。」の一文の「つらくなつた」という感懐収斂に極まる。私は優れた漢詩の結句の感懐表現を示す一字を読み終えた瞬間の戦慄のようなものをこの一篇に感ずるのである。]

 

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